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第五十九話 モルロ戦線

 今回はちょっとした説明になります。

 大和歴305年5月。


 東方大陸中央部、アメリカ大陸で例えるならアメリカ合衆国の位置を治める大国、『大天モルロ帝国』に不幸が降りかかった。


 大和帝国が、大東亜共栄圏発足記念に行う軍事作戦――『平原の嵐作戦』が発動されたのだ。


 ターゲットは、当然、大天モルロ帝国。


 この遊牧民族国家を粉砕し、この地から追放することでかつてモルロの地に存在していた国々を復活させ、帝国の生存圏に組み込む。


 それを目標に掲げ彼らは軍を動かし始めたのだ。




 この作戦に投入された戦力は、その多くが陸軍部隊だ。


 陸軍モルロ方面軍と命名されたこの部隊は、第一海兵師団、第三歩兵師団、第四歩兵師団、第一機甲師団からなる合計6万。


 これに親衛隊など、こまごまとした兵力を追加。


 現在の帝国陸軍の総兵力が20万であることから、この作戦には陸軍の三分の一ほどが投入されたことになる。


「物資の大半は『最終戦争』のために用意していたものを流用できるからいいものを……転移してから一年と少ししか経っていないのに、これほどの軍事作戦を行うとは思わなかった」


 帝国高官が思わずこう口にしてしまうほどの大兵力だ。


 だが、それだけにとどまらない。


 何しろ、これは『大東亜共栄圏』――即ち、人間の威信をかけた戦いなのだから。


 バルカ王国軍10万。モルロ帝国に滅ぼされた小国たちの祖国解放軍2万。どういうわけか、遠路はるばる派遣されてきたルシーヤ王国の義勇軍2000。


 これらの兵力を合わせれば、その合計の兵力は約20万にも膨れ上がった。東方大陸の歴史に名を残す大兵力だ。


「おお、流石女神殿だ! 神の杖――抱え大筒も十分揃った。我らがバルカの勝利は確実! この戦を戦女神に! そして、将来の妻に捧げよう!」


 出陣式の前夜。


 バルカ国王バアル・バルカは勝利を確信し、戦女神ヘルヴォルを祭る神殿で高らかと宣言したほどだ。






 そして、それほどの兵力を用意できたがゆえに――『平原の嵐作戦』は極めてシンプルだ。


 この大軍の物量に任せて、バルカ半島から一気に東進。鉄道網を敷設しながら進み続け、モルロ帝国領土を一気に押しつぶす。


 それだけだ。


 大和帝国は、これを戦などとは思っていない。


 もうもはや、作業だ。地図を塗り絵していくかの如く、大軍をもって蛮族を牽き潰す。


 これほどの作戦になれば、大きなコストがかかるが……今回は、負担を共有してくれる仲間がいるし、将来的にこの地域は『大東亜共栄圏』のモノになるはず。


 先行投資、としてみればそれほど悪いことにはならないだろう。


 おまけに、各種『新兵器』の実験もできる。


のちに、この作戦に参加した陸軍将校は「この戦争は戦いではない。巨大なモルロの平原を舞台にした大規模兵器実験だ」と語ったという。


 作戦期間は最大で1年を予定。


 モルロ帝国の広さを1年で蹂躙するなら、それはほぼ無停止侵攻になる。だが、大和帝国はそれを成しえるだけの兵力を用意できたと判断したのだ。






 作戦開始当日、まず動き出したのはバルカ軍だ。


 バルカ人によって編成された四個軍団計10万の兵力が、整然と隊列を組みバルカ本土より越境。モルロ帝国への進攻を開始。


 これに抵抗したのは、現地のモルロ人。


 モルロの各地で“狩り”を行っていた彼らが、侵入してきたバルカ軍に反応、迎撃を行ったのだ。

だが、これはバルカ軍にとって大きな抵抗にはならなかった。


 この時のモルロ人は“狩り”を行うために編成された少数部隊だった。多くても龍騎兵10騎、騎兵100騎。


 現代の軍隊で言えば、偵察部隊に近い。


 強大なモルロオオトカゲを使う龍騎兵とは言え、これほど数が少なければ怪物的戦力を持つバルカ主力と戦えない。

 おとなしく逃げるか、玉砕覚悟で戦い粉砕されていった。




 さらに、このバルカ軍の攻勢に続き、モルロ沿岸の各都市に大和帝国軍が上陸。


 最も困難を極めると考えられていた上陸は、先んじて上陸予定地の街を改装するなど大掛かりな準備していたこともあり成功。


 被害無く帝国軍は、モルロの地を踏むことに成功した。


 この上陸した部隊は、第一機甲師団、第一海兵師団からなる機動打撃軍に、陸軍二個師団を追加した大和軍主力だ。


 帝国の持つ唯一の機甲師団を主力としたこの部隊には、前線大好きな総統閣下も当然のように参加。

 親衛隊戦闘団を自ら率いて、機甲部隊の後を追った。




 その後の作戦も、おおむね順調。


 一時、上陸した総統閣下の近くに、先行した機甲師団が見逃したモルロオオトカゲが接近してくる事態が発生したが、それもすぐに親衛隊機甲大隊の戦車砲で解決。

 

 ミスを犯した機甲師団長が、とあるメイドにぶん殴られるなど、ちょっとした混乱が発生したがすぐに収まった。


 参加各師団は、大きな抵抗を受けることなく前進を続け、十分な橋頭保を確保した。


 ここまでは完璧な進攻。


 まさしく、電撃的な勝利だ。

 

 だが、これは出来て当然。20万の軍勢が急に越境してきて、完璧に対応できる国家など、この世界に存在しないのだから。


 問題はその後、モルロ帝国が大和帝国、バルカ軍の侵入を確認し、どう対応するかだ。




☆☆☆☆☆




「我が長男ドルジクよ。我が次男バッティーンよ。良く集まってくれた」


「はっ、父上」


 とある平原に立ち並ぶ遊牧民的建築物“ゲル”。


 大きなテントともいえばいいその建物の中に、モルロ人の“ハーン”――他の文化では“皇帝”と訳される男が立っていた。


 背はそれほど高くないが、プロレスラーや相撲取りに匹敵するほど、ずんぐりとした体格をしており、身長の割には大柄に見える。


 服装は、遊牧民らしい質素なもの。


 金銀の装飾品こそ身に纏っているが、体格とも合わさって、いかにも戦士と言った風貌の男だ。


 優美な文化も、豊かな生活も不要。


 人類の本能「狩猟を楽しむ心」に全てをつぎ込む。


 そんなモルロ人の生き様に相応しい統治者だ。




 そして、彼の前に跪く男二人。


 二人ともハーンと異なり背は高い。が、体格はよく似ており、手足が短く太っておりずんぐりとした印象を受ける。


 彼らは、モルロ帝国の皇太子。ハーンの息子たちだ。


「聞いているとは思うが、バルカ人どもが攻撃に出た。さらに、海を渡って大和なる国の軍勢が上陸してきたとの報告がある。ドルジクよ、軍を率いてバルカ人どもを攻撃せよ」


「お任せください、父上。わしが、バルカ人殺す。全員」


 ちょっと片言なドルジク。たぶん、戦闘能力にIQを振り過ぎて、言語能力が低下したのだろう。

 彼に与えられた軍勢は、オオトカゲを使う龍騎兵700騎を主力に騎兵2万騎を追加した部隊だ。


「うむ、では、バッティーンよ。お前は大和を仕留めよ。1000騎の龍騎兵を貸し出そう」


「はっ、ご命令のままに……」


 こちらは、ちゃんと喋れるバッティーン。深々と頭を下げ、軍勢をハーンから拝借する。


 龍騎兵1000騎に騎兵3万騎。ドルジクに与えられた軍勢より一回り多い軍勢。並みの国家ならこの一軍だけで蹂躙できてしまう大軍団だ。




 ドルジクとバッティーン。


 二人の将に率いられた軍勢は、一路西のバルカ国境付近に向かう。


 騎兵と龍騎兵のみによって編成されたモルロ軍の行軍速度は早い。あっという間に、彼らは戦場に到着し、大和帝国を始めとした大東亜共栄圏軍と相対することになる。

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