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第28話

リタが逃亡し、俺とヨハナは取り残された。


「……」

「……」


お互い、見つめあう。

どうしよう……と困惑するヨハナの目が語る。

……ふむ。


「俺が追いかけるわ」

「……お願いします」

「おう。ちなみにリタがああ言ったのに心当たりが?」

「それは……あたし達の家が関係してると思う」


リタの家?

彼女の家は地方の貴族だとは知っているが。

何か事情があるのだろうか?


「詳しく聞いたらダメか?」

「お姉ちゃんの気持ちの問題だから、あたしから適当な事は言えない」


首を横に振られる。

リタから、直接引き出せという事だろう。

確かに、リタの気持ちを勝手に推理するよりも、聞いた方が確かだろう。

それに、自分の気持ちを勝手に話されるものほど嫌なことはない。


「分かった。じゃあ行くわ」

「うん。外まで送るね。多分お姉ちゃんも外に出てるから」

「頼む」



ヨハナには本研究所の正門外まで送ってもらった。

そこで挨拶だけして、俺達は別れた。


さて、リタはどこに居るだろう。

離れてから15分くらいしか経過していない。

まだ遠くには行ってないはずだ。

だがヒントが全くない上に、未知の町である。

これは骨が折れるな。

……とか考えたが、すぐに思い出す。

俺、あいつのいる場所にワープできるんだった。


俺は消失し、久しぶりにリタの右腕に戻った。

続けて、再び姿を現す。


「よっ!」

「ぎょえええええ!」


いきなり俺が目の前に現れ、リタは文字通りひっくり返った。

パンツが丸見えになる。

珍しくスカートなんて履いたのがあだとなってしまったな。眼福だ。


「俺が召喚獣であることをお忘れかな?」

「……。逃げた意味がないだろ」

「俺からは逃れられないってことだ」

「そうだったな。忘れてた」


リタは小川にかかる橋の上に居た。

欄干にもたれ、川を眺めていたようだ。

黄昏ながら、一人でこれからどうしよう……とか考えていたのだろうか。


「……」


リタを見つめる。

心底気まずそうだ。

目線は泳ぎ、両手はスカートをぎゅっと握りしめている。

今にも立ち去りたいといった感じ。

俺がどこいっても目の前に現れるなんてことができなければ、

また逃げ出していたかもしれない。

少しでも早く息を突かせてあげよう。

ここは男の甲斐性の見せどころだ。


「さっきはびっくりしたぞ」

「だろうな……」

「でも、何も怒ったり悲しんだりはしてねえよ」

「ほ、本当か?」

「ああ」


俺は欄干にもたれ、リタから視線を外して川を眺めた。

川は穏やかで、静かに水が流れている。

水流音が耳に心地よい。


「怒ってない。

ちゃんと話してくれるんだろうな?」

「そ、そうだな……」

「じゃあ、ほら。聞くからさ」

「……でも」


そう呟くように言い、リタは黙り込む。

何を恐れているのだろうか。

躊躇しているようだった。

話したいのに、話したら大事なことを失ってしまう。

そんな恐怖を感じているのだろう。


当然だ。

彼女は俺を戦争に参加させた。

参加するか否か、最終的な判断は俺の意思で行ったのは間違いない。

だが、判断にはリタの人柄が少なくない影響を与えていた。

家族を残して逃げたくはないという正義感。

家族のために戦いたいが、俺の意思を尊重してくれた優しさ。

そんな性格が俺の心に染みた。


しかし、これまでの彼女の印象と先程の彼女の言動には矛盾がある。

「落ちこぼれ」と言われたくない。

つまり、自分の名誉を回復したい。

自分のために戦いたい。

自分のために、俺の力を使いたい――という意識。

今までのリタはそんな考えを口にすることは無かった。

俺に隠していたのだ。

隠して、嘘半分の理由を俺に伝えていたことになる。


「リタ」

「……なんだ」

「そんなに恐れんなよ。どんな話でも、俺は約束は破らないぞ」

「……」


正面からリタの目を見る。

リタは少し疑惑を抱いていたようだ。

もし話してしまえば、俺は戦いを手伝ってくれなくなるのではないか。

怒るのではないか。

だが、珍しく真摯に目を合わせて逸らさない俺を見て、信用する気になってくれたようだ。


「分かった」


意を決したように、リタは話し出した。



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