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第15話

翌日、俺とリタは昨日と同じ修練場に呼ばれた。

修練場にたどり着くと、隊の他のメンバーも同じように集まっていた。

彼らは昨日組んだバディで訓練を行っている。

走りこむ者。

技を伝授する者。

実戦形式で試合をする者。

過ごし方はそれぞれだ。


「遅いわよ!」


俺たちを迎えたのはゾフィだ。

既に練習着を着こみ、木剣を手にする彼女は少し苛立っている。

俺たちの到着が他のメンバーに比べ遅れたからだ。


「すまないゾフィ。アズマが皮鎧のつけ方を知らなくて、手間取ってしまった」

「着たことなかったからな。ごめん」

「理由は何でもいいわ。ほら、さっさと始めるわよ。戦いは近いわ」


ゾフィは踵を返すと、修練場の一角へと向かった。

俺たちもそれに追随する。


「……おや?」


グラウンドを突っ切っていると、やけに視線を感じた。

目線はリタに集中している。


「おい、リタ。なんでこんなに見られてるんだ?」

「……わたしがここに居る事を不思議がっているんだろう」

「なるほどな、確かこの隊はエリートが選抜されてるんだもんな。

 万年成績不良のお前がいたらそりゃあ気になるわな」

「はっきりと言うな」

「いや、気持ちは分かるぞ」

「ええ? 本当か?」


俺はとある話を紹介した。


あれは俺が高校三年の時。

俺の定期テスト順位は常に底辺。

これと言ってスポーツもできない。

グラスメイトからもジコチューと嫌われがちな、典型的な落ちこぼれだった。


「高校ってなんだ?」

「騎士の訓練所みたいなとこだ」


ある日体育の時間、ソフトボール大会のメンバー決めが行われた。

するとクラスの人気者、野球部の男が「俺の球を打てた奴はメンバー入りな」

とか言った。

彼のボールは誰も打てなかった。

しかし、何となく態度にイラついて、俺はそのボールをかっ飛ばした。

その時の「え? なんでこいつが?」みたいな目線が痛いのなんの。

一週間は後悔した。


「よく分からんが、アズマも落ちこぼれだったようで、なんか安心した」

「お前みたいに天才的な魔術の才能とかは無かったけどな」

「て、天才!?」


俺には魔術の叡智はあったものの、そもそも日本では魔術が使えなかったし。

ただの凡人。

それも落ちこぼれ寄りの人間として人生を歩んでいた。

まあそれでも、最近までは元の世界の家族が恋しかったりした。


「ん?」


――そう故郷への郷愁にかられていると、一人の男が近づいてきた。


小太り。金髪。

練習着とは思えない身綺麗な服装。

あ、こいつ昨日の集まりで貧乏ゆすりしてたやつだわ。


「おい、お前。リタ・ベンドリンガーだろ」

男は高慢ともいえる態度で話しかけた。


「え、は、はい」

「俺様は神聖国第八皇子、ゴモラ・ルブレヒト・エルドリアである

 訓練所では一つ上の学年に所属している」

「あ、どうも」


ペコリとリタがお辞儀する。


彼は怪獣みたいな名前の自称皇子は三人の取り巻きを連れていた。

取り巻き2人は男で、屈強だ。

残る1人は女だった。

護衛だろうか。

その内二人は俺たちを明らかに見下した目で見ていた。

残る一人はなぜか申し訳なさそうだ。


「本物の皇子様?」


ゾフィに耳打ちすると、「そうだ」と答えた。


ほう。

それで、皇子様が何の用だ?

俺なりに考えてみる。

一緒に練習しよ~、とかかな。

リタは結構かわいいし。

合同練習を申し込む奴が居てもおかしくない……。


なんて思っていたら、皇子は「ちっ」と舌打ちした。

明らかに平和的な態度ではなかった。

あれ?


「貴様の話は聞いている。稀代の落ちこぼれの変人だとな」

「えっ」


そんな様子で何を言い出すかと思ったら、

出会って五秒で馬鹿にしてきた。


「騎士のくせに魔術にかまけるあまり、剣術や座学の成績は常に最下位。

 戦場では一番に死にそうだ。

 そんな女が、なぜこの部隊に居る?」

「そ、それは……」


リタは何を言うべきか迷い、どもる。

そして、口を開きかけて、遮られた。


「いや、言わなくてもよいぞ。ゾフィ・グレイヒムとリタ・ベンドリンガーは懇意だと聞く、恐らく無茶を言ったのだろう」

「……」

「大方、武功を上げようと目論んでいるのだろう。

しかしだな、リタ・ベンドリンガー。この部隊がいくら敵を屠ろうとも、勝利しようとも、貴様の無能さは知れている。

だれもが、貴様以外の者の手柄だと思うだろうよ」


「ハッ」とつまらなさそうに、かつ厭味ったらしく息を吐く皇子。

前半の推理を当てられヒヤッとしたが、後半の推理は外れだ。

リタの目的は外聞とか名誉とかじゃないからな。


「……お、恐れながら皇子様、わたしは武功など求めていない。ただ、家族の為に、あと国の為に少しでも役に立てればと思っただけだ……です」

「ほう? 貴様のような無能が役に立てると?」

「確かに私自身は弱くはありますが、そう、努めます」

「冗談だろう?」

「崇高な建て前だ。聞いてあきれるわ。はははは!」


皇子が笑うと、取り巻きも笑った。

その光景はまるでいじめだ。


……なんだこいつ?

挑発?

やる気か?


……いや待て、我慢だアズマ。

こんな事で皇子と喧嘩はいかん。と逸る気持ちを抑える。


「貴様の入隊はグレイハウンド遊撃隊の恥だ。

 他の者に迷惑をかけたくなければ、今すぐ辞退するが良い。

 なんなら、俺様が後方部隊に入れるよう口を聞いてやってもいい。

 もっとも、落ちこぼれは間違いなく前線から遠ざけられるだろうがな!」

「……」


――だが、醜くゆがんだ笑みは見るに耐えない。

皇子は偉いが今は同じ兵士。ぶん殴っちまえとも思うが、リタは言い返すことなく黙り込んでしまう。

自分に実力が無いから、虚勢を張り言い返すことを許せないのだろう。


「……大丈夫か、リタ」


耐えきれず、リタの肩に手をのせた。

それを見た皇子が突っかかる。


「おい! 貴様はこいつのバディか?」

「いえ?」

「では何だ?」

「邪神です」

「ふざけているのか?

……何にせよ、残念だがこの女には関わらない方が良い!

 落ちこぼれに剣を教授すれば、落ちこぼれがうつる。己の剣の腕も落ちよう!」

「……はあ?」


何だその言い方。

人を病原菌みたいに!


リタがこんなんだし、いっちょ俺がボコしてやろうか?

いや、むしろそうした方がいいまである。

あいつの長く伸びきった鼻をへし折り、

俺がリタの召喚獣であることを宣言すれば皇子も二度と逆らうことはあるまい。

俺の勝利は、主人であるリタの勝利なのだから。


言ってやろう、表に出やがれと。

よーし、言うぞ。

俺は平和主義者だが、やってやるぞー。


「少しよろしいですか?」


……と、腕まくりをしていた俺の前に出たのはゾフィだった。

すました顔をしていたが、目には明らかに燃えるものがあった。


皇子は少々身を仰け反らせたが、直ぐに調子を戻した。


「ゾフィ・グレイヒム。俺様の話は間違いではなかろう。個人的な交友関係で部隊の編成に私情を挟む事は果たして、騎士にとって正しきことか?」

「皇子様、お言葉ですが彼女は無能ではありません」

「なに?」

「確かに彼女自身は剣の腕も無く、戦の知識もありません。しかし魔術、こと魔術に関しては随一の才能を持っています」


そう言って、彼女は俺を指さした。


「この男は彼女によって召喚された魔道剣士の亡霊でございます。皇子様ほどの学があれば、リタの手の甲の刻印を見れば、本当に召喚獣であるのかどうかが分かるはず」

「ほう、召喚術か……確かに刻印は教書で見た召喚術者の特有のそれか?」


興味深そうに、皇子は俺を眺めた。

上から下まで、嘗め回すように。

ちょいブ男の皇子にじろじろ見られると、居心地が悪い。

皇子は数秒程俺を見ると、「ハッ」と笑い飛ばした。


「おい、インゴット。この男をどう見る」


インゴットはしもべの一人らしい。

前に半歩出た彼は、しもべの中で、唯一常に苦笑いをしていた男である。


「はっ。少なくとも剣の腕は高いようには見えないかと。体も作られておりませんし、ただ、魔術を使うとなると――」

「そうであろう! やはり強いようには見えぬよなあ!

 魔道を扱うとは言えど、姑息な魔術など取るに足らんわ。

剣が使えぬのなら、主人と同じく弱いのだろう!」


インゴットの発言を途中で遮り、皇子は高笑いする。

彼ちょっとフォローしようとしてなかった?


それにさらに苛立ってしまったのはゾフィだった。

肩がわなわな震えている。


「この男が……」


必死におのれを抑えているようだった。

そして俺を指さし、言い放つ。


「この男が皇子様に勝てば、それはリタの実力が認められたということで、よろしいですか?

使役する召喚獣の実力こそ召喚術者の実力ですからね」

「は?」


俺が、皇子を倒す?

え? 

まじでやるの?


ゾフィの目をのぞき込めば、その本気度が伺えた。


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