第39話
2日目。
その日は朝から敵がやってきた。
その様子を今日もグレイハウンド遊撃隊は雑木林から海岸を見下ろす。
相変わらず敵は歩兵のみ。
魔導士や他の兵種の影は見えない。
だが、船の数は格段に増えていた。
60隻はあるだろう。
つまり昨日の二倍、1000人は居る。
対してエルドリアはま2000の兵力を有している。
昨日の戦いを経て、士気も高い。
負けることは無いだろうと思われた。
戦いの火ぶたは、再び敵の突撃から始まった。
3000人の兵士がぶつかる様子は中々に迫力があった。
「ゾフィ。どうした深刻そうな顔をして」
「……おかしいわ」
「何が」
「何がって、気づかない?
敵はあまりにセオリーを外した行動を取っているのよ。
普通なら大軍を一気に上陸させて決着をつけるはず。
昨日500人集めて、今日は1000人集めてきた。
これで無理なら明日は2000人集めるわけ?
非効率じゃない?」
「確かにな」
兵法に詳しくない俺だが、戦場での悪手くらいは知っている。
「兵力逐次追加」はその一つだ。
様子見様子見で兵力を少しずつ投入することの非効率さが問題だ。
極端な例を出せば、100人の相手に200人で攻めるとして、
一日50人ずつ使い、4日かけて攻めても100人の相手は倒せない。
一日あたりの兵力が劣り、全滅する上、敵に回復を許してしまうからだ。
攻めるなら、200人という圧倒的な戦力で一気に攻めなければならない。
西方連邦は昨日も今日もこちらより少ない兵士を送ってきている。
その悪手を体現したかのような戦い方なのである。
「敵の指揮官がとんでもないバカという可能性は?」
「百戦錬磨の西方連邦の指揮官がそんな事も知らないで戦っているとは思えないわ」
「じゃあ敵がこっちの強さを測ってるとか?」
「一日だけなら無いとも言えないわ。けど、それなら今日こそ大軍で攻めてきたはずよ。
二日も様子見なんてする意味ないもの」
なるほど。
それもそうか。
であれば、これも作戦の一つなのかもしれないな。
「なら……陽動とか?」
これが、現実的ではないだろうか。
負けることを前提に戦っているのならば、別に勝たなければいけない戦いがあるという事だ。
エルドリアに勝たせ、勢いづかせ、次の獲物を心待ちにさせる。
エルドリアはその戦場にくぎ付けになる。
そこで、別の目的地を攻撃。
「陽動は、私も考えたわ。
でもそれも考え難い。西方連邦の陽動作戦にはパターンがあるの」
ゾフィはそのパターンを説明した。
西方連邦は陽動をする際、必ず奴隷兵を使うらしい。
なぜ奴隷兵を使うかといえば、簡単に言えば命の軽さの問題だ。
西方連邦は兵士を大事にする国家だ。
正規兵の命は非常に重い。
味方の兵士は誰一人として犬死はさせない。
対して奴隷兵は自国民じゃない。
犬死させてもノープロブレム、というわけで陽動は必ず奴隷兵なのである。
もし奴隷が居なければ、陽動はしない。
……というのはあくまでゾフィの経験による考えではないのだが、確度の高い話であるらしい。
で、今回攻めてきているのは奴隷兵ではない。
奴隷兵は見た目で分かる。
明らかに痩せぎすで、栄養不足なのだ。
正規兵が反乱の意思を摘むために、狙って貧弱にさせられている。
某ダクソ系の奴隷兵を想像すればわかりやすい。
目の前の敵は、筋骨隆々の健康的な兵士であるのは、昨日の死体処理で分かったことだ。
であれば、これは陽動作戦ではなさそうだ。
「一体、何なのかしらね。気味が悪いわ」
「そうだな」
昨日に比べ格段に被害を出しつつも、勝利へと前進するエルドリア軍。
優勢の状況に興奮する彼らを、ゾフィは陰鬱な面持ちで見ていた。
その日、エルドリアは兵士800人を失った。
全滅した敵に比べれば被害は少ないが、二倍の勢力差を考慮すると多いともいえる。
士気は高かったが、二日連続の戦闘で疲労が蓄積していたのだろう。
処理する死体のほぼ半分は自国兵士だった。
その日はさすがに多くの前線兵士も埋葬を手伝ってくれた。
同時に、俺達への非難の目線も増えていた。
中には不満を直に口にする者も居た。
「あまり、良くない雰囲気ね」
「そうだな」
夜、ゾフィは今日の砂浜の様子をそう振り返った。
嫌な予感を感じているようだった。
予感は的中することになった。
翌朝、俺達の部隊の前線編入が決まったのだ。




