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第一話

世界中に植民地を持つアルビオン帝国。

 強大な軍事力と豊かな国土に持つ為、他の国々の追随を許さなかった。

 光強ければ闇も深くなる。

 その言葉の様に、帝国の闇も深かった。

 帝国の闇を纏め上げるのはレッチモンド公爵家であった。

 アルビオン帝国の闇を担い、その権力は帝室ですら逆らう事が出来なかった。

 レッチモンド家に睨まれれば、皇帝でもあっさりと退位されるという噂が国内に流れているほどだ。

 実際の所、何人かの皇帝がレッチモンド家の力を削ごうと画策したが、全員暗殺された(退位させ、罪をでっち上げて処刑。在位中に毒や刺客を送り暗殺等々)。その為、誰も逆らう事など出来なくなった。

 その強大な権力を持つ為、公爵家はどの様な事も許された為か、巷では『レッチモンド家の者でなければ人にあらず』とまだ謳われていた。


 アルビオン帝立総合学院。

 今日は卒業パーティーであった。

 着飾った礼服を身に纏う学生達。

 ダンスの時間になり、音楽が変わるその時。男の声が式場に響いた。

「アレクシア・レッチモンド! 今日限りでお前との婚約を破棄させて貰う!」

 式場の中央で叫んだ為、男の声が隅々まで聞こえた。

 男の叫びを聞いて、楽器を鳴らす楽隊の者達も談笑している生徒達も口を閉ざした。

 音一つもなくなった為、式場は静まり返ってしまった。

「・・・・・・殿下。冗談でも時と場所を選んだ方が良いと思いますよ?」

 そう男性に声を掛けたのは女性であった。

 まだ十代後半だと言うのに、大輪の薔薇の様な美貌を持ち切れ長の目に青緑色の瞳を持っていた。

 身長も平均よりも若干高かく、女性の象徴といえるものも豊かで、腰も余計な肉などついていない細く引き締まっており、尻も大きくハリがあり胸と同じ位主張していた。ゴールデンブロンドの髪を腰まで伸ばしていた。

 女性は羨み、男性であれば劣情を掻き立てるプロポーションを持っているこの女性こそアレクシア・レッチモンドその人であった。

 そのアレクシアの前に居る男性は、婚約者でもありアルビオン帝国の皇太子であるエドワード・ウイリアム・アルビオンだ。

 年齢はアレクシアと同じで、気品あふれる顔立ちに赤色の短髪で吊り上がった目を持ち青い瞳を持っていた。

 身長は平均よりも高く、体格もスマートだが鍛えられた肉体を持っていた。

「冗談だと⁈」

「ええ、我がレッチモンド家は皇室に代々仕えて来た忠義ある名家。そんな我が家と婚姻を結べるのです。厭う理由がありません。ですので、冗談と申したのです」

 アレクシアは手で口元を隠しながら笑っていた。

 その余裕の笑みを見てエドワードはいきり立った。

「お前はわたしの婚約者に相応しくないっ。だから、婚約を破棄するのだっ」

「まぁ、何故ですの?」

 エドワードがまた婚約を破棄すると述べるのを聞いてアレクシアは不思議そうに訊ねた。

「しらばっくれるのもいい加減にしろっ。お前がある生徒に対しての行いの数々は目に余る。そんな者を我が妻にする事など出来ん! だから、婚約を破棄するのだ!」

「ある生徒ね・・・・・・」

 アレクシアはエドワードの横に控えている女性を見た。

 年齢はアレクシア達と同じで身長は平均的であった。

 御淑やかな雰囲気を出しており、その雰囲気に見合うように小さい顔に優し気な眼差しにピンク色の瞳を持っていた。

 瞳の色と同じ姫カットされた髪を持ち、大きくもなく小さくもない胸に折れそうな程に細い腰と小さく主張しない尻を持っていた。

 この女性の名はエミリア・テイラーホープと言い、子爵家の長女でアレクシア達と同じ学院の卒業生である。

 エドワードが言う行いとは、エミリアが学院に在籍している間に受けたイジメの事であった。

 教科書が切り刻まれる。私物が紛失。陰湿な陰口に加えて階段から突き飛ばされる。魔法の授業で魔法の誤爆。外を歩けば、暴漢に絡まれる等々。卒業するまでの間、様々なイジメを受けていたエミリア。

(子爵家の分際で、人の婚約者に色目を使う雌猫にお仕置きをしただけでしょうに・・・)

 エミリアが受けていたイジメは全てアレクシアが命じていた。

 勿論、表だって命じたという事は無く、自分の取り巻きや分家の者達に命じさせた。

 その命を受けた取り巻き達が行った。その為、アレクシアが命じたという事は分からない筈であった。

「アレクシア様。お願いですっ。どうか、自分の行いの謝罪を」

「した覚えがない事に謝る理由は無いわ。わたしを謝らせたいと言うのであれば、証拠を見せて下さる?」

 内心ではそんなものある訳がないと思いながら述べるアレクシア。

 アレクシアがそう思っていると、エドワードの後ろから二人の男が前に出て来た。

「証拠はこれだ!」

 そう言うのは眼鏡をかけた青色の七三分した髪を持っていた。

 身長も小さいので、少年の様であった。

 童顔で大きな目に緑色の瞳を持ち、身の丈以上のロープを纏っている為、余計に子供の様に見えた。

 この少年の様な者はギュンター・ガーディガーンと言い、エドワードの友人の一人だ。

 王国宮廷魔術師師団の師団長の息子だ。

 もう一人は高い身長を持ち、鍛えられた体格を持っていた。

 イエローブロンドの髪をツーブロックにしており、腰には剣を佩いていた。

 精悍な顔立ちで丸目で黒い瞳を持っていた。

 この者の名はケント・サンダーラルドだ。

 エドワードの友人の一人だ。

 帝国の全騎士団を統括する騎士団総長の息子だ。

 この二人はエドワードの側近であった。

 二人の後ろには気まずそうな顔をしている複数の男女がいた。

「貴方達・・・」

 気まずそうな顔をしている男女は全員アレクシアの取り巻きであった。

「さぁ、証言するのだ」

「大丈夫だ。何があってもお前達も一族も守るぞ」

 ケントとギュンターが男女に何か話すようにと促した。

 二人に促され、男女は重い口を開きだした。

「アレクシア様の命令でエミリア様の私物を隠しました」

「アレクシア様の命令で教科書を切り刻みました」

「アレクシア様の命令で、エミリア様を階段から突き飛ばしました」

「アレクシア様の命令で、外出中のエミリア様に暴漢を襲うように金を渡しました」

 男女が次から次へと証言しだした。

「どうだっ、全てお前が命じた事と皆が言っているぞっ」

「そうですわね・・・・・・」

 顔にこそ出していないが、腹の内では激しい怒りを宿すアレクシア。

「・・・ふん。そうですか。殿下は其処の可愛らしい小鳥を気に入ったので、わたしとの婚約を破棄するのですね」

 アレクシアは確認するかのように訊ねてきた。

「お前、何故謝罪をしないのだ!」

「その者が先にわたしの婚約者に言い寄るという常識を疑うという事をしたので、わたしなりの注意をしただけですので、謝る理由がありません」

 アレクシアはイジメをした理由を述べたが、エドワードがいきり立つ。

「あれは注意の範疇を越えているぞっ」

「そうですか。では、謝罪をすれば許して頂けるのですか?」

「そうだな。その件(・・・)については謝れば許してくれるだろう。だが、こちらの件について訊かせて貰おうか」

 エドワードがそう言って一枚の紙を見せた。

 アレクシアはその紙を見て、目を剥いた。

「え、えええっ」

 エドワードが持つ紙には盟約書とデカデカと書かれていた。

 最初の一文には「我らエドワード皇太子を廃し、次期皇帝をリチャード・ジョン・アルビオン皇子にする事を誓う」と書かれていた。

 署名には多くの貴族の名が書かれているが、その多くがアレクシアの家の分家筋にあたる家ばかりであった。

 盟約書の盟主にはアレクシアの父であるブライアンの名が書かれていた。

「そ、それは、何の冗談ですか?」

 見た事も無い盟約書を見てアレクシアは目を限界まで見開いていた。

「ふざけた事を言うでない。この盟約書はお前の母方の家から出て来たと聞いているぞっ」

 エドワードがそう叫ぶのを聞いて、アレクシアは自分の取り巻きの一人を睨んだ。

 その者はアレクシアの母方の家であるポートチェス侯爵の出の者であった。

「ひっ、わ、わたしはエミリア様を暴漢に襲わせる様に命じる為の資金を侯爵に頂こうと訪ねた時に、侯爵は不在で部屋で待っていると、机にこの紙が置かれているのを見て、思わず読んでしまい思わず隠してしまいましたっ」

 取り巻きが怯えながらも、盟約書を手に入れた経緯を話した。

「大丈夫。心配ありません。貴方は罪に問われる事はありませんから」

 エミリアは怯える取り巻きに声を掛けて笑みを浮かべながら励ました。

 エミリアの太陽の様な笑顔を見て、取り巻きは怯えが止まった。

 話を聞いたアレクシアは頭が痛そうな顔をしていた。

(御祖父様と御父様がそんな話をしている等、聞いていないわよっ。それに。何でそんな大事な事をわたし抜きで決めるのよっ)

 アレクシアは内心で憤慨していた。

 盟約書に書かれているリチャードとはエドワードの同母弟だ。

 エドワードに負けない気品ある顔立ちなのだが、才能という才能が無い男であった。

 顏以外何も秀でた所がないので、家臣からは『出涸らし』『顔が良いだけの案山子』『愚者と言う言葉がピッタリな男』等と陰口が叩かれている。

「此処にお前の父親の名前もある。お前はこの盟約書の存在は知っていたのか?」

「知りません」

 本当に知らないのでアレクシアはそう答えた。

「・・・・・・この件については厳しく調べる事とする。もし、少しでも関わっていたのであれば、法に則り厳しく処罰をする‼」

 疑いの目でアレクシアを見ながらエドワードはそう断言した。

「・・・承知いたしました。では、わたしはこれで」

 アレクシアはこれ以上この場にいれば、奇異の目で見られると判断しエドワードに一礼した後、会場を後にし自分の屋敷に帰って行った。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

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