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第九話 総統閣下とモンスター

 総統専用艦『富嶽』に乗船し、横須賀港を出港してから約一週間。


 凄く壮絶な船旅でした。


 突然アヤメさんはプールに誘ってきますし、女物の水着を着ることになりましたし、ニーソを履くように要求されましたし。


 何とかお着替えが終わって、プールに着いたと思ったら、おっぱいの大きい艦長さんが水着姿でお出迎えしてくれるし、かと思ったら痛いくらいにアヤメさんが抱きしめてきますし。


 何だったんでしょうね? 


 ……とにかく、いろいろありましたが、無事新大陸に到着しました。




 さて、この新大陸ですが、どんな場所なのかと言いますと……。


 耳触りの良いキャッチコピーを作るなら緑生い茂る新大陸! でしょうか?


 まあ、実際にこの大陸を見て得られる感想はそんな生易しいものではなくて「緑生い茂る? ジャングルの間違いだろう?」ですけど。


 この新大陸は我が大和帝国本土からはるか南に3000キロメートル。我が本土の緯度はおおよそ日本と同じくらいなので、ちょうど赤道直下くらいでしょうか。

 ニューギニアとか、その辺と大して変わらない位置なんですよ。


 暑くてジメジメして、海岸線から一歩内に入れば深いジャングル。


 これは一個師団持ち込んで正解だったなぁ、なんて逆に思うくらいです。ほら、ジャングルを切り開く労働力的な方向性で。


 補給に関しては我が精鋭海軍と最終戦争時に大量生産した輸送船がいるので内陸部にいかない限り問題はないですし、船の燃料の石炭に関しては本土でとれるのでそれほど困らないですし。




 して。


 そして、そんなジャングルだらけの新大陸で、ボクが乗っているのは我が大和帝国が誇る最新鋭軽戦車『三式軽戦車』。


 自称ラスバタ内最強の軽戦車です。

 

 全備重量7,4トン、40馬力の発動機が叩き出す最高速度は驚異の時速20キロメートル。


 原付より圧倒的に遅いです。

 

 ちなみに綺麗に整地された場所でこれです。戦場みたいなガタガタの不整地だと駆け足くらいの速度しか出ません。


 武装は、37mm砲を主砲に持ち、車体前面と砲塔上部に副武装として7,7mm機関銃を装備。


 防御力は、まあ、その……12mmの装甲板に守られています。はい。


 はっきり言えば弱いです。


 比較として、日本の自衛隊の最新戦車の性能を上げますと……。


 重量約44トン、1200馬力の発動機に最高速度70km、武装は120mm滑腔砲を主砲に持ち、防御力は正確な数値はわかりませんが、数十センチの鉄板に匹敵する複合装甲を装備……だとか。


 比較にもなりません。


 かろうじて、自衛隊戦車と比較できるところと言えば乗員がどちらも三人であるというところでしょうか?

 

 しかし、贅沢は言えません。なにしろ、我が大和帝国の技術力は第一次世界大戦前後くらいなんですから。 

 21世紀の戦車と比べることもできないこんな貧弱戦車でも一級品の戦車なんです。

 

 ラスバタ内最強軽戦車ランキングでも堂々の第一位でしたし。


 さらに言えば我が国では、この戦車すら不足していて、今回の調査隊には親衛隊所属の六両しかいません。残りの車両は、もっと古い九九式軽戦車なんですよ。

 

 あ、ちなみに九九式軽戦車はただのルノーFT-17です。37mm砲を搭載した第一次世界大戦中の軽戦車ですね。

 ゲームシステム的な話をすれば、ラスバタ内のデフォルト軽戦車の名前を変えただけ。以上。


 ルノー戦車もどきである九九式軽戦車には機関銃が装備されていないという致命的な欠陥があって歩兵に肉薄されると死にます。


 




 で、なんで総統であるボクがそんな戦車を乗り回しているのかと言いますと……。


「エリュさん、前方に150メートルにゴブリンです! 数は11匹、主砲撃ってください!」


「りょ、了解です!」


 眼前はジャングル、後方は作られたばかりの補給基地。基地を守るように、ボクの乗る戦車を含めた14両一個中隊の軽戦車と親衛隊一個大隊600人がジャングルの前面に立ちふさがります。


 そして、ジャングルの中から飛び出してくるのはモンスター――ゴブリン。


 汚い小人みたいなモンスターです。


 接近されると何をされるか分かったものではありません。機銃手を務めるアヤメさんの指示で、迫りくるゴブリンに向け主砲の37mm砲を発射します。


 発射された砲弾は……。


「命中っ! 当たりましたよ、アヤメさん!」


 ボクの撃った37mm砲弾は、綺麗にゴブリンの群れのど真ん中に弾着。爆裂し、その半数を吹き飛ばすことに成功します。


 そして残ったゴブリンたちに弾幕が襲い掛かります。周りの戦車や親衛隊員さんたちが集中砲火を浴びせて撃ち殺してくれたんですね。


 はい、そうですね、もうお察しが付いたと思います。


 この新大陸、よくわからない化け物だらけだったんですよ。






 新大陸に到達し、あらかじめ巡洋艦『和泉』が見つけていた上陸しやすそうな入り江に到着したボクたちは、とりあえず大陸に上陸するべく、海兵師団から斥候部隊を送り込んだわけですよ。


 そこで発見されたのがこれらモンスター。

 

 ゴブリン、オーク、オーガ。ざっとこんなところです。いずれも人間を見つけると嬉々として襲って来る危険生物のようです。


 流石は異世界と言ったところでしょうか? 


 ボクの知っている地球には当然こんな化け物はいませんでしたし、ラスバタ内にもこんなモンスターはいませんでした。ラスバタはモンスターと戦うようなゲームではないですからね。


 しかし、モンスターがいるからと言って、貴重な陸地を前に引き下がるわけにもいかず……「血が流れるなら殺せるはずだ」を合言葉に艦砲射撃の支援の下、第一海兵師団が大発に乗って強襲上陸。

 

 その様子はちょっとしたノルマンディーですよ。


 一万を超える海兵隊員が「総統閣下万歳ッ!」と叫び声を上げながらモンスター達に攻撃開始。


 ジャングルの中から現れる数百、数千のモンスター達を小銃と機関銃、砲撃で薙ぎ払い橋頭保を無理やり確保。

 ここのモンスターはそんなに強くないらしく、小銃弾でも通用して助かりましたよ。


 さらに続いて工兵隊が上陸、ジャングルを切り開きます。


 そして、ある程度の安全が確保されたところで、親衛隊を引き連れてボクも乗り込んだというわけです。


 ここまでで到着から三日。一日目に偵察、二日目に強襲上陸からの工兵隊、三日目にボクが上陸って感じですね。


 モンスターとの戦勝に喜び、日章旗を地面に突き刺して「ここを我が国の満州国とする!」とか言っているところまでは調子が良かったものです。


 そして、ボクも上陸したあとには海兵隊はさらに戦果を拡張。一個師団、1万5000の数の暴力を使い、どんどんと周辺に侵攻を始めたんです。


 しかし、そこからが問題でして……視界の悪いジャングル、敵がいなくてもなかなか進めない道のりです。

 さらに、ゲリラの如く突如現れるモンスターたち。たぶん、銃声や砲声に反応して集まってきているみたいですね。


 相手が碌な武装を持っていないので損害はほとんど出ていませんが、それでも厄介極まりないです。


 時折、先ほどみたいに前線の海兵隊員の目を掻い潜って、ゴブリンの群れがボクの居る後方までやってくることもありますし。




 まだまだ後方では工兵隊が必死に基地建設を行っている最中です。彼らを守るべき海兵隊員も、必死になってジャングルの中で戦闘中。


 彼らに代わって、無防備な工兵隊をモンスターから守る必要があります。


 そして、ボクの手元にボクの護衛と言う名目で暇をもてあましている親衛隊一個大隊。


 これを使わない理由なんてどこにもないですよね? おまけに、親衛隊には今回の調査隊では貴重な装甲戦力が配備されているんですから。




 そう言うわけで、こうして総統であるボク自ら戦車に乗って出撃し、機動防御。戦車を押し並べて、モンスターに戦車砲をぶち込んでいるわけです。


 ……てか、ボクが向かわないと動いてくれないんですよ、親衛隊。


 この親衛隊、我々の任務は総統の護衛だとかなんとか言って、ボクから離れようとしないんです。

親衛隊に戦ってもらいたかったら、ボクが前に出るしかないんです。




 ……っと、キューポラから顔を出して索敵してみれば、後方からお馬さんに乗った兵隊さんがやって来ていますね。

 メイド服を着ていないので親衛隊員ではないようです。


 あ、ちなみに我が大和帝国ではまだまだお馬さんが現役です。街とか馬車が走っていたりしますし。


 さて、あの兵隊さんの要件は一体何でしょうか? 伝令かな?


「閣下、総統閣下! 緊急報告です! 至急『富嶽』までお戻りください!」


 緊急報告……?


 そうですか、なら後退しますか。この辺りの安全はひとまず確保できましたし。

 ちょっとした補足説明 『大和帝国陸軍の歩兵装備』編


 基本装備は第一次世界大戦中、もしくは大戦後の各国陸軍程度。歩兵の主兵装はボルトアクション式小銃だが、小隊ごとに軽機関銃なども装備されている。

 使用弾薬は6,5mm弾。大日本帝国の三八式歩兵小銃などと同じである。


 ただし、車載機関銃などは対物用により大口径の7,7mm弾を使用している。今回登場した三式軽戦車の装甲はこの7,7mm弾に対抗できる厚みを持たせているつもりらしい。

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