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第25話

その後、皇子は無事部隊へ戻り、訓練を再開した。

俺やリタとも和解した。

皇子が謝罪をしてきたのを、許した形だ。

リタはあれ程侮辱されたにもかかわらず、皇子を許した。侮辱など、慣れているらしい。

涙ぐましい事だ。なんて良い子なの。


リタに許された皇子は「ありがとう」と本心からほっとしていた。


一応念のため、何人かから計画通り、皇子に「気にしてないよ」と言われたようだったが、「何のことだ?」と本人が一番気にしていないようだった。

やはり彼が気にしていたのは、リタの目だけだったようだ。


それから数日が経過した。

この数日、ハプニングはなかった。

とはいえ、戦争は近い。

町は防衛用の堀や櫓が増え、一層物々しい様子を加速させていた。

敵にも動きがあるらしい。

次の一週間のどこかで、敵も動く可能性がある。


今日は恐らく最後の休日だった。

最後の休日に何をしようというところで、俺達はリタの妹に会いに行くことにした。

本格的な戦いの前に、一度話して状況を伝えておきたいそうだ。

俺が付いて行くのは、安全対策だ。

男を連れてるだけで、人攫いに会う確率は減るだろうとのことだ。


リタはすでに、俺を使って戦争に参加する旨を家族全員に伝えている。

どういう反応をされたのかを問うと、

「父や兄は忙しいのか返信が無い。対して妹は猛烈に反対した」

ということらしい。

なので、口頭で俺の強さと、戦いに身を投じる意思を説明し、説得したいのだという。


その日、俺達は、昼過ぎから出発した。

目的地は魔導士養成機関ビブリア。

女神像下町の西にある国立の魔法研究施設だ。

町からは大体10キロという距離で、片道でも遠い。

行くには行商の馬車に乗せてもらう必要があった。

一日に数本しかない馬車に乗るため、俺達はこの時間帯を選んだ。


「ドナドナドーナードーナー」

「それは何の曲だ?」


行きの馬車に乗車中、歌を歌っているとリタが興味を示した。

この国は声をのせて歌う歌に乏しい。

珍しいのだ。


「馬車に乗せられて出荷される家畜の歌。国民全員覚えてる有名な曲だ」

「そうか、家畜を出荷するときに歌うのか?」

「それは知らないけど自分が運ばれてるときに歌う奴はいる」

「なんでだ?」

「知らない」


通勤中の社畜(父)に聞いてみ?


他愛のない会話をしながら、馬車の後部から風景を眺める。

遠くまで広がる麦畑は黄金に染まり、街路樹は黄色く色づいている。

麦の芳醇な香りが、鼻をくすぐる。

牧歌的な秋の風景だ。

戦争のせの字も感じない。

このままリタがやっぱ実家帰るわとか言い出さないかなあ。

なんて思ってリタをチラ見。

今日のリタは、この世界の一般女性が良く着る簡易的なドレス姿だ。

水色のスカートを履いており、酒場の娘みたいな上着を着ている。

騎士見習いには珍しい格好だ。

俺には珍しく「似合ってるじゃん」とか言ってみると、めっちゃ照れられた。

かわいー。


「ん、あれ? 山登ってる?」


気づくと、馬車は勾配のある道を進んでいた。


「いや、山というより丘の上にある」

「そうなのか」


馬車の前方に寄り、前を見ると目的地が見えた。

高い丘の一番上に、ホグワー○みたいな建造物が見えた。

この距離であの大きさに見えるなら、相当でかい。

US○みたく、近くで見たら意外と小さい……とかは無さそうだ。


そこから30分程で、大きな門をくぐった。

ビブリア内部に通じる入り口はこの門だけらしい。


門を通る際、後方に海が見えた。

ケンジャン海峡だ。

この場所も女神像下町と同じく、海に近い。


「こっちは攻められたりしないのか?」

「うん。確かにこの場所も海に近いから、西方連邦がエルドリアを最初に攻めるなら、ここか女神像下町だ。

だが、難攻不落のこの施設は後回しにされるはず。

戦場になるのは、まずわたし達の町だろう」

「なるほど」


高い丘の頂上に建築され、しかも入り口が一つ。

大軍で一挙に内部になだれ込むのは困難だ。

確かに、中々攻めにくい施設だろう。

やはり最初に敵を迎えるのは、女神像下町とその前のダーボンの砂浜か。


門をくぐると、その先には町が広がっていた。

ビブリアの町と言うらしい。

石造りの北欧風建築の住宅が多い街並みだ。

町は巨大な防壁に囲まれていて、中央に向かうにつれ、さらに標高が上がっている。

その中央には、尖塔がそびえ立つ、ひときわ大きな建物群がある。

あれが麓から見えていた建物だろう。

こっちはビブリア本研究所と言うらしい。

その重厚な見た目に反し、近くで見ると築年数の浅さが分かった。

暗い色の外壁には、まだ染みがほとんどない。


「でかい建物だな。建てるのに、どれだけ金かけたんだろうな」

「魔導士養成機関は、エルドリアが魔術開発の遅れを取り戻すために巨万の富を費やしたんだ。防御施設も完璧だ。

 もっとも、魔導士の数自体は不釣り合いだが」

「本当だ。あんまり人はいないな」

「魔導士は人気がないからな」

「へえ」


魔導士人気ないのか。

やっぱり文科系のイメージでもあるのかな?

だからリタも変な目で見られるのかも。


「魔術かっこいいと思うけどな。便利だし」

「わたしも同感だ。だが、人類の敵である魔族の技術だったから、悪しき技術だと思っている人間も未だ多いんだ」

「そうなのか?」


そんな人間の歴史が、ねえ。


「詳しいな」

「一応魔導士になりたいと思っていた時期もあったからな」


ちらっとリタの顔を窺うと、ちょっとだけ寂しそうな表情を浮かべていた。

やっぱり未練はあるのね。

リタは賢い。

召喚術の腕を見ればわかる。

ちゃんと召喚術以外も勉強しとけば試験もクリアできたろうに……。


馬車は町の中ほどまで進むと停車した。

大通りの交差点で、暗い色の住宅が軒を連ねていた。

その中の一つが馬屋になっていた。

ここが目的地だったそうで、これにて馬車の旅はおしまいとなった。


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