第百三十七話 ミッドヴァー沖海戦 中編
大和帝国の空母『大鳳』から、鮫島が攻撃隊を出撃させている頃……。
クッサイナーは、いまだに大和帝国艦隊を発見できずにいた。もちろん、クッサイナー達も空母戦のセオリーに従い偵察機を送り出していたのだが……。
「こちら白色電光一番! 敵機と思われる『人食い鳥』を発見した。これより、撃墜する」
「了解、白色電光一番、敵機を撃墜せよ」
所詮は、人食い鳥。
帝国艦隊の上空直援を行っている『隼』――時速400km以上で襲い掛かってくる化け物戦闘機から逃げ切れるはずがなく……。
「や、ヤバい! 大和の飛行機械だ! ひっ、被弾した、弾が炸裂している! ――ぐがっ!」
総統閣下が「空気式信管を採用します!」とかなんとか言って作らせた炸薬たっぷりの12,7mm炸裂弾――通称『マ弾』の餌食になって撃墜されていた。
それにより……。
「……ほほほっ、何かがおかしいですね、偵察騎からの報告はっ!」
「いまだになにも……いえ、それどころか、未帰還騎多数です」
クッサイナーは、ほとんど大和帝国の情報を得ることができず、乾いた笑みを浮かべるしかなくなっていたのだ。
……とはいえ。
一定の空域に送り出すごとに偵察機が消えたとあっては「ああ、なんとなくあの海域に敵艦隊がいるのだろう」とある程度の推測が付く。
「ほほ、こうなったら、偵察爆撃を実行するしかないですねぇ。騎士団を敵艦隊のいる、おおよその位置に向かわせますよ!」
「了解、騎士団を発艦させます!」
偵察爆撃――攻撃隊をそれっぽい位置に飛ばし、自力索敵しつつ艦隊攻撃を行う方法で、攻撃しようとしたのだ。
かくして、クッサイナーの命令により4隻の氷結空母からそれぞれ32騎ずつ。
計128騎の『人食い鳥』が発艦する。
しかも、今回の彼らはただの『人食い鳥』ではない。
「へへっ、ロンデリアから拾ってきたこの新兵器……こいつで人間の軍艦を吹き飛ばしてやるぜ!」
そういって、騎士たちが愛おしく見つめるのは……愛騎の胴体に括り付けられた大和帝国製155mm榴弾砲の砲弾。
そう、エルフジア軍は大和帝国がロンデリアでバカスカ撃った砲弾の一部、不発弾となったものを回収して『人食い鳥』に搭載させていたのだ。
もちろん、重量約50kgと非力な人食い鳥には少々重たい砲弾なので、搭載しているのは攻撃機隊の半数の64騎のみ。
残りは、いつも通りノーマルな人食い鳥として制空任務にあたることになる。
かくして。
大和帝国の『大鳳』から64機、クッサイナー艦隊の空母4隻から128騎の第一波攻撃隊が出撃。
「今度こそは勝って見せる」
そう意気揚々と大和帝国艦隊を探し求めるエルフジア空中騎士団だったが……。
先に敵を発見したのは、『大鳳』に所属している事故からの異世界転生系パイロットだ。
「こちら菅野一番、敵機を発見した! 数はおよそ100騎! 各機爆弾なんて捨てちまえ、叩き落すぞ!」
空母『大鳳』の第一波攻撃隊64機は、大編隊を組み飛行しているエルフジア軍の攻撃隊を発見すると迷うことなく爆装をぽいっと投棄。
スロットルを叩き込み、攻撃開始。
愛機『隼』の高い上昇力を生かし、エルフジア攻撃隊の上空に登り、高高度から奇襲する形で襲い掛かった。
「この音は……人間どもの飛行機械だ! 気をつけ――どばっ!」
「制空隊は、攻撃隊を守れ! 敵はこっちよりか少な――あがっ!」
「ふぁっ! 一撃で、一撃で10騎……いや、その倍は落とされた! これが、人間の飛行機械の性能か!?」
一部、信じられないほどの熟練搭乗員が乗る『隼』は、初撃にて20騎以上の人食い鳥を撃墜。
さらに……。
「なんて運動性だ! 速度、上昇力、旋回性能、全てが違いすぎる!」
「なんなんだ、あの黄色いストライプを描いた敵機は! 一瞬でこっちを3騎も食っていきやがった!」
「機体性能だけじゃねえ! 人間どもは腕もいいぞ!」
機体性能と熟練搭乗員を有効に活用し、撃墜を量産。
重たい爆弾を抱え、動きの鈍い攻撃隊どころか制空隊までまとめて食い荒らしていった。
結果、ほんの十数分の空中戦でエルフジア軍の攻撃隊は壊滅。仲間が襲われている間にこっそり低空に逃れ、身を隠すように離脱した数機を除いて全滅した。
……まったく戦果が出せず消えてしまった攻撃隊。
何が起こったのか理解することも無く、クッサイナーは「第一波攻撃隊から報告がありませんねぇ……なら、もう一度攻撃隊を送るまでですねぇ!」と同規模の第二波攻撃隊を出撃させる。
だが、これも待ち構えていた大和帝国艦載機部隊に襲われ、結果は似たようなものだった。
結果、『クッサイナー艦隊』の艦載機部隊は250騎以上の被害を出し、短い時間で消滅。
大和帝国からすれば、この時点で敵空母の脅威は排除され、残るはクッサイナーの乗るガングルト級戦艦『ハローシイ・レーニン二世』以下計5隻の戦艦のみとなった。
それに対し……。
「エリュさん、『大鳳』より連絡。敵航空部隊を撃滅せり、とのことです」
「……ん、では、戦艦部隊を前進させてください。逃がすと、めんどうくさいですから、艦隊決戦で仕留めますよ」
総統閣下は新鋭の『扶桑型戦艦』を投入し追撃することを決定。
「ほ、ほほほっ、航空隊が消えてしまいましたね! しかし、これはいつものこと! 私は最初からこのガングルト級戦艦にしか期待していません!」
「ミッドヴァー島めがけて前進ですな、クッサイナー司令」
クッサイナーも、退く気配は一切なく同じく新鋭の『ガングルト級戦艦』でミッドヴァー島襲撃を画策。
ミッドヴァー島沖で戦艦同士の艦隊決戦が始まる。
「エリュさん、扶桑型戦艦4隻からなる『第一戦隊』が敵艦隊を捕捉しました。戦力は戦艦5隻、巡洋艦6隻、小型艦16隻です」
「ん、わかりました。では、艦隊決戦と洒落こみましょう」
直接戦闘能力が低く、艦隊決戦を挑む戦艦部隊の後方に配備された空母『大鳳』、それを『秋津洲』で護衛する、という名目で後方に置き去りになった総統閣下。
「クッサイナー司令、正面に敵艦隊を発見! 敵の数は戦艦8隻、巡洋艦8隻、小型艦16隻です」
「き、規模では少しばかり私たちが劣っているようですね!」
情報不足で敵の戦力が分からず、とりあえず突っ込んでみたら明らかに敵の方が戦力で優っている、という状況にビビっているクッサイナー。
二人の司令官に率いられた二つの艦隊は互いに砲火を交える。
最初に火を噴いたのは、大和帝国『第一戦隊』所属の戦艦『扶桑』。
距離は大和帝国が決戦開始距離と定める3万メートル。
この距離では、命中は望めないが……総統閣下ですら「へんてこ艦橋」と呼ぶ、今にも崩れそうな違法建築艦橋からデータを収集し、自慢の38センチ主砲で砲撃を開始する。
さらに、その扶桑に続いて同型艦『山城』、『伊勢』、『日向』も砲身を高らかと掲げ、撃ち方はじめ。
狙われたのはクッサイナーの乗る『ハローシイ・レーニン二世』。
ガングルト級は装甲に関して言えば、前級であるバシレウス級から進歩していないので、38センチ砲に耐えられる装甲なんて持っていない。
4隻の戦艦の放つ、38センチ砲弾。その一発が、ラッキーパンチとして直撃すれば一撃死だ。
「距離2万8000……2万6000……。こちらの射程までもう少し!」
「ほほほ、もう少し、もう少しでこっちも撃てます……」
一方、エルフ側は射程が足りずまだ撃てない。あと、すこし、そう祈りながら機関一杯で接近を続ける。
しかし……。
「距離2万4000……っ! この音はっ! クッサイナー司令、伏せてください!」
「ほっ!?」
距離2万4000地点にて、扶桑の放った第6斉射の一発が『ハローシイ・レーニン二世』に直撃。
「さ、左舷副砲に被弾! このままでは弾薬庫が誘爆します!」
「しょ、消火しなさい!」
機関部や主砲弾薬庫ではなかったため即死はしなかったが、副砲を一撃で粉砕。その戦力を削っていった。
そして、距離2万メートル。
双方が敵を射程に収めたその時、ついに本格的な砲撃戦が始まる。