第1話
「酒が、無い……!」
ゴミだらけのニート部屋。
その端にあるストゼロの箱。
中には一本のストゼロ。
俺はアル中である。
これでは半日と持たない。
いつもなら、ゴネれば同じく酒好きの父親が買ってくれる。
しかし先日無理矢理健康診断を受けさせられて、
両親は俺に断酒を言い渡した。
この箱は、その直後守り抜いたひと箱だ。
「ふむ……」
一つ心当たりがあった。
一週間前の誕生日。プレゼント、まだもらってないよな。
これを使わない手はない。
階下に降り、リビングの母親に泣きついて事情を話す。
「はあ、あんた21歳なのね」
「あれ?息子の誕生日なのに反応薄くない?」
「成人したニートの誕生日を祝うほど暖かい家族ではないの」
諦念と軽蔑の混じった冷たい視線が向けられる。
べ、別に何かを期待していたわけじゃないし、いいんだけどね。
いい年して誕生日プレゼントをせがむなんてみっともないし。
「何にせよプレゼント頂戴よぅ! 酒でもいいから頂戴よぅ」
「……ほんと好きね。お酒は禁止っていったでしょ!」
「す、ストゼロはただの酒じゃないやい!」
ストゼロは心の栄養ドリンクだ。
「そうね、お酒の中でもタチの悪いお酒ね」
「コスパは良いんだよう!」
「そんなに体を壊したいなら無理に止めはしないわよ? でもわざわざ買ってあげる筋合いはないでしょう? そんなにお酒が飲みたいなら働きなさい」
「…………」
見事に論破された。
しぶしぶと部屋へ帰った。
残りの2本をデスクに置いて腕を組む。
浴びるほど飲んでいたストゼロ。
これが最後の2本かと思うと名残惜しい。
「こうなれば残りは少しずつ……」
逡巡し、首を横に振る。
いや、女々しいことはしまい。
男ならば後腐れないようけじめをつけるべきだ。
カポシュッツ!
「21歳、おめでとう俺」
ま、正確には500と21歳だけどな。
名残惜しい。しかし躊躇なく、2本とも一気に流し込んだ。
「こりゃ最高だな……げぇ~っぷ」
「汚い!」という母の声がリビングから聞こえる。
失敬失敬。
パソコンのスリープを解除する。
今日もまた、ゴミだらけの部屋で、働きもせず、
パソコンに向かうだけの一日が始まった。
はあ、我ながら虚しい誕生日だ。
しかしこんなクズ生活でもあの頃に比べればまし。
誰もが俺を恐れ、畏怖した最高の日常が、
一瞬で崩壊したあの頃に比べれば、
思えば成人する前からアル中になったのは、あの記憶を薄めたいからだった。
究極の逃避であることは分かっているが。
酒に頼るか、自殺か。
あの時はその二択だけだった。
人は追い詰められると死ぬことが救いだと感じるらしいが、あれはほんとだ。
俺、人じゃないけど。
なんて思いながらブラウザを開く。
「お?」
そこで異変は起きた。
最初に目の前が暗転した。
突然夜になった、それ以上の暗さ。
真っ暗に視界が塗りつぶされた。
次いで、音が消えた。
パソコンの冷却ファン、母親の好きな一階テレビの音。
すべて消えた。
完全な無音。
最後に、俺の意識が遠のくのが分かった。
肝硬変になり、ドクターストップを食らった俺に、急性アル中という言葉がよぎる。
「やべえ、もしかしてほんとに酒飲んだらだめだったか?」
イッキ飲みを後悔した。
……いや、後悔はない。
三度の飯より酒好きなのだ。
自業自得だ。
でも死にたくない。
誰か、救急車……呼んで……
そう声を発することもできず、俺の意識は途絶えた。




