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第九十六話 総統閣下とモンスター討伐

 帝国が誇る最新鋭中戦車『チハ改』。それに乗って遥々やってきました『テームの街』。


 遠かったです。とても遠かったです。


 ボクの拠点のヘレルフォレード貴族学校から、この街までの距離はたったの10km……のはず。

ちゃんとインフラの整った大和帝国国内だったら、車に乗って、ほんの十数分で到着するはずの距離なんですよ? 


 けど、一時間もかかってしまいました。


 なぜこうなったかと言うと……とにかく、道が酷かったんですよ。


 アスファルトなんて使われていない未舗装のガタガタ道。速度は出ないですし、戦車が揺れてお尻も痛いです。


 しかも。


 このお尻の痛み、無言で我慢するしかないんです。文句も言えないんです。


 お尻が痛いとか口に出したら「それは大変ですね、マッサージしましょう」とか言いながらアヤメさんがしゃぶりついてきますからね。


 言わぬがなんとやらです。 




 まあ、それはともかく。


 いろいろ苦労はありましたが、無事到着できたので問題なしです。


 チハ改のキューポラから、身を乗り出して周囲を見渡すと、50両を超える戦車と、数え切れないほどの輸送車両がボクの周りを固めています。


 親衛隊第一連隊と、SS中戦車大隊ですね。


 彼らを率いてボクが陣取っている場所は、街の南側にある平原。


 敵モンスターは北側にある森からやってきているらしいですから、街を挟んで対峙している、とでも言えばいいですかね?


 すでに戦車隊や歩兵部隊は散開し、臨戦態勢。75mmの山砲を装備した連隊付きの砲兵大隊も射撃準備を進めています。


 いつでも戦えますね。




 さてさて。


 では、戦況を確認してみましょう。


 こちらの兵力は歩兵一個連隊3000名に、戦車一個大隊50両。冒険者をかき集めて編成されたロンデリア軍もいますが……あまり戦力として期待はできませんね。


 一方の敵は、1000程度のモンスター。


 ただ、モンスターは先行した襲撃機隊の攻撃である程度数を減らしていると思います。ほら、テームの街の周りには爆撃の後と思しき黒煙が上がっていますし。


 その襲撃機隊はレシプロエンジンの爆音を轟々と響かせながらボクの上空で編隊を組んで……帰還中ですね。


「エリュさん。先行した襲撃機隊は、すでに攻撃を終わらせたようです」


「戦果は?」


「大打撃、大打撃とのこと。ですが、市街地に敵の残党が残っているので掃討しないといけないようです」


「了解」


 砲塔内に戻ると砲手席で無線機から情報収集中のアヤメさんが、報告してくれました。


 最新戦車なだけあって、この戦車には、ちゃんとした無線機が搭載されているのでいろいろ便利なのです。


 ……ボクは無線機なんて使い方わからないので使えないですけど。




 しかし、流石は空の魔王率いる部隊ですね。


 街の外にいる敵の大部分は撃破してくれましたか。これで、こちらにとっては一層有利な戦況になりました。

 後は、地上部隊でとどめを刺すだけです。


「さて、どうしますかエリュさん」


「親衛隊第一連隊は、市街地戦に対応していますよね?」


「はい、最新鋭の自動小銃を装備していますから……市街地にいる上級モンスターとも戦えます」


 最新式の自動小銃――『10式自動小銃』ですね。


 内部機構はどうだかわかりませんが、外観はベルギー製のアサルトライフル『FN-FAL』をパク……じゃなくて、参考にした新型自動小銃。

 ちなみにハンドガードとストック、グリップは木製です。


 使用弾薬は帝国の既存のボルトアクション式ライフルにも使われる6,5mmのフルサイズ弾。

 

 威力は対人には十分で、対モンスターでもみんなで撃ちまくれば怖くない感じだそうです。


 試作品を海兵隊に装備させて、モンスターだらけの満州大陸で実戦試験させたら結構高評価でした。

 まあ、信頼できない武器なんて、ボクの護衛の精鋭部隊に配備できませんよね。




 とにかく、歩兵部隊は市街地に対応可能。


 戦車部隊『チハ改』も……たぶん突撃させても大丈夫だと思います。


 この戦車、見た目は『新砲塔チハ』というべきか『一式中戦車』と言うべきか……チハっぽい見た目ですけど、結構凄いんですよ? 


 チハもここまで改造すればこんなに強くなるのか、みたいな感じです。


 チハ戦車をベースに車体をリベット留めから溶接構造に改良して、装甲厚も50mmまで強化して防御力を向上。


 同軸機銃と高初速47mm戦車砲を搭載した新砲塔に更新して火力も十分。


 機動性も240馬力のガソリンエンジンのおかげで、かなり良好です。戦車で市街地戦に不安はありますが、性能の暴力でモンスターくらいなら潰せると思います。


「全軍に前進命令を下してください。テームの街に突入しますよ」


「了解です、エリュさん。全戦車、前進」


 チハ改のエンジンがうなりを上げて、ちょっとした慣性ののちに前進を開始します。さあ、サクッと終わらせて帰りますよ。




☆☆☆☆☆




 中戦車チハ改を前面に押し出しつつ、南門から一気にテームの街に突入する親衛隊。


 彼らが攻撃を開始した時点で、テーム城壁内に残存していたモンスターは多く見積もって300程度。


 数はそれほど多くないが、その中には上級モンスターであるオーガなどが多数残存しており、この世界の一般的な軍隊なら対処は困難。


 この世界の常識的な装備、常識的な軍隊から考えれば、多くの犠牲を覚悟しなければならない相手と言えるだろう。


 だが、しかし。


 帝国の親衛隊は近代兵器を装備した最新鋭の軍隊。彼らの戦闘能力はこの世界の常識的なそれを遥かに上回る。


「車長殿、前方にオーガです。冒険者が追われています。どうなさいますか?」


「よし、主砲撃ちなさい!」


「了解っ! ふぁいあっ!」


 冒険者ギルドなどが立ち並ぶ街の中央広場。


 そこまで進出した一個小隊四両の『チハ改』。彼女たちは、必死に逃げ回る冒険者を追い回すオーガを発見すると即座に主砲を発砲。


 流石は天下に名高き親衛隊、誤射とかは気にしないらしい。


 各戦車から一斉に発射された砲弾が複数命中した、オーガは粉々になって弾け飛ぶ。


 魔法程度なら防ぐことができる強靭な筋肉も高初速高貫徹力の仮帽付被帽付徹甲弾を跳ね返すことはできなかったらしい。


「左にゴブリン。数は10、小隊、射撃開始」


 続いて狙われたのは、広場の隅っこを団体でこっそり進んでいたゴブリン。


 オーガが暴れている隙に、隠れて街の奥深くに侵入しようとしていたらしいが、随伴歩兵の小銃による弾幕射撃を浴び、ズタズタに引き裂かれる。




 報復の時間。


 そうここからは近代国家である大和帝国の一方的な火力の押し付けの時間なのだ。


 モンスター程度の攻撃では突破できない重装甲の『チハ改』中戦車を盾にしながら、自動小銃を装備した無数の歩兵が制圧していく。


 この連携戦術に耐えられるモンスターはいない。




 しかも、ここにいる歩兵はただの歩兵ではない。


 総統を守る精兵、親衛隊第一連隊だ。


 総統の護衛と言う性質上、全員女性で編成される部隊ではあるがその部隊練度は高く、一人一人がさながら特殊部隊だ。


 ある時はチハ戦車にタンクデサント、ある時は装甲ハーフトラックで突撃。


 機械化された彼女たちは目標まで素早く進出すると降車し、小銃を構えながら瞬く間に街をクリアリング。室内まで、きっちり索敵を行う。


 そして、発見したモンスターには容赦なく新型自動小銃の弾丸を浴びせるのだ。


 高い練度の兵士による完璧な連携。


 仮に戦車がいなくとも、その殲滅力は、パーティー単位――四人程度の連携が精々のファンタジー世界の冒険者の比ではない。


 勇敢にも立ち向かったゴブリンなどの低級モンスターは弾幕の前に溶けて消え去り、生き残った上級モンスターも物量に負けてどんどん駆除されていった。


「すげえ、これが、大和って国の戦争か」


「増援に来てから一時間も経たないのにモンスターが、消えていっているぜ……」


「しかし、なんで兵隊が全員メイドなんだ? あんな服で戦場にいるってのもおかしな話だぜ?」


「俺たちの頼れる大将ハイドリヒの兄貴は、軍服姿なのにな」


 訓練を受けた兵士たちの優れた戦闘能力に感心する市民、冒険者たち。


 ちなみに。


 ハイドリヒは大和軍人と言うことでロンデリア軍の一部の部隊から指揮を任されていたらしく、『頼れる大将』やら『ハイドリヒの兄貴』などと冒険者から親しみ呼ばれているようだ。




 戦況は人間側に一気に優勢に傾く。この調子で進めば、一時間もかからずにテームの街からモンスターは完全排除されることになるだろう。


 勝利に湧く人間陣営。


 その一方、渋い顔をせざる負えない存在があった。


 そう、エルフたちである。


「ありゃ? モンスターの反応が急に消えていっているんだけど? 空の魔王も帰っていったのに……」


「……これが大和帝国、これがナチの戦闘力か。なるほど、同志ジリエーザが恐れるのも理解出来る」


 率いていたモンスターは、魔王率いる襲撃機隊の空襲で半壊、さらに、続いて突入してきた親衛隊連隊の前に壊滅。


 残存兵力は残りわずか。


 森の中で再度テイムして、兵力を整えることもできなくはないが、これだけ暴れたのだ、そろそろ『マナ』の残量が不安だ。


 エルフ側の当初の作戦、「街の人間を捕獲し、マナに変換する」と言うのは失敗に終わったと言っていいだろう。


「大和の連中に完全包囲される前に手を打つぞ。例のあれは動かせるな?」


「――っ! ついに『スターリン』で侵攻するのね! いいわ、エルフの魔法力で押しつぶしてあげましょ!」


 戦局を打開するための決戦兵器『スターリン』。


 鉄の男という意味の名を持つその兵器は、エルフが作り出した最強の陸戦兵器だ。


 エルフたちは、森の中に鎮座したその巨体を見上げる。


 全高18メートル、全身鎧を身にまとった中世の騎士のような精悍な姿、巨大な金属製の人型ゴーレム。

 この兵器をもって、迫りくる大和帝国親衛隊にエルフの鉄槌を降すのだ。

ちょっとした兵器解説 『チハ改・10式自動小銃』編


チハ改

武装 主砲 47mm戦車砲

   副武装 同軸7,7mm機関銃

重量 16トン

乗員 4名

速度 40km

装甲 前面50mm、側面20mm

発動機 240馬力 ガソリン


 先の戦争でのチハの活躍を見て帝国が採用した新型中戦車。チハを改良し、砲を高初速の47mm砲に変更、さらに砲塔を同軸機銃付きのものにし、装甲もリベッドから、溶接式に変更された。

 なんとなく、チハより一式中戦車っぽい。


 10式自動小銃 

 使用弾薬6,5×50mm弾 装弾数20発もしくは25発 フルオート式

 最近採用されたばかりの新型小銃、外観はベルギー製のアサルトライフルFN-FAL。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  リアルでチハたん突撃とか重装甲チハたんとか聞いても失笑ものだろうに、大活躍するチハたん達。  ∩(・ω・)∩ばんじゃーい! [気になる点]  チハたんはいつまで現役で居られるのか。  …
[一言] 47mm戦車砲、鉄の装甲位は貫通しそうだな、まぁ勝てなかったら魔王様に頼んだらいいし、最悪町壊滅しても総統の精神にはダメージが入るかもだけど大和帝国事態には直接的にはダメージが少なそうだから…
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