第五十話 総統閣下と大東亜共栄圏
……昨日はとんでもないものを見てしまいました。
巨大な筋肉が躍動しているというか、その……。
うん、人にはそれぞれいろんな性癖がありますから、そう言う性癖もありだと思いますよ。
ちょっと、ボクには理解できないですけど。
して、舞踏会の翌日。
ついに『人間国家議会』開催のお時間です。
会場は総統官邸の大会議室。御前会議を行っているところとは別ですね。あっちは普通の会議室、こっちは『大会議室』です。
簡単にどんな部屋か説明すれば、帝国の建築物あるあるの無駄に豪華で広い部屋です。
円卓が置かれて、その周囲を囲うように各国首脳が並びます。
ボクの後ろにはいつもの様にアヤメさんがすまし顔で待機。秘書官のつもりでしょうか?
それで、最初にすることは……。
「では、まず主催者であるボクから発表があります」
重大発表です。
「我々、大和帝国は人間の生存権を防衛する同盟『大東亜共栄圏』を発足します」
――大東亜共栄圏。
それは、人間が一丸となって外敵から自分たちの生存権を守り共存していくという概念のもとに設立される、軍事、経済あらゆる側面の同盟です。
まあ、みんなで同盟結んで仲良くしようよ、って話です。
名前は、ロマンがあるのでこれにしました。
この発表に対する各国の反応は……ちょっと考え込んでいますね。突然の発表ですし、国家の命運が決まる同盟ですからちょっとくらいは考えますよね、普通。
って、ルーナ王国の冴えないおっさんが手を上げました。
「ルーナ王国はその同盟に参加することを決定する」
ん、即断即決ですか。
いいですねぇ、ルーナは参加っと。アヤメさんメモってください。
「なっ、ならばドルチェリも同様に参加する!」
「ロンデリア王国も参加しましょう。共に人間の人権を守りましょう」
「バルカも異存はないな」
とかとかとか……。
一人参加を決定すれば、残りは、まさに堰を切ったような勢いです。ルーナのおっさんに負けじと、我先に怒涛の勢いで参加表明。
こういうのは先に参加表明した方が後々有利ですからね。
ルシーヤ王国もフレート王国も手を上げて参加っと。その他小国の代表もほとんどすべての国が参加を決定しましたね。
あと参加していないのは……。
「……あの、エリュテイア総統」
「どうかしましたか、ロシャーナさん」
セレスティアル王国のロシャーナだけですね。
「あの、大東亜共栄圏と言うからには、その、東方大陸の国家でなくてはならないとか……」
「あ、別にそう言うのはないので好きに参加してください」
名前に『東』が入っているから変に勘違いしちゃったみたいですね。この会議に参加している国で、東方大陸以外の国はロシャーナさんのセレスティアル王国だけですから。
「では、セレスティアル王国も参加しましょう。異論はないですね、じいや」
「問題ありませぬ、ぜひ、参加しましょう」
隣に控えているおじいさん……確か、賢者さんに最終確認取って、セレスティアル王国も参加決定。
はい、全国家が参加決定。
「では、今ここにいる各国で大東亜共栄圏を発足させましょう。……ハイ拍手」
パラパラパラ……とまばらな拍手。一つの議題が終わった、ハイ次に行きましょうね、くらいの拍手です。
はい、そう言う拍手だったのですが。
「素晴らしい同盟だ! ルーナ国王ユリエス・ガリウスはこの同盟の締結を神に感謝しよう」
盛大に拍手する冴えないおっさん。こいつのせいで、面倒なことになりました。
一人が盛大に褒め称えた、なら、他の人は?
「素敵ですわ! フレート王女シャールも素晴らしい同盟に祝福を捧げますわ!」
的な感じで、負けじとその他国家も拍手を強めます。
ワーワーギャーギャー、騒ぎながら拍手、拍手、拍手。もう、割れんばかりの拍手ですよ。
……あの、次の議題に行ってよろしいでしょうか?
「こほん、こほん」
なかなか静かにならないので、わざとらしく咳払いして注目を集めます。
はい、静かになりましたね。よろしいです。
「それで、大東亜共栄圏としての最初の活動ですが……」
ぱちんっと指を鳴らすと、メイド親衛隊たちが各首脳の下に資料を届けてくれます。その資料の内容は……。
「……対モルロ戦争ですか、エリュテイア総統?」
「そうです、ロシャーナさん。我々大和帝国は、大東亜共栄圏の名のもとにモルロ人に虐げられている人々を開放するための軍事行動を開始します」
ちなみに、モルロを攻撃する理由は……。
邪魔だから、です。
略奪を生業にする蛮族国家で話も通じない。それどころか、帝国の『お友達』を攻撃しているんだから叩くに限ります。
ちなみに、ここでエルフやダークエルフを先に攻撃しない理由は……。
一つ、モルロ人は遊牧民であり土着していないので、攻撃を仕掛ければ逃げ出す可能性が高く、戦線が泥沼化する可能性が低いこと。
……逆にエルフたちは、プライドも高そうですし、遊牧民でもないのでベトナム並みに泥沼化しそうですね。
二つ、モルロの支配地域には彼らの侵略から逃げ遅れた人々が生き残っています。モルロを追い出し、彼らを救えば我が帝国の経済圏に入ってくれるわけです。
また、バルカに逃げ込んだ人々も多いので、彼らを祖国に帰してあげれば帝国への好感度も上昇します。
攻撃が通りやすく、なおかつ撃破すればそれなりにメリットもある。
「なるほど、理に適っているな」
と、ドルチェリの変なひげのおっさんも、言ってくれていますし。ルシーヤ王国のディアナ王女も「アイツの国と共同かい? 悪くない話だけどさ」とか、頬を染めていますし。
バルカの王様も「女神の名のもとに反撃の時間か、いよいよ筋肉の時代だな」なんて喜んでいますよ?
悪くない作戦なのでは?
ねえ、そう思いませんか、エリザベート女王陛下。
「私たち、アルバトロスの民としては、参戦出来かねます」
あ、拒否ですか。
そうですか、まあ、そうだと思いましたけど。
「アルバトロス本土から戦場となるモルロ帝国までは位置が遠いでしょう? 我が精鋭のロンデリア艦隊をもってしても軍の派遣は困難極まります」
「エリザの言うとおりですわね。それに、西のダークエルフにも備える必要がありましてよ?」
んー、ごもっともです。
今回の主戦場は、東方大陸の西側。
大陸の東側に位置するアルバトロス連合の国々からすれば、西の黒エルフ皇国の反対側にあるエリアでの戦闘になります。
当然、敵国である黒エルフ皇国を突っ切って戦場に向かうわけにはいかないので、移動は船。
海を渡って大陸を大回りして向かう必要があります。
中世レベルの彼らではこんな遠方の戦線の維持はできません。てか、軍を派遣することさえ不可能だと思います。
仕方ないのです。技術的に不可能なのですから。
……我々『人間』が一丸となって一つの任務に突き進む一体感が欲しかったのですが、それは次の機会にしておきましょう。
「わかりました、では、アルバトロスの皆様は今まで通り、ダークエルフとの戦線を構築していてください。帝国としても大東亜共栄圏加盟各国に最大限の支援を行います」
ま、兵器輸出でお茶を濁しておきましょう。
それを使ってどうするかは……彼らに任せます。
こちらから攻撃を仕掛けても、アルバトロス各国には帝国が輸出したマスケット銃――正式名称『四式小銃』があります。
鉄パイプに銃床と簡単な発射機構を取り付けただけみたいな代物ですが……。
最低限の性能は持っていますし、何より、生産が容易です。
すでに万単位で輸出していますし、本気になればその何倍もの数を売りさばくことも可能です。
近世の戦列歩兵レベルの装備をすぐに全軍に行き渡らせることができるわけですよ。
真正面からやり合えば、そう簡単には負けないでしょうし、負けてもすぐに戦力の補充は可能です。
それに、突如主力が消え去るくらいにボコボコに負けても、こちらで対処できますから……。
あとは勝手にどうぞ、って、感じです。
さて、次は……経済ですか?
ボクは、大東亜共栄圏とか対モルロ戦争とか、やりたいことをやり終えたのでもう満足ですし、経済はよくわからないので、アヤメさんに丸投げします。
マッチョたちの恋がどこまで進んだのかは、ご想像にお任せします。