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第百三十話 後手からの一撃

 怒涛の勢いで進撃を始めたエルフジア軍。


 その進撃は、攻勢開始から一週間にして大きな山場を迎えつつあった。


「こちら第一近衛装甲連隊、連隊長アセモ・デキタネン大佐! 前方に目標の街『シルフィールド』を捕捉しました!」


 攻勢発起地点から大和帝国側に約20km。 


 戦線に突出部を作りながら、前進に前進を続け、ついにエルフジア軍の一部が攻撃目標であった交通の要所『シルフィールドの街』を目視で捉える。


 あと少し前進し、街に突入すればエルフジア軍の勝利も夢ではないだろう。




 だが、しかし。


「よし、私の連隊はこれより『シルフィールドの街』を占領するため突撃を開始します! 私に続――ふぉぉぉぉっ!」


「んなんてこった! 中枢部をやられた、デキタネン連隊長が爆発するぞ! みんな離れるんだ!」


「この特徴的な発砲音は……アハトアハトだ! 前進中止、前に出るな! やられるぞ!」


 ここでエルフジア軍の足が完全に停止する。


 街を占領しようと突撃を開始した連隊長――デキタネン大佐の『スターリン』が、もっとも頑丈であったはずの胸部装甲を一撃で撃ち抜かれ、絶叫と共に爆散したのだ。


 大和帝国の前線補給を支える交通の要衝『シルフィールド』。


 その守りは鉄壁。


 街の前面には、無数のコンクリートトーチカが構築され、その中で各種重砲や『アハトアハト』を始めとした対戦車火器が待ち伏せていたのだ。


 まさに、飛んで火にいる夏の虫。


 彼らは、大和帝国のキルゾーンの中に飛び込んでしまった形になる。


 さらに……。


「……っ! 気をつけろ、我が隊の側面に敵のチハが回り込んできているぞ!」


「いや、チハだけじゃない、敵の歩兵部隊もいる! 対ゴーレム兵器を担いでいるから接近されるとマズイ!」


「こっちの歩兵の援護はどうなっているんだ! 一個大隊は来ているはずだ……なに? すでに敵のチハに蹴散らされた!? あの役立たずどもが!」


 彼らを狙っているのは、トーチカだけではない。


 街の周囲には、防衛のために二個歩兵師団4万からなる歩兵と100輌を超える『チハ改』が展開。


 機動力を生かした防御戦闘により、次々にスターリンやその護衛の歩兵部隊を撃破し、着実に戦果を上げていった。


「第一大隊壊滅! 我が第二大隊も半数を失いました! 我が連隊は壊滅寸前です! いかがなさいますか、大隊長!」


「街までの距離は僅か数キロだというのに……ええい、急ぎ増援を要請しろ! このままでは死ぬぞ!」


 強固な守りを前に一歩も前進できないエルフジア軍。


 何の成果を得ることもできず戦力を浪費する一方。生き残った部隊は、壊滅を避けるために急ぎ増援を要請するが……。




「クッサイナー元帥! 先鋒を務める第一近衛装甲連隊から、目標の『シルフィールドの街』前面に到着したと報告が入りました! しかし……」


「どうした? 街に到着したなら速やかに占領しろ。デカい街だ、食糧もマナもある程度は奪えるだろう」

 

「……しかし、『シルフィールド』前面には強力な対ゴーレム陣地が形成されている模様。第一近衛装甲連隊はすでに連隊長が戦死、突破は困難と言っております」


「そうか、なら増援を速やかに送ろう。付近にいる部隊はどうなっている?」


「周囲の連隊は補給不足、整備不足で進攻が遅れているようです。敵の抵抗により、損害が大きく壊滅した部隊も……」


「……そうか、そういうことか」


 その増援は、すぐにはやってこられない。


 戦線の後方、かつて貴族の館であった豪華な建物を改造したエルフジア軍の司令部では、総司令官であるクッサイナー元帥が、「はぁ……」かつてないほど大きなため息を漏らす。


 この一週間、補給もなく前進を続けてきたエルフジア軍はすでに息切れ寸前。


 食糧も燃料もなく、整備も行き届かないとあっては戦争どころではない。


 ――『攻勢限界』。


 シルフィールドの街まであと一歩というところでエルフジア軍は、前にも後ろにも進めない状況に追い込まれてしまっていたのだ。




 そして……。


 この瞬間こそが大和帝国の狙い。


「エリュさん、シルフィールドの街を守備する歩兵第九師団より連絡です。『敵軍は我が防衛陣地を前に粉砕されつつあり』と、攻勢限界、反撃の好機ですね」


「ん、では、『第一装甲軍』に命令を下してください。敵側面を突破、包囲殲滅です」


 ――後手からの一撃。


 総統閣下の命令により、弱ったエルフジア軍を仕留めるべく、大和帝国軍がとどめの一撃を仕掛けるのだ。




 ……

 …………

 ………………




 ロンデリア中部のなだらかな平原を約1000輌のチハと装甲ハーフトラックに乗り込んだ数万人の機械化歩兵が駆け抜ける。


 彼らは大和帝国陸軍『第一装甲軍』。


 4個機甲師団、約1000輌の『チハ改』を主力とした大和帝国で最も強力な装甲部隊で、その突破力は同数の歩兵部隊の数倍になるだろう。


 しかも……。


「……まさか、また虎に乗るとはな。今度は、こいつを棺桶にすることにならなければいいが」


「……ふえ? どうかされましたか、ヴィットマン大尉」


「いや、気にしないでくれ。それより、前方2キロに敵の戦列歩兵。砲手、照準しろ」


 今回は、その先頭に僅か3両だけとはいえ、親衛隊から派遣された化け物戦車乗りを乗せた最新重戦車『ティーガー』もやってきている。


 何やら複雑な心境で『ティーガー』に乗っているようだが……彼らは、文字通り「一騎当千」の古強者だ。




 その戦闘能力は、この世界では確実にオーバースペックと言ったところだろう。


「敵が来たぞ! 戦列を組め! ダヴァイ、ダヴァイ!」


「杖を向けろ! 敵が射程に入ったら一斉射だ! エルフの魔力を人間どもに見せつけてやれ!」


 まずは小手調べと言った感じで、エルフジア軍の突出部側面を防衛する『第一中央軍集団』――本国から連れてこられた数十万人のエルフ兵からなる魔道戦列歩兵に襲い掛かる。


 杖を片手に地平線の彼方まで並ぶ戦列歩兵、その戦列めがけて『ティーガー』の57トンの巨体が突撃する。


「よし、照準を敵戦列中央に。主砲、撃て」


「えっ、あのヴィットマン大尉? 本当にいいのですか? あんな戦列歩兵に一方的にアハトアハトを撃ち込むなんて……少し気が引けます。こんなものは戦争ですらありません」


「……戦争とはそういうものだ。わざわざ相手の土俵に立って戦ってやる必要はない。気にせず撃て、相手は容赦してくれんぞ」


 ヴィットマンの砲手を務める親衛隊メイドさんは「アハトアハトを戦列歩兵に? さすがに可哀想では?」と、攻撃することを戸惑っているようだが。


 独ソ戦の地獄を生き延びた某国出身の皆様からすれば、そんなこと知ったことではない。


「でかいチハが発砲! 衝撃にそな……うぐぁっ!」


「なんてことだ! 第三小隊が一撃で消し飛んだぞ!」


 ヴィットマンは容赦なく主砲の発射を命じ、『ティーガー』の主砲が火を噴く。狙いは優秀、炸薬量800gの榴弾が戦列歩兵のど真ん中に着弾。


 一撃で、周囲にいた一個小隊を消し飛ばす。


 更に攻撃は続く。


 ヴィットマンの車両に続いて、射撃位置に着いた戦車や火砲、歩兵など各部隊がそれぞれの火器にて、戦列歩兵を撃滅していくのだ。


 砲弾が炸裂するたびに数十人……いや、大口径榴弾であれば数百人の兵士が死ぬ。


 毎分1000発の発射速度を誇る『エリュさんの電気のこぎり』と呼ばれる新型機関銃が火を噴けば、面白いように敵戦列が薙ぎ払われる。


 しかも……。


 エルフジア軍が、反撃しようにも射程100メートル程度の個人魔法では射程不足。全く、大和帝国軍まで届かない。


 それに、運よく接近に成功したとしても、帝国陸軍の最前列を進むのは、『ティーガー』か『チハ改』と言った戦車。


 一般エルフが使う個人魔法程度――マスケット銃程度の威力では、その装甲を抜くことはできない。




 一方的な虐殺。


 だが、逃げることはできない。


「だ、ダメだ! 全く戦いにならない! 『スターリン』の援護が来るまで後退するんだ!」


「なに!? そこの貴様、後退と言ったか! そんなことはありえん、党への忠誠心はどうなっているのだ! 一歩でも後ろに下がるならば政治委員である私が粛清する!」


「ひぃぃ! 前にも後ろにも敵がいる! 俺たちは、どうすればいいんだ!」


 まさに地獄のサンドイッチ。


 敵と督戦隊に挟まれ、身動きが取れずエルフジア軍『第一中央軍集団』は僅かな時間で半壊。


 数が多いため全滅した訳ではないが……。


 支援のための『スターリン』がやってくる間もなく歩兵戦列は打ち砕かれ、大和帝国『第一装甲軍』が進軍するに十分な突破口の形成を許してしまう。


「こちらSS重戦車大隊、ヴィットマン。敵戦列歩兵を殲滅した。これより前進する」


 そして、その突破口を『ティーガー』を先頭にした帝国陸軍が進む。


 一度、戦線に穴さえあけてしまえば、あとは機甲師団の足の見せ所だ。


 完全に自動車化された大和帝国『第一装甲軍』は、各拠点に存在するエルフジア軍の微細な抵抗を排除しながら猛進。


「エリュさん、第一装甲軍より通信です。『我、敵突出部を横断。包囲に成功セリ』とのことです」


「ん、いいですね。では、殲滅戦に移行しましょう」


 陽が落ちるまでには、エルフジア軍の突出部を包囲。殲滅戦に移行するのだった。

 いつも読んで下さりありがとうございます。

 

 わかりにくい点、修正した方が良い点などはないでしょうか? もし、何かあるのでしたら、感想で伝えてくださるとありがたいです!

 誤字報告もいつもありがとうございます! 凄く助かります!

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― 新着の感想 ―
[一言] >「……まさか、また虎に乗るとはな。今度は、こいつを棺桶にすることにならなければいいが」  ならポル○ェティーガーに乗せてやろうぜ!(ゲス顔)  それがイヤならマウスでも無理矢理でっち上げ…
[一言] 異世界転移した人が、知りたくても調べられない地球の最新情報をエリュさんが知ってるんだよなぁ
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