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第八十五話 氷結艦VS空母艦隊 後編

 空の魔王が混じった新型艦上攻撃機『海山』12機からなる攻撃隊は、時速200キロ近い速度で颯爽とセルシウス上空に到着。


「さあ、見せてもらおうか? 帝国の新兵器の性能とやらを」


 と、戦果を取られることにちょっと不機嫌そうな鮫島の乗艦『阿賀野』の上空で編隊を組み、攻撃態勢に移る。




 相対するセルシウスは回避できない。


 いや、そもそも自分たちに危機が迫ってきていることを、エルフ達はまだ気づいていない。


 船内からはろくに外の様子が分からないし、船外にいる乗員は、とうの昔に阿賀野の砲撃で粉々に吹き飛ばされているからだ。


 エルフ達は、分厚い氷に覆われた船内で大和帝国の苛烈な砲撃にも耐え抜く自艦の優れた防御力に感嘆し、ただ生き残れそうなことに歓喜するばかりなのだ。


 まあ、もっとも。


 仮に攻撃隊の姿が見えていたとしても、今のセルシウスは『阿賀野』の砲撃でマストを失い動けなくなっている。

 航空攻撃を回避できるほどの運動性能はないだろう。


 とにかく。


 演習のように全く動かない標的めがけ、空の魔王搭乗機を除く11機の艦上攻撃機『海山』が搭載している250キロ爆弾を水平爆撃で2発ずつ投弾したのだ。




「ちょい右……よーそろ、よーそろー……てぇっ!」


 次々に落とされる爆弾。


 それはヒュゥゥ……という、風切り音と共に、セルシウスに真っ直ぐ落ちていき……。


 ――炸裂。

 

 セルシウスの甲板に命中した爆弾は100kgを超える炸薬の威力を発揮し、巨大な黒煙を巻き上げる。

 その揺れは、12,7センチ砲とは比べ物にもならず、セルシウスの船体を大地震のように揺らす。


 その威力たるや、攻撃を受けたエルフ達が「なんだ!? 何の攻撃だ? まさか、これが神の雷か?」と勘違いするほどだったという。


「外れ、外れ……命中! 命中! 命中! 隊長、3発命中です!」


「22発中、3発か……悪くないな」


 命中精度は、それなり。


 発展途中の航空攻撃、それも命中精度の低い水平爆撃の結果としては悪くない戦果だろう。


 攻撃隊の乗員たちは、訓練の成果を発揮できたと満足げだ。




 だが……。


「被害は!?」


「甲板上に大威力の攻撃、しかし、甲板の氷が防いでくれました!」


 セルシウスはまだ沈まない。


 命中した250kg爆弾は、確かにセルシウスを大きく揺らした。しかし、甲板上の数メートルの氷を叩き割ることはできなかったのだ。


 氷の甲板に即座には回復できないほどのクレーターを作ることに成功したが、そこまで。


 それ以上の戦果にはならなかった。




 だが、彼らはまだ安心できない。


 彼らの上空には、まだ本命が残っているからだ。


「水平爆撃では精度が悪いな。命中精度が9割もあれば彼らだけで撃沈できただろう。やはり、時代は急降下爆撃だ」


「ちょっと待ってくれ、ルーデル。君がやりたいことはもう察しがついている。だが、君も、この機体の性能を知っているだろう? こいつは、攻撃機で急降下爆撃するようには作られて……」


「よし、行くぞ、ガーデルマン! 掴まっていろ!」


 そう、空の魔王である。


 彼は「艦艇への攻撃ならやはり急降下爆撃」と言わんばかりに、セルシウス上空で機体を翻すと、90度の直角急降下を開始。


 そのまま、高度400メートルまで肉薄すると爆弾を投下する。


 ちなみに、彼の後部機銃手、ガーデルマンの言う通り“艦上攻撃機”である『海山』には、急降下爆撃する能力は付与されていない。


 これも魔王の成せる業である。


 そして……魔王の狙いは完璧だ。


「狙うは、艦中央。先の爆撃のクレーターだ」


 最初の爆撃で作られたクレーター。そこは他の場所より、氷が薄くなっている。狙うならそこだ。


 そして、魔王が放つ爆撃は外れることは無い。

 

 彼が投弾した二発の250kg爆弾は、予定通りセルシウスの甲板のど真ん中、クレーターに命中。先の爆撃で削れていた甲板を貫通、艦内に突入する。


「か、艦長! 魔力回路室に、何かが侵入! 魔力回路が……」


「ま、拙いぞ! 伏せ……」


 そして、炸裂。


 セルシウスの急所ともいえる魔力回路室を一撃で粉砕した。


 砕け散る魔力回路。船内に蓄えられた大量のマナは制御を失い暴走。魔力を吐き出し、大爆発を起こす。


 悲鳴を上げる間もなく、巨大な閃光に包まれ吹き飛ぶセルシウス。


 元々、魔力回路を収めるための箱……木製の船であった場所は消し飛び、残るは艦底部などの氷の部分だけだ。


 この部分は氷の塊なので溶けるまでは沈まないが……黒煙に包まれるその船が戦闘不能であることは誰の目にも明らかだ。


「よし、撃沈だ。どうだ、ガーデルマン、案外うまくいくものだろう?」


「……はぁ、君は、いつもこうだ。僕はもう驚かないよ。さあ、手足が吹っ飛ばされる前に帰ろう」


 浮かぶスクラップと化したセルシウスを確認すると魔王たち攻撃隊は機首を母艦に向け帰還する。

 

 そして、鮫島もセルシウスの残骸を調査すると、『鳳翔』の護衛に戻った。




 かくして、セルシウスの撃沈、エルフ達の消滅と言う形で一連の海戦は終結した。


 この海戦は、後の報告を受けた総統閣下の発案で『第一次ハボクック事件』と呼ばれるようになる。

 氷で覆われた船、と言うことでなにやらピンときたらしい。




 して、このハボクック事件、第一次と言うように、一度だけでは終わらなかった。


 そう、セルシウスには同型艦が4隻もあったからだ。


 軽巡の砲撃では簡単に沈まないこの船の登場は、大和帝国に「異世界の技術でも、脅威になる可能性がある」ことを示唆させ、さらに同型艦が多数存在すると考えさせた。


 そして、大和帝国は、軽巡以上の打撃力を持つ船――伊吹型巡洋戦艦などを、この氷結艦狩りに派遣。


 第二艦隊が総力を挙げて、捜索、攻撃を行った結果……第二次、第三次ハボクック事件と4隻のセルシウス級氷結艦の内、さらに2隻を撃沈。


 合計3隻のセルシウス級を撃沈し、事件は一応の終幕を迎える。


 この事件は、「この世界に帝国の脅威となる存在はない」と高をくくっていた大和帝国にも、ある程度の衝撃となって受け止められることになった。


 その結果、「氷結艦を一撃でぶっ飛ばせる大型巡洋戦艦を作った方がいいのでは?」と言う声が上がり、伊吹型より大型の巡洋戦艦『金剛型』の建造を計画。


 さらに、艦載機も、より大威力の500kg爆弾を投下できるものや、魔王主導の下、急降下爆撃機の開発が始まるなど、兵器技術が急速に進歩していく。






 そして、一方の黒エルフ皇国。


 彼らは大きな代償を払い3隻のセルシウス級を失った。大和帝国から逃げきることができたのはたった一隻。


 だが、その生き残った最後のセルシウス級は……。


「……見えた! 大陸だ! 海を渡った先に、大陸があったんだ!」


「沿岸に街があります! あそこにいるのは……エルフです! 肌が白いですが、エルフです!」


 長い航海を終え、西方大陸にたどり着く。西方大陸沿岸に到着する頃には、魔力が尽き、普通の木造船になりながらの航海だったという。


 そして、航海を終えた彼らは、そこに住まうより進んだ文明を持つエルフ達――神聖エルフジア共和国に接触することに成功する。


 この接触は後に大きな影響を東方大陸にも与えるが、まだそれは先のこと。


 単なる新たな戦争の火種でしかないのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >総統閣下の発案で『第一次ハボクック事件』と呼ばれるようになる。 >氷で覆われた船、と言うことでなにやらピンときたらしい。  氷山空母……!!  元ネタより戦闘力がないし、ドリル戦艦でも…
[一言] 22発中、3発命中、水平爆撃なら普通に精度いいなあと魔王怖い((( ;゜Д゜)))、あと総統の考えたことが一瞬でわかった、まあロマンの塊だよねあの船は、また新たな火種が生まれるのか、学習せん…
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