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第四十六話 アルバトロスの王たち

 アルバトロス連合王国。


 東方大陸の東側、そこに存在するアルバトロス半島……いや、半島と呼ぶには少しばかり大きい亜大陸に存在する国家だ。


 連合王国の名の通り多数の人間国家からなる連合体で、地球におけるEUのようなものだと言えば理解しやすいだろう。


 強大な敵性存在ダークエルフ。その脅威から、一致団結し人間の生存権を守るために作られた連合国家、それがアルバトロス連合王国なのだ。




 複数の国家の集合体。


 その特性上、この国に王らしい王は存在せず、首都らしい首都は存在しない。


 加盟国はそれぞれが自治権を持つ主権国家であり、それらを束ねるものは「国家間の結束」や「条約」という曖昧なもの以外存在しないからだ。


 だが……。


 それでは、組織運営にいろいろと支障が出てくる。


 協力し合うためには国家間の取り決めが必要であり、それを決めるためには、話し合いの場が必要。


 そう言うわけで『連合王国議会』と呼ばれる各国首脳の会談が、ロンデリア王国王都ロンデンで行われることになっているのだ。




 ロンデンの一角。


 立派な時計塔が特徴のウェスター宮殿。その広い会議室では、アルバトロス連合王国加盟国の各国王が集まり、会議を開いていた。

 

「で、この大和帝国についてだが……」


「それについてはもう何度も話し合いましたわ。我々は、大和と手を組む。それはすでに決まっています」


「……気に入らんのだ。分からんか、老婆よ」


 カイゼル髭が似合う神経質そうな男、ドルチェリ王国国王ヴァルヘイム二世は不満げに「ふんっ」と鼻を鳴らす。

 

 大和帝国。


 それは彼らからすれば、つい最近その名を知ったばかりの『新参国』。そんなやつが、なんだか最近デカい顔をしているらしい。


 ヴァルヘイム二世は、なんとなくそれが気に入らないらしい。


 そんな彼に、齢90を超えるロンデリア王国の老女王エリザベートは「プライドの高い若造はこれだから」とため息をつく。


 実際、ヴァルヘイム二世は現在28歳。90以上のお婆ちゃんであるエリザベートからすれば、尻の毛も生えていないような子供だ。


「まあ、落ち着きな、アンタら。いいじゃないか、海の向こうに友好的な人間国家が現れたんだから。こりゃ、あたしらには好都合ってもんだ。エルフどもを挟み撃ちにできる」


 どんっ、と腕を組み椅子に座るのは身長190センチ、体重130キロの巨体を誇るルシーヤ王国のディアナ女王。

 女王と言えば華やかな印象があるが……彼女にそんなものはない。


 クーデターで成り上がったという逸話を持つ、バリバリの武闘派。顔面にも女性らしさはなく、いかにも強そうなマッチョ顔をしている。


「オーッホッホッホ! ディーナの言うとおりね! それに……その大和の女王様は結構可愛いっていいますわ? そのお顔、見てみたいわ」


 そんな彼女に同調するのは『アルバトロスの花』、『最も美しき君主』の異名を持つフレート王国の王女シャールだ。


 武骨な王女と言ったディアナとは一転。


 無数のレースと宝石があしらわれた豪華なドレスを身に纏い、髪をくるりとチョココロネのようにカールさせたど派手な王女様だ。


 美しいものが好き、と公言し可愛い子には目がないらしく……ガチ百合ではないかと言う噂が流れている。


 ただ、女性関係をマスコミに問われると「えっ、お友達のディアナ女王は恋愛対象ですって? そんなことはありませんわよ、あの子、ブサイクだし」と、返したらしい。


 真相は不明である。


 そんなふうに各国首脳が騒がしく、会議している間。 


 一人部屋の隅で静かにしているのが、ルーナ王国国王ユリエス・ガリウスである。彼の好きな言葉は「口は禍の元」。


 そして、周辺の国々からの彼への評価は「人間の屑」。


 いつも悪いことを考えているから、漏らさないように黙っているというのが本当のところらしい。




 さて……。


「今回の議題は、大和帝国が彼らの首都で主催する『人間国家議会』に参加するか否か……私達、ロンデリア王国は参加の方向で決定していますが。異論はありますか?」


「オーホッホッホッ! わたしく、異論はありませんことよ。ぜひ、大和の国に行ってその女王……と、言うのかしらね? その子の顔を見てみたくて」


「アタシとしてもないわね。大和との軍事同盟はルシーヤ王国にとってメリットしかない。その辺のお話をしなきゃね」


「……貴様らが行くのなら、我が国も遅れるわけにはいかん。ドルチェリ人の優秀さを彼らに見せに向かうとしよう」


 ――人間国家議会。


 それは、地球で言えば国連に近い何かになるだろう。


 バルカ王国、アルバトロス連合王国、セレスティアル王国。それらの人間国家は敵対的な異種族や、海で隔てられ関わりを持つことはなかった。


 だが、高度な航海技術を持つ大和帝国の登場により、その状況は一変。


 この数か月で多くの国が大和帝国を通じて出会い、対話を求めることになった。


 そのため、大和帝国は自国主催で人間国家を集め議会を開くことを提案したのだ。


 そして……アルバトロスの面々はおおむね参加の方針を決めたようだ。




 この時点で、彼らは大和帝国が彼らの常識よりはるかに上の存在であることを理解していた。


 ……と、言うのもすでにアルバトロス連合王国と大和帝国の交易は始まっていたからだ。


 大和から届く高品質な商品。さらに、マスケット銃など高威力の兵器。


 軍事に明るいディアナ女王は「こりゃ、たまげたなぁ。今後は、大和の鉄砲って兵器の時代になるね」と即座に見抜いたほどだ。


 軍事にそれほど詳しくないエリザベート女王も、大和製の戦列艦の性能を知るや否や、アルバトロス最強を自称するロンデリア海軍のために軍艦をポンポン購入。


 それに対抗するべく各国も軍艦を購入し……すでに『異世界建艦競争』と呼ばれる状態に陥っていたくらいだ。


 これがどれくらいの勢いだったのかと言えば……大和帝国の造船所では1000トンから3000トン級の大型戦列艦を同時に20隻近く建造しているという話だ。

 それ以下の艦艇になれば、さらに膨大な数になる。


 高性能な軍艦。これほど大量の受注を余裕で耐えられる大和の工業力、造船能力。


 それらは大和帝国と言う国家の国力の高さを示す。


 大和製兵器は、今後の戦争の行く末を決める。


 つまり、大和帝国と言う国は今後の東方大陸の道筋を決めるといっても過言ではない。




 それを理解すれば、やることは決まっている。


 なんとしても大和帝国に取り入る必要が出てくるのだ。


 この時点で、アルバトロス連合王国加盟各国は仲間ではなく、ライバル関係になる。


 いかに早く大和に取り入ることができるのか。


 最も早く取り入ったものが最も多くの利益を得て、今後のアルバトロス連合王国の支配者となる。


 すでに競争は始まっており、大和主催の会議に参加するのは当たり前、常識。


 むしろ、大和に自国の積極性をアピールしなくてはならない。


 ヴァルヘイム二世のように「大和帝国とか、よく知らん国に取り入るとかみっともないわ」と不満があっても、やらなければ連合王国内の覇権争いに負けることになってしまうのだ。


「……さて、参加することで皆さん決定したようですね。いいですか、アルバトロスの名を汚さないように。くれぐれも無礼の無いように……」


「もう、心配し過ぎですわ、エリザ。そんなことより……舞踏会はあるのかしら? なんなら晩餐会でもよろしくてよ? わたくし、フレートの美しき花として着飾りますわ!」


「……なにがフレートの花だ。これだから、アホなフレート人は。我がドルチェリ民族の鋼の規律を見せるときだな」


「誰がアホですって、このひげ男! ディーナ! あなたも、この変なひげのおっさんに何か言ってあげなさい!」


「いや、アタシを巻き込むなよ……。こっちはこっちで困ってんだから」


「ドレス選び?」


「そうそう。アタシャ、華がないからね……」


 ディアナ・アレキサンダー。


 年齢――乙女の秘密。


 筋肉モリモリマッチョマンで、対抗勢力を武力でねじふせてきた彼女には悩みがあった。


 そう、可愛くないのである。


 彼女の母国ルシーヤ王国にはこんな歌がある。




 城から巨体が現れた。あれはクマかゴリラか、あるいはオーガか。


 いやいや、よく見よ、あれは女王、ディアナ女王。


 彼女が歩けば大地が揺れる。子供は泣きだし、大人も逃げる。犬猫尻尾を丸めて、吠えまくる。

ゴブリンだって、欲情しない。


 ああ、我らが女王ディアナに幸運あれ。




 顔はオーガと見紛うくらいに怖いし、ドレスも似合わないし、婚期も逃しかけている。


 クーデターで成り上がり、腕っぷし一本で戦ってきたディアナ。


 そんな彼女だって、結構女性らしく悩んでいるのだ。


「大和にはいい男はいないものかねぇ……。いや、大和以外の国からも来るんだっけ? バルカとかいったかね」


 それぞれの思惑を胸に、舞台は大和に移る。




「クヒヒッ、大和に一番早く取り入るのはこの俺よ……。ルーナ王国こそ、次のアルバトロスの支配者なのだ」

 アルバトロス連合王国に関しては本当にヨーロッパみたいなものだと思ってくれれば結構です。


 大陸中央のダークエルフの国の向こうに、ヨーロッパみたいな亜大陸があってそこにEUみたいな連合体がある。そんな感じです。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「大和にはいい男はいないものかねぇ……。いや、大和以外の国からも来るんだっけ? バルカとかいったかね」  フラグやぁ……。  間違いなく筋肉と筋肉が惹かれあうフラグやぁ(白目)
[一言] ルシーヤ王国、自分たちの女王に容赦なさすぎ。 その筋肉のおかげで、大和に一番早く取り入る可能性があるよね。 結婚、宗教。
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