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第百二十二話 総統閣下と映画撮影

 満州沖で通商破壊を開始したベリヤ達。 


 彼女たちの最初の獲物は、偶然近くを通りかかった4隻の貨物船と1隻の護衛コルベットからなる小規模な船団、『第12輸送船団』だった。


 彼らの任務は、本土と満州を繋ぐ海上交易路を使い、資源地帯である満州大陸から取れる資源を、工業地帯である帝国本土へ送り届けること。

 任務としてはそれほど難しくなく、通常であれば何事もなく終わる簡単なお仕事だ。




 しかし……。


「ベリヤ司令、前方に敵輸送船団を捕捉。射程内です」


「ふむ、予想通りだ。やはり、あの大陸は敵の本土みたいだね。では、通商破壊と洒落こもうじゃないか。射撃開始!」


 この時ばかりはあまりに運がなかった。


 ほとんど視界の効かない薄暗い深夜。突如、現れる戦艦4隻。それこそほとんど事故と言っても過言ではないほど、ばったりと輸送船団はベリヤ艦隊と出会ってしまう。


 そして、出会ってしまったが最後。


 こんな小規模な輸送艦隊では、バシレウス級戦艦4隻からなるベリヤ艦隊に襲われてしまってはどうしようもない。


 最初に狙われたのは、護衛の小型コルベットである『しらゆり』。この艦は『ゆり型コルベット』の一隻で、その性能を簡単にまとめれば「捕鯨船改造の格安護衛艦」。


 排水量は1000トンほどで、武装は10センチ高角砲と40mm機関砲がそれぞれ一門に爆雷が少々。


 最大船速は16ノット、装甲もないに等しい。


 帆船くらいしか持っていない異世界の海賊や海生のモンスターを倒すことが主任務で、敵艦隊との戦いなんて全く想定していない「安かろう悪かろう」な船である。


 そんな船に戦艦4隻が集中砲火するのだから……まあ、流石に耐えられない。




 この状況で『しらゆり』にできることと言ったら、誉れ高き帝国軍人として最後まで戦うことのみ。


 輸送艦に退避を命じた後、「ワレ、敵戦艦4隻ニ攻撃サレツツアリ、救援ヲ乞ウ」と付近にいる艦隊に無線連絡を行い、時間稼ぎのための決死の吶喊。


 無数の魔導弾を浴び、玉砕するのだった。


 そして、護衛艦を失った輸送艦ほど無防備な存在はない。


 残った4隻の輸送艦は、捕捉されないようにバラバラに逃走するものの次々にベリヤ艦隊に追い詰められ、海の底に沈められるのだった。


「ベリヤ司令、やりましたね! 敵戦闘艦一隻、輸送艦4隻撃沈! 我が艦隊の初戦果です!」


「ひとまず、安心だね。手ぶらで帰ることだけはなさそうだ。……ただ、輸送艦4隻だけじゃ、物足りないかな」


「さらに、作戦を継続、ですな」


 ベリヤの作戦はとりあえず成功。

 

 艦隊に大きな被害もなく彼女は、作戦を継続することを決定する。


 ……ただ、帝国海軍も無抵抗にやられるわけではない。


 護衛艦『しらゆり』の放った救援要請は即座に受信され、大和帝国の通信網により各地に伝達されるのだった。




☆☆☆☆☆




 時刻はお昼。


 雲一つない快晴の下、穏やかなロンデリア海峡を総統専用艦『秋津洲』が進みます。


 その艦橋から、周囲を見渡すと無数の僚艦。


『秋津洲』を囲うように出雲型装甲巡洋艦が4隻。少し離れた場所には、巡洋戦艦の『伊吹型』が4隻航行しています。


 戦艦1隻、巡洋戦艦4隻、装甲巡洋艦4隻。


 これだけの艦隊を集めて、何をしているのかというと……。




「エリュさん、もうちょっと顔を上げてください。……そうそう、そんな感じです。いいですね、次のシーンの撮影に移りましょう」


「アヤメ長官殿! ローアングルでの撮影をしましょう! 臣民は総統閣下の太ももを求めています」


「ふむ……一理ありますね、許可します。ただし、下着の撮影は禁止です」


 ……まあ、映画の撮影ですね。軍事作戦ではないです。


 普段の『秋津洲』の艦橋は普通の軍艦のそれと大して変わりません。


 しかし、今日はまるで別です。


 軍服姿で演技を行うボクを、無数の照明やカメラが取り囲み、親衛隊宣伝中隊所属の親衛隊メイドさんたちが監督のアヤメさんの指示に従い忙しく撮影します。


 スタッフの人数は、合計で50人くらい。 


 それほど広くない艦橋にこれだけの大人数が集まるのですから、艦長の夜桜さんも「狭いな」と苦い顔です。


 ちなみに、作っている作品は『総統閣下シリーズ第23弾 ロンデリア海峡海戦編』だとか。


 先日行われたロンデリア海峡海戦を再現し、艦隊を指揮する凛々しい総統閣下を映画化する……とかなんとか。


 当日海戦に参加していなかった伊吹型は敵艦役です。エルフの氷結艦に見えるように白く塗られて、敵艦隊のふりをしているわけですね。




 ……はぁ。


 それにしても、映画の撮影は大変ですね。


 ボクもエリュテイアとして、なんどもプロパガンダ映画を撮影していますから、こういうのにも慣れてきましたけど……。


 撮影されるのは相変わらず緊張しますし、四方八方からボクを照らす照明は暑いですし、ずっと演技するのも大変です。


 ボクは、そもそも演技とかあんまり上手じゃないですし上手くできているのかどうか。


「大丈夫ですよ、閣下。緊張した表情が最高にえっちで可愛いです」


 なんて、カメラマンのメイドさんがフォローするように褒めてくれましたが、それってどうなんですかね?


 ひとまず、「カーット! ……ふむ、悪くないですね」と、アヤメさんも満足そうに撮り終わったので総統席――一般的な軍艦における司令席に座って休憩します。




 座りご心地の良いふかふかの椅子に座って、ぐったり……。


 すると。


「だいぶ疲弊してますね、エリュさん」


 なんていいながら、ボクの隣までアヤメさんがやってきて頭を優しくなでなでしてくれます。


「むう、映画の撮影は大変です。だって、この前『総統閣下シリーズ第22弾 ロンデリア大空中戦』を撮影したばかりですよ? 連続です、どうにかならないんですか?」


「仕方ないですよ、エリュさん。年単位でエリュさんがロンデリアにいるので本国の臣民はエリュニウム不足なんですから」


「……エリュニウム、ですか? 初めて聞きますけど、なんですか、それ」


「エリュさんから発せられる特殊な成分ですね。これを十分摂取できていると帝国臣民はその能力を2倍から3倍に増加させます」


「逆に不足すると?」


「帝国臣民はうつ状態に陥り、生産性が半分以下に低下、最悪国家機能が麻痺して内部崩壊します」


 え、なにそれ怖い。


「なので、エリュさん写真集とか、エリュさん主演の映画とか、エリュさんの匂いのする香水だとか……そういうので、本国のエリュニウム不足を補う必要があるんです」


 ついでに、私の可愛いエリュさんを全臣民に自慢できるので一石二鳥です、とアヤメさんは胸を張ります。


 ……むむむ。なら、仕方ないですね。


 そんな訳の分からない理由で、国が滅んだら困りますし。




 さて、一休みしたら次の撮影を始めましょうか? えっと、次のシーンは……。


「艦長、夜桜艦長、緊急入電です!」


 ……っと、一休みしながら予定を確認していると艦橋に大慌てで伝令のメイドさんが飛び込んできました。


 そして、遠巻きに撮影現場を眺めていた艦長の夜桜さんの下に駆け寄るとごにょごにょと何かを報告します。


「なに? それは本当か? 困ったな、閣下の映画撮影中だというのに」


 そして、報告を聞くと夜桜さんは何やら深刻そうな顔をします。


 気になるので「何かあったんですか?」と聞くと……。


「はっ、満州沖に敵艦隊が出没したようです。規模は戦艦4隻、とのこと。我が方の輸送船団に若干の被害がある、と」


 と、ボクの隣……アヤメさんと反対側までやってきて報告してくれました。


 ふむ、満州沖に戦艦4隻ですか。輸送艦に被害が出ているなら、早急に対処する必要がありますね。


「アヤメさん、満州の艦隊はどうなっていますか?」


「第三艦隊がいます。『敷島型戦艦』を主力にした旧式艦隊ですが、司令官はかつて連合艦隊司令長官を務めた東堂です。練度は十分かと」


 敷島型戦艦……いわゆる、前ド級戦艦ですね。

 

 この世界にやってくる前――ラスバタ時代は主力艦として活躍していましたけど。


 今の帝国には、『富士型』や『伊吹型』と言った弩級戦艦や『金剛型』みたいな超弩級戦艦がありますからねぇ……旧式の骨董品です。


 ただ。


 東堂司令は高齢ですが経験豊富で腕のいい司令官です。旧式艦でも、見事に使いこなしてくれるでしょう。


「ん、なら、そっちに任せて大丈夫そうですね。航空隊は?」


「そちらは難しいですね。航空隊が無い訳ではないですが、腕のあるパイロットは軒並みロンデリアに派遣されていますし、時差の影響で今の満州は深夜です」


「未熟な搭乗員による夜間攻撃は難しい、ですか」


 んー、なら、精々偵察任務が精いっぱいですか。


 これは、艦隊に任せるしかないですね。




 しかし……。


「……アヤメさん、ボク思うんですよね。この忙しい戦時中に映画撮影のためだけに『秋津洲』や『伊吹型』なんかを引っ張り出すのは良くなかったんじゃないかな、って」


 ……ほら、そうした方が船団護衛とかに、戦力を回せますし。

 

「いえいえ、エリュさん、本国のエリュニウム不足の方が深刻です。最近ではエリュさんの残り湯を臣民に配布するべきと国会で審議されていて……」


 うわぁ。


 戦争中になにをしているんですかねぇ、ボクの国民は。


「ちなみに、私を含め親衛隊は反対派です。安心してくださいね、エリュさん」


 そう言って意味深な笑みを浮かべるアヤメさん。


 いや、艦橋内にいるすべての親衛隊員が、同じような笑顔を浮かべています。


 なんだか、既得利権による独り占め、というワードが頭をよぎりましたが……まさか、ボクの残り湯、親衛隊で悪用したりしてないですよね?

 ちょっとした用語解説『エリュニウム』編


 エリュニウムとは、大和帝国総統エリュテイアから放出される未知の物質であり、帝国臣民を元気にさせる必須栄養素の一つである。

 特に総統閣下の太ももからは高濃度のエリュニウムが放出される。


 ……と、大和帝国では信じられているが、科学的な根拠は一切ない。


 ある種の宗教的な概念であり、帝国臣民が持つ国民特性『指導者崇拝』と『変態』による悪影響と思われる。

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― 新着の感想 ―
[一言] >特に総統閣下の太ももからは高濃度のエリュニウムが放出される。  これについては物議が醸されていておかしくないはず。  各フェチ次第でエリュニウムを強く感じられる場所が違うはずだ(お目目グ…
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