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第六十七話 総統閣下はお怒りのようです

「どうですエリュさん、万が一に備えて作らせた総統地下壕は?」


「んんっ、悪くないですね。秘密基地感があって好きです」


 モルロ戦線から大和本国に帰ってきたら、面白い物が作られていました。


 なんと、総統官邸の地下にコンクリ造りの武骨な地下室『総統地下壕』が建設されていたんです。


 この世界には飛行するモンスターとかいますし、万が一に備えて作ったそうです。


 秘密基地っぽくてロマンがありますよね、こういうの。ボクの好みに一致します。


 


 それで……。


「おお、閣下に喜んでもらえるとは幸いです。わが社が技術の粋を集めて作った甲斐がありますな」


「陸軍としても、これほどの地下要塞があるのなら安心できますな」


 今日はその完成披露宴的な奴で、軍のお偉いさんとか、建設にかかわった建設会社のお偉いさんとか政府高官とかいっぱい集まってきています。


 20人くらいでしょうかね? 狭い地下室がパンパンですし、なんなら廊下の外まで人、人、人で溢れています。


 ボクは、会議地図室のテーブルに座って、お洒落のためにかけた眼鏡をくいっとします。


 ふふんっ、結構絵になるんじゃないですか?




「失礼……ああ、失礼、通らせてもらいますよ」


 ……っと、外が騒がしいですね。

 

 誰かが、人込みをかき分けながら向かってきているみたいですね。


 がちゃんと、扉が開いて……。あっ、ビーストバニア戦争で参謀をしていた辻さんですね。本国でも参謀か何かやっているんですか、出世しましたね。


「閣下、ルーナ王国が裏切りました。アルバトロス連合軍は敗北、敵は戦線を広範囲にわたって突破することに成功したようでありますな」


「……はいっ?」


「ダークエルフ軍は、ルシーヤ、ドルチェリに侵攻中。ルーナは隣国のフレートに10万の軍勢で攻撃を仕掛けております……」


 ……あの、いきなりでちょっと処理できないと言いますか。


 えっ、裏切り? 負けた? あと、辻さん、そのパンは何ですか「パン食う?」って、食べませんよ。

 あの、その……。


「アルバトロス連合の反撃で、秩序を取り戻すと思いますが……?」


 ほら、ドルチェリもルシーヤも弱い国ではないですし。ロンデリアもいますし? フレートはすぐ降伏しそうですけど、ほら、なんとかなりますって。


「総統閣下……」


「アルバトロス連合軍は……」


「アルバトロス連合軍は、すでに壊滅しています。王族はルーナの裏切りで捕らえられ国家機能が麻痺、もはや戦闘力は……」


 ……つまり、それは、その……裏切られて、アルバトロス連合王国が完全に陥落したと?


 なんでしょう、この感覚。


 え、ルーナが、こんな大事な時に? 堂々と、ボクたち大和を裏切った? あの、その、久々に、キレてしまいました。




 ぷるぷると震える手で、眼鏡を外します。


「以下の者以外は部屋から出て行って下さい。辻さん、陸軍のハゲ、海軍の角刈り君、あと、親衛隊情報部の金髪……あんぽんたん」


 ぞろぞろと、みんなが部屋を後にしてくれます。……って、呼ばれてないのにさりげなく残るんですね、アヤメさん。


 それでっ!


「なぜ、裏切りが分からなかったんですか!? 情報部は無能ですか!?」


 思わず叫んでしまいます。なんなんですか、こんな大規模な裏切りに気づかないとか、現地の諜報員は何をしていたんですか?


 アヤメさんは、「エリュさん、落ち着いてください! ほら、晩御飯のことでも……」とか、言ってますけど……それどころじゃないんですよ、分かります!?


 手早く、「鯛が食べたい! あと、ボルシッチィ!」と答えておきます。


 急に食べたくなりました。


「まったく、あなたたちは……って、あいたた、あふん」


「あっ、エリュさんいきなり立つと危ないですよ。机にお膝ぶつけて……ああ、怪我はしてないですね」


 むう……痛いじゃないですか、この馬鹿机!


「裏切者は大っ嫌いです! この机も、ルーナの馬鹿も、すぐにボクを裏切る! あいたた……バーカ! ちきゅしょーめ!」


「あっ、噛んだ。可愛い」


「てか、なんなんですか、あのルーナの連中は! 貴族だとか王族だとか、そう言うのは名ばかりで、戦場も外交もクソも知らず、知っているのはナイフとフォークの使い方だけじゃないですか!?」


「閣下、落ち着いて……」


「うぉっ! これが落ち着いてられますか! あの連中と来たら、いつも私の計画を妨げる!」


「……エリュさん、ほら、なでなでしてあげますから」


 なでなでくらいじゃ、今日のボクは止まりませんよ! 言いたいこと言わせてもらいます。


「イッツ、判断力足らんかった! 私も粛清しておくべきでした、スターリンのようにっ!」


「おい、スターリンって誰だ? 知らんぞ?」


「アカの親玉だ。国際ユダヤの手下だ」


 そこの親衛隊情報部の野獣のような眼をした金髪! なんですか、国際ユダヤって、そんな怪しげなワード使わないでください。

 てか、そもそもあなたがしくじったから、裏切りに気づけなかったんですよ! ばーか!


 アヤメさん、椅子引いてください。座るので……ありがとです。


「はぁ、はぁ……。私は士官学校なんて出てませんが、この国をここまで立派な強国にしましたよ」


「……だいぶ落ち着きましたね、エリュさん。ほら、私の胸に飛び込んできてください。もっと、落ち着けますよ?」


「んっ」


 おっぱいぷるんぷるん! アヤメさんに、抱きしめられると無性に落ち着きますね。まあ、言うほどないですけど、おっぱい。


「おお、これが百合か! 目に刺さるニャン!」


 とか、なんとか聞こえますが、無視です。






 ……ふぅ、じゃあ、そろそろ真面目に行きますか。


「これは帝国臣民、いえ、我々人間への恐るべき裏切りです。ルーナの奴らはその血で償う必要があります。角刈り君、柴田さんを呼んで下さい」


「柴田と、いいますと、海軍航空開発局の柴田ですか。現在大型爆撃機を開発している……」


「そうです、それに命令してください。今開発中の爆撃機をすぐにでも実戦配備してください。名前は……そうですね、仮に報復兵器一号としておきましょう」


「報復兵器一号。と、言うことは二号、三号も?」


「当然です」


「はっ、了解しました」


 ん、それで……。


「陸軍。動かせる師団は……無いですよね」


 モルロに四個師団、満州大陸の開拓に二個師団、さらに各地の防衛兵力を考えると……外征できる部隊なんて……。


「……我が軍以外なら、ルシーヤのディアナ女王が捕らえられたと聞いたバルカ王自ら2万の兵を差し出してきました。エリュサレム半獣人国も正規軍2万を派遣できると」


「それだけあれば結構です。即座に輸送船に詰め込んでください。私自ら指揮を執り、エルフ軍を撃退します」


「はっ、了解しました」


 4万の兵力と、後は現地で散り散りになっている部隊をかき集めれば……エルフ軍くらいなら撃退できそうですね。


 近代兵器を装備した我が軍の部隊ではないのが不安ですが……相手も同条件、叩き潰します。


 その後はルーナです。


 どういう思考回路をしたら、この土壇場で裏切って怒られないとでも思ったんですかね? 

 せっかく安定した市場になりかけていたアルバトロス連合王国をボロボロにした罪はしっかり償ってもらいます。


 ボクはね、裏切り者が大っ嫌いなんですよ。


 分かりますか、アヤメさん。


 


 ……てか、いろいろあって、ツッコミ損ねましたが。


「その金髪、誰なんですか? 絶対その人も大和人じゃないですよね?」


 親衛隊情報所属の怪しげな金髪を指差します。

 

「彼ですか? 彼は、ラインハルト・ハイドリヒと言って……自称ドルチェリ人の情報将校です。優秀なので、現地スパイ指揮官としてスカウトしました」


 知らない間に情報部のトップまで出世してましたけどね。と、アヤメさんは続けます。


 ラインハルト・ハイドリヒ? どこかで聞いたことがある名前のような。うーん、思い出せません。

 凄く聞覚えがあるんですけど……。


 あっ、昔ナチスにいませんでした? そんな人。 


 ……まあ、異世界ですし、似ているだけの別人ですよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲェー!金髪の野獣殿?!
[一言] 名シーンですね、分かります。www
[良い点] 総統閣下のネタが来るとは思わず、すごく笑わせていただきました(笑)
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