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第30話

リタが落ち着いて、その後は少しビブリアの町を観光した。

戦いの前最後の休日だったし、俺はこの世界に戻ってから初めて町の外に出てきた訳だし。

ちょっとくらい楽しんでもいいだろう。


町を歩いていると、魔導具を販売する店舗を見つけた。

ガラス張りの店内には怪しげな道具や銅像から、美しいローブまで様々な魔導士用品が陳列されている。

リタがあからさまに視線を奪われていたので中に入る。


何を見たいのかリタに問うと、「ローブだ!」と言われた。

目つきの鋭い怪しげな店員に問うと、ローブコーナーに案内される。

そこでは、赤色の派手なローブから、鼠色の地味なローブまで様々なローブがハンガーにかけられていた。


「ローブって、こんなに派手なのもあるのな。

 この町の人地味なのばっか着てるから知らなかったわ」

「ローブは得意な攻撃魔法に合わせて選ぶんだ。

 この町は攻撃魔法に熟達した戦士ではなく、魔法の研究を主にしている魔法使いが多い。

 だから無難で汚れても替えやすい安くて地味なローブを着る者が多いのかもしれない」

「そうなのか」


じゃあ、この赤いローブは炎系統の魔法を使う人間が使うと威力アップとかか?

リタは説明を重ねた。

ローブは耐火や耐寒など防御力を上げる代物から威力を上げる代物、中には認知をされにくくなるものまでバラエティー豊かに存在しているらしい。

例えば、この赤いローブは耐火性能を持っている。


「このカラフルなローブは? 想像つかないけど」

「魔力を通すと風景に同化するローブだな」

「へえ」


便利なローブだなと思ったけど、魔力を通さない時はレインボーのローブのまま。

目立ってしょうがないし、何よりダサい。

しかも値札を見ると軽く神聖札100枚を超えていた。

神聖札はエルドリアの最高単価の紙幣だ。

一枚で日本円換算で10万円ほど。

この国のアルバイトは大体一日かけて千円程しか稼げないと考えると、いかに高いか理解できる。

こんな服が高級車みたいな値段がするとは。

要らん。


「それで、何か欲しいものでもあるのか?」

「うーん。そうだな……」


リタは黒やグレーっぽいローブを見つけては値札と睨めっこしていた。

自分用のローブだろうか。

魔術の研究が趣味だし、それ用のローブを持っておきたいのかな?


なんて思っていると、リタはチラチラと俺の方を見てくる。

その手には光沢のある黒のローブ。

背中には何やら厨二臭い紋章が縫われている。

それがお気に召したのか。

感想が欲しいのだろう。


「似合うんじゃないか? でもリタには少し大きくない?」

「……それでいいんだ。で、これはどうだ? 好きか?」

「嫌いじゃない」


厨二っぽい紋章を抜けば。

黒って無難だし嫌われるようなカラーじゃないしな。


「じゃあこれで」


そう言ってリタは店員にローブを渡す。

リタは店員に何か耳打ちすると、店員は笑って店の奥に引っ込んだ。

リタはこちらを見てはにかむ。

おや? リタの様子がおかしい。


「? 何か企んでる?」

「え?」


拍子抜けしたような顔をされる。

いや、何もないなら良いんだ。

一瞬これって俺のプレゼント?とか思ったが、財布の中身すっからかんにする半ヒモ男にプレゼントを渡すのはおかしい。

そんなはずはないよね……。


会計をして、しばらく待つと店員が再び現れた。

その手には何やら包装された袋。

リタはそれを受け取り、俺たち二人は店を出た。


空は夕暮れ時らしく、オレンジに染まっていた。


「はい」

「ん?」


出口で、リタが袋を手渡してきた。


「何これ?」

「何って、これはアズマのためのものだ」

「まじ?」


おずおず受け取る。

まじでプレゼント?

俺に?


「嬉しくなかったか?」

「……え?」

「……その。友人にプレゼントを渡す事ってあんまりなくて。

 こういうの、やり方分からないから嬉しくなかったら言ってくれ」

「いや、嬉しいよ」

「そ、そうか!」


うん、嬉しい。

素直に人にプレゼントをもらうのはうれしい。

親にすらしばらく誕生日プレゼントも貰えないのだ。

嬉しいに決まっている。

しかも貰えると思ってなかったから嬉しさ二倍だ。

サプライズのプレゼントって嬉しいもんだな。


「……ありがとう」

「どういたしまして」

「……でもなんで今?」


問うと、リタは固まった。

そう。

なぜ誕生日でも無いのにローブを俺に?

そんな疑問は彼女の顔を見たらすぐに無くなった。

申し訳なさそうな顔。

人差し指同士をツンツンするその感じ。


「謝罪のつもりか?」

「……口で謝るだけじゃ、許してはもらえないだろう?」

「なるほどな」


リタはさっきの件をまだ引きずっているらしかった。

俺はああは言ったが、心の中で起こっているのではないかと考えていたのだ。

だから、プレゼント作戦。

夫婦喧嘩の翌日の夜、妻のご機嫌取りをするため夫が花束を買うのと同じだ。

女が男にするとはな……。


「俺は怒ってないって言っただろ?」

「でも、こんな身勝手なわたしをあっさりと許してくれるとは思わない」

「そうか、なんて言えばいいんだろうな」


俺は怒ってない。

寧ろ親近感が湧いた。

別に戦争に協力してやってもいい。

それだけなんだが、リタは俺にしっくりきていないらしい。

また一から話すか?

――いや、俺の気持ちを論理的に説明しようとしても難しい。

どうせリタの疑惑は晴れないだろう。

なので、とりあえずプレゼントはありがたく受け取って再び諭すのはやめておこうと決める。


「ま、怒ってないのはその内分かると思う」

「本当に?」

「あと、怒ってる相手にプレゼント渡して機嫌を取るのはあからさますぎるからあんまりやらない方が良いぞ」

「そうなのか……」

「でも、素直に嬉しい。本当にありがとうな」


礼を言われるも、反省するようにリタは肩を縮こまらせた。

普通、こういうのは女が男に言うものだろうに。

リタはまだ幼いところがある気がする。


「開けていいか?」

「……も、もちろんだ」


中身は分かるが、一応聞く。

理由はともかくせっかくのプレゼントなのに無感動に取り出すのはよろしくない。

なので感動したように袋からローブを出す。


「おお」

「かっこいいだろう、やっぱり」


リタが腰に手を当てむふーっと鼻息を荒げる。

いざ出してみると、ちょっとかっこいいかもしれないと思った。

商品を手に取ると愛着がわくが、厨二臭いローブも何となく愛らしい。

美少女のリタのプレゼントということも愛らしさに拍車をかける。


さっそく着てみた。

サイズはぴったりで、少し光沢のあるレザー生地が全身を覆う。

フードが付いており、かぶるとかなり深い事が分かった。

どこぞのゲームのアサシンが着ていそうなフード付きのアウターをローブにした感じ。


「おお、やはり男が着るローブは格好がいいな」


リタは普段よりも何割増しかで俺が格好良く見えるのか、少し頬を紅潮させていた。

素材の良い俺の事だ。

数割り増しでイケメンなら、この町の全女子が股を開いてしまうだろう。

罪深い男である。


「馬子にも衣裳だな」

「おいこら、使い方間違ってんだろうが」

「そうか?」


肩を動かしたり体を回したりし、しばらく体との相性を見る。

悪くない。


「これ、もう今から着てていいか?」

「気に入ってくれたようで良かった! 

なにより、その灰色のつなぎみたいな服はやめた方が良い」

「そうだな」


つなぎみたいな、とはユニク○のグレーのトレーナーである。

穴が開いてるし、だらしない。

こんな格好の男が美少女と元の世界で歩いてたら誘拐犯にしか見えないだろう。

これからはこのローブで隠した方が良いのは間違いない。


じゃあローブもしまうこともないし、折角だが包装用紙と袋はもう不要だな。

そう思って袋をたたもうとすると、まだ中に何か入っていることに気づく。


「なんだこれ?」


何かを取り出す。

それは一枚の紙だった。

何かが書いてある。

チラシかと思ったが違う。


「……おいこれ」


読み、血の気が引いていく。


羊皮紙にインクの短文で明確なメッセージが書かれている。

簡潔な文章だ。


『妹の命が惜しければ、今日の日没までにビブリアの門外、街道をまっすぐ歩け。抵抗すれば妹の命はない』


この紙が入れられたのは、先程の魔道用品店だ。

店内を振り返る。

店の中には誰も居なかった。

先程の店員も姿が見当たらない。


「まてよ」


先程の店員のあの目つき、どこかで見た。

……そうだ。

あの盗賊だ。


少し前にリタの誘拐を目論んだ人攫い。

そのリーダーの男はあんな顔をしていた。

あいつだ。

あいつらが、復讐のために仕掛けてきたんだ。

リタの妹を攫ったのだ。


「ど、どうしたんだ」


一瞬で雰囲気を変えた俺の様子に戸惑うリタ。

手短に事情を話し、メッセージを見せる。


「そうか……」


愕然として、リタは後ずさった。


「わたしのせいだ」

「は?」

「わたしが恨みを買ってしまったから、妹に危険が」


額を手で押さえ、リタは呼吸を荒げた。

何を言っているんだ。

まるで自分が悪いみたいな言い方をするじゃないか。

悪いのはやつらだ。

100%やつらが悪い。

それに、


「今自分を責めても意味がない。

 リタ、直ぐに動くぞ」

「……あ、ああ」


さっきの店員が居たこの店も怪しい。

近くに居ると危険かもしれない。

俺はリタの手を取り、ひとまず人通りがまだある大通りに向かった。


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[一言] リタ凄くいいキャラしてる、好きだ
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