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第21話


試合から少し時間が経った。


皇子様をボッコボコにした俺。

そんな俺を周りの騎士や見習いは万雷の拍手、盛大なファンファーレで出迎える。

……はずもなかった。


皇子様を一方的に嬲り、怪しげな魔術まで行使し、明らかにオーバーキルしかけたのだ。

当たり前のように拘束された。


縄で俺を縛った彼らは、明らかな恐怖の目を俺に向けていた。

誰一人として剣を鞘には戻さない。

少しでも目を離せば、何をするか分からない。


結局、俺が解放されたのはリタとゾフィのおかげだった。

今すぐ得体のしれない魔物を殺そう、といきり立つ騎士をゾフィが宥めた。

その後、俺がありとあらゆるリタの命令を聞くことを実演した。

具体的には、三回回ってお手からワンをさせられた。

俺は犬か。


しかしそれを見た騎士は、肩の荷が下りたようだ。

こんな屈辱的なことすらさせられるであれば、この男危険と言えど制御はできる、と思ったのだ。

それに加えて、もし本当に味方であれば、強力な戦士になる。

遊撃隊の生存率も上がるだろうことも認識したようだ。

全員で結論を出し、ひとまず様子を見るとみんなで決めてくれた。

良かった。

もっとも警戒心は誰も解いてくれそうになかったが。


その後、俺はゾフィに死ぬほど怒られた。

なんであそこまでやったのか、と。

もし彼が隊を抜けたらどうするのか、と。

戦闘中の会話は彼女は聞いていなかったようだ。

皇子は聞こえないように気を付けていたようだし、仕方がない。


出来事をリタとゾフィに話す。

彼女らは話を聞くと態度を一変させた。


「まさか、わたしの父親を人質のように扱うとは……」

「……クズね」


ゾフィは皇子の情報を持っていたが、

ここまでの手段を選ばない人格だとは知らなかった。


だが考えれば予想はついた。

彼は武功を上げ、名誉を得るためにわざわざ戦地にやってきている。

なのに衆目ある場所で敗北し、名誉を失うことを許せないのは当然だろう。

これを予想していなかったゾフィは「本当に、至らなかったわ」と俺に頭を下げた。

俺も予想できなかったので許した。


「とはいえ、皇子の心を折る作戦は少し短絡的だぞ。あれだけの観客が居たんだ。

言われたことを詳らかに話せば何とかなったかもしれない。

皇子も冷静さに欠けていたな。

公衆の面前で相手を脅すなんて痴態をさらせば、名誉どころではない」


リタは、皇子をボコる事の代替案を考えてくれた。


周りの奴らにチクれば、「皇子様脅しは無いわぁ~」と皇子の負け、までは行かずとも試合の中止くらいには持ち込めたかもしれないということか。

確かにな。

周りの奴らにチクれば、皇子はそれを否定しただろう。

それで終わればそれで良し。

その後本当に彼が復讐しようとしても、

俺の話を聞いた周りの人間は、これは彼の報復だと認識するだろう。

そうなると、「彼は本当に俺を脅していたのだ。情けない」と思うだろう。彼の評判は傷つく。

戦いを終えた皇子も冷静になるはず。本当に復讐するとは考え難い。


リタの言う通り、あそこで試合を互角で終わらせておくのが、一番平和だったかもしれない。

確かに、俺も冷静じゃなかったな。

このままだと、あいつが隊を抜けるかもしれないし。


……だが俺は自分の選択を責めはしない。

なぜならすっきりしたからだ。

いたいけな少女を傷つけた男をぶっ飛ばすのは、気持ちよかった。

俺は開き直ることに決めた。


「さっきよりもいい手があったかもしれないのは確かだな」

「ああ、そうだな」

「でも、お前を馬鹿にしてたやつをぶっ飛ばして、スッキリしたからオッケーだ」

「……わたしを?」

「友達が馬鹿にされたら、やりかえすもんだろ?」

「と、友達か……」


そんな言葉を聞き、少し顔を赤くするリタ。

そんな顔されるとこっちまで照れるだろ。

何気なく言っただけだ。


「アズマ」

「何だよ」

「ありがとう」

「おうよ」


優しく微笑むリタは、やはり美少女だった。



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