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第六十五話 総統閣下とちょっとした小話

 大和歴305年8月21日。


 モルロ攻略作戦「平原の嵐作戦」が発動されてから、三か月くらい経ったでしょうか? 


 港町ジュノーに停泊する総統専用艦『富嶽』、その総統執務室に大きな荷物が届けられました。


 それが何かと言うと……絵画です。


 筋肉モリモリマッチョマンの変態が、大砲を担いでモルロ軍と対峙する絵です。


「エリュさん、バルカ王からプレゼントです。題名は『レウトラの戦いにて、敵将ドルジクと戦うバルカ王』……だとか」


「そのまんまの題名ですね……で、これをどうすればいいんですかね?」


「さあ? ルシーヤの王女様にでもプレゼントします? 喜びますよ、きっと」 


 ん、そうしましょうか。


 気持ちは嬉しいですが、こんな暑苦しいおっさんの描かれた絵を飾るのはボクの趣味じゃないですし。




 さてさて。


 この絵を見てもらえばわかる通り、つい先日、バルカ軍とモルロ軍の決戦、『レウトラの戦い』が勃発しました。


 双方の兵力は……。


 バルカ軍、10万。


 モルロ軍、龍騎兵700、騎兵2万。


 数ではバルカ軍が遥かに優勢であるものの、モルロ軍には精強な龍騎兵が多数存在していました。


 戦列を組み、一斉射撃を浴びせるバルカ軍。龍騎兵の突破力に任せ、戦列中央を食い破らんとするモルロ軍。


 この戦いは、絵画に描かれている通り、一時はバルカ王の目の前にまで敵将ドルジクが突撃してくるほどの激闘になったそうです。


 が、ボクたちが売りつけた抱え大筒の威力もあり、何とかバルカ軍が勝利したとか。


 ただ、被害は決して小さくなく、激戦になった丘はあまりに多くの血が流れたことから「流血の丘」とか「涙の丘」とか呼ばれるようになった……と報告書にありますね。


 この絵画は、この勝利を報告し、ついでにお祝いするために描いたものらしいです。


 ……うん、ルシーヤさんにプレゼントしましょう。きっと、未来の旦那さんの雄姿を見ることができて嬉しいはずです。




 さて。


 我が大和軍も、クルツクの戦いにて敵軍主力を撃滅していますし、モルロにおける大東亜共栄圏の優勢は確固たるものになりました。


 あとはこのまま平押し、軍を並べて微細な抵抗を牽き潰すだけです。


 モルロの国土そのものがかなり広いですし、今すぐに攻略できるとは思いませんが……大丈夫でしょう。


 こうなってしまえば、もうモルロにボクがいる必要はないですね。これ以上の決戦は起きなさそうです。


 荷物の受け取りに、『富嶽』まで帰ってきたところですし……。


「アヤメさん、このまま一度本国に帰還しましょうか?」


「了解しました、エリュさん。……っと、その前にあの男に勲章を授与しなくてはいけませんよ」


「……またですか? このペースで行けばそう遠くないうちに新しい勲章を作らないといけなくなるんですけど?」


 あの男、勲章でもう察しが付くと思いますが、あの人です。


 毎日、休むことなく出撃しているらしくて……最近は平原を飛んでは「すべてが静かに、まるで死んだように見える」とか言っているそうです。


 いや、実際に全部死んでいるんですけどね、モルロ軍。主に、あなたのせいで。


 この数か月でさらに戦果を伸ばして、帝国騎士鉄十字勲章をいくつか受け取っています。今、どこまで進んでいましたっけ?


「柏葉付です。次は剣が付くかと」


「はぁ、その次がダイヤモンドで……」


「その先は、ありませんよ」


「新しく作らないといけませんね。黄金柏葉剣ダイヤモンド付にしましょう。12個だけ作って、帝国を救う英雄にプレゼントするとかどうですか?」


 結局受け取るのはあの男だけでは? と、言いたげなアヤメさん。


 わかります、凄くわかります。


 なんなんですか、あの人。本当に人間ですか? 




 ……っと、ノックの音です。


「閣下、私です。艦長の夜桜です」


「ん、入っていいですよ」


 入室許可を出すと、失礼しますと言いながら、執務室に夜桜さんが入ってきます。


「先ほどアルバトロス方面から連絡が入りました。黒エルフ皇国に対し出兵するとのことです」


 アルバトロス連合王国が、出兵ですか。


「そうですか……問題はないと思います。外務省に連絡を密にするように連絡、武器支援だけは進めておきましょう」


「はっ、了解しました」


 サッと敬礼して部屋を後にする夜桜さん。


 相変わらずぷるんぷるんですね。


 羨ましい限りです……って、違う。羨ましくはないです、ほら、だってボクは元男ですし? 別にそんなに大きくなくてもいいし……。


「……どうしたんですか、エリュさん。やっぱりまだ巨乳に未練があるんですか? 私と将来を誓い合ったというのに」


「ううん、違いますよ」


 ……最近、自分が男だったということを忘れそうになるんですよね。


 間違いなく、アヤメさんのせいですよ、あんなことばっかりするから……。


 はぁ……アイデンティティの危機です。




 っと、アルバトロス連合と言えば、あのルーナ王国はどう動くのでしょうか?


 ボクたち大和帝国のご機嫌を取りたいのか、マスケット銃である『四式小銃』を10万丁くらい購入していているんですよね、あの国。


 大砲なんかも100門単位で購入していますし、アルバトロス連合内では一番多く兵器を輸入していることは確定です。


 てか、むしろ、他の国全てを足したのと同じくらい買ってるんじゃないでしょうか? 


 つい先日追加発注で5万丁くらい小銃を購入したみたいですし。弾薬だって過剰なくらい買っています。


 アルバトロス内トップの軍事力を手に入れたと言っても過言ではないですね。


 あれだけの軍備、遊びや見栄でそろえるとは思えませんし……。


 まさか、本気でエルフを潰しに行くつもりなのでしょうか? だとすれば、今後帝国はどう動くべきでしょうか?

 モルロ方面軍の一部を南下させて、エルフ領内に進攻させるというのもありかもしれませんね。


 補給が死にそうですが。




 南下、いろいろ考えていると変に疲れます。早く本国に帰ってオペラを見に行きたいですね。


 出来ればアヤメさんも、オペラに興味を持ってくれればうれしいのですが……残念なことにあの人は、そう言うのに全く興味がないらしいです。

 この前一緒に見に行った時だって、オペラなんて全く見ずに、ずっとボクの太ももを……。


 はぁ……。


「どうしたんですか、エリュさん。ため息なんかついて」


「何でもないですよ、アヤメさん。それより、ボクが発注した新型戦車はいつ完成しそうですか?」


「88mm砲搭載の新型重戦車ですね。まだ、設計も終わってないので実戦投入可能になるのは早くても一年か、二年先ですね」


 ん、そうですか。


 いやぁ、最初は重戦車なんていらないと思っていたんですけど。88mm砲の大威力を見ると欲しくなっちゃいますよね。


 今の帝国の技術力では難しいものがあるかもしれませんが、エンジンメーカーは400馬力級のガソリンエンジンの開発に成功しているみたいですし……。


 最低限動くものはできると思います。


 てか、試作重戦車としてなら60トン級の化け物も作っているみたいですからね、ボクの国。フランスのシャール2C重戦車みたいなやつです。


 あんまり重いので、自国で使う気にもなりませんし、ゲーム時代もあまりに高価なので売れた記憶がないものですけど……うん。


 あと他には……。


「海軍の新型機がそろそろできたとか?」


「450馬力星形空冷レシプロエンジン『木星』を搭載した新型艦上戦闘機ですね。……肝心の空母が、商船改造の練習空母一隻しかないので実戦参加は出来そうにないですね」


 海軍の新型艦上戦闘機『海風』……日本海軍が使用した『三式艦上戦闘機』みたいなやつです。


 帝国の技術の粋を集めた450馬力『木星』エンジンを搭載、複葉で200km以上発揮する高性能機ですが、まだ、実戦参加は不可能ですか。


 残念です。


 しかし、あの『木星』エンジンはいいエンジンですよ。


 既存のエンジンの倍以上の馬力ですからね。これを使って新型対地攻撃機とか作っちゃいましょうか?

 兵器解説 艦上戦闘機『海風』

 

 最高速度230km 実用上昇限度5000m 航続距離400km 上昇力毎秒6m

 発動機 空冷星形九気筒レシプロ『木星』 450馬力

 武装 7,7mm機関銃 二挺

 爆装 30kg爆弾 二発

 乗員 一名

 海軍初の戦闘機。大日本帝国海軍が運用した『三式艦上戦闘機』に酷似した外観を持つ単発、複葉の単座戦闘機。

 空力的洗練はされておらず、馬力の割に性能は低い。


 ……実は、『木星』エンジンの紹介のために名前が出てきただけの可哀想な機体。エンジンは本編で活躍させる予定ですが、この子が活躍するかは未定。たぶんしない。

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― 新着の感想 ―
[一言] >実は、『木星』エンジンの紹介のために名前が出てきただけの可哀想な機体  …………(白目)  駄目だ。 木星エンジンなんて縁起の悪い名前は……。  しかもカタログスペック“だけ”はご立派な…
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