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第六十九話 総統閣下と強行突破

 ルシーヤ王国、北部。『バルバロッサ山脈』のふもとの森。


 その森を必死に駆け抜ける一人の冒険者の少女。


 彼女は、近所の村に住む駆け出しの新人冒険者。「ふんっ、薬草集めくらい一人でできるわよ」とイキって、危険な森にやってきたのだ。


「はぁっ、はぁっ、最悪……まさか、オークに見つかっちゃうなんて!」


 そして、その結果がこれである。


 その少女の後ろを追うのは三匹の豚面モンスター「オーク」。槍や棍棒などそれぞれの得物を振り上げ、ブヒヒッ! と、意地汚く笑いながら少女を追いかける。


 取って食ってやろうか? 


 それとも孕ませ袋にして子供を産ませようか? 


 そんな薄汚い算段をしながら少女の尻を追いかけまわしているのだ。……ちなみに少女はそれなりに可愛い――と、自称している。


 村ではおじいさんやおばあさんに「可愛いのう、孫みたいじゃ」と評判だったらしい。


 ……それってどうなのだろうか?




「なんでよ! 一匹ならまだしも、なんで三匹もいるのよ!」


 追いかけてくるオークに怒りの声を上げる冒険者の少女。


 戦うつもりなど毛頭ない、あんな化け物相手に一人で戦っても勝てないからだ。


 オークは、この世界では比較的多く見られるポピュラーなモンスターだが、決して弱いモンスターではない。


 むしろ、数が多く群れを作り、それでいて一匹一匹がそれなりに強いことから、初心者冒険者殺しとも名高い。


 体躯は小さい個体で170センチほど大きなものだと2メートルを超える。


 バルカ人に匹敵するほどの強靭な筋肉に覆われたモンスターで、鍛え抜かれた戦士に匹敵する力を持つ。


 これを突破するには、熟練冒険者による連携か、魔法攻撃か、あるいは、同様に鍛え抜かれた筋肉による攻撃が有効になるが……。


 少女は一人ぼっちだし、魔法も使えないし、筋力があるわけでもない。


 単に、冒険者になって一獲千金を狙っただけの一般人なのだ。


 逃げなければ食われるか、もっとひどいことになるか……。考えるだけで恐ろしい。


 何があっても捕まるわけにはいかない。


 だから、少女は必死に走る。


 だが、オークは足も速い。体格が良く、筋肉に優れるためパワーも瞬発力もある。


 筋肉、やはり筋肉は全てを解決する。


 少しずつ追いつかれる少女……少女の服にオークの手が伸びる。


「た、助けてっ!」


 すぐ後ろまで迫るオークの気配、少女は叫ぶ。一人で薬草取りくらいできるとか言ってごめんなさい! お父さん、お母さん助けてください、と。





 

 そんな少女の前に例のあの音が聞こえてくる。


 発動機の音とキャタピラの音だ。


「エリュさん、前方にオークです」


「アクセル全開、引き潰してください。いいですか、前進前進、また前進です」


「わき目も振らず、一心不乱に前進ですか。了解です」


 森の中の一本道を時速40kmで突っ込んでくる鉄の塊。


 それは『快速戦車』。


 砲塔も何もない、小さな装軌式の車体に直接20mm砲を載せただけの二人乗りのちっちゃな戦車モドキ。


 みんな大好きイタリアのカルロ・ベローチェそっくりと言えばおおよその外観が想像できるだろう。


 総重量3トンくらいの、軽トラより小さいような気さえする豆戦車が、総統閣下を載せてフルスロットルで三匹のオークに突撃したのだ。


「ブヒィィィ!」


 三匹のオークの内、左右二匹のオークは悲鳴を上げ、土煙を上げ突撃してくる戦車を横に飛び回避。


 冒険者の少女も身軽さを活かし「ふぉぉっ! なによこれ!」と叫びながら回避。


 だが、真ん中のオークは運がなかった。もう少しで、少女を捕まえられると思って油断した瞬間、目の前に鉄の塊。


「プギィーッ!」


 と、情けない悲鳴を上げ吹き飛ばされた。


 豆タンクがいかに小さかろうと、いかにオークがマッチョであろうと、やっぱり相手は戦車。


 最高速度で轢かれれば、単なる自動車事故である。


 ポーンと跳ね飛ばされたオーク。そのまま森の木々の中に消えていった。




「なんなのよ、一体」


 そう呟く冒険者の少女。


 そんな、彼女の前を十数輌の親衛隊機甲部隊所属の豆戦車が駆け抜け、その後を軍用トラック、バルカのマッチョたち、半獣人たちが駆け抜ける。


 ドタドタバタバタ……。


 まるで少女の存在に気づいていないように……ただただ前を見て、せかせかと狭い森の道を歩いていく。


 その数約5万。


 5万の軍勢が、森の中を突き抜けていくのだ。流石のオークもこの大群には怯えて、森の奥に引きこもった。




 この時少女が出会ったのは、総統閣下率いるアルバトロス解放軍である。


 森を迂回する時間が惜しいと、無理やり吶喊。森の中のモンスターを豆戦車で轢き潰しながら強行軍。


 ちなみにこの豆戦車、正式名称はまだない。


 弾薬運搬用の装軌車両に装甲と対空用に開発されていた20mm砲をポン付けしただけの代物だからだ。


 この車両、元々はインフラがない満州大陸に派遣された軍人が、その場で対モンスターように使えるように弾薬運搬車を改造したのが始まりとされているが……。


 とにもかくにも、軽戦車ですら走れるか危ういほど道が悪いアルバトロス連合王国でも使える貴重な機甲戦力であることに違いはない。


 こうして、アルバトロス解放軍は直進行軍。


 森を越え、最初の要所『バルバロッサ山脈』にたどり着く。




☆☆☆☆☆




 豆戦車の車上から見上げるのは、山頂に白い雪が見える雄大な山脈『バルバロッサ山脈』。


 なんとか予定通りの速度で、この地まで到着しました。

 

 ふむ、筋肉の塊のバルカ人はともかく、半獣人軍も意外に頑張りましたね。モスカウからここまで、一週間程度の無停止行軍でしたがよくついてきました。


「……はぁ、はぁ。ふぅ……ここで弱音を吐くわけにはいかないでしょ? だって、この戦いは私達半獣人が国際社会に認められるかかかっている大事な戦争なんだから」


「そうですね、ミケさん。ちょっと休んでいいですよ」


「……けほっ、そうさせてもらうわ」


 ボクの乗る豆戦車の隣で、荒い息をしているミケさん。


 ボクは戦車に乗っているから楽にここまで来ることができましたけど、この人徒歩で自動車化部隊に着いてきましたからね。

 よく頑張りました。休んでください。


 あっ、ちなみに戦車の操縦はアヤメさんです。


 最近取ったばかりの履帯式用の自動車免許を西大尉に見せびらかしながら操縦席に乗り込んで、「ドライブデートと洒落こみましょう」とかなんとか……。


 この豆戦車、二人乗りなので、専属運転手の西大尉に運転してもらうとアヤメさんの居場所がなくなってしまいます。


 それは嫌らしいので意地でもアヤメさん自身で運転したかったみたいですね。




「それで、どうしますか、エリュさん。この山脈を越えるにはあの山道を通るしかないですが……エルフ軍がすでに展開しています。先の『ガハラ門の戦い』で鹵獲された砲も備えてあるみたいですね」


 操縦席のアヤメさんが見つめる先。


 ここからほんの数キロ先、山脈に向かって延びている山道には黒エルフ軍がすでに展開。鹵獲品らしい大砲を並べて、こちらを待ち構えています。

 

 あの山道がこの辺りで唯一、バルバロッサ山脈を越えることができる道です。あの山道を突破しない限り、ボクたちは前進できません。


 山道を守るエルフの防衛拠点の数は四つ。


 第一から第四陣地までが道に沿って配置され、順番に突破していかないといけないようです。


 そして、砲の数はそれぞれに二門ずつ。最後の第四防衛陣地だけは四門配備されているようですね。

 それぞれの防衛陣地には数百のエルフ兵がたむろし、砲を守るように展開しています。


 数は多くないですが……。


 狭い道に砲があるのが非常に厄介です。道に並んで突撃したところで、ブドウ弾でも撃たれれば一撃で薙ぎ払われます。


 所詮は守備隊、数はすべて合わせても数千と多くないですが……こうも狭い山道ではこちらの数を活かすことができません。


 流石に山の急斜面を登って攻撃は無理ですし、どうやって突破しましょうか?


「……豆戦車で突破」


「不可能です。装甲が薄いのであの旧式砲でも貫通されます」


 ん、そうですか。初速も遅い、ただの鉄球しか撃てない前装式の旧式砲ですが……豆戦車の装甲はないに等しいですからね。

 てか、山なんか登ったら転がりそうです。


「やっぱり、迂回した方がいいのでは? エリュさんを危険には……一度本国で徴兵したっていいんですよ? ほら、そっちの方が確実ですし」


 と、アヤメさんは言っていますが……。


 暫し考えます。


 確かに、本国で一度軍を用意し、進攻すれば確実にダークエルフは撃滅できるでしょう。


 ですが、そうすると時間がかかりますし……そもそも、鉄道どころかまともな道路もないアルバトロスの地で膨大な物資を消費する近代兵器を活かせるかは、甚だ疑問です。

 モルロ戦線と違ってあらかじめ準備をしているわけでもないですし……。




 手持ちのこの兵力で、倒せるならそれに越したことはないんですよ。


 周囲を見渡して、何か使えそうなものはないかと……って。


「……アヤメさん、あの騎兵はなんですか。大きな羽飾りを付けた連中です」


「彼らですか? 彼らは、ポルラント騎兵ですね。ポルラント独立のために協力すると」


 武士が旗を背負うが如く、馬の背にでっかい羽飾りを装備した騎兵隊。ポーランドの重騎兵フサリア的な奴ですかね? 

 兵種としては胸甲騎兵に近いものかも?


 数は150くらい。一個騎兵大隊と言ったところでしょうか?


「士気は?」


「極めて旺盛かと」


 ん、そうですか。


 では……。


「ポルラント騎兵に下命します。敵陣地を奪取せよ」


「エリュさん、それは無理です。あの陣地を騎兵で突破なんて、自殺行為です」


「構いません、ポルラント騎兵に任せてください」


 まあ、気合い入れて突っ込めば第一陣地くらいまでなら取れるでしょう。今回のポルラント騎兵には一個だけでいいので陣地を奪ってきてもらいます。


 何回か繰り返せば、最終的には突破も……不可能ではないはずですから。

 ちょっとした兵器解説『豆戦車』


 車重 3トンくらい 

 武装 20mm機関砲 一門

 装甲 そんなものは無い。

 最高速度 たぶん40kmくらい

 発動機 液冷四気筒45馬力

 乗員二名


 某イタリア軍の豆戦車そっくりの車両。正式採用された兵器ではないが、弾薬運搬車を現場改修したりして作っているらしい。

 6トン級軽戦車でも運用に苦しむほどインフラの整っていない異世界では、こんなちびっこい戦車でも意外に活躍できるらしい。

 名前募集中。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ちょっとした兵器解説『豆戦車』 >名前募集中  “豆”戦車が弾をバラ“蒔く”訳ですから、節分関係ですかね?  鬼を追い払う逸話からなら“オーガキラー”  “オーガキラー”だと鬼退治になっ…
[一言] 電撃戦はそういう意味ではないよ、エリュさんはそれていいの?
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