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第50話

砂浜には大量の死体が横たわっていた。

エルドリア軍、西方連邦軍どちらが多いかなんて分からない。

ただ分かるのは、その場に最後残った兵士はエルドリア軍300人であったことだけだ。


ダーボンの砂浜は激戦の末、その砂浜の防衛に成功していた。

最も強大な第三波を打ち破ったエルドリア軍は勝利の雄たけびを上げていた。


俺は血に染まった波打ち際から、その様子を見ていた。

足元にはついさっきまで生きていた魔導士の死体。

彼は無残にも胸を貫かれ、大量の血を海に流していた。


俺に駆け寄る者が居た。

ゾフィだ。


「思いのほか、魔術も連発できるのね」

「魔導士が居たからできたことだ。魔力を補充できてよかった」

「? 魔導士が居ると魔力を奪えるの?」

「そうだ」


今、俺の体内には西方連邦の魔導士から根こそぎ奪った魔力が存在している。

大体20人は殺したから、それなりの総量にはなっている。

超級魔法が一発発動できるくらいだろう。


「……本当に不思議な魔術を使えるのね」

「邪神だからな」

「そうね」


ゾフィは俺が本当の邪神であることを半ば確信している。

だからといって、彼女の俺への態度はずっと変わらないが。


「なんにせよ、あんたがいなかったらエルドリア軍は国を守れなかった。

 わたし達は自分達自身の力じゃあ魔導士や、魔道騎士に対抗できなかったわ。

 ほとんどあんたが倒してくれたから、今この結果がある。

 だれも近づかないけど、兵士はすごく感謝してるわ」


ゾフィが見る先には、雄たけびを上げる兵士たち。

彼らのほとんどは自分たちの勝利に酔いしれているが、中には俺の活躍がなければ負けていたことに気づいている者もいた。

彼らはちらちら俺に目線を送っていたが、近づきはしない。

返り血で血みどろで、しかも強力な魔道騎士を数秒で殺してしまう男を恐れているのだ。


「……なんだよ」


そんな中、ゾフィだけは様子が違う。

肝が据わっているのか、鈍感なのか。


「そ、その。私も感謝してるわ。ありがとう。

 ……私が誰かに感謝するのは珍しい事よ?」

「そうなのか、どうも」

「ええ、命も助けられたし……ね」


ゾフィと俺は水平線を眺めた。

数少ない西方連邦の生き残りが、船を置きに引き上げていた。

体制を整えて、帰国するのだろう。

ちらとゾフィの横顔を見ると、頬が紅潮していた。


「…………ん、え? なんだ、惚れた?」

「なっ! 馬鹿じゃないの!? 誰があんたみたいなのに……」


ゾフィはボコボコと俺の肩を殴った。

腰が入っていた。

冗談だろ……まじで痛い。


「……それで、リタの姿が見えないけど、どこにいるのよ」

「攫われた」

「え?」


目を見開いて、ゾフィは俺を見つめた。


「さっきお前の指示で動いていたと思ってた傭兵にさらわれた」

「……そん、な。なんでそんな男と彼女を2人にしたのよ!」

「皇子も居たし、傭兵は足の健も切ってたし、手足も拘束してた。

 とても反撃できる状況じゃなかったんだ」

「まって、皇子も居たの?

 ……そういえば、前線にも彼の姿は無かった。

 いったい何が?」


俺は、さっきまで起こった出来事を手短に話した。

皇子が襲撃を受けた事、皇子が脱出しても遊撃隊の前線行きは行われたこと。

その皇子と出会ったタイミングで倒した傭兵の事。

そして傭兵の背中には邪神の紋章があった事。


「じゃあ、その傭兵はもう一人の邪神の操り人形だったってこと?」

「そうだ。『服従』の固有魔術は、人が痛みで動けないような場合も、無理矢理動かす」

「ひどい魔術ね」

「ああ」


俺も過去、その魔法を使われた。

その便利さと惨さは身にしみてわかっている。


「でもその魔術をかけられていたのはそいつだけじゃないぞ。

一日目、二日目のほとんどの西方連邦の兵士はその魔法を使われていた。

多分だけど、今日この町にも多くの操り人形が潜伏してただろうし、上陸した兵士の中にもいるんだと思う」


「例えば」と言って、足元に横たわる魔導士の背中をあらわにする。

そこには邪神の紋章が浮き出ていた。

ゾフィは「本当ね」と驚きをあらわにした。

敵のほとんどはこんな感じだ。おそらく、西方連邦は邪神の魔術にだいぶ浸食されている。

さらには、エロニエル公爵を筆頭に、怪しい動きをしている味方も疑った方が良いかもしれない。


「そんなに沢山の人間に行使できるの?」

「服従の固有魔術は使用制限が魔力量以外にない。それに発動条件も『相手に触れる事』 だけだから、魔力が続く限りいくらでも使えると考えて良い」

「そうなのね」

「それで、話を戻してリタがどこにいるかなんだけど。

邪神の手先の動きを鑑みて、俺なりに予想を立てたんだ」

「なに?」

「ちょっと長くなるぞ」


頭の中で少し整理して、話す。


「まず、一日目、二日目の敵の上陸がやっぱり陽動だった可能性が高い。死体を見たが、たぶん彼らは全員奴隷だ。

まだ捕まえて間もない力のある戦争捕虜を、無理矢理服従させて使っていたんだろう。

そして、陽動作戦なら本当の狙いは……」


俺は西を指さした。

その方向にあるのは、


「ビブリア?」

「そうだ。

今全兵力がダーボンの砂浜に集まっているから、落とすのが難しいビブリア相手にも勝機はある」

「確かに城塞を一つ落とせば強力な大陸侵略の根拠地になるわね。

 でも、どうして?

 最初から狙う必要なんてないじゃない」

「そうだな。問題は、なぜわざわざ陽動作戦まで組んで、ビブリアを狙うのかなんだが。

それは邪神の固有魔術「ドレイン」で説明が付く」


これが、邪神がビブリアを攻める最大の理由だろう。

「ドレイン」は殺した魔導士から魔力を奪う邪神共通の固有魔術だ。


「邪神は『ドレイン』によって並外れた巨大な魔力総量を得ることで、大規模魔術を使役し、強くなる。昔、邪神の治世俺達はそうやって神に近い存在になった。

だから西方連邦の邪神の目的が、世界を再び支配することなら、ビブリアで魔導士を虐殺して魔力を得ようとするのはほぼ間違いないと思う。

……で、リタは邪神の手先だった傭兵に攫われた。ならこの後、必ず邪神の元へ行くはずだ。つまり、ビブリアに向かう邪神の元。

そこにリタは居るんだと思う」

「……そのドレインって魔法。あんたで見たばっかりだから、信じられるわ。

だからビブリアが狙われるかもしれないっていうのも分かる。でもその邪神の目的が世界を支配することっていうのは、どう知ったのよ?」

「……あの邪神はそう言う女なんだ。いつも世界を一手に収める事、全ての命を首の動き一つで左右できる方法を考えてるような奴だ」

「まるで知り合いみたいな言いぐさね」

「事実、知り合いなんだよ。あの女は」

「お、女なの?」


昔々、遠い昔の知り合いだ。

それこそ神話に出てくるような遠い昔のである。


「その女、もしかして、あんたの女だった?」

「俺の?……んなわけないだろ、寧ろいつも尻に敷かれてた」

「そういう関係もあるのね……」


俺の方があいつの女みたいになってた。

いや、何言ってんだ?

要するに、俺とあいつは平等な男女関係なんかではない。

というか性的関係はない。

主従関係だったのだ。


「ま、あんたと女の関係なんて、ど、どうでもいいけど。

 あんたの予想では、リタは邪神の元に居て、邪神はビブリアに居るってことね

 リタはどうして狙われたのかしら?」

「あいつの召喚魔法の腕は知ってるだろ。何に使うかは分からないけど、利用する目的はいくらでもあるだろ。それについてはそっちのほうが詳しんじゃないのか?」

「わたしは下っ端だから、リタをどう使うかは知らないのよ」

「そうか」

「……それで、これからどうするの?

私の力は必要?」

「ゾフィの?」


それは、考えてなかった。

俺の目的は魔導士を殺して魔力を奪うことだけだった。

ゾフィを助けたのは目に入ったからだ。


「黙らないでよ。素直に言えば、親友のため……あんたのため、に一肌脱ぐのもやぶさかでないわ!」

「え、おお」


ゾフィは意を得たりと得意げな顔をしている。

うーん。

丁度いいしこの際ゾフィの力も借りるか。


「じゃ、頼む」

「じゃ?」

「頼みます」

「……分かったわ。協力する」

「おう」


俺とゾフィは握手を交わした。


「それで、相手の邪神はまだビブリアに攻撃を仕掛けてないってことで大丈夫なのよね?」

「分からない……けど攻撃を開始していたら、戦闘音がここまで聞こえるはずだ。

 ビブリアは巨大な壁があるから、あれを大規模魔法で壊す音は絶対ここまで届く」

「想像もつかないわ。あんな大きな壁が崩れるなんて」

「でも、いつ始まるか分からない。

 最後の陽動が、これだったんなら、今すぐにでも始まるかもしれない」

「急ぎましょう」

「ああ、行こう」

「ええ。あ、でもその前に血は流しなさい。私の隣を歩く男が血まみれなのは嫌よ?」

「了解」


血が付いた体を海水に浸し、適当に洗い流す。


「まだ汚いわよ!」

「そうか?」

「もう!」


ゾフィもそれを手伝ってくれた。

顔を洗い、首を洗い、腕を洗いっていると胸元や背中を流してくれる。


「……」


なんだか手つきがぬるっとしてて変に鳥肌が立つ。

エロい。

いや。

親切心でやってくれているのだ。

意識はできない。


「……」

「何よ?」

「いや、なんでも」


さっきから、なんとなくゾフィの態度に違和感を感じる。

俺への優しさを感じる。

俺が長らくご無沙汰だから意識しすぎているのだろうか?

戦った後だし、滾っているのかも。

落ち着け俺。

深呼吸、深呼吸。


しばらくそうしていると。

体から血の匂いは落ちなかったが、かなり綺麗にはなった。


「ふーっ。もういいだろ。行こう」

「え……。そ、そうね!」


他の兵士はだれが邪神の手先か分からない。

俺達の動きを悟られないよう、目立たないよう戦場を離れた。

魔力は十分。強力な助太刀も得た。

これでも正面から戦う力はないが、手段を得ることができた。


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