第八十七話 アヤメさんは制服デートをしたいそうです
大和歴310年1月4日。
大和帝国が異世界に転移してから、約6年。
遥か西方大陸では、東方大陸に対する侵攻計画が練られているその頃。
平和を謳歌する大和帝国首都『帝都』。
そのとあるデパートで、後に「世界を変えた女子高生の言葉ベスト10」に入る名言が発せられることになる。
衣服売り場の一角、彼氏とデートする制服姿の女子高校生。彼女が放った何気ない日常の一言が、後に世界に変革をもたらしたのだ。
その一言とは……「制服デートしたことない奴って可哀想だよね!」というものだ。
この言葉を総統閣下とのお買い物デート中に、偶然耳にしたとあるメイド――アヤメは強い衝撃を受ける。
制服デート、何と甘美で素敵な響きだろうか?
甘酸っぱい青春時代を彩るにふさわしい素敵な響きだ。
アヤメはその言葉を聞いて、革新的な何かを感じ取るとともに嫉妬心を覚えた。
彼女は、制服デートなどしたことがないからだ。アヤメは常にエリュテイアのメイドであり、学生だった時代などない。
そんな彼女は、制服デートとは生まれてこのかた無縁だったのだ。
そして、考える。
私が、このアヤメとエリュさんが、そんな制服デートすらしたことがないなどあっていいはずがないのではないか、と。
私とエリュさんともあろうものが、誰もが味わう青春の思い出を作れないなどあっていいはずがない、と。
そして、彼女はさらに考える。
私は永遠の17歳だし、エリュさんはそんな私より子供っぽいし、別に今から入学してもいいのでは、と。
こうして、メイドは動き出す。
後に「総統閣下ご入学事件」と呼ばれる異変の始まりである。
☆☆☆☆☆
はい、私です。アヤメです。
時は流れて大和歴310年になりました。
異世界転移から約6年、エリュさんと今の関係になってから、それなりに長い年月が流れました。
ここまでは、何もかも私の思い通りです。
「……あやめさん? ぼーっとして、どうしたんですか? 無視は嫌です、もっと構ってください」
いつもの総統官邸。その一角にあるエリュさんの執務室のソファーの上。
そこでは、ちょっとだけ軍服を肌蹴させたエリュさんが上目遣いで、私に向かい合う形で抱き着いてきています。そして、私の顔を覗き込みながらおねだりしてきているんです。
はい。
もう、可愛いです。
この世界に来てから6年間、エリュさんを甘やかし続けたらこうなりました。もう、完璧になついてくれていますね。二人きりになればずっとこんな感じです。
仕方ない子ですね、と呟きながら優しく耳に甘噛みしてあげると……「んくっ、あっ」と愛嬌を上げて……堪りません。
黒ニーソから覗いて見える真っ白ですべすべの太ももに手を伸ばし、優しく撫でまわして、そのままパンツに手を伸ばせば、ほら、もうエリュさんも準備万端です。
このまま、寝室のベッドに連れていって……。
と、思いましたが。
駄目です。
今日はエリュさんにとても大事なお話があるんです。
エリュさんの腰を掴んでひょいっと持ち上げます。相変わらず軽いですね。こういう、小動物みたいで、守ってあげないといけないか弱いところも、私のエリュさんの可愛いところですよね。
そんな可愛いエリュさんを、私の横にちょこんと座らせます。
いつまでも、向かい合っていると私の理性が先に限界を迎えますからね。
「あっ……」
と、エリュさんは残念そうな声を出しますが。
ここはうんと堪えて我慢です。
以前の私ならここで我慢できず、エリュさんを襲っていたところですが、今の私は違います。
ちゃんと、ソファーに押し倒すだけで我慢できます。
それでは、このエリュさんを押し倒した姿勢のままで本題に入りましょう。
「ところでエリュさん、学校というものに興味はありませんか?」
「えっ、急にどうしたんですか、アヤメさん。こんな体勢で……学校ですか?」
「そうです、学校です。正確には制服デートですけど」
事の発端は、つい先日エリュさんとお買い物デートに出かけたときにはじまりました。
彼氏とデート中の女子高生が、こう口にしたんです。「制服デートしたことない奴って可哀想だよね!」と。
……制服デート。
いい響きです。実に素晴らしい。私とエリュさんに相応しい言葉です。すぐにでも実行したいくらいです。
想像してみてください。
瑞々しい制服姿のエリュさんを。セーラー服か、ブレザーか、あるいは……。世界で一番かわいい私のエリュさんのことです、どんな制服を着せても似合うとは間違いなし。
制服エリュさん――これは、革新です。
そして今の帝国は、東方大陸をほとんど制圧し、満州大陸からの資源で経済も順調。所謂、安定期に入っています。
国内は、異世界転移からの復興で好景気に沸いていますし、国力に余裕があります。
エリュさんを入学させて遊ぶとか、いろいろ無茶もできるわけですよ。
そう言うわけで……。
「入学しましょう? エリュさん、もうすでにおすすめの学校とか選んでいるんですよ」
「ええ……」
ちょっと嫌そうな顔をするエリュさん、「制服でデートしたいだけなら、別に入学しなくても……」なんて言っていますが。
わかってないですねぇ。
「いいですか、エリュさん。学生じゃない人が、制服を着てデートするのは制服デートではありません。コスプレデートです」
「学生が制服を着るからこそ、意味があると?」
「いえす、そう言うことです。ほら、もう制服も用意しているんですよ?」
そう言って、私はポケットから、じゃーん、と用意していた制服をいくつか取り出します。
普通のセーラー服に、黒のセーラー服、ブレザーを三種類ほどに、ファンタジー仕様のふりふりで可愛いやつに……。
「だから、どういう原理でポケットの中に入れてるんですか……?」
と、不思議そうにエリュさんはしていますが、これもメイドのたしなみです。
ちなみに、もちろん、どの制服もエリュさん向けにミニスカのニーソの絶対領域です。エリュさんの太ももが見えないと私の……いえ、帝国臣民たちの精神が安定しませんからね。
「えっと……」
「どの制服にします? お気に入りの指差してください。着せてあげるので、似合ったら入学しましょう」
ちなみに、おすすめはこのファンタジー仕様のやつですね。エリュさんのファンタジーな銀髪と良く似合います。
ほら、着てみませんか? と、エリュさんの前に差し出して……。
「じゃあ、とりあえず、その普通のセーラー……」
「え、ファンタジー仕様がいいですか? やっぱりそう思いますよね!」
はい、問答無用です。エリュさんにファンタジー風の制服を合わせてみます。
うん、悪くないですね。思った通り可愛いです。
やっぱり拒否権とかないんですね、とエリュさんは何か悟った顔をしていますが……まあ、いいじゃないですか、細かいことは。
「えっと、この制服はロンデリア王国のヘレルフォレード貴族学校の制服です。可愛いと思いませんか? 思いますよね?」
「かわいいですけど……。なんで、よりにもよって、海外の学校の制服なんですか?」
「えっ? まあ、この制服にはこだわりがありますし……国内の学校にエリュさんが入学したら大変なことになるからですね」
帝国の国民はみんな変態ですからね。
エリュさんが、入学したとなったら、その学校にとんでもない数の志願者が来て、パンクすること間違いなしですよ。
全国の学生がエリュさんの入学した学校に集まることになります。
受験戦争が過激化し、暴動、テロ、内戦、あらゆる危険が生まれます。
そうなると、混乱の収拾に手間がかかるので、大和人が入学できない海外の学校に入学させるのが一番なのです。
それに、貴族学校という響きも特別感があって素敵です。気に入りました。
はい。
そういうわけで、エリュさん、お着替えの時間です。
その軍服、脱ぎ脱ぎしましょうね。ちょうど、胸元とか軽く肌蹴ていますし、脱がしやすくてとてもいいですねぇ。
「ちょ、アヤメさん。どこに手を伸ばしてるんですか、それパンツです。パンツは脱ぐ必要ないですよね?」
「……ちょっと言っている意味が分かりません」
「えっ、まっ、あうぅ……」
気が付けば、ソファーの上で半裸になって涙目になっているエリュさん。
……ごくり。
じゃなくて、今は我慢です。ほら、制服を着せて「あっ、アヤメさん! だめ、そんなところ舐めたら……」。
……はい。
ちょっと時間がかかりましたが、出来ました。
あ、一応弁解しておきますが、舐めていた場所は首筋です。変な想像しないでくださいね。
「ほら、エリュさん、お着替え終わりましたよ。鏡の前に立ってみてください」
「んー……。んむ? ん、悪くないかも?」
私が用意した鏡の前で、くるくる回るエリュさん。まんざらでもない顔でニコニコしながら「やっぱりボク可愛いかも?」なんて。
ほらほら、そんなにくるくる回っているとスカートがふわっと、めくれ上がりそうになって……。
「アヤメさん?」
「……覗いてないですよ」
まったく、変態ですね、と、呟く制服エリュさん。
けど、やっぱりまんざらでもなさそうな顔。ほら、おとなしく私と一緒に入学しましょうね?
どうせ拒否権はないんですから。
あと、他の制服も一応着ておきましょうね。それで、写真集を出します。
他の人に私のエリュさんの可愛いところを見せるのは、ちょっと不服ですが、あんまりエリュさんを独り占めすると国民が暴動を起こしますからね。




