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第六話  死神と呼ばれる医者  ③

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 気管支鏡検査は気管及び気管支に挿入する内視鏡検査の一つです。


「ねえ宮脇〜、死神が死んだ〜なんて本当に叫んだわけ?」

「ま・・まあ・・・驚いたあまり、つい・・うっかりと・・・」

「本当に本当に?本当に死神が死んだ〜なんて叫んだの?」

「本当の本当」

「マジうけるんだけど〜」


 同期の横山理奈は褐色にカラーリングした髪の毛を器用に三つ編みにしながら、まとめてバレッタで止めている。ちょっと吊り目で猫のような瞳の理奈は、おかしくて仕方がないといった様子でビールをごくごく飲むと、

「ふふふふっ・・死神・・ここに滅びるか・・・」

と、嬉しそうに呟いた。


「滅びるかどうかなんて分からないよ?すぐに治って現場復帰するかもしれないし?」

「どうなんだろう〜」


 ベテランばかりが緊急処置に集結し、新人の理奈は病室を覗く事すら出来なかったらしい。私は興奮して暴れるおばあちゃんの対応に回されたので、カーテンの向こう側で繰り広げられる、死神に対して行われた気管支鏡検査を見ることが出来なかったんだけど、


「うわっ!なんだこれ!」

「きゃっ」

「え?なに?嘘でしょう?」


という漏れでる声だけは聞いていたので、

「一体何があったんですか?」

勇気を奮って声をかけてみたところ、


「こんなのが喉に詰まっていたのよ〜」

 と、先輩看護師さんは、膿盆の上に転がる真っ黒な塊を見せてくれたのだった。


 あの黒い塊は一体なんだったのか?

 とにかく色々な疑問で頭の中はいっぱいで、私は仕事上がりに同期の理奈と駅前の居酒屋へと飲みにきて、本日の反省会と考察を行うことにしたのだった。


「喉に詰まっていたのって真っ黒な塊で、痰が硬化したものなのか、何かが石灰化したものなのか、血液が固まった物なのか、とにかく何なのかは分からないけれど、検査に出したって言ってたよね?」


 直系5mm程度に見える塊は膿盆の上に5個も転がっていた、その量が気管に詰まればそりゃ窒息寸前となるだろうなとは思う。


「おばあちゃんがぎゃー〜って叫んだら、死神がバタリッて倒れたのね。その後、落ち着くまでに随分とかかったから、私はおばあちゃんの呪いかなって思ったわけ」


 岩倉さんは88歳のおばあちゃんで、脳に腫瘍が発見されて、問題ありの場所だっただけに手術目的で入院をしている訳です。入院中に肺炎が悪化したので、呼吸器内科を受診することになったのだけれど、


「まあ、拒否って良かったと思うけどね。あの体の小っちゃい超高齢おばあちゃんに、気管支鏡検査をするのは酷すぎるって」

 気管支鏡検査は苦しい、おばあちゃんが今、無理してまでやる必要はないと思う。


 この居酒屋はほぼほぼ凍っているようにしか見えないビアジョッキと半熟卵が乗っけられたポテトサラダが名物で、私が追加のポテトサラダとビールを頼んでいると、

「私ね、見える性質なのよ」

 と、急に真面目な顔をした理奈がビールを飲みながら言い出した。


「私、死神の事は生理的に無理って言ったよね?」

「うん、そんな事を言っていたような」

「生理的に無理って本当に無理で」

「そういう人は、大概、死神のセクハラ行為を受けた被害者だよね?」


 理奈は胸も大きいし、きっと死神のセクハラ攻撃を受けているのに違いない。


 私はチラッと見るだけで興味も湧かないツルペタ属性だから、最後まで死神のセクハラは受けなかったものの、きっと理奈は嫌な思いをたくさんしたのだろう。


「いや、被害にはあってないの」

「え?」

「喋ったこともなければ、実は挨拶ひとつもした事がないし」

「うん?じゃあ、見た目からしてダメ的な?」

「見た目って言えばそうなんだけど・・・」


 理奈はビールを飲んだり、ポテトサラダを食べたり、枝豆を食べたり、唐揚げを食べたりしながら、しばらくの間、逡巡をしたあと、

「わたしね、霊感があるんだよね」

と、言い出した。


「れ・・霊感?」

「そう、霊感」

 吊り目がちな理奈の瞳を見つめると、到底嘘をついているようには見えなかった。

「長谷川先生はね、いっつも十二人の霊を連れて歩いているのよ」


 衝撃発言きました、十二人?しかも幽霊?


「え?ええ?生霊的な?モテる人間は生き霊もついてくるみたいな?あの?」

「生き霊ゼロ、死んでる霊、十二」

「多くなーー〜い?」

「メインがそれで、恨みつらみも入れたら相当な数になると思う」

「へー〜―・・・私はそういうの、見たことないからなー〜―・・・」


 あれ・・でも・・もしかして・・・


「あのさ、私ね、最近疲れているんだと思うんだけど」

「そう、私も疲れているけど」


「それで、山手さんが気管支鏡検査に入るときに介助でついていたんだけど『ありがとうございました〜』ってエレベーター前まで死神をお見送りに行ったときに、先生の白衣の下から、なんか紐状のものっていうか、手っていうか指みたいなものが見えたわけね?最初はトイレに行ってトイレットペーパーでもズボンに挟んできたのかな〜みたいに思っていたんだけど」


「私も同じもの見たー〜―!」

 理奈は私の手を掴むと、座布団の上でぴょんぴょん跳ね出した。


「あのとき、おんなじものを見ていると思ったのー〜―!」

 えーー?同じの見てたのー〜―?


「それで、今日もね、多分疲れていたからだと思うんだけど」

「何?何が見えたの?」

「こう、草原のような・・・」


 私は指をクネクネと動かしながら理奈の顔を見上げた。

「先生の白いワイシャツの首元から、無数の影というか、指というかが伸びていて、這い回るというか、風になぶられる草みたいっていうか、そういうのが見えたわけね?」


「で?それで?」


「それで倒れたわけ、嬉々として今から検査始めまーすみたいにしていたのに、ぐらり、バターンって感じで」

「それで『死神が死んだーっ』て?」

「そう」

 理奈はあはははっはと笑い出した。


死神と呼ばれた医者(本物)も、後に幽霊がたくさん憑いている〜なんてことを、見える系の人に言われておりました。そりゃ、趣味で気管支鏡検査を実施していたらば、恨みつらみも買うことでしょう。本当に、止めてほしい。


モチベーションの維持にも繋がります。

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