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第二十六話 総統閣下とバルカ王国

 ビーストバニア獣人国が、軍事行動を起こすまでの数か月。


 時間を潰すために、せっかく近くに来たのだからとバルカ王国に観光に来たのですが……。


 ふむ、どうやらなかなか困ったことになってしまったようです。




 ここは、バルカ王国の王都『ミュスクル』。その真ん中にある神殿。


 バルカの人々曰く「戦女神ヘルヴォル」を祭るための神殿だそうです。古代ギリシャ風の白亜の神殿で、デザインはとっても綺麗です。

 こんな状況でなければ、キャンバスにでも描きたいくらいです。


 けど、今はそれどころではありません。


 だって、その神殿の中枢部、玉座の間みたいな感じの場所の玉座に、このボク自身が座らされているんですから。


 それも頭を垂れる数百人のマッスルを前にしてですよ?


「おお、女神よ! 戦女神ヘルヴォルよ! 我らバルカの民に力を与えたまえ!」


 なんて。


 アヤメさんは嬉しそうに「おやおや、エリュテイア教入信希望者ですか? エリュさんの良さを理解するとは、この国の民はなかなか話の分かる人々らしいですね」とか言っていますけど……。


 いやぁ、とんでもない国に来てしまいました。


 ちょっと観光でもできればいいなぁ、そのついでにより一層友好的な関係になることができればいいな、くらいの軽い気持ちでやって来たのに。


 気が付けば女神として祭り上げられている。


 困ったものです。


「えっと、ボクはその、エリュテイアで……戦女神とかそういうのでは……」


 と、何とか弁解してみるものの……。


「ほう! ヘルヴォル様の真のお名前はエリュテイアと! 皆のもの聞いたか!」


 みたいな反応をされて……うん。どうしようもないですね。


 もう知りません。


 向こうが勝手に何か勘違いしているみたいですし、こっちは戦女神ではないと伝えました。

後で「お前、戦女神じゃないじゃん」と文句を言われても、こっちに責任はありません。






 そう言うわけで……責任を完全放棄。


 観光を始めたいと思います。てか、そもそもの目的はそっちですし。


 バルカの王様バアル・バルカさんに「街を見て回りたい」と伝えて、神殿から出発。マッチョな王様自ら、観光案内をしてくれるそうです。


 バルカ王国の王都『ミュスクル』は、結構綺麗な場所ですね。


 中世レベルの技術力しかないと聞いていたので、糞尿くらい落ちているかな? とか思ったんですけど、整備が行き届いていて……。


 赤い屋根に白い壁。地中海風の輝く太陽と相まってとても美しい場所です。


 お御輿みたいなものに乗せられて、さらに親衛隊メイドとマッチョの大軍がついてきていることを除けば、本当に素敵な場所です。


「綺麗な街ですね……ボクの国にもこういう街が欲しいですね」


 なんて、どういうわけか一緒にお御輿に乗っているアヤメさんに言ったら「では、奪いますか?」なんて物騒なことを。


 いや、この街が欲しいわけではないんですよ。こういう、観光名所風な綺麗な街並みがですね?


 むむむ、と唸るアヤメさん。暫し、考えた後「わかりました。では、後で作らせておきますね」なんて……。


 何が、後で作らせておきます、ですか、そんなオムライスでも作る感覚で街を作ろうしていないでください。


 ほら、お御輿担いでボクを案内してくれているバルカの王様も「ほう、このメイド、なかなかに狂っているな。おもしろい」って……。




 ……はぁ。


 そう言えばなんでロシャーナさんはバルカに来なかったんでしょうか?


 あの人、一応セレスティアル王国の代表ですから国家間の顔合わせ的な感じで来たほうが良かったのでは?

 

 誘ってみたんですけど、なんか「ただでさえ甘ったるいのに、観光旅行中なんて……」とかなんとか。


 あの人、一応常識人ですから、こういう場面には居て欲しかったのに……残念です。


 きっと、バルカの食事が口に合わないとかそんな感じなんですかね? 知らないですけど。


 




 さてさて。


 ところ変わって、街のはずれ、コロッセオ風の練兵所。見た目もいいですし、バルカの観光と言えばここっ! って言うくらいのスポットらしいですね。


 その練兵場のど真ん中。


 そこに、マスケット銃を構えたメイド親衛隊が並んでいます。


 彼女たちが狙っている標的は、鋼鉄製の鎧。フルプレートアーマーってやつですね。距離は20メートル、十分有効射程内です。


 引き金を引き……発射。


 乾いた銃声と共に発射された弾丸は、何発か鎧に命中。鋼鉄製の鎧をいともたやすく貫通します。


「ほう、これが神の杖か……」


 と、感心している様子のバルカ王。


 何をしているのかと言うと、観光ついでの贈り物兼セールスですね。練兵場で大和帝国製兵器の見本市です。


 バルカへの贈り物として、帝国製兵器をいくつか持ってきていたんですよ。


 基本的にはマスケット銃と旧式の前装式滑腔砲ですね。ナポレオン戦争で使われたような兵器です。


 旧式兵器しか持ってきていない理由は……技術の流出を抑えるためだとか、東方大陸をバルカ一強にしないためだとかいろいろあります。

 

 近代兵器を装備したバルカ軍が、東方大陸を支配してしまえば……のちの戦争ビジネスに支障が出ますからね。

 火種をばらまいて、争わせて兵器を売る。一国しか存在しないのは戦争ビジネス的には美味しくないですから。


 いろんな国が、長く争い続けてくれている方がいいんですよ。


 それに、異種族国家をバルカが攻め滅ぼしてしまえば、一時的に市場が焼け落ちてしまいます。

 

 それは、それでだめです。




「しかし、あのマスケット銃とやらは、いささか筋肉に欠ける武器だな。あのような細腕のメイドでも扱えるとは……」


「それが魅力的な兵器なんですけどね」


「ふむ、なるほど。だが、それより、私が気になっているのはこれだ」


 そう言って、近くの展示棚からバルカ王が手に取ったのは……なんですかね、これ?


 でっかいマスケット銃?


 ちょっとこの兵器は見たことがありません。構造としてはマスケット銃だとか火縄銃に似ているんですけど、なんかどこからどう見ても違うんですよ。


 サイズが。


 二回りくらい大きいんですよね。


「『抱え大筒』ですよ、エリュさん」


「……こんな兵器誰が持ってきたんですか?」


「私ですけど、だめでしたか?」


 ……アヤメさん。


 で、なんなんですか、この珍兵器みたいなものは。


 抱え大筒ですか? 戦国時代にでもありそうな見た目の武器です。


 くっそでかいマスケット銃とでも言えばいいんでしょうかね? あるいは小さい大砲を手に持てるようにしたとでも表現しましょうか?


 ハンドキャノン、と言ってもよさそうです。


 射撃したら反動でぶっ飛んでしまいそうな見た目ですよ。


 ジト目で「人間がこんな頭悪そうな武器を撃てるんですか」と聞いてみたら……。


「撃って見せましょうか?」


 と、アヤメさんは言って、まじまじと抱え大筒を眺めていたバルカ王から、無理やりそれを奪い取り、流れるように装填。


「ぬおっ! このメイドは、なんという怪力なのだ。この私から武器を奪い取るなど、ありえん!」


 とか言われていますが、全く気にすることもなく、さっきマスケット銃の的として使っていた鎧めがけて発射。


 ……実際アヤメさんは相当な怪力ですよ。ホールドされたら絶対に逃れることはできません。


 して。


 ばこーんっ、とマスケット銃とは比べ物にならない爆音と共に砲弾が発射され、標的の鎧が吹っ飛びます。


 榴弾ではないただの鉄球のようですが……大口径銃ですし、運動エネルギーが凄まじいんでしょうね。


「ほほう……先ほどの、マスケット銃とやらの強化版か。素晴らしい筋肉兵器だ。どれ、私にも撃たせてくれ」


 なんて、感心しておられますし。


 やっぱり、脳筋と変態はこういう頭悪そうな兵器が好きなんですね。この武器、見るからマッチョじゃないと反動制御できそうにないですし。


「王よ! これを見てください!」


「どうした筋肉将軍!」


「この大砲と言う兵器、なかなか良いものです。これならモルロのオオトカゲも一撃で吹き飛ばせるでしょう」


「ふむ……。しかし、その兵器は車輪の上に乗っているようだが……抱えて撃てぬか?」


「はっ、やってみます」


 なんて、前装式の野砲を砲車から外して抱えて撃とうとしていますし……。アヤメさんは微笑ましげにそんなマッスルたちの奇行を眺めていますし……。


 はぁ……暑苦しい。


 この辺、劇場とか無いんですか? オペラを見たいです。


 えっ、無い? 剣闘士大会ならある? 嫌ですよ、そんな血なまぐさそうなやつは。

 ちょっとした兵器解説『抱え大筒』編

 

 性能諸元

 口径4センチ

 砲弾重量約300グラム 初速240メートル毎秒

 貫徹力 最大5ミリ


 マスケット銃では頼りない大型目標もこれなら一撃! 反動は、筋肉で耐えるべし。

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