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第二十四話  遥香の恋 ⑤

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「安田、お前、聞いたか?」

 職員食堂で後輩の宮脇や宮脇の同期の横山を見つける事が出来なかった俺は、カレーを食べてから放射線科へ戻ると、深刻な顔をした田野倉さんが、

「死んでたらしいぞ」

 と、俺を捕まえて言い出した。


 は?死んでた?


「誰が死んでいたんですか?」

「さっき噂になっていただろ?日勤だったのに脳外科の新人看護師が来なくって、行方不明になったんじゃないかって噂だっただろ?なんでも自分の部屋で首を吊って自殺していたらしい」


「はああああああ?」

 行方不明、いや、誘拐とかじゃなかったの?


「新人だからな、職場でいじめとか受けていたのかな」

 田野倉さんは深刻な表情で俺の方を見る。


「お前の後輩、脳外科病棟だろ?」

「はい」

「俺、お前の所為で虐めにあってるって話は聞いたことがあるんだけど」

「・・・・・」


「今日、お前の後輩、日勤だったんじゃないよな?」

「いや・・さっき病棟に行ったんで、シフト表は見てきたんですけど」

「会えたのか?」


「いえ、姿とかは見てません。だけど、今日は日勤だったみたいで」

「そうか・・・」

 そうかって何が『そうか』なんだ?


「え?ちょ・・・電話かけてきてもいいですかね?ラインでも入れておこうかな」

「日勤で働いていたら電話に出られないだろうが?」


「いや、もしかしたら家族とか出るかもしれないし」

「いや、お前、だから今、勤務中だし、そもそも死んでいないかもしれないし」


「誰が死んだとか、名前までは分からないんですよね?」

「そうだな、誰が亡くなったのかみたいな内容までは俺には分からない」

「え・・だけど・・」

 俺はパニックに陥った。


ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って。


「あいつがまさか・・そんな・・脳天から鉄串百本突き刺されたぐらいの衝撃なんだけどー〜!無理無理無理無理!俺、あいつの両親とも顔見知りなのに!お通夜とか!葬式とか!」


「落ち着け!安田落ち着け!」

 田野倉さんは俺の肩を力いっぱい掴んだ。


「今日は定時で上がれ、それで、彼女が無事なのかどうか見て来いって」

 今じゃダメなのか?


「午後はお前、仕事詰まってるだろ?残業しそうだったら俺が全部受け持つから、今すべき事はとにかくやってくれ」

「あー〜・・はい・・やります」


「残業は絶対にさせない!とにかく定時まで働け!」

「はい・・はい・・定時まで働きます!」


 午前中に行方不明と噂が流れてきていて、午後には自殺したという噂が流れている。


 合間を見ては鬼電、鬼ラインを入れているというのに、全く反応がないという事は、仕事しているからだよな?なあ?誰かそうだと言ってくれ!


「それではお疲れ様でしたー〜」


 残った仕事は全て田野倉さんに押し付けて、定時となって放射線科から飛び出した俺は、エレベーターを待ちきれず、階段を7階まで駆け上がって行った。


 うちの病院は長方形の箱型の建物で、中央のエレベーターを境にして、東病棟、西病棟に入院病棟がわかれている。


 このエレベーターの裏には搬送用のエレベーターが一基あり、その向かい側に階段がある。防火用の鉄の扉を開けて、エレベーター裏の廊下に飛び出していくと、ちょうど処置室用の出入り口の方から、

「うぐっ・・うえっ・・うえええええええん」

 と、泣きながら看護師が一人、飛び出してきたんだ。


 俺は思わず自分の顔面を両手で抑えながら天を仰いだ。

「死んでなかった・・・」

 そう、あいつは死んでいなかった。


「あ・・ずぇんぱぁい・・なんで・・ここに居るんですかぁ・・・」

 よろよろしながらこちらへと歩いてくる宮脇咲良は、俺の前まで来ると、

「定時だからってぇ・・追い出されでぇ・・こで・・はんじゃいのジンベイでずよ〜」

 と、訴えた。


 何を言っているのか全然わかんねえけど、

「飯食いに行こう!飯!なあ!」


 と、俺は奴の鼻水と涙で無茶苦茶の顔をペーパータオルでゴシゴシ拭きながら言い出した。ちなみに、ペーパータオルで顔を拭くとゴワゴワしすぎて物凄くひどい有様になることを、俺はこの時に知ったわけだ。


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