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第百十五話 司令少女とロンデン空襲

 ロンデリア王国東沖130km。


 そこに、200万トン級超空母1隻、正規空母8隻、主力戦艦8隻、その他護衛艦艇数十隻からなる巨大艦隊――エルフジア主力艦隊が展開していた。


 その旗艦、超空母『ハボクック』の艦橋には、月明かりに照らされ、淡く輝く銀の長髪を持つエルフの少女。


 彼女は美しかった。


 それこそ、「エルフ美少女ランキング第一位」と言われるくらいには。と、言うより、エルフ特有の長い耳を除けばとある総統閣下にそっくりだ。




 そんな彼女は、艦橋に上ってきた部下の報告を聞きながら、暗闇の中、月の光に照らされ水平線にわずかに見えるロンデリア王国の海岸線を見つめていた。


「ベリヤ司令、先ほど連絡騎が持ってきた暗号文書の解読が終わりました。報告によりますと、ロンデリア北部の基地騎士団の攻撃は敵の迎撃により失敗に終わったそうです」


「そうかい、それで、被害はどうなっているのかな?」


「攻撃に参加した騎数は約1000騎、その中の441騎を損失。こちらの戦果は……その、多めに見積もって30機程度かと……敵基地への損害も皆無と」


「それは困ったね。……だけど、面白いと感じる。ボクたちの腕試しには最高、そうは思わないかい?」


 友軍騎士団が、一方的に撃墜されたという報告。


 普通であれば臆したくなるような悲惨な報告を聞きながら少女――エルフジア主力艦隊司令長官ヴラドレーナ・ベリヤは好戦的に微笑む。


 彼女に仕える副官たちが、常識的な反応を見せ、友軍の大損害に真っ青な顔をしているのと対照的だ。


「……う、腕試しですか。ははは、流石はベリヤ司令ですな」


「で、では、我が艦隊はいかに動きましょうか? 我々は、超空母1隻、空母8隻を持つ巨大艦隊で、その艦載騎は800騎に達しますが……」


 そして、その部下たちは暗に問いかける。「1000騎からなる騎士団を迎撃した敵。こんな恐ろしい相手に攻撃を仕掛けるのは、無謀ではないのですか」と。


 傲慢なエルフらしくない慎重な意見だ。


 で、それに対するベリヤの答えは……。


「無論、攻撃だ。ボクたちが何もせずに退くわけにはいかないだろう?」


 と、いうものであった。


 


 一見すれば、エルフらしい根拠のない傲慢な言葉にも感じる。


 しかし、それは、あくまで表面上の言葉に過ぎない。


 実際には、ベリヤの脳内に無意味な傲慢さなどない。彼女は冷静に友軍の被害を分析し、大和帝国がどの程度の能力を持っているのか、おおよそ想像をつけていた。

 高性能な迎撃機、それらを有機的に運用できる通信網……。


 真正面から喧嘩をすれば、こちらを返り討ちにしかねない強力な防空システムが存在していることを理解していたのだ。




 だが。


 それでも、この総統系ロリっ子は自分ならどうにかできると考えた。


 そして、総統閣下を上回る、ぺったんこな胸を自信満々に張って「ボクに良い案があるさ」と続けたのだ。


「案、ですか。それは一体……」


「いいかい? 彼らは、北部で我が基地騎士団に対し、素晴らしい防空戦闘を実施した。それこそ、憎らしいくらいに完璧な対応だ」


「は、その結果、我々は大損害を受けたわけですからな。しかし、ならば我が艦隊も攻撃を仕掛ければ大損害の危険性が……」


「そうだね、真正面から挑めばそうなるだろう。相手は、制空戦闘で必要なことをしっかり理解しているよ。どこを、どう攻撃すればどうなるか……ね?」


「はぁ……?」


 この時点はいまだにベリヤが何を言いたいのか、理解できない部下たち。彼らは、ベリヤの見下すような視線に興奮を覚えながらも、その言葉の続きを待った。


「彼らはすべて理解している。「エルフが制空権を奪うために攻撃してくるなら、次はおそらく……」なんてね。そして、正解を知っている」


「……そして、その正解に準じた迎撃態勢を整えて待ち構えている、と?」


「そういうことだよ、よく理解できたね」


 そして、ベリヤは正解できた部下の頭を「褒めてあげるよ、ほら、頭を下げて」と背伸びしながら撫でた。


 情けない顔を指さしながら「ロリに撫でられる……これは革命だ!」と口走る変態エルフ。




 そんなド変態のことを無視しながら、ベリヤは続けた。


「彼らは正解を知っていて、その通りに動いてくる。……なら、こっちはその逆、不正解の動きをすればいい」


「不正解……!?」


「そうさ、最初から制空権を奪うことなんて考えずに、たった一撃、意表をついて敵の急所を突く……悪くないだろう?」


「そ、そんなことが上手くいくとは……」


「そこが、腕の見せ所さ。上手くやるさ、こっちは空母艦隊、動ける母艦はそれだけで基地航空隊に対し大きなアドバンテージがある」

 

 かくして、ベリヤは策を練る。


 そのターゲットは……。


「敵王都『ロンデン』、ここを叩くよ。人間たちは、制空権の維持――飛行場の防衛に集中している。なら……」


「重要戦略目標であっても街の守りは薄くなると……盲点でしたな。それに、ロンデンは海から近い、敵に見つかることなく攻撃隊を浸透させることができる」


「その代わり、敵を叩けるわけじゃないから、攻撃後は速やかに撤退しないと反撃を受けるけど……そこは洋上を自由に動ける空母、上手く逃げ切るさ」


 敵の思考を読み、空母の機動力を生かし、航空戦力を奇襲的に投入する。それが、ベリヤの策の全てだった。


 そして、一通り作戦を説明すると、とすんっ、と司令席に座りながら彼女は最後の命令を下す。


「……あと、北部の基地騎士団にも陽動攻撃を行うように命令してくれ。もし断るなら、ボクが同志ジリエーザに申し立てをする。基地騎士団が反革命的だってね」


「は、子供大好きな同志なら、ベリヤ司令の言葉を信じるでしょう。では、おっしゃるとおりに」


 こうして、エルフジア主力艦隊は、総統閣下似のロリ司令官ベリヤの指揮の下、攻撃作戦のために行動を開始するのだった。






 そして、翌朝……。


 ベリヤの作戦は見事に大和帝国の防衛線を貫いた。


 まず彼らは、北部の基地騎士団500騎からなる陽動部隊を『ハドリアヌスライン』に突入させた。


 対する大和帝国は、その優れた迎撃システム故に、逆に陽動部隊を機敏に察知し大戦力を出撃させてしまう。


 この時の大和帝国は、戦力のほとんど――400機以上を北部から襲って来る基地航空隊の迎撃に向かわせており、予備戦力は200機にも満たなかった。


 そうして生まれた隙を突き、超空母『ハボクック』を始め、エルフ主力艦隊の各空母がロンデリアに急接近。


 発艦した攻撃機隊800騎が低空飛行で『ロンデン』に殺到。


 その数の暴力を存分に叩きつけ、無防備な街に住まう人々を一瞬にして焼き払ったのだ。


 鳴り響く空襲警報、悲鳴と共に焼かれる人々。


 大和帝国もやられて堪るかと、戦闘機をロンデン救援に飛び立たせたが……時すでに遅し。


 迎撃隊がロンデンに到着した時、彼らの前にあったのは燃え上がる街並みと、死体の山だった。


 この時の犠牲者は少なく見積もって1万人、行方不明者、負傷者を含めると2万人を超えた。これは、当時のロンデンの人口の10パーセントに匹敵する量だ。




「あのちょび髭でも、初手からロンドン空襲なんてしなかったぞ?」


 と、ゲーリングが思わず愚痴るくらいには、大和帝国の常識を振り切った攻撃。


 戦術的に見ればこの攻撃には、何一つ価値はない。


 ロンデンをいくら焼いたところで、大和帝国の戦闘機が落ちるわけでもないし、防空システムに障害が発生するわけでもない。

 ロンデンには軍需工場も無いので、兵器生産に問題が発生するわけもない。


 今後の制空戦闘でエルフジアに対し有利になることなど一切ないと言い切れるくらいには何のメリットもない。


 悪い言い方をしてしまえば、「ロンデリアがどれほど燃えようが、大和帝国には何の問題もない」のである。


 そして、そんな攻撃のために北部では大損害を覚悟で陽動部隊を投入……。


 エルフジア側の被害は300騎を超え、北部の基地騎士団は比喩表現無しに壊滅した。




 だが、一方。


 政治的な衝撃はなかなかのものだったのだ。


 一国の首都を、問答無用で焼き討ち。


 さらに、大東亜共栄圏の盟主である大和帝国に「キミは、同盟国の王都も守れないのかい?」と政治的打撃を与えることもできる。


 これにより、大和帝国は少しばかりめんどくさい状況に追い込まれたと言ってもいいだろう。




 また、攻撃部隊の撤退時にもエルフに幸運の女神が微笑んだ。


 ロンデンを焼かれ、反撃に出た大和帝国の迎撃部隊。その猛反撃をエルフジア主力艦隊は損害を出しながらも乗り切ったのだ。


 この時、最も力を発揮したのは、現状最強のモンスター『ワイバーン』を装備する『近衛龍騎兵隊』だ。


 一方的に帝国軍機に叩き落とされる『人食い鳥』と違い、このワイバーンは帝国の戦闘機隊と互角以上に戦える高性能機だった。

 

 最高速度は時速200km、ファイアブレスと言う射程100メートルほどの強力な飛び道具を持ち、小口径の7,7mm程度なら弾く分厚い甲殻を身にまとう。


 その甲殻が重すぎて、戦闘機として運用するには運動性に若干の難があるという欠点はあるものの……全体としてみれば高性能な重戦闘機。


 もしくは、頑丈な『シュトルモビク』的な機体と言った感じだろう。




 彼ら近衛龍騎兵隊は、被害を出しながらも迎撃に上がってきた大和帝国戦闘機隊から、非力な『人食い鳥』を守り、空母に帰還することに成功したのだ。


 そして、エルフジア艦隊は攻撃隊が帰還するなり、最大戦速で海域を離脱。突然の王都空襲で大和帝国が有効な反撃を行えない中、母港スカルフローに逃げ帰ったのだ。




 この戦いで、双方の被害は……。


 エルフジア軍『人食い鳥』352騎、『ワイバーン』34騎損失。


 大和帝国、『五式戦闘機』32機、重戦闘機型『屠龍』12機損失。


 ……と、なっている。


 初日の空戦の被害『人食い鳥』441騎と合わせれば、エルフジア軍は800騎以上の作戦騎を失っており、戦術的には大敗した。


 特に北部基地航空隊の被害は大きく、今後、数か月はロンデリア上空でまともな作戦活動が行えないまでに疲弊してしまった。


 だが、大和帝国は『ロンデン』を攻撃されるという戦略的敗北を喫した。


 大和帝国は、この痛い事実に頭を悩ませることになる。

ちょっとした兵器解説 『ワイバーン』編


性能諸元

最高速度 およそ200km

航続距離 300kmくらい飛べれば頑張った方

実用上限高度 4000mくらい?

武装 ファイアブレス


 エルフのエリート騎士が用いる高級モンスター。

 性能諸元が大雑把なのは、生物なので個体差が大きいから。元々、地上にいる獲物を狩るモンスターなので制空戦闘はあまり得意ではないが、基本性能が高いのできなくもない。

 総評すると、そこそこ強い。ただし、帝国の次世代機相手だと不利になるだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 見た目が同じ総統とベリヤを並べた所で、アヤメさん突入させて見たいなぁ。写真集も人気でそう
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