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第12話

修練場へとやってきた。

空いているスペースを探す。

丁度使われていない場所があったので、そこで決闘を行うことにした。

それまで俺とゾフィは一切の言葉を交わさなかった。

空気は張り詰め、久しぶりに緊張した。

互いに10メートルほど離れて立つ。


「致命傷の一本を先に取った方が勝ちよ。

……剣術を習ったことはあるの?」

「かじった程度だ」

「じゃあ魔術を使うの?」

「いや、使わない」

「ねえ、それって舐めてるの? 

私、これでも騎士団最強の剣士よ?」

「魔術と剣なら、魔術の方が得意だ。そこで不得手な剣で勝てば、何も言えないだろ?」

「そう。舐めてるわね……殺すわ」

「舐めてはいない」

「来なさい」


ゾフィが剣を構える。

途端、肌が軋むような殺気が、放たれる。

何という迫力。

騎士団最強と自分で言っていたが、そうなのかもしれない。

今まで相手してきた人間の中で、トップレベルに鋭い殺気だ。


「ああ、行くぞ」


俺も剣を構える。

下段に剣を構えるゾフィに対し、俺は片手に剣を持ち構える。

バックラーも無いのに片手。

無茶苦茶な構えに見えたらしい、彼女は眉をひそめた。


「冗談でしょ?」

「これが邪神流だ」


ハーフェン我流。

この世界ではそう呼ばれている。

古くから伝わる剣術流派だ。

発祥は諸説あるが、ハーフェンという邪神の我流であるというのが本当だ。

有り余る膂力で強制的に二本の短刀を駆使し、暴風のような手数で相手を圧倒する流派だ。

今は一本しか剣が無いので、片手剣の状態だが。

ちなみに、そのあまりに無茶な戦闘スタイルから、ハーフェン我流は中二界隈から人気があるだとか。

そういやそんな感じの本、リタ持ってたしな。


とはいえやはり、かじった程度だ。

俺には剣の才能はあまりなかった。


だからたった。

たった「50年しか」習ってない。


お互いが構え、じりじりと間合いを詰める。

俺は集中力を高める。


ゾフィの剣速は凄まじい。

しかし来ると分かっていればある程度は見える。

俺の体は鈍ってはいるが、かつての時代の知識と経験がある。

彼女の流派は長剣北方流。

正面から、正々堂々、力とスピードでねじ伏せる事を主目的とする、この国の貴族で一般的な長剣用剣術流派だ。

流派としての進化はあるかもしれないが、癖や教えは分かる。


「はあああああ!」


何の前触れもなく、ゾフィが動いた。

瞬歩。

気づいた時には、目の前にいた。


「!!」


真一文字の斬撃。

辛うじて受け流す。

大ぶりの一撃は、当たれば致命傷だろう。

すかさず、彼女の背後に回ろうとするが――


「遅い!」


彼女は見えていた。

振り返りざまに、斬りつけられ、慌てて距離を取る。


「ふぅうううううう」


大きく息を吐くゾフィ。

その目は常に俺の一挙手一投足を見逃さない。

爛々と猛獣のように光るようで、正直怖い。


「なるほど」


だが、今ので彼女の反射速度や剣への対応は理解した。

超人的だ。

化け物だ。

だが、対策はある。


「行くぞ!」


今度は俺から仕掛けた。

右からの斬りつけ、に見せかけ剣を持ち換える。

フェイントを交えた左からの斬り上げ。


小手先の業だが、ゾフィは少し戸惑う。

この程度、流派を問わず対処が可能だ。

だが剣術をかじった程度の俺が、高度なフェイントを繰り出し、戸惑ったのだ。

その戸惑いが癖を誘い出す。

長剣北方流は正面の攻撃を正面の攻撃で受ける力ごり押しの剣術だ。

斬り上げに対し、斬り落としで彼女は対処するだろう。


彼女は切り落としを繰り出した。

予想通り!


ここで俺の流派は初めて真価を発揮する。

我流とは、何でもありということである。

自分の能力が一番生かせる動きなら、何でも取り入れるのだ。


それが例え、剣士ならばありえない行為だったとしても。


「えっ!」


ゾフィは驚いた。

俺が剣を手放したからだ。


剣とは騎士の魂である。

それを手放す事は許されざる行為である。

まず崇高な長剣北方流ではありえない。

例えその後に隠し玉があったとしても、失敗すればそれ以降の戦闘の継続を不可能にする危険な行為である。


――それを、呼吸をするように行った。


なにをしているのかこの男は、そうゾフィの目が語る。

同時に彼女の剣は、空中に浮いた剣を打ち下ろす。

全力の切り落としをぶつけたた俺の剣には一切の抵抗力がない。

勢い余り、ゾフィの上体が、ぐらついた。


あの状態なら、即座の回避は不可能。

今しかない!


「ふっ!」

「うえっ?!」


俺は大きく右足から踏み込み、手の平で彼女を突いた。

掌底である。


「……」


沈黙が場を支配する。


「……どういうこと」

「……これでもし俺が本気で打ち込んでいればちみは死んでいたわけだな」

「それは分かったわ。そうじゃなくて、この手はどう言うこと」

「……」


どう言うこと?

ああ、俺の掌底が衝撃0だった件について?

それとも俺の手が胸を揉むような形になってる件について?


説明しよう!

俺は彼女の隙を突き、掌底を繰り出した。

だがしかし!

心臓を狙った掌底はよく考えると胸部への打撃であり、女性の胸を強打することに俺の倫理がNOと言った。

だから俺は掌底の勢いを殺した。

だがさらによく考えると勢いを殺した掌底はもはやただのボディタッチであり、おっぱいへのボディタッチとはもはやセクハラでしかなく、必然俺は絶体絶命の本状況へと至ったのである。

うむ、でかい。

これではリタも形無しだな!

ははははは!


「……なんにせよ、俺の勝ちだ!」

「は?」


直後、ゾフィの姿がブレた。

やべえ、殺られる。

そう思った直後、顎の先に強烈な衝撃。

俺は意識を失った。



--------


一章 第7話 ゾフィ・グレイヒム


ハーフェン我流。

アズマは噂にしか聞いたことのない剣術を使い、彼女から一本取った。

彼女が剣での勝負で一本取られたのは久しぶりだった。


そんな久しぶりにしてやられた相手は、まるで戦闘向きでなさそうなヒモ男だった。

しかも決着は、胸への掌底は問題だ。

吹き飛ばされたなら、まだ良かった。

だがあの男は、突きの勢いを殺した。

女の胸を打つことに、躊躇したのだ。

あの瞬間、騎士ゾフィは女として扱われたのだ。


ヒモ男と馬鹿にしていた相手に、女として扱われ、一本を取られた。

それは屈辱を覚えることだった。

だから、一度気絶させ、起きた後は本気を出した。

まるで一度の敗北を帳消しにするかのように、アズマをボコボコにした。


ボロボロになって「そんな怒んなくても……」とぼやいている彼を見下ろし、

ゾフィはリタを思った。




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