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第七十一話 総統閣下とハイドリヒ

 大和歴305年11月20日。


 バルバロッサ山脈を突破し、ついにボクたちはドルチェリ国内に進入することに成功しました。


 その後も敵軍と出会うことはなく行軍は順調。


 ドルチェリ人たちの抵抗の拠点となっている、ドルチェリ王都『ベルン』にまで到達することに成功しました。




 ……それで。


「スパイ網はかなり役に立っているようですね、ラインハルト・ハイドリヒ」


「マインフューラー、全ては計画通りに」


 ここは、ベルンの中央通りから少し離れた場所にあるちょっと特殊なお店。


 どういうお店なのか、ちょっと説明しにくいんですが、その、えっと……わかりやすく言うとですね、美人な女の子が素敵なサービスをしてくれるお店です。


 お店に入るとおっぱいの大きい女の子たちが出迎えてくれて……えへへ。


 ここに入るとき、死ぬほど嫌そうな顔をアヤメさんはしていました。「浮気は駄目ですよ、絶対に」とかなんとか……。


 もう、浮気なんてしませんよー。


 まったく心配性なんですから。


「どうだか、おっぱいを見て鼻の下伸ばしてるくせに……」


 むう……。


 そんなに心配ならずっとボクから離れなければいいんですよ。ずっと、一緒です。




 で、そのお店の応接室的な場所。


 そこにボクとアヤメさん、あと親衛隊情報局長のラインハルト・ハイドリヒが集まって作戦会議のお時間です。


 む、このソファー硬いですね。最近、高級ソファーばっかりに座ってきたボクのお尻が拒絶反応を示しています。


「エリュさん私のお膝の上に座りますか」


 と、アヤメさんはお膝をポンポンしながらこっちを見ていますが……そうですね、お言葉に甘えましょうか?


「ん、満足です。ありがとうです、アヤメさん」


「どういたしまして。……んー、いい匂い」


 ……はい。


 まあ、向かい合うソファーにハイドリヒさんがいるので匂いを嗅ぐ以上の事はしてこないでしょう。




 して、このお店、ドルチェリにおけるハイドリヒさんの拠点なんですよね。どうして、彼はこんなお店を拠点にしたんでしょうか? 


 不思議です。


 ボクの後ろでアヤメさんが「変態野獣ですよ。エリュさん、そのアイスティーは飲んじゃだめですよ、絶対睡眠薬が入っています」なんて、言っていますが……。


 まさか、自分の性癖のためにこんな店を?


「マインフューラー、誤解です。単に、こう言った店は情報を集めるのに適しているというだけですよ」


「ふーん」


 ……昔ですね、ナチスドイツに、エッチなお店で情報集めして失敗して、「秘密はベッドで漏らされるという話はただの幻想なのだろう」って言った人がいるんですよ、知ってます?


 っと、まあ、そんなことはどうでもよくてですね。 


 このドルチェリについてはこのハイドリヒが一番詳しいんです。彼の築いた諜報網は完璧、ドルチェリ国内だったら貴族の不倫事件から敵軍の動きまで何でも分かっています。


 彼の細くて長い指を蜘蛛に見立てて『蜘蛛の巣』と呼ばれているとかなんとか……。


「それで、本題に入りましょう。敵軍の動きは?」


「諜報員の情報によると、ここから50km西の街『ランクルト』をつい昨日、9万の兵力で陥落させました。位置は……ここです」


 テーブルの上に広げられたやたら精密な地図を指差してくれるハイドリヒさん。


 どこからどう見てもファンタジー世界にあっていい地図ではないです。この人、ドルチェリ国内の地図も作っていたみたいですね。




 それで、ドルチェリ王国の東西の幅は300kmくらい。それで、王都ベルンはちょうど真ん中にあります。

 ここから西に50kmと言うことは……エルフは国境線から100kmほど進入してきていることになります


「……だいぶ進んでいますね。こちらの兵力は?」


「現地のドルチェリ兵2万を集めることに成功しました」


「エリュさんが連れてきた5万と合わせると7万の兵力になりますね」


 9万対7万ですか。


 このままなら十分勝機はありますね。ですが……。


「敵に増援は?」


「中央軍6万、北方軍9万が増援として向かってきています。早ければ二か月以内に合流するかと」


 で、しょうね。


 黒エルフ皇国の人口は推定で1億。


 これだけの人口があるのですから、たった9万ぽっちの兵力だけの運用なんてありえません。

 一塊に動かすのは兵站的に難しいでしょうから、分散していると思いますが次々に波状的に敵軍が押し寄せてくるのは目に見えています。


 その増援と合流されてはこちらは大きく不利です。


 一度決戦を諦めて本国で軍の再編をしなくてはならなくなります。


 つまりですよ。


 現有兵力で敵を倒したいなら、敵の増援が来る前に、この目の前の9万の兵力を消し去る必要があるためです。


 そのために必要なのは『決戦』。それも中途半端なぶつかり合いではなく、どちらかが壊滅するまで引けないほどの取っ組み合いです。


 そのための戦場に適した場所は……。


「……ここ、プディング高地はどうですか? ここで敵軍と決戦したいのですが」


「ベルンとランクルトを結ぶ街道にある高地ですか……よろしいかと」


 ベルンとランクルトを結ぶ街道。その中間にある高地『プディング高地』。北を山に、南を湖に囲まれた防御に最適の場所。


 ここを通りたくなければ、敵軍は大きく迂回しなくてはいけなくなる場所です。


「問題は相手が決戦に乗ってくれるかですよね、エリュさん、策はあるですか?」


「ん、まあ、ちょっとした策ならありますよ? ハイドリヒさん、敵軍に和平の使者を送ってください」


 ぴくんっ、とハイドリヒさんの眉が動きます。そして、「なるほど、ナポレオンの真似事ですか」と口にします。


「ん、そう言うことです。あとはデブー元帥に一万の兵を預けてベルンの防衛に就かせましょう」


「ちょ、エリュさん。いいんですか、ただでさえこちらの数が少ないのに兵力の分散なんてして」


「構いません、あの臭いデブならやってくれます」


 あのデブは見た目は悪いですが、どんな状況でも冷静。最低限の仕事くらいはできるはずです。

 麾下の獣人兵の練度も兵士としては悪くないですし、きっと成し得てくれるはずです。




 問題はここからどれだけ相手を誘い出せるかです。


 黒エルフ軍は時間をかけて増援がやってくるのを待てば、こちらに対しより有利に戦えます。相手だって馬鹿じゃないはずですから、今この段階で決戦なんてしてこないでしょう。


 ですが、それは困ります。


 なんとしても、増援が来る前に敵を誘い出さなくてはなりません。


 そのために無数の罠を張り巡らせます。




 まず一つ目は、デブー元帥に1万の兵力を預け、王都に配置。兵力を分散すること。


 これで、こちらの兵力は6万。敵軍が一層有利になります。数にして1,5倍と言ったところでしょうか? これだけ有利なら攻撃のチャンスかも……と思ってくれれば万々歳です。


 さらに、和平の使者を送ることでこちらが戦いたくないという意思を伝えます。


 やる気満々で待ち構えている敵は怖いですが、和平の使者まで送って戦いたくないと怯えている敵なんて怖くないですよね?

 敵の警戒心が無くなって「よし、攻撃だ」となってくれることを期待します。


 そして……もう少し罠を仕掛けたいところですがここでは無理ですね。


 一度、プディング高地まで前進しましょう。敵軍より先に占領したいですし。


「ハイドリヒさん、分かってますね」


「マインフューラー、分かっています。諜報員に連絡し、今すぐプディング高地までの兵站を整えさせます」


 ん、よろしい。


 では、ボクたちも急ぎプディング高地に向かいましょう。




 ……って、アヤメさんどうしたんですか?


 なんで、ボクのお腹をぎゅって抱きしめて離してくれないんですか?


「ハイドリヒ情報局長」


「どうかしましたか、アヤメ親衛隊長官」


「シャワーを借りたいのですが」


「わかりました、盗聴器は?」


「当然オフです。もし、入れたままにしていたら……」


 ちょ、アヤメさん? あの、えっと……。


「ここ数週間、ずっと行軍続きでしたからね。シャワーを浴びるいい機会ですよ? それに……こんな匂いかがされたらもう我慢できません」


 我慢できないって……もう仕方ないですね、ちょっとだけですよ?

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― 新着の感想 ―
[一言] ハイドリヒが地球の話するのはアピールなのか、知ってる人が居た嬉しさか。 史実の人材がゴロゴロ居るからこそハードな世界でも人類が生き残っているのかも知れない。 この世界、主人公が普通にイチャ…
[気になる点]  忠誠こそ我が名誉って刻まれた短剣を、魔王だの金髪の野獣さんだのに配ったら、離反されちゃったりしますかね?  某美大落ちの真似して馬鹿にしやがってなんて思われたりとか。
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