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第百十話 ロンデリア海峡海戦 後編

 大和歴311年10月6日、午後1時。


 ついにロンデリア海峡にて大和帝国艦隊とエルフジア艦隊が相対する。


「ほほほっ、一時は気を失っていましたが、この私、ワキガ・クッサイナーが簡単に死ぬとでも!? さあ、迎撃するのです!」


「しかし、司令官どの。同志たちが未だに海面に浮かんでおり……」


「だまりゃ! あんな連中の救助など不要、兵士などいくらでも畑から取れます。それより、目の前の敵艦隊を撃滅するのです!」


 唯一生き残っているバシレウス級戦艦『インペラートル』に乗船するのは、奇跡的に生き残ったワキガ・クッサイナー。


 彼が選んだ選択は「決戦」。


 友軍の救助を後回しにして『インペラートル』と、その他、巡洋艦3隻からなる残存艦隊を集結させ、帝国艦隊に決戦を挑むのだ。




「それでは、こちらも戦いましょうか? 夜桜さん、対水上戦闘用意」


「はい、了解しました閣下。――対水上戦闘用意!」


 そして、総統閣下率いる帝国艦隊も戦いに応じる。


 総統専用艦『秋津洲』艦橋で指揮を執るのは黒衣の軍服姿の総統閣下。


 日本海海戦のアドミラル・東郷の真似をしたいのか、総統席から立ち上がり「むふー!」と、得意顔で真っ直ぐ敵艦隊を見つめる。


 そんな彼女の周囲には「ノリノリで指揮を執る総統閣下……可愛らしい」と思考を停止させている夜桜艦長と、「装甲の厚い司令塔に避難させた方が……けど、エリュさんが楽しんでいるし……」と、どうしようか迷うアヤメが付き従う。




 帝国艦隊の陣形は前衛に装甲巡洋艦『出雲』、『磐手』、『八雲』、『吾妻』の四隻を展開させ、その後方に戦艦『秋津洲』を配置するというもの。


 巡洋艦戦隊が一本の単縦陣を組み敵に切り込むところを、大口径大射程の主砲を持つ戦艦『秋津洲』が後方から支援する。


 ……と言うのはあくまで建前。


 実際には総統閣下が乗艦する『秋津洲』が、万が一にも被弾しないようにこのような配置にしているだけである。

 



 互いに敵に向かい反航戦の形で接近する両艦隊。しかし、敵を取り逃がす可能性のある反航戦など帝国もクッサイナーも望んではいない。

クッサイナー艦隊殲滅を狙い帝国艦隊は敵前大回頭、無理やり同航戦の形に持ち込んだ。


「敵先頭の氷結戦艦との距離1万5000。我が20サンチ砲の射程内です」


「総統閣下はこちらをご覧になっているな?」


「は、間違いなく。総統閣下からの視線をビンビンに感じます」


「よし、では我ら帝国海軍のかっこいいところを閣下にお見せするぞ! うちぃーかた始め!」


 敵艦『インペラートル』を射程に捉え、攻撃を開始する装甲巡洋艦『出雲』。帝国艦隊の先陣を切るこの艦の艦長以下、乗員たちは無駄に士気旺盛らしい。

 おそらく、総統閣下のカリスマスキルが役に立っているのだろう。


「クッサイナー司令! 敵艦、本艦に向けて射撃しました!」


「な、まだ15kmも離れているのですよ? この距離から命中が望めるはずが……」


「本艦の主砲の最大射程内ではあります。命中するかは別として、撃ち返しますか?」


「ふむ、そうしましょう。やられっぱなしはクッサイナー家の家訓に反します。やりなさい」


「ウラー!」


 そして、その『出雲』に『インペラートル』が反撃する形で砲戦が始まる。





 旧式装甲巡洋艦と、艦隊同士の射撃戦などほとんど経験のないエルフの戦艦。


 互いの砲撃の精度は良好とは言えず、第10斉射までは全弾外れ、両者の周囲に水柱を立てるばかりだった。


 だが、射撃を続けるごとに精度は少しずつ上昇。


 距離10kmまで接近して放たれた第12斉射にて、やっと『出雲』の主砲弾が敵艦を捉える。


 一発の20センチ砲弾が『インペラートル』の左舷高角砲付近に着弾、甲板で炸裂し小規模な火災を発生させたのだ。


 が、しかし……。


「閣下、出雲の砲撃、敵艦に命中。効果は薄いようです」


「相手は戦艦ですからね、巡洋艦で相手するのは難しいですよね」


 大和帝国では“戦艦”と呼ばれるバシレウス級。その名に恥じぬ防御力で、依然戦闘を継続する。


「二番艦の『磐手』に出雲を援護するように伝えてください。『八雲』、『吾妻』は残りの巡洋艦と砲戦」


「了解しました、閣下。本艦はどうします?」


「ひとまず敵戦艦を狙い『出雲』を援護します。たぶん、そこが一番きついので」


 すかさず、周囲の艦に出雲を支援させつつ『秋津洲』による支援射撃を命ずる総統閣下。


 秋津洲の主砲口径は巡洋戦艦フッドやそれを一撃で撃沈せしめたビスマルクと同じ38センチ。

これほどの大口径砲であれば、頑丈な氷結艦であるバシレウス級でも無傷とはいかないという判断だ。




 巡洋艦部隊がそれぞれの敵艦と砲戦を続行する中、『秋津洲』も艦側面を敵艦隊に向け、38センチ連装砲4基8門の全砲門を向ける。


「敵艦との距離1万7000。閣下、本艦の主砲、射撃します。衝撃に備えてください」


「……んっ、大丈夫です」


 艦長夜桜の指示に従い、隣のアヤメさんに抱き着く総統閣下。これにはアヤメさんもご満悦である。


 続いて主砲が一斉射にて砲撃。


 8発の38センチ砲弾が撃ち出され……。


「クッサイナー司令! 敵後方の巨大艦発砲! 砲弾、本艦に来ます!」


「装甲で耐えなさい! それよりも、敵前衛艦を駆逐することが先決です!」


「了解!」


 クッサイナーの乗艦する『インペラートル』に向かい、その両舷に水柱が吹き上げる。命中弾こそなかったが初弾夾叉だ。


 吹き上がった水柱は、装甲巡洋艦の20センチ主砲弾によるものと比べると二回りも大きく『インペラートル』の姿を一瞬だけだが覆い隠す。


「敵弾、至近に弾着! な、なんてデカい水柱だ! し、司令、これは……」


「ほわぁ! こ、これは想定外ですね! か、回避しなさい!」


「しかし、回避運動をすればこちらからの射撃も命中しません」


「な、ならどうすればいいのですか!」


 そのあまりの威力に混乱するエルフ司令部。


 彼らがどう対処するか考える間にも、帝国各艦は砲弾を矢継ぎ早に撃ち込む。




 装甲巡洋艦2隻、戦艦1隻からの集中砲火。


 これにより、僅か10分程度の間に『インペラートル』は20センチ砲弾3発、15センチ砲弾7発を立て続けに被弾する。


 対30センチ砲防御のバシレウス級の耐久力をもって、防いではいるが一方的に撃たれるのは気分のいいものではない。


「司令! 再び被弾! 今度は後部艦橋!」


「ええい、早く撃ち返しなさい!」


 苛立ちを募らせるクッサイナー。負けじと反撃を命ずるが……。


「総統閣下、巡洋艦『出雲』の艦側面に敵主砲弾が命中したようです。被害は……軽微、どうやら装甲で弾いたようです」


「え、戦艦の主砲弾を? 装甲巡洋艦が? 本当ですか、夜桜さん」


「敵艦の主砲はこちらが想定していたより威力が低いのかもしれません。艦の大きさから最低でも30センチ砲級の威力はあると想定していましたが……20センチ砲クラスではないかと」


 彼ら自慢の20センチ級魔道弾は『出雲』の180mmの舷側装甲に弾き返される。


 これには「敵艦はその大きさから戦艦級――最低でも30センチ砲を搭載している。こちらの巡洋艦が被弾すれば一発爆沈もあり得る」と想定していた大和帝国も拍子抜けである。

 



 だが、しかし。


 腐ってもバシレウス級の主砲は20センチ砲弾と同等の威力があるし、巡洋艦『グラーフ級』の主砲もおもちゃではない。


「三番艦『八雲』、被弾火災発生、四番艦『吾妻』後部主砲塔損傷。さらに、『出雲』が再度被弾、副砲が損傷したようです」


「むう、流石に無傷で勝利とはいきませんか」


「はい、こちらも敵に打撃は与えていますが……」


 旧式艦が前衛を張っているということもあり、少しずつ損傷していく帝国艦隊。


 戦いは膠着。


 こうなってしまえば、どちらかが音を上げるまで撃ち合うか「運命的な一撃」に賭ける必要が出てくる。


 そして、その一撃を先に手に入れたのは帝国艦隊だった。




 戦艦『秋津洲』が放った第7斉射。


 その砲弾の一発が『インペラートル』の後部主砲2基の間に命中。帝国で最も威力のある38センチ砲弾は軽々と『インペラートル』の対30センチ防御を食い破り、盛大に炸裂。


 そして……。


「クッサイナー司令! 後部射撃用マナタンク誘爆! 駄目です、艦尾が吹き飛びます!」


「ほわっつ! 総員退艦!」


 厳重に守られているはずの射撃用マナタンク――所謂、弾薬庫を吹き飛ばし、艦尾を破砕した。


 吹き上がる炎、司令席から投げ出されるほどの衝撃。


 それはちょうどデンマーク海峡海戦で巡洋戦艦フッドが、ビスマルクに一撃で沈められた時と同じようだった。


 沈没は確実。


 クッサイナーたち、司令部は慌てて艦を放棄。


 脱出ボートで、すぐ後方を航行していたグラーフ級巡洋艦に逃げ込んだ。




 そして、その巡洋艦の艦橋に乗り込むや否や、彼は即座に命ずる。


「ほ、ほ、ほっほ! て、転進しなさい! 今すぐ、転進するのです!」


「クッサイナー司令!? 味方艦がまだ戦っています、彼らを置いて逃げるのですか?」


「逃げるのではありません、転進です。そして、もう一隻の艦は殿を務めるのです。さあ、早く!」


 二度も乗艦を撃沈されたクッサイナーはこの時になって、勝利への欲求ではなく生存本能に従い動いたのだ。


 そして、この命令に従い彼の乗るグラーフ級巡洋艦は急速反転。残されたもう一隻は、急に逃げ始めたクッサイナーに置いて行かれる形で帝国艦隊に包囲撃滅されることになる。




「敵戦艦撃沈、さらに残された巡洋艦も一隻を残し反転、逃走していきます。閣下、敵巡洋艦一隻が取り残されているようですが……」


「そうですか、では、その艦を沈めましょう。もう一隻は余力があれば追いましょう」


 戦艦1隻、装甲巡洋艦4隻の砲撃に晒され、瞬く間に燃え盛る巡洋艦。


 さらに、敵艦隊の隊列の乱れを逃さず駆逐艦16隻からなる水雷戦隊が最大戦速で戦場に乱入。大量の魚雷を流し、砲撃で損傷していた巡洋艦にとどめを刺した。


 これにて、クッサイナー艦隊はクッサイナーの乗る巡洋艦一隻を残し、全滅。


 ただ……。


「夜桜艦長、残った敵艦を追尾……」


「エリュさん? もう十分ですよね、そろそろ、帰りましょうか?」


「……アヤメさん?」


 殆ど無意味な追撃戦で、総統閣下を無駄に危険にさらしたくないアヤメさんの判断で、帝国艦隊は追撃を中止。


 クッサイナーは奇跡的に生き残ることに成功したのだった。




 この海戦でクッサイナー艦隊は戦艦4隻、巡洋艦3隻を損失。さらに、その乗員7000名近くを失った。


 一方の帝国軍は、事故などを含め5機の航空機を損失。前衛を張った装甲巡洋艦数隻に多少の損傷は見られたが軍艦の損失は皆無だった。


 この結果、クッサイナー達によるロンデリア海峡制圧作戦は失敗。


 この一連の海戦は大和帝国の勝利に終わったのだった。

 いつも読んで下さりありがとうございます! 


 ここまでで読みにくかったり、おかしなところは無かったでしょうか? もしあったら感想で伝えてくださるとありがたいです。

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[気になる点] >どちらかが根を上げるまで  上げるのは悲鳴とか弱音……つまり“音”であって、根っこじゃないんよ。  音を上げる。  いろんな投稿者の方の“ねをあげる”を見ると雑な漢字変換が多くて、…
[一言] 一気に読ませていただきました。 面白かったです!更新待ってます!
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