第五話
ザガード達が向かった先は、帝国領本土の辺境にある土地であった。
その土地はザガードの家が治めていた土地だが、既に王家に返上しているのだが、辺境過ぎる事と魔物が跋扈しているので、誰も領主になる者は居なかった。
それでも領主の館は残っていた。
館の周りには魔物除けの魔法道具が置かれている為、入る事が出来なかった様だ。
その館の外に乗って来た飛竜が降りた。
ザガードが先に降りると、手を翳すと地面が盛り上がり階段の形になった。
アレクシアはその階段を使い地面に降りた。
アレクシアが地面に降り立つのを見て、ザガードは指を鳴らした。
すると、土で出来た階段は音を立てて崩れていき、土となっていった。
「ルージュ。好きにしていいぞ」
「グゥオオッ」
ザガードの命に従い飛竜は吠えた後、翼をはためかせる。
砂埃を立てながら翼を動かした後、何処かに飛んで行った。
飛竜を見送ると、ザガードはアレクシアを見た。
「入ろうか。鍵は掛かっていない筈だ」
「ええ、分かったわ」
ザガード達は館の中に入って行った。
勝手知ったる家という事で、内部は分かっているザガードは迷う事なく歩けた。
そうして、大きな食堂に出た。
「少し埃っぽいな。まぁ、遍歴する時に領地を返上してもう三年は経っているから、こうなるか」
ザガードは軽く指を動かして魔法で換気を行った。
そして、綺麗なった食堂の椅子を引いて、アレクシアを座る様に促した。
アレクシアは椅子に座ると、ザガードは指を動かすと黒い穴が出来た。
其処に手を入れ、其処からクロスが出て来て、テーブルに敷いた。
そのクロスの上に黒い穴から出した沢山のサンドイッチを置いて行く。
「悪いな。今はそんな物しかない」
「十分よ」
アレクシアはサンドイッチを手に取り口に運んで行く。
上品とは言えず、乱雑に豪快に食べて行くアレクシア。
「もっと落ち着いてゆっくりと食べろよ」
ザガードは黒い穴からティーセットを出して、茶の用意をしながら述べた。
「五月蠅いっ。今はあんたしか居ないのだから別に良いでしょうっ」
怒りながらも食べるアレクシア。
唾と食べ物の一部が飛んでくるが、ザガードは肩を竦めていた。
「やれやれ、エドワード殿下と婚約したと聞いた時は、上手く猫を被っていた様だな」
「お蔭で肩が凝ったわよ。今回の件で良かったのは、猫被ったまま結婚しなくて良かったという事ね」
アレクシアが笑いながら食べていたが、サンドイッチが喉に詰まらせたのか顔を青くした。
そんなアレクシアにザガードは茶が入ったカップを渡した。
アレクシアは茶を音を立てて飲み詰まりを流していく。
「ぷはっ、ああ、死ぬかと思ったわ」
「助かって死に掛けるとは、大変だな」
ザガードはアレクシアの行動が面白いのか笑いながら椅子に座った。
「それで、これからどうするんだ?」
ザガードの問いかけにアレクシアは唸っていた。
「俺としては姉君のエスメラルダが嫁いだ大和皇国に逃げて、其処で余生を過ごすのが一番良いと思うが」
ザガードは案の一つとしてあげた。
アレクシアは姉と兄が一人ずつ居た。
兄はリチャード、姉はエスメラルダと言う。
エスメラルダは同盟国に大和皇国の有力者に嫁いでいた。
その為か、今回の件で唯一処罰を逃れる事が出来ていた。
ザガードもその縁で皇国に居た。
「姉さんはどうだった?」
「俺が国を出る前は、特に何かされたという事は無かったぞ。まぁ、あそこは仲が良い夫婦だから大丈夫だろう」
エスメラルダが嫁いだ者も皇国でも強い影響力を持つ有力者なので、帝国から引き渡しの命令が来たとしても突っぱねる事は出来た。
「それで、これからどうするんだ?」
「・・・・・もし、わたしが皇国で余生を送ると言ったらどうする?」
「どうもしない。お前を皇国に送って、俺も皇国に仕えるという所だな」
「良いの? 故郷を捨てる事になるわよ」
「兄弟も居ないし、両親はもう死んでいるからな。だから、故郷には未練も無い。それよりも、ゴッドフリーの爺様に世話になった恩を返さないと、祟られそうだからな」
ザガードが幼い頃に、両親が事故により死亡した。
両親は牧場を経営していたが、かなり借金があった。
ザガード一人では直ぐに返す事が出来ない程の借金で、家と牧場を売って金に換えるしかなかった。
其処にゴッドフリーが現れて借金の建て替えをすると申し出た。
その代わりにアレクシアの遊び相手をする様にと頼まれたのだ。
ザガードからすれば、ゴッドフリーは恩人であった。
「ふ~ん。そう、でもっ」
ザガードの返事を聞いた後、アレクシアはサンドイッチを取り豪快に齧り付いた。
「此処までされて泣き寝入りするなんて、出来る訳が無いでしょう! この恨み、万倍にして返してやるわ!」
「それは父親と兄君や親族が処刑された事への復讐か?」
「はぁっ? そんな訳ないでしょう!」
アレクシアは両親との関係も悪かったが、兄との関係も最悪であった。
顔を合わせれば嫌味を言い、互いに歩み寄ろうという姿勢を見せる事は無かった。
アレクシアは公式の場では兄様と呼んでいるが、普段はあいつと呼んでいた。
「父様もにあいつも処刑されたのは自業自得よ。でも、それでわたしまで処刑する事になった事が気に入らないから復讐するのよ!」
「・・・・・・まぁ、お前がそう言うのなら幼馴染の誼だ手伝ってやる」
こいつらしいなと思いながら肩を竦めるザガード。
「ふん。良いわ。手伝った見返りには、相応の褒美を与えてやるわっ」
「そいつは楽しみにしておこう」
アレクシアの大風呂敷を広げるのを聞きながら、ザガードは笑みを浮かべた。
その後、これからどうするかを話しあった。