第16話
宣戦を布告された皇子は、はじめ何を言われたか分からなかったようだ。
そこから少しの思考の間をおいて、侮辱であるとばかりに激昂した。
「……は、ははは! 俺様に勝てると?!
面白い、単調な訓練ばかりではつまらないからな。
本番さながらの真剣勝負で受けて立とうじゃないか!」
彼は顔を赤くし剣を抜いた。
剣先はしっかりと俺に向けられており、吊り上がった目も俺を捉えている。
真剣で?!
俺も殴りあい蹴りあいならやってやるぜと思いかけた。
だが仲間同士で生身の剣はちょっとやばくないか?
こんなんでも皇子様だろ?
「ア、アズマ。この流れはまずい。私はいいから。断ってくれ」
「ど、どうすっか」
皇子の怒声を聞いて、周囲の人間がなんだなんだと近づいてくる。
まずい。
断れるような雰囲気じゃなくなってきた。
仮に全員が見ている前で戦いを放棄したとしよう。
すると、ただでさえ下に見られがちなリタの立場はさらに悪化するだろう。
無能に見えて実力はあるかもしれない奴から、
無能なのに、ゾフィに頼んで無理に入隊した腰巾着になる。
でもせめて、真剣はなあ……。
「もし真剣でなく木剣であれば良いですよ!」
「何? もしや敗北し死ぬことを恐れているのか!」
「あぁ? ……俺が皇子様を殺しちゃわないようにするためですよ?」
「な、何ぃ……!」
「あ、やべ」
失言しちゃった。
皇子は俺の言葉もあるまじき侮辱だと捉えたのだろう。
ギリギリィっと歯ぎしりが聞こえるかのようだ。
そんな彼に、先程俺の実力を見定めようとしたインゴットが近づいた。
「皇子様、いくら無礼とはいえ未来の仲間。真剣を使えば戦力が減ります」
「インゴット……!」
「それに、彼が皇子様を恐れているのは見ればわかるでしょう。
無礼ではありますが、戦士とはそういうもの。
ここはひとつ、情けをかけるのも度量の大きい王というものでしょう」
「俺様に王を説くか!」
「あくまで愚かな配下の一意見だとお捉えください」
「……」
インゴットの冷静な言葉に、しばし黙考する皇子。
おお、あの配下、中々冷静じゃないか。
少なくともうろたえる他の配下より状況が見えている。
「……いいだろう。部隊は違えるといえど同じ国の兵。木剣で相手をしてやろう」
「わ、分かりました。お願いします」
「30分時間をやろう。準備するがいい」
こうして俺は皇子様との試合に臨むことになった。
インゴットとやら勇気ある護衛のおかげだ。




