第9話
兵舎に戻って、料理を作った。
備え付けの調味料と、初級の火属性魔法で男料理だ。
リタに出すと、「おいしい」と頬をほころばせていた。
おいしかったようで何よりだ。
うん、少し距離が縮まったようで何よりだ。
過程はクズかったけど、結果が大事。
食後、リタに「話がある」と言われた。
テーブルに着く。
なんだろう、まだお金の事怒ってるんだろうか。
いや当たり前か返してないし。
俺の思惑は外れ、リタは神妙な面持ちで話し出した
「……知ってると思うが、わたしにとって邪神召喚の実験は趣味だったんだ」
「そうらしいな」
「だから、正直、実際に何かが召喚できるとは思っていなかった。特に何も考えずアズマを召喚してしまった。そこは……申し訳ない」
「おう」
「許して、くれないか?」
予想外の謝罪。
動揺する。
俺は俺の意思と関係なく今ここにいる。
もし、俺がただ別世界に生きていた人間ならキレだろうな。
「てめえの趣味で一生をこんな世界で過ごしてたまるか! 早く元の世界に帰せ!」って感じに
だが俺は邪神だ。
人間じゃないし狭量じゃない。
日本や家族は確かに名残惜しい。
が、怒っても何もならないと割り切れる男だ。
それに、そんなに急にしおらしくなられては怒るに怒れない。
「ふ、フハハハハハ! 許す!」
「……ありがとう。でも財布の事は水に流すつもりはない」
「そうですか……でもまあしばらくこの世界に居る事もやぶさかじゃない。仲良くやっていこうや」
「そうだな、よろしく頼む。その……ずっと避けるようにしていて悪かったな。
わたしの体が乗っ取られるかもしれないと思っていたんだ」
「ああ、どうやら俺はお前のサーバント的な感じになってしまっているらしいからな。乗っ取るとかは無い」
「そうか。……しばらくは居候という扱いになるが、いいか?」
「もちろん」
部屋に住まわせてくれるなら何でもいい。
元々この世界の住人だし、いかに人間が繁栄したかじっくり眺めようとしようじゃないか。
「で、だ。
呼び寄せてしまったものは呼び寄せてしまったとして。今後について話し合わなければならないと思う。
まずは、家計についてだ」
リタは詳細に語る。
正直、彼女の薄給では生活費を2人分賄うことも難しい。しばらくは実家からの仕送りで貯めた貯金もあるが、一か月と持たないだろうとのことだ。
俺は召喚獣だが、霞を食って生きているわけじゃない。
飯を食えばうんこもする。
しかもリタよりよく食うし大酒のみだ。
この生活を続けるなら、さすがに俺も稼ぐ必要があるな。
でもなあ、俺よく考えたら邪神なんだよなあ。
そして邪神って社会不適合者なんだよなあ。
勤労というのがもう向いてないイキモノなんだよなあ。
ああめんどくさい。
貨幣偽造とかカツアゲ方面で考えてみるか。
「俺が稼ぐしかないな。任せとけ、大金稼いで帰ってくるよ」
「なにか間違った道を歩もうとしているな」
「俺にとっては邪道こそ王道なんだ。邪神だけに」
「犯罪はダメ」
「ええ」
ごねたがカツアゲはリタが許してくれなかった。
結局日雇い労働者の職を探すことになった。
騎士団付の職をリタも探してくれるそうだ。
めんどい。
「で、次の問題だが」
少し戸惑うように、言葉を溜めて、
「……戦争だ」
こちらの話もリタが詳細を説明した。
彼女は騎士見習いだ。
騎士とは国を守る貴族階級の兵士だ。
「貴族の義務」に則り、非常時は国の為に戦わなければならない。
つまり、彼女はこれから戦争に参加しなければならないのかと言うと、そうでもないらしい。
騎士見習いは参加か、帰宅かを選ぶことができる。
未成年で戦力としても未熟な者がほとんどだからな。
リタは参加について俺と話し合いたいらしい。
「わたしが戦争に参加すると、同時にアズマの命も危険にさらしてしまう。
これに関して、どう思っている?」
「うーん」
正直この国の戦争には極力関わりたくない。
なにやらゾフィによると、
西方連邦とかいう超軍事国家はエルドリアを瞬殺できる力を持っているそうだし。
負け戦っぽいし、ますます関わりたくない。
「俺は関わりたくない」
「そうか。わたしは参加したい。戦場にはお父様とお兄様が立つ。そして妹もこの町から近いところで魔導士見習いをしている」
「へえ、家族が戦うんだ。……って、妹は魔導士になろうとしてるのに、なんでリタはその道に行かなかったんだ?」
「この国の魔法研究は魔導士が行うものなんだ」
説明によると。
この国の魔法研究は許可制らしい。
研究を正式にするにはきっちり魔法の危険性を学んで、魔導士として国に認められる必要がある。
そして魔導士になるには、試験をパスしなければならない。
召喚術以外がチンプンカンプンなリタは試験を突破できなかったのだ。
なるほど、天才だと思っていたが、召喚術以外はそうでもないのか。
あれ、ってことはリタの趣味って実は違法なんじゃ……。
なにが犯罪はダメだ! だよ。
ブーメランじゃねえかよ。
……話が脱線した。
「で、どうしても参加したいのか」
「わたしだって最初はやめようと思っていた。こんなちんちくりんが戦場で何の役に立つかも分からないし」
「その通りだな」
「――でも、考えが変わった。
やっぱり怖いけど、逃げるのは嫌だ。
父親を守りたい兄は戦場で戦うし、妹も何らかの形で協力させられると思う。だからわたしだけ逃げることは、自分自身が許せない」
「……」
家族にだけ戦わせて、自分は逃げたくない。
それが理由か。
ちびっ子が、立派なことだ。
けど、それだけが理由なのか?
「それだけ?」
「……いや、もちろんアズマの存在はわたしの考えを変えるきっかけになった。
アズマの魔法があれば、わたしも役に立てる」
「そうだな、俺は強いしな」
戦場で役立つどころか、英雄にすらなれるかもしれない。
「それで、わたしのわがままなんだが……戦いに、協力してくれないか?」
「やだね、そんな義理も義務もないだろ」
「……やっぱりそうか」
リタは目を伏せる。
場に沈黙が下りる。
「おう」
当たり前だ。
だれが好き好んで戦争に関わるんだ。
俺は平和主義者だ。
それに死ぬのは嫌だ。
なのに万が一の事があれば死ぬ可能性は大だ。
その事をリタは覚悟しているのだろうが、俺は覚悟してない。
義理も、恩も、必要も無い少女のために命をなげうつ訳もない。
「アズマがそういうなら、仕方ないな」
と、リタがあきらめようとした瞬間。
異変は訪れた。
それも唐突に、予兆すら一切なく。
まさに青天の霹靂。
「がっ!」
異変とは、激しい頭痛だった。
稲妻に打たれたような、やけるような、強烈な痛み。
苦痛、激痛。
言い表せないほどの激痛。
「がああああァァ―――――――!」
頭が割れそうだ。
外から強烈な圧力を加えられているような感覚。
全身の欠陥が沸騰する感覚。
な、んだ、これッ―――!
ふと、孫悟空を思い出した。
悪さをする孫悟空を罰するための、頭の輪。
言うことを聞かないと、激しく頭を締め付けるアレ。
「……なるほど、そう言うことかっ」
これは、召喚獣が主人に逆らった時のための、システムだ。
言うことを聞かなければ、この激痛が治ることは無い。
いきなり明らかに異常をきたし出した俺に、リタも気づいた。
「大丈夫か!」と叫びオロオロしだす。
水をくれと言うと、直ぐ水桶まで水を取りに行ってくれた。
渡された水を飲む。
が、ましになる様子もない。
ダメだ、耐えられない。
考える余地は無い。
「リタ!」
「なんだ」
「協力する!」
「ほ、本当か!」
途端、頭痛は無かったかのように消えた。
頭はスッキリと冴えわたり、元の調子が戻る。
「具合はよくなったか?」
「ごほっごほっ」
「み、水だ!」
「がはっ! ごほっ! 無理矢理飲ますな!」
「すまん!」
荒れた息を整えて、ようやく話す余裕を取り戻す。
「……ああ、良くなった。どうやらお前の言うことを聞かないと、さっきみたいになるらしい。
召喚獣は主人に逆らえないのは知ってたが、いざ逆らったらこうなるとは。
知らなかった……」
「そ、そうなのか。軽々しく召喚獣の契約を組み込んでしまったわたしが悪いな。すまない」
「いやいいさ。何も考えず、契約を結んでしまった俺が悪い」
最悪の気分だった。
二度と味わいたくはない。
まじ召喚獣の契約ファック。
「本当に、すまない」
「だからいいって」
「……そうか」
「……ああ」
俺とリタの間に気まずい空気が生まれる。
意に反して、リタは俺に主人として命令することになったからだ。
対等の関係だと思っていたのが、主従の関係だと、リタは主で俺は奴隷なのだと突き付けられたからだ。
何とも言えない、やるせなさ。
「はあ。よかったな。もう俺の意見は聞かなくてもいい。命令すれば、言うことを聞く。
……分かったら、この話は終わりだ」
立ち上がろうとしたところで、「待ってくれ」とリタが引き留めた。
「なんだよ」
「いや、終わりじゃない」
「終わりだ。考えれば、こんな話の機会は無意味だってわかるだろ?
これからは俺に相談なんて要らないぞ。お前は主で俺は召喚獣なんだからな。」
「……そうは思わない」
リタは強い口調で言った。
「別に諦めてもいい」
「……え?」
なんで?
「アズマは確かに召喚獣になってしまったが、わたしはアズマが、召喚に巻き込まれてしまった不遇な人間にしか見えない。だからもし嫌ならちゃんと尊重する」
「お前……」
父の為、兄妹の為戦いたいと前から思っていた。
なのに、自分だけ戦えない。弱いから、足手まといだから。
そんな中、邪神の力を得て、自由に使えるようになった。
自分はもう無力ではない。戦争で活躍し、家族を守る事すらできる。
理想を達成できる。
ならば、俺を使わない選択肢は無いというのに、あくまで俺の意思を尊重すると言うのだ。
あまりに非合理的すぎる。
そう思っていたら。
ある、光景がフラッシュバックした。




