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第34話

右手には刀身の無い長剣。

足は震えている。

顔は青ざめながらも、すでに生きることをあきらめた表情。


「最後に言い残すことは?」

「……」

「無いなら決着つけさせてもらうぞ」

「……待て、魔導士」


落ち着き払った声に、俺は足を止めた。

なんだ、命乞いは受け付けないぞ。


「命乞いではない」


俺の思考を読み取ったかのように、彼は付け加えた。


「じゃあなんだ」

「警告だ」

「何の警告だ」


今更警告なんて言われても、ピンとこない。


「俺達は何が何でもリタ・ベンドリガーを奪う。

 その召喚獣であるお前もだ。

 今回で大人しく引き渡されればいいものを、これで多くの血が流れることになる」

「この期に及んで脅しか?

 お前らゴロツキ程度じゃあ、俺とリタは捕まえられねえよ」

「確かに俺達じゃあ難しかったな。

 だがな、気づいているだろう?

 俺たちがただの人攫いではない事は」

「……」


それは、そうだ。

彼らは底辺の人間が行う人攫い稼業の人間ではないだろう。

なにせ金を持ちすぎている上、魔術や戦闘の技術もレベルが高い。

背後に大きな存在が控えているであろうことくらい、察している。


「じゃあ、お前らは何なんだ」

「それは……言えない。守秘義務だ」


守秘義務?

ただの雇われ傭兵なら、この場でベラベラ情報を吐いて助かろうとするはずだ。

だが、そんな義務を持ち出してくるのなら、

彼らは何らかの組織に忠誠を誓っていたりするのだろうか?

奴隷好きの変態貴族の専属騎士、もしくは何らかの機関のエージェント的な?


「何者かは言えないが、俺達にはさらに大規模に金と人を動かす力がある。

 お前ひとりの力じゃあ抵抗できないくらいのな。

 だから最後の警告だ。

 結局リタ・ベンドリガーを奪われるのなら、無駄な血を流さず渡しておくべきだ。

 今なら……そうだな、いくつか条件を設けても良い」

「条件? 奴隷に条件なんて付けられるのか?」

「奴隷になるのというのは、俺達が人攫いである建て前を通すためだ。

 今更そんな事を聞くな」

「奴隷にならないなら何になる」

「……守秘義務だ」


またか。

何が起こっているのか判然としない。


リタを奴隷にしたいのではない。

だが、身柄は欲しい。

……見当はつく。


「目的は、リタの頭か」

「……」


沈黙。

肯定と決めつけても問題はあるまい。

彼女の容姿や地位に魅せられたのでなければ、これしかないだろう。

彼女の召喚術センスは類まれだ。

どこから彼女の才能を聞いたのかは知らないが、耳に入れば利用したいと思う者が居てもおかしくない。

なるほどそういうことだったか。

ならば、連れていかれた場合一生織の中で研究を強制されたりするんだろうか。

どっちにしろ、自由の無い悲しい人生が待っている。


なので、この男の言うことに素直に従う理由はない。

それに、次の客が来れば、また返り討ちにしてやればいいのだ。


「本当にいいんだな?

 お前が彼女の召喚獣かただの護衛かは知らんが、今ここで俺を殺せばリタ・ベンドリガー

一人のために多くの血が流れる。あの女は責任感を感じるだろう。こんな重要な事をお前が独断で決めて良いのか?」

「知るか。それにこんな決断を本人にさせる方が酷だろうが」

「酷だろうとも。だが、お前が一人で決めればもっと酷な――」


男が言い終わる前に、顔面を殴り飛ばす。

血しぶきが飛び、男は絶命した。

話を続ければ、もっと情報を引き出せただろう。

尋問でも拷問でもできただろう。

だが、それは無理だった。


「……リタ」

「……アズマ」


俺の後ろにはリタとヨハナが居た。

まだ一人残っていたのに、近づくなんて危ない。

不意打ちされて襲われていたかもしれない。

……何より、話が聞こえるかもしれなかった。


「最後の一人は戦う意思が無かったのに、なんで殺したんだ……」

「前は逃がした。けど二度目はない。三度目があるかもしれないからな」

「……そうか」


リタは残念そうに十字を切った。

無残な死体に祈りを捧げる。

自分を襲った相手に慈悲深い事だ。

そんな様子を俺とヨハナは呆れた表情で見た。


「リタ、さっき話してた無いよう聞こえたりした?」

「話?」

「いや、聞こえてないならいい」


リタとヨハナが近づいてきたのに気づいて、直ぐに殺したが、念のための確認だ。

もしも聞こえていたら、きっと彼女は悩むことになっただろう。

彼女は何らかの組織にその身を狙われている。

男の話が真実なら、彼らは犠牲を厭わない。

どちら側の話かは分からないが、多くの血が流れるといった。

自分一人のために、多くの犠牲が生まれる。

お人好しの彼女の事なら、独断で動きかねない。

よかった。


「邪神さん」

「なんだ?」


ふとヨハナを見ると、ヨハナはペコリと頭を下げた。


「あの、ありがとうございます」

「おう」

「お姉ちゃんを探して一人で歩いてて、ビブリアは治安がいいからって、油断しちゃいました……」

「しょうがないさ。まだ小さいんだし」

「本当にありがとうございます」


深く深く頭を下げたまま、彼女はしばらく動かなかった。

良しと言うまで頭を上げないつもりだろうか。

と考えたところでようやく頭を上げた。

少し、居心地が悪そうだ。


「どうした」

「……その、邪神さんは本当に邪神さんなんだね」

「え?」

「今の魔法、全部見た事が無かった。ビブリアは今人間が使える全ての魔法の知識を持っているの。あたしはその情報のほとんどを知ってる。でも邪神さんが使った魔法はほとんど分からない」


ちらりとこちらを見る彼女は、若干俺を怖がっているように見えた。


「唯一分かるのは、体が燃えていた魔法。あれって、「付与エンチャント」系統の魔術だよね。

文献でしか知らないけど、付与系統魔術は失われた古代の系統だって習った。

原理が分からないから人間は使えないって。

それが使えるってことは……少なくとも邪神さんは元人間じゃない古の生物。

その中にはずっと言ってた邪神も含まれるんだよ」

「よく知ってるな」


うんうん頷くと、ヨハナは手招きをした。

しゃがめという事だろうか。

素直に従うと、ヨハナは耳打ちをしてきた。


「……それに今の人たち、只者じゃない。そんな人たちが計画して、お姉ちゃんを狙ってた。

それって、お姉ちゃんがずっと考えてた邪神の召喚に召喚したから、その頭脳が欲しがった誰かが居るってことだよね。

だからあたしは信じて良いと思った。お姉ちゃんは本当に邪神の召喚に成功したんだって。邪神さんは邪神なんだって」

「お、おう。かもな」


ほう。

先程の状況を冷静に見て、彼女なりの考察をした結果俺を邪神と信じることにしたのか。

まじで幼女とは思えない思考を持ってんな。

何歳だっけ?

10歳?

一桁間違えてない?

じつはロリババアだろ。


「お姉ちゃん」

「む?」

「お姉ちゃん、凄い事を成し遂げたんだね」

「……そ、そうなのかもしれないな!」


賢い妹が自分の実力を認めてくれたからか、リタは腰に手を当て薄めの胸を張った。

拍手する妹とふんぞり返る姉。

なんだかかわいらしい光景だ。


「だから改めるよ。お姉ちゃんと邪神さんなら本当に家族を守れるかもしれない」

「任せてくれ! ヨハナも父も兄も守って見せる」


ヨハナは少し心配そうながらも、信頼してくれたようだった。

俺も「任せとけ」と声をかけて置く。

彼女が攫われた事件はよろしくなかったが、リタを認めるきっかけになったのなら喜ばしい棚ぼただ。

これでリタは、反対意見を気にすることなく戦いに行くことができる。

父と兄から連絡が無いのは気にかかるが、反応が無いなら反対ではないのかもしれない。

今あれこれ考えなくてもいい。


「とにかく、もう夜も遅いし帰ろう。俺とリタはまた明日から訓練もあるしな」

「そ、そうだね……でもちょっとだけ待って。

あいつらが使ってた結界も見た事無かったけど、人工的な魔法陣だったから解析ができるかも」

「調べたいのか?」

「うん、少し時間くれない?」

「ええ? めんどっ。置いていくぞ?」

「じゃあそれでいいよ」


おいおい、一人でいたらまた攫われるぞ……。

喉元過ぎれば何とやらって感じだな。

もうかなり遅いし正直疲れたしはよ帰りたい。

うーん、まあ少しくらいなら待ってやってもいいんだがね。

どうしようかリタを見る。


「どんな時でも知的欲求を発揮するからこそ、妹は賢いんだ。少し、待ってやってくれないか?」

「……はぁ。分かったよ」

「ありがとう邪神さん!」


ヨハナが俺に抱き着いた。

ぼふっと懐に飛び込むと、えへへっと俺を見上げた。

あざといロリババアだ。

父性をくすぐる方法を知ってやがる。



――結局そこから2時間も待たされ、夜も更けてきたころ、ようやく俺達は帰途に就いたのだった。


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