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第47話

「お前血……やっばいぞ」

「え?」


どうしてここに?

幻覚?

いや、ちがう。


「おい、動けないから離して」

「ご、ごめんなさい」

「おう」


彼は両手に持つ安っぽい二本の剣で、ジャレットの剣を受け止めていた。

ジャレットは、突然の乱入者に驚き、剣を引く。


「あなたは……?」

「どうも、邪神です」

「まさか……」

「あれ、信じてくれるのか? 珍しいな」


ジャレットは大きく後退し、アズマから距離を取った。

それを見て、アズマは背中の私を振り返った。


「ゾフィ、動けるか」

「う、動ける……あ、やっぱ動けない」


腰が抜けていた。

足に力が入らない。

初めての経験だ。

情けない。

でも、足と違って激しく動くものがあった。


「じゃあちょっと待ってろ」

「わ、分かったわ」


それは言うまでも無く、私の心臓だった。

激しく鼓動し、頬が紅潮する。

謎の煮えたぎる感情は、思考をゆがめた。

死にかけているのに、「こんな泥だらけの姿、見ないで欲しい」なんて考えが出てきた。

こんな状況で何をアホなことを。

自分でもそう思った。

わたわたしていると、アズマがぽんと肩を叩いた。

顔から火が出た。


「一分であいつボコしてくるわ」


そう言い残して、アズマはジャレットに向かうのだった。



戦場の最前線で膝をつくゾフィの姿は凄惨なものだった。

あちこちを出血させ、左手はミンチ肉と化している。

顔色も死にかけなのに不自然に赤く、異常を示している。

ぎりぎり間に合った、という感じだろうか。


この女は、本当に俺達を裏切っていたのだろうか。

死にかけの少女にはスパイなんて言葉は似合わない。

だが、あの傭兵が言うにはそうなのだ。

確かめたい。


だが、今集中すべきは彼女じゃない。

ゾフィを圧倒していた男に意識を向ける。

あのゾフィを凌駕する実力を持つなら、本気で立ち向かわなければならない。

鬼神化させた体に双剣。

剣豪からモンスターまで一方的に狩ることを目的とした、厨二流派、ハーフェン流の型だ。


「途中参加で悪いけど、時間無いし、瞬殺な」

「ほう、大した自信ですね」


フルプレートの甲冑を着込む大柄な男は、丁寧かつ落ち着き払った口調で話す。


「その炎のような見た目、魔術ですね。

 どうやら、エルドリア最初の魔法騎士、もしくは本物の邪神なのでしょうか」

「邪神だ」

「そうですか、なら勝てはせずともこちらも本気で抵抗させてもらいます」

「そうか」


俺は大地を蹴った。

男に飛び掛かり、まずは柄の部分を使って頭を殴る。

ガィンッと音がして、ヘルメットが振動する。


「くっ!」


フルプレートの甲冑には剣より打撃。

打撃による振動は鉄の板にはよく響く。

俺は全速力で動き、体のあちこちを強打した。

とりわけ頭は重点的に叩く。


自分で言うのも何だが、本気のスピードには大方のヒトは反応できない。

この男は驚くべきことに攻撃を避けた。

だが、全てではない。

手数で勝負。何度も何度も叩く。

叩いて、叩いて、叩く。

男はしぶとかった。

繰り返すうちに、ほんの一瞬男がよろめいた。


「……!」

「終わりだ」


隙は逃せない。

よろめいた方向に蹴りを入れる。

バランスを崩し、長身の身が地面に伏す。

男の体に覆いかぶさる。

横たわったせいで、プレートに隙間が生まれている。

鎖帷子に覆われたうなじ。

そこに、剣を差し込んだ。


「うっ」


男はとうめき声を上げた。

ずぶり、と肉を断ち、骨の関節に達する。

嫌な感触。


「すまない……」

「あん?」


男は目から光を失う直前、何かを言いかけて、死んだ。

聞き取れず、問い直したい衝動に駆られる。

それでも死人に質問することはできない。


「……ふぅ」


立ち上がって汗をぬぐう。

周りを見渡す。

他の敵は後ずさりして距離を取っていた。

明確に俺を恐れている。

ってことは、倒した男は実力者だったのだろうか?


「ラッキーだったな」


おかげで連戦は無さそうだ。

残る敵から視線を外し、剣をしまった。


――と同時に。


「お、おい。あれって俺達の隊の……」

「リタ・ベンドリガーの取り巻きの男?」

「でも、すげえ。あいつ、あの化け物をあんな短時間で」

「すげえよ! やった! やったぞ!!」

「うおおおおおおお!」


遊撃隊のメンツが湧いた。

つられて、周りに居た他のエルドリア兵士も湧いた。

まるで戦争に勝ったかのような歓声を上げる。

勝ったわけじゃないけどな。

それでも調子に乗ってこぶしを突き上げると、歓声は一層大きくなった。

中には「誰?」「さあ」見たいな声も多かったが。


「さて、ゾフィ」

「な、なによ?」


しばらくして、ゾフィを振り返る。

彼女は何が起こったか分からない、とも言いたげな表情で俺を見つめていた。

俺はゾフィの元へと戻った。


「手、見せてみろ」

「え? ちょっと! こんなひどい手……!」

「何言ってんだ」


未だに出血する左手を優しく掴む。


「エクストラヒール」


ゾフィは目を真ん丸に剥いた。


「ち、治癒魔法……も使えるのね」

「まあね」


みるみるうちに手の切り傷が癒える。

宙ぶらりんだった指とかも完全に分離してはいなかったので、きれいに元通りだ。

切り離されてたら、傷口をふさぐくらいしかできなかったので、運がいい。


「……アズマ、どうして戻ってきたのよ

 リタは? 

 もう大丈夫なの?」

「リタは、ひとまず安全なところに居る。皇子が守りについてるから、いざとなったら逃げるくらいはできるだろ。

……戻ってきたのは、ちょっと聞き捨てならない情報を得たからだ」

「情報って、なによ」

「お前が、スパイだって聞いたんだ。

 これから一生会えないかもしれないのに、リタの親友が本当は裏切り者なのかどうか知らずに別れたくはないだろ。

 真偽だけ問いただそうと思ってな。

 それに本当なら、これからも命を狙われるリタの安全のために色々聞きたいこともある」

「……」


ゾフィが固まる。


「……ええ」


……本当なのか。

なんてこった。


「はぁ」


気持ちを切り替えるべく、ため息を大きく吐いた。

……では、彼女はリタへの襲撃にある程度関わっていたのだろう。


「今まで、人攫いを送ってきたのはお前だったのか?」

「人攫い?」

「ゴロツキの連中だよ。

 どうなんだよ」

「あれは、他のスパイがやったことよ」

「そうか。じゃあお前は何にどこまで関わってる?」

「リタの配属を変えて、遊撃隊に入れて、先頭の混乱に乗じて上陸してくるスパイにリタを渡すつもりだったの」

「どうしてそんなことを……」

「リタの、命を救うためよ……だましていて、ごめんなさい」

「命を救うために攫う? なんだそれは」


そこからゾフィは自分の行動を話した。


やはり、ゾフィは西方連邦のスパイだった。

リタを西方連邦に連れ去ろうとしていた。

連邦の目的はリタの召喚術の技術。

ゾフィの目的は、連れ去る事に失敗した場合殺されてしまうリタを助ける事。

リタが死なないようにするためというのは、そういうことだった。


ちなみに彼女は人攫い作戦には全面的に携わっていなかった。

西方連邦のスパイも一枚岩ではないらしい。

リタとその他のスパイはそれぞれ独自に動いている。


いや、待てよ?

人攫いは使ってない?


「おい、じゃあさっきの風景同化のローブを着た傭兵は何だったんだ」

「え?」

「なんだよ。とぼけるなよ」


知らないわって顔をしやがって。

もうだまされないぞ。

ここに来て何をまた嘘つこうとしてるんだか知らないが。


「だから、キャンプを出た後俺達の後を負わせただろ?」

「知らないわ。私の作戦はさっき言った通り、人攫いや傭兵は雇わない」

「じゃあ、さっきのは誰が……?」


今北方向、雑木林の方向を見ようと、首を巡らせた。


ゾフィの指示を、あの男は受けていない?

なら、だれの指示でゾフィの指示だと話した?

その目的は?


「……まて、まてまて」


今の状況を良く見直せば目的は分からんことも無い。

俺は戦場に居て、リタははるか後方。

これは、最悪の気づきだった。

――もしかして、もしかすると。

あいつの目的は、リタから俺を離す事だったのではないか?

俺はリタを拉致する上で一番の障壁だ。

それを取り除くのが目的なのでは?

俺がこう動くことを予想していた?


ふと悪い想像をして、慌てて消失し、リタの元に戻ろうとする。

だが、


「できない!?」


何かが邪魔をして、リタの元へ戻れない。

まずい。


「嵌められた!」

「アズマ? ……あっ!」

「俺は馬鹿か! もう行く」


地面を殴り、いきり立つ。

様子が変わった俺を見て戸惑うゾフィ。

だが、詳細を彼女に話している暇はない。

リタの身が危ない。


俺は「もう行く」とゾフィに言い残すと、全速力で雑木林を目指した。


間に合うだろうか。

鬼神化した体であれば、数分で到着するだろうが……。

鼓動が早くなり、冷汗が流れる。

くそっ!

くそっ!

ゾフィを攫って、すぐに戻るはずが、軽率だった。

もうあの傭兵は脅威ではないと思っていた。

だが、間違いだった。



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