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第三十七話 獣から見た総統閣下

 燦燦と降り注ぐ南の太陽。


 そんな中、父ライカン二世を刺殺し、次期国王を担うことになるレオンは一隻の船の甲板に立っていた。


 その船の名は『富嶽』。排水量5000トンを誇る大和帝国総統エリュテイアのための船だ。


「外から見ていても思ったけど……乗ってみれば一層その大きさが分かるなぁ。どう思う? マー」


「……このマー、船には詳しくありません」


「それでもよい、答えてくれ」


 富嶽の前甲板。そこで船橋を見上げながらレオンは隣に立つ老将軍マーに問うた。マーは一通り、甲板上を見渡すと「これを我が国で作るのは不可能でしょう」と答えた。


「見ての通り、船のほとんどは質の高い鋼鉄で出来ております。そして、甲板。滑り止めのためか、上質の木材で飾られ、これだけでどれほどの価値があるのか……」


「これだけの鉄を用意することだけでも我がビーストバニア獣人国では不可能だね。そして、あの国はこの船より大きな船を持つのだから……」


 レオンは、富嶽を守るように停泊する第一艦隊の各艦艇を見渡した。ド級戦艦『富士』を筆頭にいずれも大きく、迫力に溢れた戦闘艦だ。


 帆もなく、櫂もなく、黒煙を噴き出しながら航行する大和帝国の船。


 彼らにとって理解できないそのシステムを抜きにしても、彼らの常識から推察できる船の構造だけを見てもこの船はあまりに高いテクノロジーが投入されている。


「間違いなく、我々とは隔絶した技術力を持った超大国でしょう。それこそ『異世界の国家』とでも言った方が正しいのかもしれません」


 異世界――マーのその言葉に、フッと笑いを漏らすレオン。

 

 異世界など魔法のあるこの世界でもなかなか信じがたいことだが……こんなものを見せられてしまってはあながち嘘ともいえない。




 さらに彼らの周囲には親衛隊、所謂メイド部隊が列をなして監視している。総統の護衛と富嶽の防衛を担う部隊だ。


 よくよく考えればこれは異常な光景だ。


 それこそ、現代日本人から見ても割と変な光景になるだろう。可愛らしいふりふりのメイド服を身に纏った少女たちがボルトアクション小銃を担いで兵隊風に並んでいるのだから。


「確かに、この奇妙な恰好をした女性の兵隊たちを見れば異世界と言うのも頷けるな」


 なんて、レオンが感想を抱いたのはある意味当たり前のことなのかもしれない。


 ちなみに、当たり前だがこのメイドたちのメイド服はミニスカニーソ、所謂絶対領域仕様である。

 そんなものを、露出の少ない中世文化の服装に慣れ親しんだレオンが見れば……この先は言わなくても分かるだろう。


「しかし、これがこの国の芸術か……いいな、僕の国でも採用しようかな?」


 いけないモノに目覚め始めていたのだ。




 そんな親衛隊に見張られながら、彼らは講和会議のために富嶽の会議室に向かう。


 ちなみに案内役は富嶽艦長の夜桜であった。


 彼女に案内され、ただ船内を歩くその時間。特に何かを見せられたというわけでもない。ただ、廊下を歩くだけの時間。


 それだけで彼らにとっては驚きの連続であった。


 総統専用艦『富嶽』は洋上を航行する宮殿である。それも、国民の大半から妙な信仰心を抱かれている総統のための宮殿である。


 その内装は当然、大和帝国の国力の全てがつぎ込まれていると言っても過言ではない。


 目指す目標は「世界で最も豪華な船」。どんな船が相手でも、この船に比べれば「カスである」と言えるくらいには豪華にしなくてはならない。


 それゆえに、富嶽の内装はそこらの高級ホテルを「犬小屋」と呼べるくらいには豪勢になっているのだ。 


 第一次世界大戦レベルの大国が、そんな意気込みで作った船。


 そんなところを、中世レベルの人間が歩けばどうなるか? 


 もし、これが一般人であれば逆に何が何だかよくわからずに「はえー……すっごい」で終わったかもしれない。


 だが、レオンもマーもそれなりの地位にいた「ものを見る目がある」存在だ。


 自国のものとは比べ物にならないほど高品質な敷物を見ては驚き、歪みのない美しい鏡を見ては驚き、はたまたなんてことはない照明を見るだけで「なんだ、あの光る物体は!」と驚き……。


「この船の構造だけで恐るべき国力があると思っておりましたが、レオン王子よ、これは……」


「まさに浮かべる城、だね。この廊下の内装一つとっても僕の部屋より立派だよ。負けたね」


 この富嶽は大和帝国の力を見せつける絶好のプロパガンダになっただろう。


 そして……。


 


「こちらが会議室になります。すでに総統閣下はお待ちになっています。無礼な真似はしないように」


「わかっているよ、えっと……」


「夜桜です。本艦の艦長を務めております」


 クールに振る舞う艦長夜桜。割と総統閣下には甘々だが、彼らには手厳しい。だが、これは、別に獣人差別とかそう言うわけではない。


 夜桜を始め、親衛隊員は総統以外には冷たい、それだけだ。


 そんな彼女に、あははっと愛想笑いを浮かべるレオン。


 ちなみにその目線は、豊満なおっぱいである。レオンとて健全な男子、相手が人間であっても巨大な乳の魔力には打ち勝てないのだ。


 ……無論言うまでもないが、大和帝国において巨乳崇拝は重罪である。大和国内ではおっぱいに気を付けよう。


 


 そんなおっぱいに別れを告げ、彼は会議室の中に入る。


 普段は大きく開かれた窓が特徴の開放的な会議室。


 しかし、この時ばかりは、分厚いカーテンで外界と遮断され、暗く重たい雰囲気が漂っていた。


 そして、二列に並んだテーブル。


 上座となる場所にはすでに大和帝国側の代表者が並んでいた。


 現地陸海軍の代表、外務省の役人、各秘書。


 そして……。


「彼女が帝国総統エリュテイアか……」


 そんな大和帝国の代表団の中心に座る人物。


 旧ドイツ軍を思わせる黒衣の軍服を身に纏った小柄で美しい少女。背後に、これまた美しいメイド――アヤメを従えた永遠の美少女。


 レオンは、そんな少女の姿に思わず見惚れた。


 基本的に獣人は人間に対し恋愛感情を抱かず、その逆もまたしかりだ。


 人間と獣人の関係は、人とチンパンジーのそれに近い。似て非なる物、チンパンジーに恋する人間はそう滅多にいない。


 だが……種族の違いすら粉砕する美しさというものがこの世界には存在する。


 薄暗い会議室の中、僅かな光を浴び神秘さすら感じさせる銀の髪、異様なまでに整った顔立ち。そして……。


「これは、なんと破廉恥……」


「マー、何を言うんだ。これが芸術というものなのだろう」


 テーブルの下を覗けば見える白く滑らかな太もも。しっかりと目を凝らせば、その先の見えてはいけない領域にすらたどり着きそうになる。


 ミニスカ、ニーソの組み合わせからなる絶対領域は獣人に対しても効果を発揮した。


 人間の足に興奮する獣人はいない。それは、チンパンジーの足に興奮する人間はいないのと同じだ。


 だが、そのチンパンジーの足が常軌を逸して美しかったら?


 レオンの性癖に歪みが生じる。人間的に言えば、ケモナーとか、そんな感じの異種族に関する興奮だ。


 だが、それだけではない。




 太ももを凝視されていると視線で理解したエリュテイアは、スッと手でその太ももを隠す。

そして、顔を赤らめながらこうつぶやくのだ。


「……どこを見ているんですか、変態」


 絶世の美少女が、冷たい目をしながら、顔を赤らめ蔑むような視線を向ける。


 中学生程度の年齢にしか達していないレオンにこれは強烈だった。いけない世界の扉が、大きな音を立てて開かれたのだ。




 レオンの性癖が完全に歪み、のちに『ドM革命』と呼ばれるこの現象により、和平会議は大和帝国にとっては順調に進むことになった。


 この会議により定められたことは基本的には、以前ライカン二世に提示されたものと同じだ。


 一つ、大和帝国とビーストバニア獣人国は対等な友好関係を築く。


 二つ、ビーストバニア獣人国は戦後賠償として金10トンを払う。これは、その他物資に変えてもよい。


 三つ、ビーストバニア獣人国は帝国との通商条約を結び関税を完全撤廃する。


 四つ、ビーストバニア獣人国は半獣人差別をやめ、半獣人のための独立国家建設に尽力する。


 これに、占領地の扱いなどいくつかの補足条項が結ばれ、ビーストバニア戦争は終わりを迎える。


 そして、この講和により、エリュテイアは一層その名声を高めることになる。「さすが、総統閣下の太ももだ! 獣すら魅了するこの世の至宝だ!」と……。


 本人が酷く複雑そうな顔をしたことは間違いないだろう。

 多くの誤字報告、ありがとうございました。


 これにて、ビーストバニア戦争は終戦となります。


 まあ、終戦と言っても異種族間が仲良くできるはずがなく「たかだか、20年の停戦」みたいな結果に終わりそうですが。


 面白かったと思っていただければ、高評価やブックマークを頂けると幸いです。

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[一言] 太ももは世界を救う、総統閣下万歳!
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