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第百三十四話 総統閣下と戦争会議

 ボクの別荘『エリュシュタインハウス』。


 その廊下をアヤメさんの腕に抱き着きながら歩いていると、やたら眠そうなリンさんと出会いました。


 あくびをしながら「ふわぁ……あっ、エリュテイア総統、おはようございます」と挨拶してくれるリンさん。


「どうしてそんなに眠そうなんですか? 昨日の晩餐会にはいませんでしたし」


 と、聞いてみると、どうやら夜通しビーチバレーをしていたそうです。


「時間切れになるギリギリまで戦ったのですが、結局優勝はできず……」


 なんて、悔しそうな顔で語ります。


 ……なぜ夜になるまでビーチバレーを? と、思いましたが、この世界には変人しかいないのでそういうこともあるんでしょうね。


 楽しんでいるみたいなのでなによりです。




 ……はい、というわけで。


 たっぷり遊んだあとは、お仕事の時間です。


 リンさんも連れて別荘『エリュシュタインハウス』の一番広い部屋――食堂に向かいます。


 この食堂には大きな円卓が用意してあって、エリザベートさんやシャールさんを始め、各国首脳がすでに集まっているんです。


 そうですね、大東亜共栄圏会議のお時間ですね。


 主役は遅れて登場するもの、という昔ながらのお約束に従い最後に入室したボクは、みんなの注目を浴びながら、自分の席に着きます。


 ……こほんっ。


 さて、今回の議題はずばりこの戦争『大東亜戦争』の今後の方針……なんですが。


 その前に……。


「各国首脳の皆さんお集まりいただき誠にありがとうございます。さっそく会議に入りたいのですが、まずは」


 ロンデリアでの戦勝を祝いつつ、今までの戦争で亡くなった死者を弔いましょう。


 黙祷の時間です。


 ロンデリアでは、数え切れないほどの人が無くなりましたからね……。


 ボクの「……黙祷」という合図に合わせて、戦場となったロンデリア女王のエリザベートさんはもちろん、脳筋カップルも、スケベ聖女も、みんな頭を下げて静かに祈りを捧げます……。




 ……

 …………

 ………………




 ……はい、黙祷終了。


 では、会議と行きましょう。


 まずは、ホスト国の代表であるボクから現状の説明ですね。


「みなさんに喜ばしいお知らせがあります。開戦以降続いていたロンデリアでの戦いですが、ボクたち大東亜共栄圏の勝利に終わりました」


 先月始まったエルフジア軍の大規模攻勢――ハイドリヒさんが集めてくれた情報によると『土星作戦』の失敗によりエルフジア軍は自軍の補給すら維持できず、ほとんど自壊。


 このあっけない地上軍の壊滅を見て、海軍もロンデリアからこそこそと撤退。


 この戦線はボクたちの完全勝利に終わったわけです。


 と、言うわけで……。


「この勝利により『大東亜戦争』は大きな転換点に到達しつつあります。エルフの軍勢がボクたちの生存圏から消滅した、つまり……」


 エルフジア軍の侵攻を防ぐ段階から、こちらからエルフジアを攻撃する段階に変化しつつある、ということですね。




「……つまり、次の戦争はエルフの領土に攻め込むってことかい?」


「そういうことですね、ディアナさん。察しが早くて助かります。それで、ボクから提案があるんです」


 いいですか、現在、この世界の存在するエルフの国家は二つ。


 一つは、遥か海の向こう西方大陸に存在する『神聖エルフジア共和国』。


 もう一つは、東方大陸に残されているダークエルフの国家『黒エルフ皇国』。


 このうちの『神聖エルフジア共和国』は大和帝国が直々に手を下さないと、どうにもならない国です。


 人口は10億、巨大な氷結艦やゴーレム兵器を持ち、一般的な剣と魔法の国家では歯が立たないほどの強さを持ちます。


 けど、もう一つの『黒エルフ皇国』は?


 こっちはそれほど強くはないです。強力な指導者もいませんし、魔法技術も神聖エルフジア共和国に比べれば一段も二段も劣ります。


 軍隊も魔法による戦列歩兵……近世レベルの戦闘力しかなく、ちょっと軍事支援してあげれば、この世界の国家でも十分戦えます。




 つまり……。


「黒エルフ皇国を近隣諸国、バルカ、ドルチェリ、ルシーヤの三国分割、なんてどうでしょうか?」


 はい、ポーランド分割ならぬ黒エルフ分割です!


 この案には、マッチョ妻のディアナさんも「おお、いいねぇ! あの邪魔なエルフの国を潰せれば、アンタの国と繋がれるってもんさ!」と見るからに乗り気です。


 ……まあ、黒エルフ皇国はバルカ王国とルシーヤ王国の間にある国で、マッチョカップル的には邪魔で仕方がなかったみたいですしね。


 それに……。


「ドルチェリからも賛成を示そう。だが、大和の総統よ、大東亜共栄圏の盟主たる貴国からの軍事支援はあるんだろうな?」


 ドルチェリ王国国王ヴァルヘイム二世さんも、「バスに乗り遅れるな!」と、賛成っぽいので、よしとします。


 それで、問題は軍事支援ですが……。


「はい、もちろん、ありますよ。ロンデリアに送っているボルトアクション式小銃と同じものを送ります。そうですね、一国あたり、10万丁ほど……」


 ちゃんと送りますよ? 


 超旧式のマスケット銃で挑ませて、負けてもらっては困りますし。


 なにより、大和帝国の生産能力は第二次大戦時のアメリカ……には勝てませんけど、ドイツくらいなら圧倒します。


 贅沢な話ですが、兵士はともかく、兵器は余剰気味なんです。


 それに、『FN-FAL』もどきこと10式自動小銃がどんどん配備されているので、古臭いボルトアクション式小銃は余って仕方がないと言いますか……。


 とにかく、武器はプレゼントしてあげるので『黒エルフ皇国』を潰しておいてください。




 ……あと、できれば。


「……ボクは忠義には答えるタイプです。当然、あなたたちの忠義にも十分答えてあげます」


 ですが。


「ルシーヤ、ドルチェリの国内にはボクに忠誠を誓う人々が独立を願っているそうですね」


 武器を供与して、人口1億の『黒エルフ皇国』を三国で分割させてあげるんです。大きな利益をあなたたちに分け与えてあげるんですから……。


 ちょっとくらい、ボクの忠臣旧ポルラント王国を独立させてあげてもいいんじゃないですか? 


 彼らには、旧モルロ帝国領に自治国家を作らせてあげていますが、やっぱり故郷は大事でしょうし。


 ……まあ、その辺は話がこじれそうなので外務省にお任せしますけどね。


 期待していますよ?






 ……それで。


 黒エルフ皇国を三国に任せて、手が空くボクの軍隊ですが……無論、お休みはしません。


 次の攻撃目標は、西方大陸東岸――聖女ロシャーナさんの祖国『セレスティアル王国』があった場所です。


「東方大陸のことは、あなたたちに任せます。その間、ボクの軍隊はセレスティアル王国解放作戦『ダウンフォール作戦』を実行に移します。ロシャーナさん、協力願えますか?」


「……は、はい! いよいよ時が来たんですね」


 一回もハニートラップは成功しませんでしたけど、これで良かったんですね、と嬉しそうに呟くロシャーナさん。


 ……まだ、安心しちゃだめですよ? 


 何しろ、ここから先は敵の本陣での戦争になります。


 ロンデリアと違ってあらかじめインフラの整備をできているわけではありませんし、現地のエルフ市民の抵抗も考えられます。


 旧セレスティアル王国市民が、どれだけ命を懸けてボクたち大和帝国を支援できるかに、戦況はかかっているんです。


 そうです、レジスタンスのお時間です。




 ……とりあえず、彼らが戦えるように最低限の支援はしないといけませんよね。


 ダウンフォール作戦の最初の一歩は……西方大陸近海の手ごろな島『ミッドヴァー島』の占領です。


 ここに飛行場を建設。


 輸送機や爆撃機で刺突爆雷とか簡易拳銃『リベレーター』をばらまきます。それで、抗エルフレジスタンスの支援の下、帝国陸軍が堂々の上陸……。


 どうせインフラがお亡くなりなので、電撃戦はできませんからゆっくりと制圧していきましょう。

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[一言] >簡易拳銃『リベレーター』  おいこら、そんなポンコツをバラまくのはマズイですって!  作り慣れると、銃弾1発を込める間に1丁組み上がるとか。  有効射程激短とか。  驚異の暴発率とか。 …
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