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第百三十八話 ミッドヴァー沖海戦 後編

 ワキガ・クッサイナー率いるエルフジア艦隊、総統閣下率いる大和帝国艦隊。


 二つの艦隊は、今、ミッドヴァー島沖にて2万メートルの距離にて相対していた。


 2万メートル、キロに直せば20km。


 それは、一見すればかなりの遠距離に思えるが、艦隊決戦ガチ勢の大日本帝国が『決戦距離』と定めた距離だ。


 優秀な射撃管制装置を持つ戦艦であれば、相手が30ノット近い速度で逃げ回っていても、それなりの確率で命中弾を叩き出すことになる。


 つまり、ここからは回避だとか運だとか、そういったものに頼らない本物の『火力と装甲』が必要になるのだ。




 そして、この戦場で、それを持っていたのは大和帝国の『扶桑型戦艦』だけだ。


「クッサイナー司令! 敵艦を射程に捉えました!」


「ほっほっほっ! 反撃ですよ、我が海軍が新開発した統制射撃を見せてやりなさい!」


 もちろん、戦争である以上、エルフジア軍も急速に技術を吸収し進歩している。


 満州沖海戦にて、大和帝国と交戦したベリヤ。


 彼女はその海戦の中で「……なるほど、彼らは、各砲を一律の指揮下で砲撃させ命中率を高めているみたいだね」と、大和帝国の砲術を分析。


 相変わらず測距儀など不足する技術は多いものの、それっぽい統制射撃の訓練を艦隊にほどこし、クッサイナーにも学ばせていた。


 しかし……。


 まだ大和帝国には届かない。


「二番艦『ツァーリ・マレンコフ』被弾! ……ああ、弾薬庫が誘爆! あれではもう……」


「わずか9分で沈没確実ですか。ほほほっ……」


 エルフジア軍が反撃を開始してからほんの数分。


 数斉射行った段階で、『ハローシイ・レーニン二世』の後方を進んでいた『ツァーリ・マレンコフ』が『山城』の放った38センチ砲弾を一番主砲塔に被弾。


 巨大な火柱を吹き出しながら、その船体を海底に沈めていった。


 エルフジアの歴史上最も短い在任期間を誇り、「九日皇帝」の異名を持つ皇帝マレンコフの名を冠する艦に相応しい最後と言ったところだろうか?


 さらにさらに……。


「三番艦『ツァーリ・ゴルバーチョフ』被弾! 機関停止、航行不能です!」


 三番艦の『ツァーリ・ゴルバーチョフ』も『伊勢』の主砲弾により機関部を撃ち抜かれ、航行不能。

 財政破綻に陥った国家のように急停止……それどころか、続く被弾で航行用のマナに誘爆。


 船体を崩壊させながら沈んでいった。




 僅かな時間で、戦艦2隻を失った『クッサイナー艦隊』。


 大和帝国の38センチ砲に対し、30センチ砲対応の『バシレウス級戦艦』では装甲が不足している証明だろう。


 また、火力も足りなかった。


 エルフジア最強の戦艦『ハローシイ・レーニン二世』の放った一斉射撃、12発の20センチ級魔導弾。


 そのうちの数発が、『扶桑』に命中するが……。


「……被弾したな。損害はどうなっている?」


「まったくの無傷です」


 エルフジア軍が戦った、今まで戦ってきた『出雲型装甲巡洋艦』や『敷島型前ド級戦艦』を軽く上回る330mmの舷側装甲に弾き返される。


 砲弾を撃ち込んでもケロっとした顔で、反撃してくる『扶桑』……。


 それは、エルフジア軍の希望を断つに十分な姿だった。




 唯一、クッサイナーたちにとって慰めがあるとすれば、巡洋艦など補助艦艇がある程度、善戦できたことだろうか?


 エルフジア軍の巡洋艦は排水量1万トンのグラーフ級。


 火力こそ12センチ級魔道弾発射機を連装4基8門と駆逐艦に毛が生えたくらいだが、その装甲は重巡並み。


 一方の大和帝国の巡洋艦は『阿賀野型防空巡洋艦』。


 7200トンの排水量に対空用の12,7センチ砲を連装6基12門。


 その名の通り、防空専用の軍艦であり魚雷も持たず、重巡並みの装甲を持つ『グラーフ級』を相手するには少し火力が足りなかった。




 ……ただし。


 巡洋艦同士の撃ち合いで、有利を得られないことは大和帝国も重々承知。


 しかも、その上で「一切問題なし」と判断していた。


 何故なら……。


「エリュさん、敵戦艦を二隻撃沈確実です。残りの戦艦は、扶桑型からなる第一戦隊に任せましょう。その代わり、手が空いた第二戦隊の富士型を、敵巡洋艦の対処に回らせます」


「はい、お任せしますね」


 巡洋艦なんてものは、戦艦の巨砲で吹き飛ばしてしまえばいいという思考回路だからである。


 確かに、重巡並みの装甲があれば、駆逐艦や軽巡などと撃ち合う時、有利になるだろう。


 だが、しかし、その程度の装甲は戦艦の前では無意味、完全な無力。




 生き残りの戦艦3隻の対処を『扶桑型』4隻からなる第一戦隊に任せ、第二戦隊の『富士型』戦艦4隻はエルフジア軍の巡洋艦に襲い掛かる。


 大和帝国が異世界移転以降初就役させた戦艦『富士型』。


 旧式ながらも、その主砲は31センチと巡洋艦を撃ち抜くには十分すぎる破壊力を持つ。


 さらに、最近近代化改装され、艦首を延長し機関を換装。28ノットの高速戦艦と化しており巡洋艦キラーとしてはこれ以上ない性能を持つ。


 と、言うわけで……。


 4隻の『富士型』はその主砲火力をもって、エルフジア軍の巡洋艦、小型護衛艦を蹂躙していった。




 そして……。


「クッサイナー司令! 巡洋艦『サブラウ』、小型護衛艦『イットヘイ』沈没!」


「戦艦『ツァーリ・チェルネンコ』、『ツァーリ・ブレジネフ』大破! 残る戦闘可能な艦は本艦のみです」


 黙り込む、クッサイナー。


 勝てるという確証はなかった。だが、今回こそは戦いになるという自信はあった。


 人食い鳥には強力な爆弾を装備させたし、艦艇も統制射撃を学ばせるなど技術的に大きな発展があった。


 だが、結果はこの様だ。


 ふと彼は、かつてベリヤが言っていたことを思い出す。


「大和帝国に艦隊決戦を挑んではダメさ。相手は強い、通商破壊とか徹底的に嫌がらせをしないと……」


 この言葉を聞いた時、クッサイナーは鼻で笑った。


 なんと消極的なのだろう、と。確かに相手は強い、それは一度負けたからわかる。


 しかし、相手は神ではない。


 優秀なエルフなら、戦術を学び武器を揃えれば、いつかきっと倒せるとそう信じていた。


 だが、現実は過酷だ。クッサイナーは再び敗北しようとしていた。


 奇襲されたわけでも何でもない。真正面から挑み、見事なまでに粉砕された。


「ほほほっ、あの小娘のいうことが正しかったようですね」


 最後に「この怪物に、あの小娘ならどう挑むのだろうか?」そう考えたところで、クッサイナーの意識は『扶桑』の38センチ砲弾の直撃により消し飛んだ。




 かくして、『クッサイナー艦隊』は空母を残し、壊滅。


 また、その空母も最大速度27ノットの『扶桑型戦艦』からは逃れられず海の底に沈むことになった。


 戦艦5隻、空母4隻、巡洋艦6隻、護衛艦16隻を一方的に撃沈……。


 これにより、西方大陸東岸の制海権を得た大和帝国は、次の作戦『ダウンフォール作戦』を決行に移すことになる。




 ……ちなみに、その頃、総統閣下は。


「あ、閣下! しばらく、艦橋におられませんでしたがどちらに?」


「ふふんっ、見てください。海戦の勝利をお祝いしてのお赤飯です! 食べます?」


 海軍伝統の戦闘食……赤飯のおにぎりをアヤメさんと一緒に作って、艦橋要員の夜桜艦長などに振る舞っていた。


 曰く「良い総統閣下はファンサービスを忘れないのです!」とのこと……。


 また、この総統閣下特製のおにぎりは、武功を上げた各艦の艦長にも祝いの品として送られ……。


「赤飯かぁ……」


「おっ、鮫島艦長、赤飯の握り飯ですか! 艦長も大人になりましたなぁ、あれほど複雑な表情をしていながら、ライバルの妊娠報告を赤飯で祝うとは……まさに我が子の成長祝う父の気持ちです!」


「馬鹿ヤロー、これは総統閣下からの頂き物だ! せっかく勝利に浮かれてんだ、変なこと言うんじゃねぇ!」


 と、空母『大鳳』の鮫島に、強制的にライバル若林のことを思い出させ、複雑な心境にさせるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ好きなので続きが来ることを願ってます。
[一言] >曰く「良い総統閣下はファンサービスを忘れないのです!」とのこと……。  なるほど。  とある総統閣下が「畜生めぇぇ!」と叫んだり「( ゜∀゜)o彡゜ぷるんぷるん!」と叫んだりするのをネタ…
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