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第35話

女神像下町北部の騎士専用修練場。

そこが、ゾフィが率いるグレイハウンド遊撃隊の訓練場だ。

正規騎士74名見習い76名、全員で150名。

今日も誰もが一心不乱に己の剣を磨いていた。


「えいっ! やあぁぁ!!」

「腰が浮いているぞ! 重心を落とすことを忘れるな!」

「はいっ!」


右を見れば少年と中年騎士が実戦訓練を行っている。

左を見れば少女と高潔な女騎士が共に走り込みをしている。

彼らの額には一様に土と塩の混じる汗がとめどなく流れていた。

何のために、そこまで熱心に取り組むのか?

そう聞けば、彼らは一様に

「祖国を守るために死ぬのだ」

と何のためらいも無く豪語するだろう。

磨かれた技術と精神力。

それこそが神聖国エルドリア最強の盾であり矛である騎士歩兵のウリだ。


そして今日も、訓練は日の入りまで続く。

そんな日が明日も待っている――はずだった。


カーンカーンカーン


甲高く、短いペースで女神像下町中に鳴り響く鐘の音が突如鳴り響く。


「……おい、これって」

「まさか」


示すのは、敵の襲来。

監視が、海に敵の上陸艇を見つけたのだ。


隊員は優秀な兵士だ。

それでも、いざ敵の襲来の知らせを聞くと流石に冷や汗を流した。

なにせ、エルドリアは長らく戦争を経験してこなかった。

実戦経験者が居らず、誰もが初陣なのである。


そんな中、唯一動揺せず声を上げたのはゾフィだった。


「全員訓練中止! 戦闘用意! 兵舎に戻り半刻後に集合地点に集まりなさい!」


隊長の命令には返事をしなければいけない。

だが、その言葉に返事を返す者は居なかった。

皆恐怖に固まっていたからだ。


ついに、この時が来た。

来てしまった。

長らく戦争なんてしてなかったのに、どうして自分達の生きているときに。


そんな声が聞こえそうだった。

その様子にゾフィは煮え湯を飲まされたように憤慨した。


「いい?! 私たちの背中には私達の故郷がある! 愛する者が居るのよ!

 ここで足がすくんで動けなかったら、死ぬのは私達だけじゃないわよ!」


透き通るようであるにも関わらず、強い意志の込められた声。

ゾフィの激励に、誰もがはっとさせられる。


「そうだ、この日のために騎士としての訓練を積んできたんだ」


誰かが言った。

下っ端の見習いか、ベテランの騎士かは分からない。

だが、誰が言ったかは関係ない。

全員が同じ思いを胸にしていたからだ。

家族を、恋人を、兄弟を、友人守るため、今日まで厳しい訓練に耐えてきたのだ。


そして、ぐっとこぶしを握り締め、


「「はいっ!!」」


威勢よく返事をした。


……ちなみに、興奮していたのは俺も例外ではない。

戦闘の始まりは、ゾフィとの訓練の終わりを意味するのだ。


「アズマ」

「はい?」

「……あんたも返事しなさいよ!」


ドゴッ


「ぐえっ!」


ボロボロの体を横たえ、空を見ていた俺。

その脇腹に蹴りが入れられた。

もう理不尽にボコされることも無い。

丁度今みたいにな……。



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