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第百三十五話 総統閣下とミッドヴァー島攻略

 大和歴312年12月8日。


 西方大陸から東に約100kmの洋上に浮かぶ小さな島『ミッドヴァー島』。


 そこに配属されたチョニダ半島出身のエルフ兵士ウリ・チョンソンは、大きな石造りの見張り台の上で大きなあくびをしていた。


「どこまでも続く青い海、空を飛ぶ騎士団の人食い鳥。ふわぁ……今日もこの島は平和だな」


 ここは、今まで前線であったロンデリアからは西方大陸一つ挟んだ彼方。


 誰もが、「戦場はロンデリア、こんな辺鄙な島に敵が来るはずがない」と油断し、一個大隊程度の守備隊を除けば、哨戒任務のために配備された16騎の人食い鳥くらいしか戦力はなかった。


 ……だが。


「ん、なんだ? 空に何か飛んでいるぞ……哨戒飛行中の人食い鳥じゃない?」


 そんな油断を突くように、それはやってきた。


 空にぽつぽつと見える黒い点……それは、大和帝国の戦闘機『キ27』――愛称は『隼』。


 最大610馬力の『寿』エンジンを心臓に持ち、その最高速度450km。機首に、炸裂弾――通称『マ弾』を使用可能な12,7mm機銃二挺を持つ世界最強の戦闘機だ。


 その数はおよそ60機。


 それらは、チョンソンの目の前で哨戒飛行中の人食い鳥をぺろりと撃墜。そのまま、島の飛行場に殺到した。


「てっ、敵機だっ! 迎撃しろ!」


 チョンソンは、慌てて見張り台の鐘を鳴らし、敵の襲来を告げるがもう遅い。




 島の飛行場から慌てて、騎士団が飛び立とうとするが……。


「この新型凄いよぉ! 流石、総統閣下デザインの最新鋭機だ!」


「人食い鳥ってのは、なかなか面白い生き物らしいが……こっちは610馬力! 俺の『隼』についてこられるかっ!」


「おい、最初に『隼』を使ってエースになった奴には、総統閣下のサイン付き専用機が送られるらしいぞ!」


「ヒャッハー! そりゃ、堪らねえなぁ! 全部、叩き落すぜ!」


 物欲につられ、撃墜スコアを欲する『隼』に群がられ……。


「い、急いで離陸しろ、そうじゃないと死……ぐぴゃぁっ!」


「ひ、だ、ダメだ! 信じられない速度で襲ってきやがる! 性能差があり過ぎるんだ! こいつら何なんだ!」


 離陸する間もなく、地上滑走中に撃破されてしまう。


 すでに、人食い鳥の時代は終わっている、と言ったところだろうか。




 だが、ミッドヴァー島の受難はこれから。


 完全に制空権を奪われたエルフジア軍。彼らは、恐ろしいものを目にする。


「くっ、空を人間の飛行機械が支配している!? この島はもうおしまいだ、海に出て逃げ……んっ、ま、まさか、あれは!?」


 見張り台の上で目を見開くチョンソン。


 彼の視線の先には、海に浮かぶ巨大な黒鉄の軍艦。


「い、今にも折れそうな艦橋……な、なんだ、あの軍艦は!?」


 それは、排水量3万8000トン、38センチ砲連装4基8門を装備する大和帝国の最新鋭戦艦『扶桑』。


 ……いや、それだけではない。


 扶桑の同型艦『山城』、『伊勢』、『日向』の4隻がミッドヴァー島の沿岸に集結し、その主砲――『38センチ砲』を見張り台のチョンソン目掛けて一斉射撃してきたのだ。


 超ド級戦艦4隻からなる猛烈な艦砲射撃。


「う、うわぁ! 母ちゃん助けて! マンセェー!」


 情けない悲鳴を上げ、見張り台と一緒に消し飛ぶチョンソン。爆風と爆炎、それが彼の最後に見た光景だった。




 彼の死後も艦砲射撃は続いた。


 いや、『扶桑型』だけではなく、総統専用艦『秋津洲』や『富士型戦艦』も参加し、その火力を増した。


 降り注ぐ戦艦の巨砲。


 数時間の艦砲射撃により、島の守備隊と軍事設備は完全に破壊。


 ほとんど無抵抗のミッドヴァー島に大和帝国陸軍『第一海兵師団』が上陸を開始するのだった。




☆☆☆☆☆




「……あの艦橋、今にも折れそうですね。エリュテイア総統、あれは大丈夫なのですか?」


「大丈夫ですよ、ロシャーナさん。ああいう仕様なのです」


 総統専用艦『秋津洲』の艦橋。


 その総統席にちょこんと座るボクの隣には、『秋津洲』と並んで航行し、ミッドヴァー島めがけて主砲をぶっ放している『扶桑』のヘンテコ艦橋を見て不思議そうに首をかしげるロシャーナさんがいます。


 帝国の艦艇設計陣の実力を信じて大丈夫とは言いましたけど……確かに折れそうですよね、あの艦橋。


 ……てか、大和帝国の『扶桑』はどこかの大日本帝国のアレと違って、劣化版『長門』といいますか、強化版『クイーン・エリザベス』といいますか。


 38センチ連装砲を4基8門、配置も長門型とかと同じ無理のない設計なのであんな違法建築艦橋にする必要はないと思うんですけど……。


「エリュさん、あの艦橋は魔力的な意味合いがあるんですよ? どうやら命中精度が上がるとか、上がらないとか……」


 なんて、疑問に思っていたらボクの後ろにいつも通り控えているアヤメさんがちゃんと解説してくれました。

 

 ふーん。


 そうはいっても、二番艦の『山城』からは、普通の艦橋に戻っていますし、あのヘンテコ艦橋に十分な効果はなかったんでしょうね。




 ……っと、はい。


 どうも、ロシャーナさんを連れて総統専用艦『秋津洲』に乗り、セレスティアル王国解放作戦『ダウンフォール作戦』……の前段階ミッドヴァー島攻略作戦、通称『MI作戦』実行中のエリュテイアです。


 ちなみに、ボクはいまだにヘレルフォレードの学生扱いですが……「エルフジア本国を落としてきます」と長期休暇の許可をもらってきました。


 それで……。


 今回の艦隊は空前の規模ですよ?


 最新鋭の『扶桑型戦艦』4隻に、近代化改装で対空火力と速力が強化された『富士型戦艦』4隻。


 さらに、扶桑と同じく大和歴309年度艦艇建造計画『異マル3計画』にて建造された帝国初のスーパーキャリアー『大鳳』……。


 その戦力を合計すれば、『秋津洲』を含め戦艦9隻に空母1隻、防空巡洋艦8隻に駆逐艦36隻と小さな島くらいなら艦砲射撃で吹っ飛ばせるくらいになっています。




 さてさて。


 今回のMI作戦の全容ですが……非常に単純明快です。


 まず、空母『大鳳』から戦闘機隊を発艦させ、ミッドヴァー島上空の制空権を確保します。ちなみに、今回大鳳には戦闘機しか搭載していません。


 基準排水量5万1000トン、最大搭載機数150機の巨艦とはいえ、この艦隊の空母は『大鳳』の一隻だけですからね。


 敵空母機動艦隊が迎撃にやってきても制空権を確保できるように、少数の偵察機を除いて最新鋭機『隼』を満載。これで、エルフの航空部隊を粉砕します。


 それで。


 制空権が確保できれば『扶桑型戦艦』4隻を投入、艦砲射撃で島の守備隊を吹っ飛ばします。


 敵の抵抗が少なく、艦隊の安全が確保できるようであれば『秋津洲』、『富士型戦艦』も投入し、戦艦9隻の火力を浴びせます。


 最後にボロボロになったミッドヴァー島に海兵隊が上陸……ゲームセット、と言った感じです。




 で、現在はその最終段階。


 艦砲射撃の支援の下、海兵隊が大発に乗ってライフル片手に意気揚々と上陸しているところなんですが……。


「エリュさん、第一海兵師団がミッドヴァー島の占領を終えたようです」


「ん、早くないですか? まだ、上陸開始からほとんど時間が経っていませんけど?」


「艦砲射撃で敵の守備隊のほとんどは死亡していたようです。なので、抵抗らしい抵抗は一切なかったと」


「そうですか、わかりました。では、艦隊は引き続き制海権の維持をしましょう」


 ……はい、ミッドヴァー島攻略作戦はあっけないほどに無事成功しました。


 戦艦9隻の艦砲射撃は圧巻、ということでしょうね。


 さて、この後は敵の動き次第と言ったところです。エルフジア軍が艦隊を揃えて、ミッドヴァー島奪還に来るなら海戦を行って、敵艦隊を撃滅し制海権を確保。


 出てこないのであれば、そのままミッドヴァー島を拠点に旧セレスティアル王国領に上陸作戦を敢行するだけです。

 ちょっとした兵器紹介 『扶桑型戦艦』編


 常備排水量3万8000トン

 武装 38,1センチ連装砲 4基 8門

    12,7センチ連装両用砲 8基 16門

    その他小火器多数

 装甲厚 艦側面 330mm(+弾薬庫付近、傾斜装甲127mm)

     甲板 180mm

     砲塔 400mm

     司令塔 400mm

 速力 27ノット

 馬力 約12万馬力

 航続距離 16ノット 8000海里

 乗員 1400名

 同型艦 扶桑 山城 伊勢 日向


 大和帝国が開発した超ド級戦艦。名前こそ、『扶桑型』となっているが、英国のクイーン・エリザベス級戦艦や大日本帝国の長門型戦艦がモデルになっている。

 一番艦『扶桑』のみ、魔法的な理由で違法建築艦橋になっている。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「この新型凄いよぉ! 流石、総統閣下デザインの最新鋭機だ!」  これでターンXのテラ子安!?  なんて驚いて終わりかと思ったら……。 >一番艦『扶桑』のみ、魔法的な理由で違法建築艦橋に…
[一言] なんか後で敵になりそうなパイロットが混じってますねぇ
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