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第五十七話 少年と親衛隊

 目を覚ますとゴドリックは不思議な場所にいた。

 

 どこにいるのか一言で言えば救急車。軍用トラックを改造した親衛隊所属の車両だ。


 幸運にも、大和帝国親衛隊と出会い、モルロ兵の攻撃から生き残ることができたゴドリック。


 彼は、気を失っているところを親衛隊に発見され「あれ、こいつ、モルロ人じゃなくない? 現地民に恩を売るためにも拾っておく?」と救助されたのだ。


「痛ってっ。もうちょっと優しくしてくれよ」


「……君はうるさいな。それでも男かい? 痛みを訴えるなど情けない」


 救急車のベッドに座り、矢を受けた肩に包帯を巻いてもらうゴドリック。


 似合いもしないメイド服を着た親衛隊のメガネ女軍医さんは、そんな彼をまるで養豚場の豚でも見るような目線で見つめる。


 ちなみに彼女は今年で37歳。


 若くて美人の女性しか所属できない親衛隊的にはそろそろ危ない年齢だ。


「それで、この後、君には総統閣下と会ってもらう。君はこの地域の現地民のようだからね、情報を聞き出したいのだろう」


「総統……?」


「君のような低能に説明するのなら、国王とでも言った方がいいかい? まったくこれだから田舎者は」


 ……ちなみに、この軍医さん。別に、ゴドリックを嫌っているわけではない。単に男が嫌いなだけである。

 特に情けないタイプの男は、吐き気を催すほどに嫌いらしい。


 過去にいろいろあったのだろう。


「いいかい、総統閣下は本来君のような薄汚いゴミと関わるようなお人ではない。くれぐれも無礼の無いように」


「へーへー、無礼って……」

 

 お前の方が無礼だろ? そう言いたげなゴドリックであったが、口にはしない。だって、この連中どこかおかしいもん。




 治療を終え、救急車を後にするゴドリック。


 彼は外に出ると、周囲を見回しこうつぶやく。


「あー、やっぱりこの連中どこかおかしいよなぁ」


 彼の眼前にあるのは、ファンタジー世界の人間からすればまさに未知の世界。


 モルロの平原の一角、他のところよりちょっと小高くなった丘の上に、構築された近代国家らしい防御陣地だ。


 張り巡らされた塹壕、準備万端で並ぶ機甲部隊。砲兵隊が砲列を布き、高射砲が天高くその砲身を掲げている。


 そして、それらの兵器の間を忙しく走り回るメイド服姿の兵士たち。


「貴様、斥候の情報はどうなっている!?」


「はい、周囲に敵の存在は発見できないとのことであります」


 と、部下に問いかける上官らしいメイドさんや。


「先行した機甲師団との連絡はまだ取れないのか?」


「無線の調子が悪く、未だに。もう少し待ってください、通信隊が通信線を引いています」


「早くしろ。総統閣下に何かあれば、国が亡ぶぞ!」


「……海兵隊との連絡なら取れました! 捜索連隊をこちらに回すそうです」


 と、無線機にかじりついて、情報収集を行っているメイドさん。


 いずれも、なにやら、苛立っているらしく、しきりに周囲の警戒を行っているらしい。


 が、軍隊の知識も無線機の存在も知らないような森の田舎者のゴドリックには一体何の話か分からない。


 ほーん、忙しそうだなぁ。つーか、なんだよこいつら、変な鉄の塊に話しかけてアホじゃないのか?


 と、ぼんやり見つめるだけだ。




 そんな中……。


 彼は「そう言えば、総統閣下とかいう奴が、俺を呼んでいるらしいなぁ」と思い出した。


 さて、総統閣下はどこにいるのやら?


 暫し考えた後、彼は近くにいた暇そうに戦車に背を預けているポニーテールのメイドさんに「あのさ、俺、総統閣下とかいう奴に呼ばれているんだけどさ……」と声をかけた。


 すると。


 何も言わずに無言でぶん殴られた。銃床で顔面をバキィと思いっきり。


「痛って! なんだよ! 話しかけただけだろ」


 殴られた鼻からダラダラと血を流しながら、不満を口にする。


 そんな彼にポニテのメイドさんは「総統閣下とかいう奴、と言う言葉が気に入らなかったのであります。あなたは偉大なる総統閣下に敬意を持つべきなのです」と指先を突き付けながら答えた。


「はぁ? なんだこいつら。個人崇拝でもしてんのか……」


 総統閣下ってやつが何者か知らねえけどさ、そんな称え崇める存在なのか? 


 モルロ人のせいで、とっくの昔に文明崩壊。


 権力の象徴である王様どころか、貴族だって過去の存在。村長レベルが脳内の最高権力者の彼にとっては、疑問でならない。


 どうせ同じ人間じゃん。そんな呼び方ひとつで殴らなくてもさ、と。


 そう言う不満の声が表情に漏れたのだろう。


「はぶばぁっ! ……って、無言で殴らなくていいだろう?」


「顔がうざいのであります」


 もう一発銃床で殴られた。




「……で、あんた誰だよ」


 殴られ地面にぶち転がされたゴドリック。よろよろと立ち上がると、とりあえずそう聞いた。


「親衛隊第一機甲大隊所属の西大尉であります。総統閣下直属のドライバーであります」


「なんか口調おかしくない?」


「これは、今の流行です。総統閣下が「軍人口調ってかっこいいよね」とおっしゃっていたので、みんなやっています……あっ、間違えた。コホンッ、のであります」


「ふーん」


 なんだ、この変な「ありますあります」とかいう口調は? こんなのを好むなんて、やっぱりこの連中、頭おかしいな。

 ゴドリックは確信した。


「ちなみに戦争映画を見てハマったそうであります。総統閣下は、影響されやすいのであります。そういうところが可愛いのであります」


 ちょっとほっぺを赤く染める西大尉。


 可愛いメイド服の女の子のそう言う表情に、ちょっとキュンとなるゴドリックだったが、よく考えればちょっぴりおかしい。


 だって、自国のトップを可愛いなんて言いながら頬を染めているのだ。

 

 ゴドリックで例えるなら、村長のジジイに頬を染めているようなもの。


 日本で例えるなら総理大臣のおっさんを可愛いというもの。


 まさか、国トップが美少女なんて思わないゴドリックは「狂っているなぁ……」と思ってしまう。

が、ここは華麗にスルー。


 ゴドリックもいろいろ耐性が付いてきた。


「あっそ、それで、その総統閣下のところに行きたいんだけど案内してくれない? 呼ばれてるんだ、その総統閣下から」


「貴様のようなブザイクなガキを総統閣下が呼んでいるのでありますか?」


「ブザイクって……まあ、あんたらと比べれば汚いかもしれないけどさ……」


 美人ぞろいに可愛いメイド服。そんな華やかな親衛隊員たちからすれば、芋臭い田舎者のゴドリックは薄汚いかもしれないが、わざわざ口に出さなくても……。


 あと、ゴドリックは言うほどブサイクではない。


 村の中では、十位以内に食い込むイケメンだ。まあ、そもそも人口が少なすぎて競合相手が20人くらいしかいないけど。


「……ありえないと言いたいところですが……コホンッ、ありますが。一応確認を取ってきます」


 おいおい、最後口調崩れてるぞ。


 そう思いつつ、「俺ってそんなに顔悪いのかな」とちょっと心に傷を負ったゴドリックは、去っていく西大尉の後を見送るのだった。






 数分後、確認が取れた後ゴドリックは西大尉に案内され、野戦陣地の中央に置いてあるキャンピングトレーラーに向かった。


 アメリカ人がでっかいピックアップトラックで引っ張っているアレである。


「あの中に総統閣下がおられるのであります。少しでも礼儀を欠く行動をすると……親衛隊長官殿に殺されるでありますよ?」


「親衛隊長官? なんだそりゃ?」


「アヤメ殿であります。彼女は国内でも有名な総統過保護主義者であります。総統の身に何かあれば……」


「あーはいはい」


 大丈夫、大丈夫。


 そう言いながら、扉の前を守るメイドに「ゴドリックだ」と名乗り、トレーラーの扉を開く。


 あっ、と言う顔をする衛兵メイド。西大尉も「あちゃー」と思わず口に出す。


 そりゃ、そうだ。だって、“ノック”してないし。


「どうです、エリュさん。今日のお昼ご飯、私が作ったんです。はい、あーん」


「んむっ、美味しいですよ、アヤメさん」


「えへへ……。あっ、口元にソースが付いていますよ。――ペロっ」


「ちょっ……いきなり……やめっ」


「おや、やめていいんですか? エリュさんが嫌っていうならやりませんけど」


「……いじわる、言わせないでください」


 ……バタンと扉を閉じた。


 見てはいけないものを見てしまったような気がする。いや、気がするではない。ほぼ、確定で見てはいけないものを見てしまった。


 なんか、美少女が二人イチャイチャしていた。片方は黒髪のメイドで、もう片方は銀髪ロング。ゴドリックの常識の範囲内にないくらいに可愛い少女たちだ。


 もしかして、あの可愛いのが総統閣下か? 嘘だろお前? 

 

 油の切れた機械のようにギギィと首を後ろに向けた。


 彼の眼にはライフルを構え殺気立つ、親衛隊員。


「……やっちまった」


 彼がそう言うと同時に、顔面に迫る銃床。


 異変を感知し、そこら中から集まってくるメイドたち。いずれも銃剣先を揃え、ゴドリックに突撃体勢だ。


「ひっひぎゃぁぁあ!」


 彼に、唯一の救いがあるとすれば、ぼこぼこにされている間、美しいメイドたちに囲まれていたことくらいだろうか?

 いい匂いがしたらしい。


 哀れ、全治二か月の重傷。彼は、そのまま救急車に戻っていった。

 いつも読んでいただきありがとうございます! 誤字報告もありがたいです!


 なんだか、総統閣下が必要以上に乙女化しているような気がします。別に、意図した訳ではないんですけどキャラが勝手に動いてこうなりました。

 最初はもう少しカッコいい系のキャラにしたかったのに……今からでも方向転換できますかね?

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