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第百十四話 ロンデリア空中戦

 総統閣下がメイドさんと遊んでいる頃、大和帝国防衛線『ハドリアヌスライン』上空に大量の『人食い鳥』がやって来ていた。


 その数はおよそ1000騎。


 彼らは、ロンデリア北部のエルフ占領地に作られた基地から、制空権を奪うべく出撃した攻撃隊だ。


 それに対抗するのは600機からなる大和帝国戦闘機隊。


 攻撃するもの、防衛するもの。


 それぞれ目的は異なるが、各々が敵撃砕を胸に誓いロンデリア上空で激しいドックファイトを行ったのだ。






 そして、その空中戦だが……。


 完全に大和帝国有利で物事が進んだ。


 戦闘機とは異なる生物特有の自由自在な翼を用い、鋭い旋回で敵機を追う『人食い鳥』。


 機械ゆえの持久力と強力な飛び道具――機関銃を用い、一撃離脱戦法を繰り返す『五式戦闘機』。


 生物と機械、魔法文明と科学文明を象徴するような空戦だが……実際のところ、戦いと言うより、むしろ虐殺に近かった。


「は、早すぎる! 人食い鳥より敵は速いぞ! 追いつけない!」


「それに、何だあの光弾! 連射して、一撃でこっちを撃墜しやがる! なんて火力だ!」


「おい、そいつを追うな! あいつら、徹底的な一撃離脱をやっているんだ! 一機に集中していたら、ケツから撃たれるぞ!」


 戦場を見れば、悲鳴を上げて逃げ惑うエルフ騎士の姿。


 前線で撃墜される航空機のほとんどが、エルフジア軍の『人食い鳥』だったのだ。


 なぜ、そうなってしまったのか。


 それは、大和帝国が長年この戦いのために準備を整えてきた結果が実を結んだ、と言ったところだろう。






 運営が面倒くさがって最後まで航空兵器を追加しなかった戦略ゲーム『ラストバタリオンオンライン』。


 そのゲーム内国家であった大和帝国は、移転直後、まともな防空戦闘能力を持っておらず、どんなに貧弱な敵機であっても撃墜できないという問題を抱えていた。


 そして、それは『人食い鳥』を乗りこなすエルフ達を倒せないという問題につながる。


 敵は、空を飛びこちらを攻撃してくる。それに対する自分たちには対抗策がない。


 そのことに大きな危機感を覚えた大和帝国は、自分自身が持つ技術力――第一次世界大戦終了時1920年代の科学力を結集し、防空戦闘能力の強化に努めたのだ。


 大金をかけて戦闘機を開発し、時間を費やしてパイロットを育成し、ドイツ人の力を借りながらそれっぽい防空システムを構築。


 過剰なまでの防空意識が、大和帝国と言う技術国家を突き動かし、その集大成がこの一戦に全て発揮されたのだ。

 



 移転直後こそ「航空兵力? 防空戦闘? 何それ美味しいの?」と言った感じだった、大和帝国。

だが、この戦争が始まった頃には、数以外のほとんどの要素でエルフジア空中騎士団に勝っていたのだ。


 まず機体性能。


 大和帝国の主力戦闘機は『五式戦闘機』。

 

 第一次世界大戦最優秀戦闘機と名高い『フォッカーD.VII』の丸パクリであり、その性能は最高速度160kmに7,7mm機銃二挺を機首に装備。

 運動性、操縦性も悪くはなく、これと言った欠点のない傑作機だ。


 一方のエルフジア空中騎士団の主力機は、おなじみの『人食い鳥』。その性能は最高速度100km、機関銃のような飛び道具は持たない。


 運動性能は悪くはないが……武装、速度からして第一次世界大戦時の旧式偵察機程度の性能しかない。


 第一次世界大戦最優秀戦闘機モドキの『五式戦闘機』と喧嘩するにはいささか性能に不安があると言わねばならないだろう。




 さらに空戦システムも別格だった。


 まずエルフジア軍の空戦システムだが……これが、特になかった。


 それもそのはず、これまでエルフジア軍が戦ってきた相手はファンタジー世界の一般国家ばかり。


 航空兵器なんて持っておらず、空戦のやり方など研究する必要すらなかった。


 故に、エルフジアの戦法は数に頼った突撃ばかりで、効率の良い空戦システムなど全くなかったのだ。


 一方、この時の大和帝国は、何が何でも敵機を叩きのめしてやると意気込み、画期的な迎撃システムを作り上げていた。


「敵機を効率よく迎撃するには、まず居場所を知る必要があるのです!」


 と、それっぽいことを言う総統閣下のご命令で、この時代では最も高性能な光学索敵装置『MK1アイボールセンサー』――通称『肉眼』を用いた防空監視所をロンデリア南部各所に設置。


 さらに、それらの監視所を高度な通信網で結合し、情報を本部に集約。


 ロンデリア南部に敵機が侵入して来れば、手に取るようにその居場所を把握できる……と、言うのは少々言い過ぎだが、何もないよりかは遥かにマシな迎撃システムを構築していたのだ。


 ちなみに、この迎撃システムはレーダーこそないものの実質的に『バトル・オブ・ブリテン』で大英帝国が用いたシステムの丸パクリ。


 第二次大戦型の迎撃システムと言ってもいいだろう。




 第一次大戦レベル……いや、それ以下のエルフ達がこんな迎撃システムに突っ込んでいくのだから、たまったものではない。


 空戦は常に大和帝国の有利位置から始まった。


 出撃したエルフジアの空中騎士団は大和帝国の防衛線に突入するなり、防空監視所から情報を得た迎撃機の奇襲を受ける。


 さらに奇襲で、編隊が乱れたところを高性能な『五式戦闘機』が速力、上昇力を活かした一撃離脱戦法――米軍お得意の『ブーム・アンド・ズーム』で刈り取る。


 必死に抵抗するエルフ達だが、速度に勝る『五式戦闘機』を飛び道具すら持たない『人食い鳥』で撃墜するのは困難……。


 速度に翻弄され、機関銃の火力にねじ伏せられ、連携でも無線機を持つ大和帝国には敵わない。


 これでは、いくら数的優勢でもエルフジアには分が悪いだろう。

 


 

 この戦いにおけるキルレシオは、最終的に20対1にまでなってしまったという。


 大和帝国戦闘機1機を撃墜するのに、20騎の人食い鳥が必要になった、と言うことだ。


 このあまりに一方的な戦いを見たヘルマン・ゲーリングは、『五式戦闘機』のフォッカー複葉機を模倣した外観から、ドイツ空軍の第一次世界大戦での活躍になぞらえ「まるで、フォッカーの懲罰だ」と呟いたという。




 しかも、エルフ達の苦難は空中戦だけにとどまらない。


 制空戦闘は駄目。


 ならば数に任せて、大和帝国戦闘機隊を振り切り、敵飛行場を襲おう! となっても、まだ地獄は続く。


 帝国は戦闘機隊が突破された場合に備え各飛行場に、88mm高射砲、20mm高射機関砲、12,7mm重機関銃からなる濃密な対空陣地を構築していたのだ。


 どれもこれも、大威力の対空兵器であり装甲なんてない『人食い鳥』が被弾すれば、一撃で消し飛ばされるほどの破壊力だ。


 さらに、さらに。


 この恐怖の対空砲火を命がけで掻い潜っても戦果は大きくなかった。


 制空権を得る、と言うエルフたちの目的からすれば『滑走路の破壊』もしくは『駐機中の航空機の破壊』は必須。


 だが、航空爆弾も持たない彼らは滑走路の破壊なんてできないし、ターゲットとなる駐機中の航空機は分厚いコンクリート製の安全な掩蔽壕の中か、あるいは、先んじて空中退避していた。


 命がけで弾幕を掻い潜っても、『人食い鳥』で狙えるターゲットなど存在しなかったのだ。 




 ……と、言うわけで航空戦初日は大和帝国の完全勝利。


 途中、機首に20mm機関砲を搭載した重戦闘機型『屠龍』に乗り、勝手に出撃したラインハルト・ハイドリヒがエンジントラブルで墜落し、前線の兵に「墜落した戦闘機に乗っていたパイロットがどういうわけか親衛隊の高官と名乗っている。事故で錯乱したらしい」と言われる事故があったが……。


 とにかく、パーフェクトな完封勝ちと言ったところだろう。


 これには総統閣下も大喜び。


 使えるなら使ってしまえ! と、実戦投入された新型複葉機『キ26』を駆り、敵機10騎撃墜の戦果を上げたネコミミ少女ミケさんに、ニッコニコで騎士鉄十字章をプレゼントするなどハイテンションで一日を終えたという。






 だが……エルフ達も負けたままではない。


 基地騎士団はやられてしまった。


 しかし、彼らには、第二の矢「精鋭ワイバーン部隊を含む、800騎からなる空母艦載騎部隊」が存在しているのだ。

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[気になる点] >実質的に『バトル・オブ・ブリテン』で大英帝国が用いたシステムの丸パクリ  英国へ執拗にV1ロケット攻撃を仕掛けていた国の元兵士(らしきナニカ)が交ざってるこの国の軍で、よく英国を見…
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