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第48話


さっきまで皇子とリタ、そして捕虜になった傭兵が居た場所に戻ってきた。

そこには元の通り三人が居るはずだったが。

実際居たのは、血だらけの皇子一人だった。


「皇子様!!」


慌てて駆け寄り、ヒールを施す。

少しすると、咳をして血を吐き出した皇子。

意識を取り戻したようだ。


「がはっ! ごほっ! き、貴様か……」

「皇子様、いったい何が!」

「すまん、リタ・ベンドリガーが攫われてしまった……」

「なっ!」

「あの傭兵、貴様が居なくなった途端反撃してきた。

 しかも、とんでもない強さだった」

「そんな……!」


俺は自身の失態を確信した。

やはり、あの傭兵とその後ろに居た者は、やはり俺とリタを引き離そうとしていたのだ。

俺は、まんまと引っかかってしまった。

頭を抱えて、かきむしる。


「……素直に逃げておけば!」


やっちまった。

やってしまった。

傭兵を覆うとしても、痕跡はない。

敵は召喚獣の契約に理解があるのか、何らかの妨害でリタの元に瞬間的に移動することもできない。

お手上げか。


「不甲斐ない。本当に、すまない」

「皇子ともあろう人が、やめてくださいよ」

「だが……」


皇子は頭を下げた。

深く俯き、俺に目を合わせようとしない。

責任を感じているようだ。

でも、責任は俺にある。

皇子一人にリタを任せてしまった俺に……。


「皇子様、傭兵はどっちの方向に行きましたか?」

「西の方角だ。……だが、直進するわけでもないだろう。真っ直ぐ追っても、見つからないと思うぞ」

「分かってます」


方向さえわかれば、しらみつぶしに探せるだろうか。

鬼神化した足なら、間に合うだろうか。

いや、今のエクストラヒールで魔力はもうほとんど残っていない。

無理だ。


「じゃあ、他に何か情報はないですか」

「行先に関することは、何も分からん……」


肩をすくめる皇子。

俺は、リタを本当に失ってしまった?

逃げようとして、ようやくリタも納得していたのに?

戦場からようやく離れたのに?


「本末転倒だ……」


体から力が抜ける。

どさっと背中から、大地に寝そべった。

ここまで来て、ついにリタを攫われてしまった。

俺の失態、俺の無能ゆえだ。

所詮俺の頭脳は一般人程度なのだ。

くそう。


「…………………」


……いや。

いやいや。

落ち込んでいる場合か。

俺が無能すぎたのは確かだが、何より敵が用意周到だった。

正面からじゃ俺を倒して、リタを奪えないと知っていたから、俺を切り離した。

敵ながら、あっぱれ。

だが、これからどうするか。

敵への対抗策を考えないと。


「……」

「どうしたんだ。そんな黙って」

「……これからどうするか、考えてるんです。皇子も考えてください。リタの行方とか、ヒント探してください」

「そう、だな。お前は切り替えが早いな」

「切り替えられてないですよ。やるべきことをやっているだけです」


目を瞑る。

ザアアっと木陰が揺れる音に耳を澄ます。

そう、俺はまだ動揺している。

だが取り乱してはいない。

やるべきことは、これからの行動を考える事。

集中しなければ。


目を瞑ると、周りの音がよく聞こえた。

戦場の声もよく聞こえた。

エルドリア軍は最初こそ圧倒されていたが、勢いを取り戻したようだった。

戦場に響く怒声が大きくなっている。

俺が倒した男が、もしかして指揮官だったのだろうか。


そんな中、皇子が「あ」と声を上げた。


「なんです」

「これは関係あるか分からないが」


皇子を見ると、彼もまた半ばあきらめたような表情でこちらを見ていた。

だが、彼の口から出た情報は、俺にとっては重要なものだった。


「傭兵と戦って、余は負けこそしたが、最後立ち去る相手に一矢報いて背中に傷を負わせたのだ」

「はい」

「その時、見たんだ。

 ……相手の背中に、リタ・ベンドリガーの手の甲にある紋章とそっくりな紋章が焼き付いていたのを」


紋章?

リタの?

あの紋章は邪神の……


「……まさか!」


俺ははじけ飛ぶように立ち上がった。

立ち上がって、再び戦場へと走り出した。

皇子はあっけにとられたようにその様子を見ていた。




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