第6話
「――――なるほど、まさか本当に生き物の召喚に成功するとは思わなかったわ」
事情を知ったゾフィは、ようやく剣を収めた。
腕を組み、ドカッと椅子に座る。
一言謝罪があってもいいのではないかと思うけどな。
「でもクズはクズね」
「ああ」
俺を睨む少女。
ゾフィ・グレイヒム。
猫系の獣人らしい。14歳。
配属されている兵団もリタ同じ、同期の騎士見習いである。
そして、数少ないリタの友達で同じ兵舎に住んでいる。
曰く、騎士見習いのくせに魔術の研究をしている変わり者と積極的に仲良くしようとする者は居ないので、貴重な存在だという。
獣人は排外主義傾向のあるこの国では少数派である。
マイノリティ同士、惹きあうのだろう。
「でも、本当に邪神なの? 私にはただのダメ男にしか見えないわ」
「これでも邪神様だ。ひれ伏すが良い」
「親友にそんな口を聞くな。それに邪神だなんて私も信じてない」
「すみません」
ゾフィはリタの趣味を馬鹿にしない数少ない友人だ。
さらにはその魔術の才能を認めている。
しかし彼女の目的である邪神の召喚が、
本当に成功するとは思っていなかったとのことだ。
「何か、邪神だということを証明できないわけ?」
「その邪神紋章が証明だと言っているだろう」
「そんなこと言われても、邪神紋章だなんて知らないし」
「ならそれまでだ」
邪神紋章以上の証明はない。
一昔前ならば、邪神の配下は皆体のどこかにこの刺青を掘っていたというのに。
見ただけで万人が平伏したというのに。
「……うーん。まあ、嘘をついているようには見えないけれどね。
本当に邪神ならすごいことよ。西方連邦も邪神を一体召喚したというし、エルドリアにも一体邪神が召喚されたなら戦争も一方的じゃなくなるわ」
「え? 俺以外にも邪神いるの?」
「知らないの?」
曰く、このエルドリアの敵国、西方連邦に邪神が存在するらしい。
西方連邦はエルドリアの南西に位置する西方大陸を統べる超大国だ。
もとは大陸の西の小国だったが、
人間が近年になってようやく体系化を始めた魔法の軍事利用と、邪神の二本柱でここまで拡大路線を続けられたという。
その軍事力は圧倒的で、このままではエルドリアは蹂躙されるということだ。
「ま、こんな弱っちい男が邪神なわけないけどね」
「よ、弱っちい?」
どこが弱っちそうなんだ。
どっからどう見てもタフガイだろうが。
「体もそこまで鍛えられていなさそうだし、何より顔がダメね。
優しそうに見えてシモの事しか頭にないろくでなしにしか見えないわ。
戦いで一番最初に死ぬわね。それも派手に」
「誰がヤ○チャだ!」
「何よそれ。だってそう見えるんだもの。邪神なら神話の絵本みたいにもっと禍々しく、強そうなはずでしょう?」
部屋の一角に鎮座する邪神フィギアを指さすゾフィ。
「悔しかったら、邪神らしく強さの片鱗でも見せてみなさい」
こ、この女初対面なのに偉そうに。
久しぶりにイラっときたぞ。こんにゃろう。
よし。
ここまで言われちゃ我慢ならん。
それに、ここ数日この部屋で召喚術について調べて、もしやと思ったことがある。
それについて少し検証したいし、丁度いいじゃあないか。
「……。いいだろう! そこまで馬鹿にされて黙ってられねえ。ちょっとした魔術実験を見せてやる」
「魔術!」
「え? 本当に?」
リタが嬉しそうな反応を見せる。
魔術大好きっ子だもんな。
反対に「まじで? そんな虚勢張らなくても」みたいな顔をしているゾフィ。
その顔が驚愕に染まる瞬間を拝みたい。
「なんか、広い場所って町中にある?」
問うと、リタは騎士団の詰所裏に広い修練場があると教えてくれた。