第三話
捕縛されたアレクシアは牢獄に入った。
暫くすると、アレクシアの父であるブライアンと兄のリチャードが捕まった。
母のクラーラは行方が分からなかった。
何処かに向かう際、男と一緒にいたという話を牢番が話していたのを聞いたアレクシアは直ぐに分かった。
(母様。逃げたわね。昔から勘が良かったから。多分、一緒にいた男は愛人ね)
両親が仮面夫婦だという事をアレクシアは物心がついて間もなく知った。
その為、両親は愛人を作り、顔を合わせる事も稀で離婚しないのは世間体を気にしてしなかった。
夫婦としての最低限の行いなのか、アレクシア兄妹達は二人の間に出来た子であった。
尤も二人共、教育に関しては教育係に任せきりであった。
(まぁ、今回の件はあくまでも御父様が起こした件。わたしは全く関わっていないから、追放が妥当ね)
命あっての物種と思うアレクシア。
家の財産は没収されようと構わないと考えていた。
その後、分家の者達の多くも捕縛されていく。今回の件に関わった者達が全員捕縛されると、裁判が開かれ判決が下されて行った。
そして、一緒の牢の中に入ったため、ブライアンにに今回の件を尋ねると、とんでもない事を話しだした。
「帝位を就かれる前にエドワードを廃嫡させて、皇太子をリチャード殿下に就かせて、皇帝になった暁には政治を我らに任せて、そして、皇帝になりある程度歳月が経った後、お前とエドワードとの間に出来た子に帝位を譲位させるつもりであった」
ブライアンの話を聞いてアレクシアはこれは冤罪でも何でもないという事が分かり頭を痛くした。
こうなる事を知っていれば、縁を切る事が出来たと思いつつ、裁判の判決が自分にとっていいものである事を祈った。
四日後。
アレクシアは檻車に乗せられていた。
手には魔法を封じる枷を着けられている為逃げる事が出来なかった。
檻車の外からざわつく声が聞こえていた。
暫く進んでいた車が止まりだした。
少しすると、檻の扉が開かれた。
「出ろ」
檻車を操縦していた兵が端的に告げた。
アレクシアは立ち上がると、檻から出た。
檻から出ると、日の光に目をやられて目を瞑った。
暫し目を瞑ったが、光に慣れて来たか瞼を開ける。
開けると、王都中の市民が沿道に詰め掛けているのが見えた。
皆、好奇と嘲笑の目でアレクシアを見ていた。
そんな視線をぶつけて来る者達にアレクシアはキッと睨みつけた。
「おい。睨むな。いくぞ」
アレクシアが市民を睨んでいる間に兵は手枷に鎖を着けていた。
そして、その鎖を引っ張りアレクシアを動く様に促した。
抵抗する事も出来ないアレクシアは引っ張られるままであった。
兵士に引っ張られるアレクシアは裸足であった。
歩いている道は石畳の為、石を踏む事は無いのだがまだ冷たい季節の為か、歩く度に氷の上を歩いている気分になるアレクシア。
囚人服を纏い歩くアレクシアに市民達は罵声を浴びせた。
「お前達の所為で、俺達の暮らしが悪くなったんだっ」
「明日の飯に困るのは、お前等の所為だ‼」
「死んじまえ‼」
「お前等が悪いんだ‼」
石こそ投げなかったが、アレクシアに罵声をぶつけて日頃の不満を解消させていった。
罵声を浴びながら進んでいくアレクシア。
その先にあったのはギロチン台であった。
既に何人も首を落しているのか、台の部分に落としきれなかった黒いシミが残っていた。
ギロチン台の側にはバルコニーがあり、其処にはエドワードとエミリアが居た。
側近という事でか、ケントとギュンターの二人も後ろに控えていた。
兵に引っ張られアレクシアはギロチン台に連れて行かれる。
其処で着飾った男が手に持っている紙を広げて呼びあげた。
「アレクシア・レッチモンド。畏れ多くも皇室のたいし大逆罪を行った罪により、処刑を言い渡す」
と男は高らかに宣言した。
その宣言を聞いて、市民達は歓声をあげた。
アレクシアが処刑される事になったが、其処まで行くには少し経緯があった。
ブライアンの行った罪により息子や母方の祖父母と他分家の者達は処刑される事になった。
幾つも家が御取り潰しになった。
そんな中、アレクシアの罪はどうするか裁判では紛糾する事になった。
ブライアンの娘とはいえ、調べた所今回の件には全く関りが無い事が分かった。
とは言え大逆罪を犯した者の娘を追放するのは温すぎるという意見もあった。
だが、処刑するのは行き過ぎではという意見もありどうするべきか紛糾した。
エドワードも流石に処刑は遣り過ぎだと思い、追放しようと嘆願した。
だが、レッチモンド家の嫡流の者を残せば復讐しくるかもしれないという話が上がり、そして処刑するという事に決まった。
エドワードとしては最期を看取るという意味でバルコニーに居た。
因みにブライアンを含めた他の者達は既に処刑が執行され、エドワードの弟のリチャードは調べた所、今回の件に関わっていなかった為、適当な修道院に僧侶になるという事で赦された。
切り落とされた首は城壁で晒されていた。
アレクシアは魔法を使う事が出来ないので、抵抗する事も出来ないまま台に固定される。
首枷を嵌められ、後はギロチンを固定している綱を斬ればギロチンが落ち、アレクシアの首と胴体を泣き別れするだけであった。
台に固定されたアレクシアを逃げれない事を確認いた兵はエドワードに向かって一礼する。
エドワードは難しい顔をしながら、椅子から立ち上がった。
「アレクシア。出来れば助けたかったが、済まない」
「・・・・・・」
エドワードの謝る声を聞いてもアレクシアは何も言わなかった。
何も言わないアレクシアにエドワードは無言で手を掲げた。
「せめて、その首は綺麗なままで埋葬する事を約束する」
そう言い終えると手を振り下ろした。
兵は綱を斧で切ろうと振り上げた。その瞬間。
烈風が吹いた。
その風の勢いは砂埃を立てる為、エドワード達も市民達も目を開ける事が出来なかった。
やがて、風の勢いに吹き飛ばされる兵。悲鳴をあげて何処かに飛ばされて行く。
砂埃が立つギロチン台だが、暫くすると風が止み砂埃が落ち着き始めた。
ようやく、視界が良好にりギロチン台を見ると、其処には兵ではない者が立っていた。
黒い衣と赤く縁取りされた鎧に纏っていた。
兜は被っていない為、顔が良く分かった。
濡羽色の髪を腰まで伸ばし、線が細いシャープな顔立ちで切れ長の目にアメジストの様な瞳を持っていた。
高い身長を持ち細いが鍛えられた体格であった。
ギロチン台の側にいる男を見た事が無いエミリアは首を傾げていたが、エドワード達は目を大きく見開かせていた。
「まさか、帰って来たのか⁉」
「帰って来たようだな・・・」
「ああ、帰って来たな」
エドワード達は慄いた後、ほぼ同時に口を開いた。
『ザガード・マーシルン‼』
エドワード達がそう叫ぶのを聞いていないのか、男ことザガードはギロチン台にいるアレクシアを見た。
「無事なようだな。シア」
「・・・・・・いのよ」
ザガードはそう声を掛けるが、アレクシアは何か呟いた。
「遅いのよ‼ この風来坊⁉」
アレクシアはまだギロチン台に固定されたままだというのに、そう叫んでいた。
「・・・・・・元気がいいのは変わらないな」
叫んでいるアレクシアにザガードは微笑んでいた。




