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第五十一話 小国たちのお話

 人間国家議会――それは、突如この世界に現れた超大国『大和帝国』が主催する人間国家の将来を決める重要な会議だ。


 その主役は、主催国である大和帝国やバルカ王国、アルバトロス連合王国の各主要国のような発言力のある大国たち。


 いずれも人口は1000万人を超え、強力な軍事力と経済力を持つ国家だ。


 彼らは昼に行われる議会でも、夜に行われる舞踏会でも花形となり舞台を大いに彩っている。


 ……では、その陰に隠れた軍事力も、経済力もない小国たちは一体何をしているのだろうか?


 その様子を少し覗いてみよう。




 人間国家議会の開催期間中、総統官邸の百合の間で毎晩のように行われる豪華な舞踏会。


 大抵の人が、広間の中央でメイドと踊る総統閣下に熱い視線を向ける中、一人の聖女様が部屋の隅っこで名刺片手にペコペコと頭を下げていた。


「あっ、私、セレスティアル王国のロシャーナと申します。あの、この度はどうも……」


「あら、これは可愛らしいお嬢さんね。私は、ロンデリア王国女王のエリザベートです。何かご用件があるのかしら?」


 彼女が頭を下げる相手。


 それは、齢90を超える不死身の女王エリザベート。


 そう、彼女が行っているのは人脈づくりである。エルフに占領された祖国セレスティアル王国を開放するために、聖女ロシャーナは今日も頑張っているのである。 


「はい、折り入っての頼みなのですが……ぜひ、ロンデリア王国に魔法の留学に行きたいのです」


 私の国からは遠い異郷になる東方大陸、そこで新たな魔法を学びたいのです。滅ぼされた祖国を救うために、何かしたいのです。


 熱心にロシャーナはそう伝える。


 エリザベートは「エリュテイア総統と自国の貴族を結婚させて上手いこと帝国に取り入れないかな?」などと、したたかに謀略を張り巡らせる人間だ。


 表では笑顔で出迎え、裏ではいやらしいことも考える。


 実に政治家らしい人間だ。


 だが、悪い人ではない。滅んだ祖国のために頑張ろうとしている人がいれば、応援はするしできる限りの支援をしようとも思う。


 彼女の国を滅ぼしたのが異種族であるエルフならなおさらだ。


「あら、それは研究熱心なのね。こちらも西方の魔法を知りたいですから、そのお話をお受けしたいわ」


 エリザベートは答え、こうしてロシャーナのアルバトロス――正確にはロンデリア王国行きが決定したりする。


 まあ、その本当の目的は魔法の研究ではなく、大和帝国内では手に入らない魔法薬の材料の入手だったりするが……まあ、気にしたら負けだ。


 


 そんな聖女様たちの下にど派手なドレスを身に纏ったフレート王国の王女シャールがやってくる。


「ちょっと、エリザ聞いてくださいまし? ……あ、ごめん遊ばせ。お話の最中でしたの?」


「あっ、あなたはフレートの……すみません、では私はこの辺で」


 大国同士の話を邪魔するわけにはいかない。


 今のセレスティアル王国は国土を持たない小国の中の小国だ。大国の助けなしに祖国解放はあり得ない。

 大国の機嫌をわずかでも損なうことはしたくない。


 ぺこりと頭を下げて撤退する聖女様。


 そんな彼女の背後で……。


「聞いてくださいまし、わたくし、この国にある紐パンを履いてエリュテイア総統に想いを伝えましたの」


「紐パン……?」


「下着の一種ですわ。とても破廉恥で、実用性は皆無。わたくし、あれを見た瞬間、特殊用途のモノであると確信しましたの」


「……それで、結果はどうだったのかしら」


「駄目ですわね、それくらいでは堕ちませんわ。変人を見る目を向けられてしまいましたわ」


 それを聞いてちょっと心当たりのあるロシャーナはビクッと反応し、心の中で「ああ、やらなくてよかった」と安堵するのだった。






 さて、その他の小国も覗いてみよう。


 例えば……。


「我が都市ジュノーは優れた湾口都市でして、モルロ進攻にあたっては、貴国の精鋭陸軍を支える補給拠点となるでしょう」


「おお、それは頼もしいですな。測量部隊を送って、調査させましょう」


 大和帝国の陸軍大臣――エリュテイア曰く「ハゲ眼鏡」。


 彼に、声をかけるのは古代ローマ風の衣装を身に纏う痩せた男。自由都市ジュノーから選ばれた市民代表だ。


 この自由都市ジュノーと言うのは、大天モルロ帝国に滅ぼされたジュノー共和国の国家の残骸だ。


 バルカ海の東岸、今ではモルロ帝国の一部になっている地域に存在したこの国は、その昔バルカ海を舞台にした海洋交易で成り立っていた。


 しかし、百年ほど前、モルロ人に攻め滅ぼされてしまった。


 今となっては、かつて首都であり海洋交易の拠点として栄えた都市ジュノーを持つだけ。この街だけは海と三重の城壁に囲まれ、モルロ人に攻め落とされなかったのだ。


 だが、街一つだけでは何もできない。


 畑を作る空間もないので食糧生産もできず国民のほとんどがバルカに逃げ込んでしまった。周辺国の支援無くしては全く機能しない。


 そんな哀れな存在の彼らは、早く救助してほしいと大和帝国に助けを求めているのだ。




 こういった存在は少なくない。


 遊牧民族であるモルロ人の生活範囲は、基本的に開けた平原だ。それ以外のところにはあまり行きたがらない。


 軍隊が通行できない山の奥にある村だとか、海の近くにある城壁に囲まれた都市だとか、森に囲まれた集落だとか。


 モルロ人が気にもかけないような場所。


 そこに人がいることに気づいていても面倒くさがって近づかないような場所。


 そう言った場所に国にもならないような小規模な集落が残り、誰かに助けを求めている。




 大和帝国にとってこれは悪い話ではない。


 街レベル、村レベルの小規模だとしても、現地に協力的な住民が少しでもいることは軍事作戦の助けになるだろう。


 実際のところ、すでにほとんど戦闘計画も作り上げ今さら作戦を変更するつもりはないが「検討する」だとか「調査する」とか、口で言うだけなら損はない。


 別に助けに行くとは言っていないのだから。


 ご機嫌だけ取っておけば、後々使えるかもしれない。


 この程度なら実に可愛いものなのである。






 だが、世の中は機嫌を取っておくだけで後々役に立つような便利君だけではない。


 実に厄介で面倒な存在もあるのだ。


「おお、大和の提督殿ではありませんか? 貴国の麗しき総統閣下に、ポルラント王国の開放を……」


 海軍の軍服をきっちり身に纏う連合艦隊司令長官東堂に話しかけるのは、ポルラント王国の代表。


「それは、アルバトロス連合内で話し合うべき事柄、貴国の内政問題でしょう」


 東堂は慎重に言葉を選び、彼を受け流そうとする。


 そう、この国が実に厄介な国なのである。


 いや、この国そのものに罪らしい罪はないのだが……立場が実によろしくない。


 ポルラント王国。

 

 それは、かつてルシーヤ王国とドルチェリ王国の中間に存在していた国家だ。


 ――“かつて”という過去形が示すように、現在ポルラント王国は存在していない。


 彼らが滅んだのはほんの十数年前。その時、彼らはエルフとの戦いで大打撃を受け、国防上の重大危機に陥ってしまったのだ。


 だが、もちろんエルフに滅ぼされたわけではない。


 彼らが異種族に滅ぼされているのであれば「ええ、救出を検討しておきます」とでも言っておけばそれで万事解決なのだから。




 問題は彼らを滅ぼした国だ。


 ポルラントがエルフにぼこぼこにされた瞬間、北のドルチェリと南のルシーヤ王国が同時にこう言ったのだ。


「ポルラント国内の自国民救出のために軍を派遣する」


 どこかで見たことがあるようなお話、この先はお察しできるだろう。


 抵抗する軍事力をエルフにより破壊されていたポルラント王国は抵抗することもできず、二国に攻め滅ぼされ滅亡。


 分割され、それぞれの国に編入される形になってしまったのだ。


 助けようにも、人間国家内の不和を招きかねない大問題。そもそも、大和帝国としては、自国の市場になってくれるのであれば、国の所属はどうでもいい話。


 ポルラント王国がアルバトロス連合王国の一部である限り、不干渉。


 彼らの独立は、アルバトロス連合王国の内政問題であり、大和帝国が干渉するべきことではないのだ。

 

「次の戦、ポルラント人は大和総統エリュテイア閣下のために戦いましょう! 有志を集め、軍を編成しすぐにでも派遣します!」


 大和なら! この国なら何とかしてくれる! あの大国ルシーヤやドルチェリだって頭が上がらないだろう鋼鉄の軍艦を揃える大国だ。


 大和がポルラント解放を声高に叫べば、きっと両国もポルラント占領の罪を認め開放するだろう。


 そう信じ、目をキラキラさせるポルラント人を見て、東堂は深くため息をつく。


 


 ――アルバトロス情勢複雑怪奇なり、と。

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[一言] ロシーアじゃん
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