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第十話  重い愛  ②

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 夕方から深夜にかけて準夜勤務に入っていたのは、ナースコール事件以降、ほんのちょっぴり程度には、私の事を気遣ってくれるようになった先輩看護師さんで、

「大変な事があったのよ!」

 と、出会い頭に訴えてきました。


 ナースステーションにはモニターが置かれていて、急変しそうな患者さんの心電図モニターを常に観察できるような状態となっています。

 誰かお亡くなりになったのかな?と思ってモニターを見てみても、その数が減っているようには見えません。

 急変でバタバタしたようにも見えません。

 ナースステーションはシンと静まりかえっていて、モニターの音が響いているだけのように思えます。


「た・・た・・大変な事が起こったのよ」

「な・・な・・何が起こったんですか?」


 日勤で受け持った患者さんに何かあったのかな?チームが違うはずの先輩がこんなに取り乱すなんて、チームを越えた何かとんでもない事が、私の所為で起こってしまったとでもいうのか?

 やだ怖い!聞きたくない!なにをやらかしたのか!思い出せない!


「おしっここぼしちゃったのよ」

「はい?」

「観察室の尿パックの尿を集めていたんだけど、おしっこ集めていたバケツをひっくり返しちゃったの」

「えええ?」


 うちの病棟はベッドから動けず、トイレにも行けず、尿カテーテルを入れているなんていう患者さんが多いので、各勤務帯の最後には尿カテーテルの先に繋がっている尿パックに貯まった尿をバケツで集めて捨てる作業を行います。

 もちろん、どれくらい貯まっていたのか記録をしてから破棄をするのですが、言っている意味が良くわかりません。


「つまり、尿の量を確認せずに、バケツに集めちゃっていたって事ですかね?」

「そうだったらどんなに良かった事か!」


 先輩は頭を抱えながら言っていますけど、尿の量を確認してなかったら、後々、一日の排尿量が分からなくて困ることになるかと思うんですけども。

「尿の量はきちんと確認して記載しているわよ。そうじゃない、そうじゃないのよ」


 準夜勤務についた先輩は、

「それじゃあ、私は個室の方から尿を捨てておくわねぇ」

と言って、個室、二人部屋、観察室の順で尿パックに貯まった尿をバケツに入れて集めていたそうです。


 バケツに大量に尿が集まったら、サニタリールーム、または近くのトイレに捨てるんですけど、個室から観察室までだったら捨てるほどの量はバケツに貯まらない。


 何度も尿を捨てるのは面倒なので、バケツいっぱいに溜まったらトイレに捨てるってことになるのですが、その時の先輩は、観察室でかがみ込んで、貯まった尿パックの尿をバケツの中に捨てようとしたのですが・・


「ヒイイイッ」

 

 なんと、ベッドの下から伸びてきた真っ黒な手が先輩の手首を握りしめたのだそうです。

 悲鳴をなんとか飲み込んで、もしかして誰かがベッド下に潜り込んでいるのかな?(脳外科病棟だったら有り得る)と考えて、下を覗き込んだところ、真っ白な白目に黒々とした黒目がぎょろぎょろとこちらの方を睨みつけて、ずいっとこちらの方へと黒い塊が出てきたというわけで・・


「キャアアアアア・・・あああああああああああ!」


 慌てて立ち上がった先輩はバケツをひっくり返してしまいました。

 色々な人の尿が集められたバケツを観察室でひっくり返してしまったのです。


「何やってるのよぉおお!」

 悲鳴を聞いて観察室に飛び込んできた先輩看護師さんは、観察室に広がる黄色い液体を見て雄叫びのような声をあげたのですが、

「やっ・・え・・なに・・・嘘でしょ!嘘でしょ!嘘でしょ!」

 その後、壁にピッタリと張り付きながら、この世の終わりみたいな顔で床を見つめたそうです。


「え・・やだ・・なになになになになになに?」


 ひたすら見つめる床の先を見て、先輩は自分の声を飲み込みました。


 ペタリ ペタリ ペタリ ペタリ ペタリ ペタリ ペタリ ペタリ


 尿の池の中を歩いてきた様子で、人の足形が乾いた床の上へペタリ、ペタリと跡がついていくのです。


「嘘!嘘!嘘!嘘!」

「やだ!やだ!やだ!やだ!」


 足跡は観察室から廊下へと出ると、ペタリ、ペタリと進んでいきます。

 そうしてサニタリールームの前まで来ると、そのあとは消えてなくなってしまったというのです。


「そんな訳で、宇都木さんは気分が悪くなって休憩室で休んでいるから、宮脇さんに申し送り出来ない状況なのよ」

 先輩はBチーム、私はAチーム、宇都木先輩が戻ってこないと申し送りは出来ないというわけですか。


「それで、お願いがあるんだけど」 

「な・・なんですか?」

 私の両肩を掴んだ先輩の手に力が入る。


「あのね、あのね、バケツを転がして出来た、観察室の尿の泉、まだ片付けられてないの」 

 はい?

「怖くて怖くて、観察室に入れないの」

 えええ?


「そもそもね、鶴野さんのベッドから真っ黒で変な手が出てきたのよね。宮脇さんは鶴野さんの担当でしょ?だから!ねえ、お願い!」

「ええええええ!マジですかそれーーーーー!」


 私は先輩看護師さんのヘイト値最高値更新中の新人看護師ですよ。

 今日、ご一緒する先輩看護師さんも無言の圧力で『お前やれ』って感じですよ。


「夜中に観察室の尿プールパシャパシャって!どんな罰ゲームなんですかーー!」


 厚手のゴム手袋を装着した私は、マスク、エプロン、ゴム長靴の完全防備で観察室に入ると、モップを使って『尿の泉』撲滅運動を開始しました。


 廊下に足跡がーー〜とか言っていたんですけどね、なんか、そんな風には見えないんですけどもね。水の塊がピチョピチョって感じなんですけど、尿だとね、不衛生なんで、綺麗に拭いておきましたとも。


 モニターとか人工呼吸器とか、いちいちどかして掃除するの大変でしたよ。

 なんでここで尿バケツひっくり返すかなーー〜。


「宮脇さん!ありがとう〜〜!」


 甘いものを口に放り込んでなんとか復活した先輩看護師さんにお礼を言われたけれど、ホラーとかなんとか色々と嘘で、ただただ、尿の泉の処理を私に押し付けたかっただけなんじゃないの?と思ってしまうのは穿った見方過ぎるだろうか。


「いや、もう、ほんと、どんだけホラーでも、尿バケツだけは死守してくださいよ!本当に観察室の掃除は大変だったんですから!」


 私の勢いに押されたんでしょうね、二人の先輩はしゅんとした感じで、

「わかりました・・・」

と、小さな声で、揃えるように答えたのだった。


 0時で締めるので、尿は全員分を一度破棄することになるんですけど、マスクをせずに尿回収なんかをすると、本当に、運が悪いと顔に雫が飛び散るだけでなく、雫が口に入ることもあるので、お化けなんかよりも怖い(本当にいや!)です。


 あと、尿バケツを監察室でひっくり返されたら地獄ですよ。お化けよりも恐ろしいと思いますとも。


モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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