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第五十二話 驚愕するエルフ 海戦編

 総統閣下が『大東亜共栄圏』の発足とか、モルロへの戦争計画発表とか、やりたいことをやって満足した『人間国家議会』。


 ある程度の成果を上げ議会は終わり、各国は次の段階に駒を進めることになる。






 大和歴305年3月14日。

 

 総統閣下が「アヤメさん、ホワイトデーって知ってます?」と、ホワイトデーのお返しをおねだりして、「知ってますよ? はい、私をプレゼントします。美味しく食べてくださいね」と裸リボンのアヤメさんに襲われている頃……。




 東方大陸南方、黒エルフ皇国沖の海域。


 そこを、この世界としては極めて大規模な艦隊が東に向かって進んでいた。彼らは、アルバトロス連合艦隊。

 大和帝国主催の『人間国家議会』を終え、自分たちの母国に帰る途中なのだ。


 そんな彼らの編成は……。


 ロンデリア艦隊、一等戦列艦『クイーンエリザベート』以下四隻。いずれも一等戦列艦。


 ルーナ艦隊、一等戦列艦『ルーナ』以下四隻。同じくすべて一等戦列艦。


 ルシーヤ艦隊、二等戦列艦『ウォトカ』以下四隻。こちらは旗艦のみ二等戦列艦、残りは三等戦列艦。


 フレート艦隊、一等戦列艦『シャール』一隻。


 ドルチェリ艦隊、二等戦列艦『オイゲン』以下、三隻。ルシーヤ同様旗艦のみ二等艦、残りは三等艦。


 これにアルバトロス連合所属のその他各小国のフリゲートなどが合わさり、約20隻となっている。


 いずれも帆走船とはいえ大和製の鋼鉄艦であり防御力は十分、一等戦列艦に至っては100門もの火砲を備えている。


 この世界では大和帝国を除き、これほどの規模の艦隊を編成できるものは存在しないだろう。




 とはいえ。


 そんな事を全く知らない連中からすれば、戦列艦も火砲も鋼鉄艦も関係ない。


 目の前に存在する敵に食らいつく、それだけなのだ。


 黒エルフ皇国沿岸を進むアルバトロス艦隊。彼らから隠れるように島影に潜む無数のガレー船。


 その数は約50隻。


 その船上には肌が黒く、耳が長い生き物――ダークエルフ。そう、黒エルフ皇国の艦隊である。


「来ました提督、例の大型船です。噂によれば人間どもの王族が乗っているとか」


「エルフの力を見せつける絶好の機会です。攻撃をしましょう」


 双眼鏡を手に、アルバトロス艦隊を見据える彼ら。


 この時点でアルバトロス艦隊は黒エルフ皇国の艦隊に完全に捕捉されていたのだ。


 こうなったのには理由がある。


 大和から大型艦を購入したとはいえ、いまだに外洋航行に不慣れなアルバトロス艦隊。彼らは航海の安全のために可能な限り「陸の見える場所」を航行しながら進んでいたのだ。


 陸が見える場所、と言うのは逆に言えば陸からも見える場所。


 アルバトロス艦隊は、ずっと前、人間国家議会に出席するために大和に向かっているそのときには、すでにダークエルフ達に「あれ? なんか、でかい帆船が俺らの国の沿岸を通っているな?」と捕捉されていたのである。




 自国沿岸を堂々と進む大艦隊。


 それを見てプライドの高いエルフがどう思うか。当然放っておくわけがない。


「神聖なるエルフの領域を侵犯するとは、いったいどういうつもりか? こいつらエルフを舐めるなよ? ぶち転がすぞ?」


 っと、即座に攻撃を決意。


 人権なんてどこへやら、蛮族犇めくこの世界では舐められたらもうおしまいである。


 相手が少しでも生意気なことをしてくれば……迷わずぶん殴るのが常識。


 エルフ達は嬉々として、艦艇を集結させアルバトロス艦隊の帰りを待ち、攻撃の機会をうかがっていたのである。




 提督と呼ばれたダークエルフの太った男は旗艦である200トン級大型ガレー船『カリグラ』の甲板上から「ひい、ふう、みい……20隻はいるな。やれるか?」と、アルバトロス艦隊を数え副官に問いかけた。


「そのために艦隊を集めてきたのです。こっちは50隻、彼らの倍です。そして、我々は優れた魔法を使いこなすエルフ。負けるはずがありません」


「……そうだな。海戦では我々エルフは敗北を知らない。相手がいかに巨大な船であっても、勝利は揺るがぬか」


 敵艦隊を観察し、攻撃を決意するダークエルフ提督。


 古来より海戦におけるエルフの強さは証明済みである。

 

 人間に比べ、魔法使いの多いエルフはそれだけ高い魔法火力を発揮できる。そして、この世界の戦闘艦艇は木造ガレー船。


 まともにぶつかれば、火力に勝るエルフが火炎魔法で敵艦艇を焼き払っておしまいだ。


 故に彼らは自信をもって、アルバトロス艦隊に攻撃を仕掛けた。


「どんなに船が大きくても、魔法火力で圧倒すればこちらが勝つ。優等種族エルフに敗北はない!」


 それこそが彼らの唯一の答えなのだから。







 島影から漕ぎ出し、アルバトロス艦隊に一斉に突撃を開始するダークエルフ艦隊。


 その速度は約8ノット。


 そして、この日は奇しくも風が弱かった。波も穏やかで、ガレー船の運用には最適の一日。


 通常ならガレー船で高速帆船に追いつくのは困難極まるが、これだけ好条件がそろえば話は別。


 汗だくになりながら必死に櫂を漕げば、帆船に追いつくことも十分に可能だ。


「よし、敵艦を捉えたぞ!」


 アルバトロス艦隊との距離は、約1km。


 エルフ提督は杖を振り上げ、指揮下の艦隊に「全艦、攻撃開始、突撃せよ」と攻撃命令を下す。


 彼が狙っているのは、アルバトロス艦隊の先頭艦を務める『クイーンエリザベート』だ。


「うぉぉぉっ! クソッタレの人間どもを皆殺しにしろ!」


「あれだけ大きな船だ、財宝を積んでいるに違いない! 拿捕すれば大金持ちになれるぞ!」


 大きな船。


 倒し甲斐のある目標を目の前にして士気旺盛なエルフ兵士たち。


 だが……。


 彼らを待っていたのは、期待していた戦果ではなく鋼鉄の弾幕だ。


 50隻からなる艦隊の接近に気が付かないほど、アルバトロス艦隊は間抜けではない。


 さあ、来い。近づいて来れば砲撃をお見舞いしてやる、と単縦陣を組み、今か今かと待ち構えていたのだ。


 そして、艦載砲の射程である1kmまで近づいた時……一斉に、その火砲が火を噴いた。


「全艦攻撃を開始、栄光あるロイヤル・ネイビーの力を見せつけなさい」


 舷側を染め上げる紅い発砲炎。そして、巻き上がるどす黒い黒煙。


 それを見て、『クイーンエリザベート』艦上のエリザベート女王は勝利を確信した。




 一方、エルフ艦隊は勝利からほど遠い場所にあった。


 エルフ艦隊旗艦『カリグラ』の周りに『クイーンエリザベート』からの砲弾が弾着し、水柱が立ち上る。


「うぉお! これは……魔法か!?」


「いえ、提督、敵の攻撃に魔力反応はありません」


「魔力反応がないだと!? ならあれはなんだというのだ!?」


「それは……わかりかねます」


 約20隻の戦列艦から放たれる砲弾は、数百発を超える。

 

 炸裂しない通常の鉄球に過ぎない砲弾だが……エルフの用いるガレー船にはあまりに過酷な攻撃だ。

 

 最初の砲撃から数分、何度目かの斉射で一発の砲弾が、エルフ艦隊旗艦『カリグラ』に命中する。


「う、うわらばぁッ!」


「はぶへべっ!」


 それによってもたらされたのは悲鳴にもならない無数の叫び声。その数は10や20ではない。その二倍、三倍は多くの死傷者が出ただろう。


「提督! 敵の攻撃により、船内の漕ぎ手に死傷者多数! 100名近いかと……」


「な、なんだと!? 一撃で!?」


 アルバトロス艦隊が使用している砲弾は、本来ならそれほど威力のない単なる鉄球の砲弾。大和帝国の戦艦に撃ち込めば「蚊でも刺したかな?」と言われるほどの威力しかない。


 だが……ガレー船に対してなら?


 この手の手漕ぎの船は、艦首から艦尾にかけて漕ぎ手が一列に並んでいる。


 そして、その主要攻撃手段はラムアタック、敵に艦首を向けて攻撃しなくてはならない。


 つまり……。


 砲弾は艦首から侵入し、一列に並んだ漕ぎ手たちをなぎ倒しながら艦尾から飛びぬけていくことになる。


 一撃で一列の敵を薙ぎ払えるのだ。


「な、なんという威力だ……」


「提督、諦めるにはまだ早いです。接近すれば、こちらも魔法を放てます。魔法弾幕射撃なら、敵艦を炎上させることが可能です」


「そ、そうだな。いかに巨大な船とて燃やせばこちらのもの……まだ希望は残っている」


 あまりの被害に驚愕する提督。


 だが、副官の言葉に最後の希望を取り戻す。


 接近し、魔法射撃を浴びせれば……だが、その希望は淡く消えていくことになる。




 度重なる砲撃。


 魔法攻撃の射程は長くて100メートルほど。威力を保ちたければより肉薄し50メートル以内に接近したいところだ。


 つまり、彼らは900メートルの距離を詰めなくてはならない。


 戦列艦、フリゲート艦20隻が作り出す、数百門の火砲にさらされながら、だ。


 絶望の行軍。


 そして、それは報われない行軍でもある。


 被弾を続け、木片をまき散らしながら前進するエルフ艦隊。艦内は砲弾に荒らされ死屍累々。


 さらには一隻、また一隻と撃沈される。


 それでも、彼らは諦めない。数に任せて前進を続ける。


「きょ、距離50! 提督、我が方の有効射程内です!」


「よ、よし、全艦隊、魔法放てッ!」


 数発の被弾により、ボロボロになりながらも『カリグラ』はついに『クイーンエリザベート』を射程内に収める。


 唱えられる呪文。甲板上に並んだ約100名の戦闘要員のエルフたちが、一斉に杖を掲げ『クイーンエリザベート』を燃やすべく、火炎魔法を放つ。


 歓喜の反撃。


 魔法攻撃は『クイーンエリザベート』に命中し舷側に無数の炎の花が咲く。


 その結果は……。




「敵火炎魔法被弾。しかし、損傷は軽微です女王陛下」


「彼らは、こちらが鋼鉄艦と言うことを知らなかったようね……とどめを刺してあげなさい」


 残念なことに、大和製の戦列艦は燃えやすい木造船ではない。火炎魔法は舷側装甲を焦がすだけで終わり、反撃の一射が『カリグラ』を捉える。


「そ、そんな、馬鹿な! エルフの魔法が!」


 提督の悲鳴、これを機にこの海戦は終わりを迎えることになる。




 この戦いで、エルフは参加艦艇の半数を失い。残りも大きな被害を出して撤退した。


 一方のアルバトロス艦隊に被害らしい被害はない。数隻が被弾し、艦側面を焦がし塗装をやり直すことになったが、それだけだ。


 エルフはこの海戦の結果に大きな衝撃を受けることになる。


 魔法能力に勝るエルフは一対一では負けない。


 その常識が討ち破られたのだから。




 この戦いを機に「大和製兵器は理論上だけではなく、実際に極めて有用である」と判断したアルバトロス各国は本格的にエルフに対する攻勢に乗り出していくことになる。


 さらに、エルフの驚愕まだまだ続く。


 次の場所は、彼らの西部国境。ビーストバニアの大地だ。

 適当な解説 『大和製戦列艦』編


 船体が鋼で出来ていることを除けば、基本的には近世の戦列艦と同じもの。


 それぞれの等級は……。


 一等戦列艦――排水量約3000トン。100門以上の火砲を持つ。最も高価だが、二等戦列艦と戦闘能力はあまり変わらない。でっかい船が欲しい国が自慢用に作る船。


 二等戦列艦――排水量約2000トン。90門以上の火砲を持つ。砲の数は少し少ないが、一等戦列艦と同じ三層の砲甲板を持ち戦闘力はそれほど変わらない。実用的で強い船ならこれ。


 三等戦列艦――排水量約1000トン。60門以上の火砲を持つ船。安価で数もそろえやすく、扱いやすい。


 ……となっている。


 一等戦列艦、二等戦列艦は主力艦で戦艦に近い役割を持ち、三等戦列艦、それ以下の船は主力を補助する巡洋艦に近い役割を持つことになっている。

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