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第二話

 会場を後にしたアレクシアは馬車の飛び乗り自分の屋敷へと急いで帰った。

 事実を確認する為にだ。

 御者に急げと命じ、馬を駆けさせた。

 屋敷の前に着くと、王国の騎士団が屋敷の中に入り込んでいる所であった。

「な、もう捜査の手が入ったの⁉」

 先程エドワードが盟約書を見せたので、まだ捜査されないだろうと思っていたアレクシア。

 屋敷には騎士達が屋敷の至る所を調べていた。

 なお、女性のプライバシーを考慮してか、女性の部屋の捜査には女騎士が担当していた。

 誰も近づけない為にか、塀の周りには、完全武装した兵が立っていた。

 これは、屋敷に誰も近づけさせないだけではなく、屋敷の中に居る者達を逃がさない為も兼ねていた。

「これはまずいわね。ちょっと、別邸に行って頂戴」

 アレクシアが御者台にいる御者に声を掛ける。

 レッチモンド家は帝都の至る所に本邸だけでなく、別邸も幾つかあった。

 流石に其処まで捜査の手が及んでいないだろうと思い、アレクシアは御者に命じた。

 だが、御者台からは何の返事も無かった。

「ちょっと聞いてるの? って、居ない!」

 馬車の窓を開け、御者台を見ると其処には誰も居なかった。

 何処に行ったのかと見ていると、御者台に座っていた御者が何時の間にか降りていた。

 その上、屋敷の周りを固めている兵士の一人に近付き、手で馬車を指差しながら何かを話していた。

 すると、話を聞いていた兵士が仲間に手で付いて来る様に合図を送り、馬車に向かって歩きだした。

「あいつっ、って、今はそれどころじゃないわねっ」

 御者の行いにアレクシアは腹が立ったが、今はどういう状況なのか分からないので捕まる訳にはいかなかった。

 アレクシアは慌てて馬車から降りると、裾を持って走り出した。

「逃げたぞっ、追え! 追え!」

「重要参考人だ。逃がすな!」

 兵士達が走って追い駆けてくるのを見てアレクシアは駆けながら目を瞑った。

「其は速き足を持ちし獣。その力を今宿らせん。『脱兎脚(ラビット・フット)』」

 そう唱えるとアレクシアの足に半透明な何かが纏わりついた。

 すると、アレクシアの走る速度が上がった。

「魔法か!」

「これは追い付けないぞ⁉」

 兵士達は引き離されて行くアレクシアを見て嘆いていた。

 この世界には魔力の素となる魔素が満ちている。

 魔法を使える素養は人によって違うが、アレクシアは学院でもトップクラスに入る実力者であった。

「おほほほ、貴方達に捕まえられる訳ないでしょうっ」

 アレクシアは兵士達を嗤った後、速度を上げて兵士達を振りきった。


 兵士を振り切ったアレクシアはドレスがどれかけ汚れようと、引っ掛けて破れようと構わず駆けた。

 駆けて、駆けた先にあったのは、屋敷であった。

 塀は緑に覆われて外壁には罅が入っていた。

 屋敷の壁は色が落ちており、こちらも至る所に罅が入っていた。

 アレクシアはその屋敷の門を開けて、中に入ると閂を掛けた後、屋敷へと向かった。

 屋敷の扉をノックする事なく開けると、床には埃が溜まり掃除されていなかった。

「・・・・・・外は改装しないと駄目ね」

 そう呟きながらアレクシアは魔法で光源を生み出した後、屋敷の中に入って行く。

 この屋敷はアレクシアの祖父で先代当主であったゴッドフリーが晩年暮らしていた屋敷だ。

 祖父が亡くなって屋敷を管理する者が居ないので埃が溜まっていたが、アレクシアは廊下を歩き何処かに向かっていた。

 幼少の頃から、何度もこの屋敷に訪れているアレクシアからしたら、灯りが無くても問題なく歩けた。

 少し歩いた後、目的の場所に着いたアレクシアは足を止めた。

 其処は屋敷の数ある部屋の一つであった。

 アレクシアは扉を開けて中に入った。

 この部屋も埃が積もっていたが、ベッドや家具などが置かれていた。

 部屋の奥にあるテーブルには板が置かれていた。

 大理石を切り取った様に磨かれた白い板の下に茶色の台が置かれていた。

 これは魔力を動力とする魔法道具(マジックアイテム)と言われる道具の一つであった。

 道具名は文字盤(ワードボード)と言う物であった。

 この道具は文字盤があれば、文字盤に会話を伝える事が出来る物であった。

 どれだけ離れていても会話を送る事が出来るので、遠方にすむ者に知らせを送る時に便利であった。

 アレクシアはこの文字盤を本邸の他に別邸にも置いていた。

「此処はあいつ(・・・)に頼るしかないわね」

 アレクシアはそう呟き、ペンを取った。

 この世でアレクシアが心から信頼できる者は二人だけであった。

 一人は故人になったが祖父のゴッドフリー。もう一人は幼馴染であった。

 ゴッドフリーが困窮する分家の一つを援助を条件に、幼馴染をアレクシアの遊び友達として連れて来た。

 当時、他の分家にはアレクシアと同じ年代の子がその幼馴染以外居なかった。

 その幼馴染は異性であるのだが、アレクシアと仲良く遊んでいた。

 二人の関係は祖父が亡くなった後も続き、今も離れていても文字盤を使い気軽に会話していた。

「・・・・・・」

 ペンを取ったアレクシアは文字盤に何と書こうか悩んだ。

 他人であれば、どんな命令も出来るアレクシアなのだが、何故かペンが一向に動かない。

 アレクシアは何と書けばいいのか悩んでいる様であった。

(ちょっと困った事が出来たから来てくれない? いえ違うわね。此処はあんた、暇でしょう? ちょっと来なさいっ。う~ん、これも違うわね・・・・・・)

 頭の中で書く内容が幾つも浮かぶが、どれも違うと思い何処かに追いやるアレクシア。

 悩んで、悩んだ結果。板に書かれた文字は。


 助けて。


 それだけしか書かれていなかった。

 書いた後、もっと書き足そうとしたが、直ぐに文字が消えて行き、暫くすると。


 分かった。帝都に行けばいいのか?


 何をするか等聞かず、ただ端的にそう返事が返って来た。

 アレクシアはそれを見るなり、そうよと返信した。

 すると、文字が消えると了解とだけ書かれていた。

「・・・・・・もっと、何か書く事はないの? あいつはっ」

 アレクシアは幼馴染の素っ気ない返事を見て不満を零していた。

「全く女心が分からない奴。どうして、世間ではこんなのが良いのかしら?」

 悪態をついた後、アレクシアはベッドで横になった。

 埃が立ち黴臭かったが、気に素振りを見せなかった。

 そして、天井を見上げながら溜め息を吐いた。

「御祖父様が居たら、こんな事にならなかったでしょうね・・・」

 アレクシアはそう呟いた後、疲れたのかそのまま眠りについた。

 眠りについたアレクシアは夢を見た。

 今いる屋敷の庭で遊ぶアレクシアと幼馴染。ロッチングチェアに座るゴッドフリーがそんな二人を微笑ましく見ていた。

 祖父が居て、幼馴染が居る。アレクシアにとって、その時が一番幸せな時であった。

 


 翌朝。


 窓から差し込む朝日によりアレクシアは意識を覚醒させていった。

「・・・・・ん~、あいつが来るまでどうしようかしら?」

 普段使っているベッドでは無いので、身体が痛いと思いながらアレクシアはこれからの事を考えた。

 この屋敷は世話する者が居ないとは言え、エドワードが兵を送る可能性があった。

 なので、何時までもこの屋敷に留まる事は出来なかった。

 かと言って、何処かに行く当ても無かった。

 どうするべきか考えていると、屋敷の廊下から歩く音が聞こえて来た。

「っち、もう来たのねっ」

 誰も居ない屋敷に歩く音が聞こえるので、直ぐに追手が屋敷に入った事に感付いたアレクシア。

 此処には居られないと思い、直ぐに部屋を出て行こうとしたが。

 扉が乱暴に開け放たれた。開けたのは兵士であった。

「いたぞっ」

「アレクシア・レッチモンド嬢。貴殿には逮捕状が出ている。大人しく投降されよっ」

 兵士達がアレクシアにそう勧告してきた。

「はっ、誰が従うものですかっ」

 アレクシアは魔法を唱えようとしたが、魔力が高まる気配が無かった。

「どういう事⁉」

「わたしです。アレクシア様」

 そう言って部屋に入って来たのはエミリアであった。

「エミリア。じゃあ、もしかして」

「はい。この屋敷の周りには魔法無効下結界アンチマジックフィールドを張りました。幾らアレクシア様でもこの結界の中では魔法は行使できません」

「っち、余計な事を」

「アレクシア様。どうか、大人しく投降してください。そうすれば、わたしは殿下から減刑する様に伝えますから」

「ふん。余計なお世話よ。そんな事などしなくても結構よ」

 こうなったら強引にでも突破して逃げようかと考えるアレクシア。

 そう考えていると、窓が音を立てて割れ何かが入って来た。

「っと、此処までだぜ。アレクシア」

「ケントっ⁉」

 窓を割って入って来たのがケントだと分かり、顔色を変えるアレクシア。

 前には兵士とエミリア。背後はケントに挟まれた。

 加えて魔法も行使できないという状況にアレクシアは逃げ場は無いと直ぐに分かった。

 どうしょうと考えていると、ケントが近づいてアレクシアの腕を掴み軽く捩じった。

「何をするのよ⁉」

「大人しくしろ。暴れれば暴れる程、お前の罪が重くなるぞ」

「五月蠅いわねっ。離しなさいよ、万年二位!」

「お前っ」

 アレクシアの言葉にいきり立つケント。

 怒りを込めて突き飛ばした。

 突き飛ばされた先には兵士が居た為、受け止められたアレクシア。

「確保っ」

「大人しくして下され」

「この、あんた達、覚えてなさいよ!」

 手枷を嵌められている間も暴れるアレクシア。

 兵士達は数人がかりでアレクシアを捕縛して、何処かに連れて行った。

 兵士はケントに一礼した後、その場を離れて行った。

「あの、ケント様」

「何だ?」

「万年二位とはどういう意味ですか? ケント様は卒業する時は武術は一番だったと思ったのですが?」

 エミリアがそう訊ねてくるが、ケントは口に出すのも嫌そうな顔をして、何も言わなかった。

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