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第二十二話 総統閣下とネコミミさん

 作戦会議から数日後。


 大型の軍艦が入港できるようにするための港の拡張工事を視察したり、ビーストバニア本土に向かうべく島から出港していった獣人たちを見送ったり。


 まあ、いろいろできることをやって次の作戦までの時間を潰しているところです。




「閣下、これが新しい対ビーストバニア戦略です。どうでしょうか?」


 ボクの仕事部屋、『富嶽』の総統執務室。


 そこに陸軍参謀の辻さんが、ここ数日の間に練り上げた新しい軍事作戦の資料を持ってきてくれました。


 ……ふむ、内容は悪くないですね。


「いいですね。作戦名は『衝撃と畏怖』に決定です。作戦準備ができ次第、さっそく発動させてください」


「はっ、ではそのように……」


 ばんっ、と書類にハンコを押してあげると、ビシッと敬礼してボクの執務室から出て行く、辻さん。


 ……ふう、緊張しました。あの人、ちょっと怖いんですよね。顔と言うか、雰囲気と言うか。


 目の奥がぎらぎら光っていて「よっしゃ! 出世したるで!」みたいな雰囲気がちょっと無理……。




「さて、次ですよ、エリュさん。例の奴隷さんです」


 辻さんが出て行ったすぐあと。


 机に着いているボクのすぐ隣でメモ帳を確認しているアヤメさんが、そう告げます。するとドアを「こんこん」とノックする音が。


 奴隷。


 たしか、半獣人の皆様からのプレゼントでしたよね……。


 新しい支配者になる我々大和帝国に対する彼らの服従の証。


 正直いらないです。アヤメさんだけでも手に負えないのに、これ以上面倒くさそうなものを抱え込みたくはないものです。


「……どうぞ、入ってください」


 と、言うと「し、失礼します!」と緊張した声が返ってきます。


 そして、船特有の重たい扉が開き……。


 ぴょこんと猫耳が跳ねます。入ってきたのは、親衛隊正規のメイド服を身に纏った可愛らしいネコミミ娘です。


 そして、入ってくるなりそのネコミミさん、怯えた表情で胸元のボタンを外して、メイド服をはだけさせたんです。


 結構大きいですね。アヤメさんが「ふんっ」と不機嫌そうに鼻を鳴らします。

 

「私はミケと言います。大和帝国総統閣下、私の事は好きにしてくださって構いません! だから、一族の事は……」


 頭を下げて必死に訴えかける少女――ミケさん。


 はて、これは一体どういうことでしょうか? 


 アヤメさんと顔を見合わせます。


「エリュさん、何をしたんですか? あの子、怯えてますけど」


「さあ? アヤメさんに心当たりは? 結構かわいい子ですから襲ってみたとか?」


 ガチ百合ですよね、アヤメさん。と、問いかけるとちょっと不服そうに首を横に振られました。


「いえいえ、まさか。てか、私とエリュさんは24時間一緒じゃないですか。私がエリュさん以外に興味を持ったところを見たことがありますか?」


「ないですね、アヤメさんはボク専属の変態です」


 なぜ怯えられているのかと、互いに心当たりを探ってみるも全く思い当たる節はなく……。

 って、自分で言っておいてなんですけど、ボク専属の変態って何ですか?


 頭の悪い言葉を作ってしまいました。反省、反省。




「えっと、とりあえず顔を上げてください。困ってしまいます」


 聖女様の時といい、ボクと面会する人はどうしていつもこうなのでしょうか?


 緊張していたり、怯えて居たり。

 

 頭を下げられたままではお話もできません。


 にっこり愛想笑いを浮かべながら、そう言うとミケと言う女の子は、顔を上げて「あれ、女の子?」と首をかしげます。


「あの、総統さんは?」


「ボクが総統ですけど……何か、勘違いしてませんか?」


「え、こんなちんまい女の子が総統? あの街を吹き飛ばした?」


 急にカジュアルに接してきたミケさん。不機嫌風に「……ちんまくて悪かったですね」と言ったら「……っ、これは失礼しました」と一転。


 真面目そうになりました。


 なるほど、素は結構フレンドリーな子なんですね。今時の若者って感じです。


「……とりあえず楽にしてください」


「あっ、いいの? じゃあ、楽にさせてもらいます」


 とことこ歩いてきて、執務室のソファーに座るミケさん。


 なんなんだ、この人は……と、ボクが見つめていると「ごめんなさい、私って奴隷育ちだから教養がなくて」とおっしゃりました。


 まあ別に、ここにはマスコミもいませんし、真面目な場所でもないですし、ボク本人も特に気にしてないのでいいですけど……。


 アヤメさんには気を付けてくださいね。


 あの人、過保護ですから、ボクに対しあんまり無礼にしているとやられちゃいますよ? 


 大和帝国には、ボクの意思に関係なく“不敬罪”とかいう物騒な刑罰があるんですから。




 それで……。


「……ボクに、何か変なものでもついていますか?」


 ソファーに座った彼女は、なぜかまじまじと僕の顔を見つめてくるんですよ。


 身だしなみについては異常はないはず……。お化粧もばっちりのはずです。全部アヤメさん任せですけど。


「んー、特には。強いて言えば、首元にキスマークが付いてるけど」


「キスマーク? ……アヤメさん?」


 おかしいですね。


 そんなところをキスされた記憶は一切ありません。


 後ろにいるアヤメさんに振り返って、なにか、心当たりあるんじゃないんですか? と言う視線を向けてみれば……。


「エリュさんが寝ている時に我慢できず少々。何か問題が?」


 っと、隠し立てせず、正直にキリッとした表情で答えてくれました。


 問題って……はぁ、もういいです。何言っても無駄でしょうし。


 って、そんなやり取りをアヤメさんとしていると、ミケさんはニコニコ笑い始めました。

 

「ふーん、まさか、あの化け物国家のトップがこんなに可愛いなんて……。私、てっきり、やばいおっさんか、魔王が支配している国かと思ってました」


「街も吹き飛ばしましたしね」


「そうそう。だから、わが身を犠牲にしても取り入らないと、族滅される……って、思ってたんだけど……」


 一拍置いて「その必要はなさそう」とミケさんは続けました。ああ、だから、最初にメイド服をはだけさせて誘惑してきたんですね。


 ご主人様! 言うこと聞くから族滅しないで! って、感じですね。


 分からないこともないです。


 普通に考えらたら怖いですよ、ボクの国。


 突然海の向こうから巨大な軍艦に乗ってやって来たと思ったら、大軍を送り込んで制圧前進。

さらには艦砲射撃で街を粉砕。


 こんなの怖くないはずがないんですよ。地球で言うなら宇宙人が攻めてきた時くらいの脅威ですかね?


 もちろん、こちらとしては敵対するつもりはないんですけど。


 仲良くしてくれたら、幸せにしてあげますよ? 


 幸せになる葉っぱも売ってあげます。ほら、アヘン戦争って知っていますか?




 っと、冗談はこれくらいにしておいて。


「あーあ、恥かいちゃった。けどいい人そうで良かった」


 なんて、笑うミケさん。「あなたなら、酷いことしないでしょ?」なんて……。


 なんだか心底幸せそうです。一応、奴隷と言う身分なのに……。


 そんな状況でも笑顔になれるって、獣人たちに、よっぽどひどい扱いされてきたんですかね?


 しかし、ネコミミかぁ……。


 ネコミミメイド、悪くないですねぇ。


「エリュさん? そんなにあの女のネコミミを見てどうしたんですか? もしかして、ネコミミフェチ?」


「……いえ、違いますけど」


「ふむ……。エリュさん、わかっていると思いますけど、私、浮気は絶対に許さないですからね?」


「浮気って……」


 そもそも、ボクとアヤメさんはそう言う関係なんですかね? 疑問です。




 ……まあ。


「えっと、ミケさん? あの、ボクとしてはですね、実は奴隷はあまり欲しく無くて……その、自由な身分として過ごしていただけたら……」


「自由な身分? けど、私たちは……」


 言葉を濁すミケさん。少数民族で、この世界では支配される立場、とでも言いたいんですよね。


 人種差別最盛期のこの世界で、自由を得るためには力が必要です。


 アメリカと言う“世界秩序”がないこの世界。


 地球と違って“人間”と言う共通のアイデンティティがないこの世界。


 多くの種族が泥沼の戦争を続けるこの世界では、他者の支配を排除する軍事力がなければ人権を語る資格、自由になる資格すら持てないのです。


 もちろん、これはボクたち大和帝国の傘下に入っても同じです。


 ボクの国は、総統崇拝が全てで人権とか無いですし、熱狂的なナショナリストの集まりなので、異種族である半獣人はきっと差別されてしまうと思います。


 差別されてしまえば、まともな職に就くことはできないでしょう。きっと、ブラック企業の奴隷みたいな仕事しかなくなってしまいます。


 けど。


 解決案は一つだけあります。


「半獣人の国の建国を支援してあげましょう」


 と、ボクが言えばどうでしょうか?


 大和帝国の後ろ盾で少数民族『半獣人』が国を作る。立場的にはイスラエルみたいな感じですかね?


 もちろん、我が国に利益があるからするわけですけど……とにかく、彼らは彼らの国を作ることができるわけです。

 彼らの国の中では彼らは差別されることはないでしょう。外に出て行かなければ、の話ですが。


「えっ、けど……」


「素晴らしい考えですね、エリュさん。『一つの民族、一つの国家、一人の総統』。それが、エリュさんの理想ですからね!」


 ほら、なんか怪しいスローガンが飛び出してきましたけど、アヤメさんも賛成みたいですし……。


 実際に半獣人の国家が作れるなら、我が国にとって凄く好都合なんですよ。


 ヘイト管理の観点で。


 この戦争、どんな結果に終わるかはわかりません。ですが、きっと、ボクたち大和帝国は獣人たちに恨まれます。


 だからですね、ボクたちと一緒に恨みを買ってくれる仲間が欲しいわけですよ。


 ビーストバニア本土のどこかを切り取って、小さくてもいいので半獣人の国を作る。獣人たちの鼻先に脅威を作ってあげるわけですよ。


 すると、獣人たちの目は、ボクたちではなくてそっちに向くはずです。


 ほら、これで完璧。これで、多少は商売しやすくなるはずです。


 建国できるまでは……仕方ない。外務省あたりに任せます。面倒なので。




 しかし。


 ネコミミかぁ……。ちょっとだけ、触ってみても……?


 あっ、だめですか。


 そうですか……残念です。

 ここまでのところで、分かりにくいところとかないですかね? 

 

 もし「ここ分かりにくいよ」とか「これはどういうことなの?」とか、ありましたら感想の方でご注意していただけると嬉しいです。

 もちろん、それ以外の感想もいただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 総統閣下なのに、百合ハーレムを作れないなんで、もっと百合を......
[良い点] まぁ、上下関係は必要よね [気になる点] 閣下、あまり甘やかすと、こう言うタイプはつけ上がりますよ?
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