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第十九話 総統閣下とイエネコ島

「エリュさん、前線の第一海兵師団より報告、『進攻極めて順調なり、我が軍敵拠点の九割を確保セリ』」


「ん、完璧です。前線の師団長さんに称賛の言葉を送っておいてください」


「ヤー、了解しました」


 総統専用艦『富嶽』に設けられた会議室。即席の指令室になっているそこで、ボクはアヤメさんから報告を受けとります。


 全ては計画通り、極めて順調です。


 ボクたち大和帝国の最初の戦いは、それこそ“戦いと呼べるものではない”と言ったところです。

 まあ、こんな田舎の島に敵軍なんて存在しませんから、当たり前と言えば当たり前ですけど。


 無理に抵抗してきたとしても、相手は狩猟用の弓とか槍くらいしか持っていない民兵です。

 

 そんな相手に、ボルトアクション小銃や機関銃を装備する軍隊が砲撃支援の下、襲い掛かったんですから……それはもう戦いとは呼べませんよね。


 ボクの命令で、上陸した海兵隊は微細な敵民兵の抵抗を排除し、イエネコ島全土をほとんど掌握。

 

 こちらの被害はほとんどゼロ、敵の民兵を4000人以上撃破したそうです。


 華々しい戦果ですけど……敵の民兵が4000人って、どうなっているですかね?


 この島の人口が1万人くらいですから、半分くらいは民兵になって抵抗してきているってことですよね。


 異種族との戦争ですから、強固な抵抗があるとは思ましたが……先が思いやられます。




 とはいえ、この島の攻略はあと少しで完了。


 残すところは、北岸にある城壁に囲まれた港町『イエ・キャットバニア』だけとなりました。

 

 今あの街は、ボクたちの攻撃から逃げてきた島中の獣人たちで、溢れかえっているそうですね。


「アヤメさん、海軍はどうなっていますか?」


「すでに戦艦『富士』を旗艦とした第一艦隊が『イエ・キャットバニア』沿岸に展開。第二艦隊も間もなく到着予定。……いつでも攻撃可能です」


「陸軍は?」


「第一海兵師団がイエ・キャットバニアを完全包囲、付近の丘の上に砲兵陣地を築いて攻撃の準備を整えています」


「完璧ですね。では、獣人さん達に降伏するように要求してください。無用な殺生は不要です」


 アヤメさんは「ヤー」と返事して近くのメイド服を身に纏った無線手さんにボクの命令を伝えてくれています。


 敵は街に逃げ込んで、その街を陸海から我が軍が包囲して、さらに戦艦やら陸軍の師団砲兵やらが攻撃準備を整えている。


 もうおしまいですね。


 敵が降伏しなければ、我が軍の砲撃でチェックメイト、降伏してくれれば殺さなくて済むので大変結構。


 よしよし、最初の戦闘はなかなか楽に終わりそうです。




 ……って、アヤメさん、なにをそんなに深刻そうな顔をしているんですか? 


 なにやら、無線手さんから新しい報告を受けたみたいですね。……この島には、こちらが苦戦するような敵戦力は存在しないはずですけど。


「エリュさん、前線部隊より新たな報告です。何やら極めて政治的に難しい状況に陥ったらしく……聖女様を連れて前線に来てほしいと」


「ボクがですか?」


 はて、最前線に腐っても国家のトップであるボクを呼びつけるとはこれはいかに? それほど深刻な事態が? ……まあ、いいですけど。


「ええ、安全は確保されているそうなので……」


「わかりました、親衛隊の準備は?」


「機甲大隊、自動車化歩兵大隊、双方準備は完璧です」


 ん、では出発しましょうか。


 って、今回の親衛隊の装備とんでもない重装備ですよね。服装は相も変わらず、メイド服ですけど……。


 50両以上の戦車を装備する機甲大隊に自動車化歩兵。


 あとは砲兵を用意すれば、もうそれはカンプグルッペ――“戦闘団”ですよ。


 ボク一人の護衛には過剰と言うか、むしろこの兵力を使ってこれで殴りこめ! って、レベルの部隊です。


 ねえ、そうは思いませんか、ボクの副官兼親衛隊長官のアヤメさん。


 あ、思いませんか、そうですか。アヤメさんには無かったですもんね、常識。






 そう言うわけで、アヤメさんと聖女のロシャーナさんを引き連れて出発。


 『富嶽』から内火艇に乗って、イエネコ島に上陸。先に上陸し、待機していた親衛隊戦闘団と合流すると、最前線の街『イエ・キャットバニア』に急ぎます。


 戦車に囲まれ行軍開始……エンジン音やら履帯の音がキャタキャタ煩いですね。


 ちなみに今回は戦車に乗らず自動車で移動です。


 昔の戦争映画でよく見る指揮官用のちょっと高級そうなオープンカーです。


 ボクもエリュテイアになる前は立派な男の子ですから、ロマンを求めて戦車に乗りたいという気持ちがあるんですけど……。


 ロシャーナさんも連れてきているので乗れないですよね、戦車。


 ボクが前に乗っていた戦車――三式軽戦車は三人乗りです。そのうちの一人は、操縦手なので、これはボク専属の運転手さんの西大尉固定です。


 アヤメさんも、ボクも戦車の操縦なんてできませんし。


 ちなみに西大尉はポニテの可愛い女の子です。乗馬が趣味だそうです。……乗っている馬の名前はウラヌスでしょうかね?


 まあ、それはいいとして。


 運転手さんは固定、残りの機銃手と戦車長の席にボクとアヤメさんが座れば、もう空きがありません。

 軽戦車なので狭いですし。


 そう言うわけで、自動車に乗って移動です。


 運転は西大尉、助手席に聖女様、後部座席にアヤメさんとボクですね。


 車と言えば、最近凄く良い事を思いついたんですよ。


 それはですね……アヤメさんと一緒に車に乗るとき、手を繋ぐんです。そうすれば、いつぞやみたいに太ももを撫でられないんです。


 手を繋げば、アヤメさんもなんだか満足そうですし、一石二鳥です。






 そうこうしながら行軍すること一時間、最前線の近くの丘の上まで到着しました。イエ・キャットバニアの街まで数キロと言ったところでしょうか?


 ここには連隊司令部が作られているみたいですね。


 困り顔の連隊長さんに「いつもご苦労様です」と軽く挨拶を済ませ、車から降りて双眼鏡で前線の様子を確認します。


 んー、これはどういう状況でしょうか? 


 前線まで距離があるので、あまりよくは見えませんが……。


 丘の上から見下ろした感じですけど……まず、街の正面門の前に大柄な猫獣人がいるんですよ。


 その猫獣人が、全裸の少女の首にナイフを突きつけながら何か叫んでいるんです。


 遠すぎて何を言っているかまでは聞こえませんけど。


 って、気のせいですかね、あの少女、猫耳が付いているような気がするんですが……。


「閣下、前線の兵からの報告によりますと、何やら獣人たちが人質を取って街に立てこもっているそうで……」


「人質、ですか?」


「獣人たち曰く『半人間』だとか。前線の兵士からも、確かに人間のように見えると報告が届いています」


 ん、連隊長さんからの簡易な報告を受けます。人質ですか……面倒なことをしますね、獣人さんは。


 さて、どうしたものでしょうか。そもそも、半人間って何ですか?


 この世界に一番詳しそうなロシャーナさんに聞いていましょう……てか、このためにロシャーナさんを連れてきたんですね。


「ロシャーナさん、半人間とはどういう生き物なのか知っていますか?」


「半人間……? それは、半獣人のことではないでしょうか? 私の国では絶滅してしまいましたが、その昔、人間と獣人の特性を併せ持つ半獣人という種族がいたとか」


「なるほど、半獣人ですか。それは、ボクたち人間の味方ですか?」


「いえ、基本的には人間ではなく獣人扱いされていたと……」


 んー……。


 獣人扱いされていた、ですか?


 ボクたち大和帝国は人間の国家で、獣人さんとは敵対関係。そんな獣人扱いされている生き物に人質としての価値があるのか少々疑問ですが……。


 これはあれですかね、敗戦を恐れて近くにいた人間っぽい見た目の奴をやけくそ的に人質にしたって感じですかね?


「……一応聞きますけど、降伏の呼びかけに反応は?」


「まったくありません、閣下。彼らは最後の一兵まで戦うつもりのようです」


 そうですか……それは、残念です。


 とても残念です。


「どうしますか、エリュさん? 我が軍が攻撃を中止する義理はないかと思いますが……」


 確かに。


 だって、半獣人とか知りませんし。誰なんですか?


 見殺しにするのは可哀想ですけど、こっちも1億2000万の国民の命がかかっていますからね。


 冷酷な判断ですが、情け容赦なく攻撃させてもらいます。




 ……とはいえ、全く何もしないというのはあまりにも不憫です。


 遠目に双眼鏡で見ても、人質にされている少女はボロボロで酷い扱いを受けていたことは明白です。

 このまま、獣人もろとも吹き飛ばしてしまうのは可哀想です。


「帝国陸海軍に伝達、1200にイエ・キャットバニアに対し一斉砲撃。容赦なく猛射を浴びせてください」


「猛射ですか、エリュさん?」


「猛射です。人質に当たらなければ、後はどこに命中しても構いません。可能な限り最大の火力を短時間の間に叩き込んでください」


 攻撃する意思に変更はありません。けど、多少は考えてあげますよ。


 人質さんたちが生き残る道を。

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